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ヴェルシュトラ 〜スキル経済と魔導石の時代。努力が報われる社会で俺たちは絶望を知りそれでも、歩き出した〜  作者: けんぽう。
本編

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十四番目の魔道石

訓練場の空は、雲ひとつない青に包まれていた。


昼の日差しが眩しく、風は涼しく心地よい。昨日までの激動が嘘のような、穏やかな日だった。


その中央、リリーは試作した魔導石を並べ、ひとつひとつに印を刻んでいく。


「識印、完了。次いくよ」


リリーがそう言いながら、首元の魔導石にそっと手を添える。


「では、3番の魔導石からお願いします」


そう促したのはキールだった。手元の記録紙を確認しながら、落ち着いた声を響かせる。


「同調発動——《小石割り》《術座移動》」


リリーが小さく呟くと、首元の二つの魔導石が淡く光を放った。


数メートル先に置かれた3番の魔導石が、バリン、と小気味よい音を立てて砕け散る。


「へぇ、本当に同調発動してやがる」


ブラスが感心したように頷いた。


「まだ精度を確かめられていません。……次、遠くの7番を」


キールが指し示した先、訓練場の端に置かれた魔導石が陽に照らされていた。


「うん、いくね」


「同調発動——《小石割り》《術座移動》」


またもやリリーの首元が淡く光る。数秒の後、7番の魔導石が砕けた。


「次、壁の上——9番をお願いします」


「はい、9番」


リリーが軽く息を吐いて集中し、同じ呪文を唱える。


やや高い位置に設置された魔導石も、わずかなタイムラグで砕ける。


「完璧ね!」リリーが嬉しそうに笑った。


「そうですね……では最後に、14番をお願いします」


「……14番? そんなのあったっけ?」


不思議そうに首を傾げたリリーに、キールが微笑を浮かべて言った。


「識印で確認してみてください」


「え……ほんとだ、ある。でも……近っあと速い、なにこれ」


リリーが警戒しつつ、再度魔導石に手を添える。


「同調発動——《小石割り》《術座移動》」


光が走った、次の瞬間——


「うぉおおおおっ!?!?」


訓練場の隅から、派手な悲鳴と衝突音が響いた。


「成功ですね」キールが静かに言う。


「いや、どういうことだ……?」クラフトが眉をひそめる。


ブラスは苦笑いとため息を漏らした。


「……お前なぁ、そういうとこだぞ、キール」


訓練場の外に回ると、黒いマントをまとった男が壁に激突していた。運んでいた物資が派手に散乱し、その胸元で砕けた魔導石が転がっている。


「キール、まさか……?」


クラフトの問いに、キールは一切悪びれる様子もなく頷いた。


「えぇ、非常に有意義な実験になりました」


「同胞よ……急にスキルが消えたんだが……これは天罰か……?」

黒炎の使徒が戸惑いの声を上げる。


「おいキール……こういうのは前もって伝えておくとか、やり方ってもんがあるだろ」


「それでは、実験になりませんよ。……一応、足元には気をつけるよう伝えました」


「それでもな……!」


クラフトとキールのやり取りが、やがて白熱した口調になっていく。


「もう完全にいつもの流れだな……リリー、止められるか?」


隣で様子を見ていたブラスが問いかける。


リリーはにこりと笑って、指を唇に添えた。


「ううん、止めなくていいの。ね、ブラス、お腹すいたしお昼ご飯いこ?」


「えっ、ほっといて大丈夫なのか?」


「大丈夫大丈夫。だって——」


そう言いながらリリーは、クラフトとキールの方をそっと指さす。


そこでは確かに言い争いが続いていたが、心の奥底では笑ってしまいそうな温かさが滲んでいた。


怒っているはずなのに、二人の目元にはわずかな弛緩と微かな笑みが浮かんでいた。


それはきっと、誰よりも強い信頼の証だった。


リリーが呟く。


「変わってないようで、ちゃんと変わってきたんだよ、二人とも」


ブラスもゆっくりと笑い、肩をすくめる。


「そっか。じゃあ、飯いくか」


その後ろで、クラフトとキールの言い争いは続いていた。


そして空は、どこまでも晴れていた。


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