29、冒険者ギルドにて
その日の夜、僕は冒険者風の軽装に着替え、ジョーモさんと一緒に、夜の街を歩いた。人が多い。料理長のことは聞けないか。
ジョーモさんは、僕に合わせてくれたのか、ラフな軽装で、新人冒険者に支給されるリュックを背負っているから、実年齢より若く見える。黒い鎧のときとは、完全に別人だ。
「この通りでは、パーティ追放などの揉め事が多いっすけど、反応は無いっすか?」
路地で数人がケンカする横を通ったとき、ジョーモさんが、小声で僕に尋ねた。
「今の人達にも反応しないです。壊れたのかな」
「あはは、エドさんのスキルに潰されていたら、面白いっすね。でも、たぶんそれはないと思うっすよ」
僕もジョーモさんに釣られて、笑いながら歩いた。楽しい! だけど、冒険者ギルドの建物が見えてくると、僕の胸はドクンと嫌な音を立てた。やはり、ギルド前広場に行くと、幼馴染の顔が浮かんで辛くなる。
◇◇◇
「Cランクへの昇格試験を申し込みたいんすけど」
冒険者ギルドの建物に入ると、ジョーモさんが、受付カウンターにいた職員さんに話してくれた。
「ええっ? あー、お連れの方ですか。冒険者ギルドカードを、こちらの魔道具に置いてください」
職員さんは、一瞬、驚いた顔をしたけど、すぐに僕のことだと気づいたようだ。ジョーモさんはBランク冒険者だし、有名なAランクパーティに所属していたから、職員さんも顔を覚えているのだろう。
僕はカードを探したが、いつも入れていた布袋を探っても、なかなか見つからない。
「すみません。宿に置いてきてしまったか、失くしました」
「じゃあ、魔道具の上に手を……あら? 支援局員さんかしら。報酬口座を作ったときに統合されてますね」
「報酬口座って、何ですか?」
僕がそう尋ねると、職員さんは首を傾げた。そして、僕の左手首にある腕輪に、魔道具を近づけている。
「あら、局長さんが担当者なのですね。いろいろな説明を忘れているんじゃないかしら。冒険者ギルドカードは、腕輪の中に統合されていますよ。報酬口座の機能を付けると、カードを盗まれたときが大変ですからね」
アロンさん……。指摘をしても、また、失念しておりましたーって言われるんだろうな。
「カードに、報酬や給料が入るんですか?」
「ええ、報酬や給料の受け取りが楽になりますよ。お金の引き出しは、冒険者ギルドと錬金協会のどちらでも可能です。今、引き出されますか? 残高はこちらです」
棒状の魔道具を見せられ、僕は驚いた。見間違えたのかと目をこすり、もう一度見ても金額は変わらない。
今、僕の報酬口座には、3,620,500という数字と、金貨3枚、銀貨62枚、銅貨5枚と表示されている。
僕が今、持っているお金は、銅貨120枚くらいだ。つまり換算すると、銀貨1枚と銅貨20枚くらい。
こんなにあるなら、宿の食堂を手伝わなくても余裕で宿代が払える。
「あのー、彼の試験の申し込みに来たんすけど」
「あっ! そうでしたね。少しお待ちください」
職員さんは慌てて、奥の事務所へと入って行った。
ジョーモさんがそう言ってくれたおかげで、僕もハッと我に返った。こんな大金が報酬口座に入っているなんて、怖くて言えないな。
「エドさん、金を引き出すかと聞いてくる職員には、気をつけるっすよ。まだ手数料は不要な時間なのに、夜間手数料を取る職員もいるっす」
「ええっ? そうなんですね。気をつけます」
「それに、今の職員は、エドさんが残高確認請求をしてないのに、残高検索をかけたっす。金額は本人じゃないと見れないはずっすけど、巧みに残高を言わせる職員もいるっす。お金を引き出すのは、錬金協会の方がいいっすよ」
「わかりました」
ジョーモさんは、無知な僕に、いろいろと忠告をしてくれる。やっぱり先生みたいだよな。きっと、下位冒険者の世話をするのが好きなんだと思う。
「お待たせしました。エドさんですね? Cランクに昇格する経験値はクリアされています。実技試験は、明日の夕方の部に空きがありますが、ご予定はどうですか?」
さっきとは別の職員さんだ。ジョーモさんが指摘してくれた通り、さっきの職員さんには、何かやましい所があったのかな。
「明日の夕方ですか。えーっと……」
「大丈夫っすよ。明日の夕方で予約するっす」
迷う僕の気持ちを察したのか、ジョーモさんが話を進めてしまった。
「かしこまりました。では、エドさん。明日の昇格試験、がんばってくださいね」
「あ、は、はい」
職員さんから、受験票のような物を渡され、僕は戸惑いをそのまま言葉にしてしまった。
「大丈夫っすよ。そんなに緊張しなくても、エドさんなら合格できるっす。あっ、ついでに、2階に寄ってもいいっすか?」
2階? あぁ、報酬の高いミッションが掲示してあるんだっけ。合同ミッションや緊急ミッションが、一番最初に貼り出されるのも2階だ。僕はジョーモさんが、昼に聞いたモンツク狩りの件を見に行きたいんだと思った。
僕は、彼が以前にいたAランクパーティに獣人の女の子が加入した、という話の方が気になっていた。ジョーモさんに酷いことを言っていた彼らが、あの女の子を加入させた理由はわからないけど、嫌な予感がする。
「はい、大丈夫です。緊急ミッションを見るんですか?」
そう尋ねると、ジョーモさんは軽く頷いた。僕は、彼の後ろをついて、階段を上がっていった。
◇◇◇
もう夜遅いのに、1階と違って2階は人が多かった。いや、夜だから人が多いのか。ミッションが終わった冒険者が、次のミッションを探す時間かもしれない。
「エドさん、あの子じゃないっすか?」
「えっ? あっ、ケモ耳」
2階はガヤガヤとうるさいから、これだけ離れていると声は聞こえないが、ノワール洞窟で会ったケモ耳の女の子が、ピカピカな笑顔で何かを話している姿が見えた。
「無事だったみたいっすけど、大丈夫っすかね」
「ん? あの子は、楽しそうに見えますけど」
「だからっすよ。ナープラストの他のメンバーは笑ってないっす。モンツク狩りの緊急ミッションは、昨夜掲示されたばかりなのに、もう剥がされてるっす」
「あの子が大活躍したのでしょうか。モンツクという魔物のことは、僕は知らないですけど」
「ノワール洞窟の5階層の休憩所近くに大量発生したらしいっすよ。モンツクは、魔物ではなく吸血虫っすね。人の顔くらいの大きさに手足を広げて襲う真っ赤な……」
「ジョーモさん、それ、僕が死にそうになったヤツです……」




