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28、料理長のことが心配になる

 厨房内に戻った僕は、魚を使った混ぜ飯を作り始めた。それを見て、他の料理人も魚を手に取り、何かを作り始めている。


 僕が作る混ぜ飯は、すべての具材を細かく切り刻んだ物になるから、焼き魚や煮魚などの魚料理は作れない。昼の食べ放題では、僕の混ぜ飯を食べたお客さんから、別の料理を要求されることが多いため、料理人さん達は、催促される前に作るようになったみたいだ。


 そのため、一昨日からは、魚料理祭りだとか肉料理の宴などと、一部のお客さんが言うようになり、ちょっとしたイベント扱いになっている。



「エドさんの混ぜ飯を食べたいっす」


 出来た混ぜ飯を大鉢に移していると、ジョーモさんが小皿を手にして、覗き込んできた。僕は、彼の小皿に混ぜ飯を少し入れる。


「ジョーモさん、ごはんに乗せる混ぜ飯だから、このままだと塩辛いですよ?」


「いいんす。厨房にいる特権っすよ。アズさんが居ないから、好き放題ノビノビと……」


「おい! ジョーモ、俺はいるぜ?」


 奥で仮眠していた料理長が起きてきた。


「アズさん、いつ休んでるんすか。もう若くないんすから、無理しないでくださいっす」


「は? 今、休んでただろ。俺は年寄りじゃねぇぞ!」


 料理長が即座に言い返すと、ジョーモさんは少年のようにケラケラと笑った。料理長の年齢はわからないけど、僕達の親世代であることに間違いない。


 ジョーモさんは、15歳のときに家族全員を盗賊に殺されたから、家族で食事に行っていたアズ亭の店主だった料理長は、ある意味、彼の親代わりのような存在なのかもしれないな。


 料理長は、ジョーモさんに文句を言った後、厨房内をサッと見回ると、再び奥に引っ込んだ。厨房の奥には、店員の休憩用の小部屋があるが、昼の食べ放題を始めてからは、その小部屋が料理長の仮眠室になっている。



 魚料理が一番最初に出来上がった料理人さんは、僕の混ぜ飯と一緒に、ホールの食べ放題の料理が並ぶテーブルに持って行ってくれた。


 僕は、次のリクエストを予想して、果物を使った混ぜ飯を作り始めた。デザートを混ぜ飯というのも変な気はするけど、同じように混ぜ混ぜして作るから、まぁ、混ぜ飯でいいか。



「デザートがほとんど無くなって……って、エドさんは予知能力でもあるんですか」


「ホールの人が減り始めたから、デザート狙いで来るお客さんが増えてくると思って」


「へぇ、エドさんはよく見てるんですね。そうか、冒険者だから、周りに目を光らせる習慣があるのかな。夕食時間後の酒場時間は、客層がガラリと変わるんですよ」


「酒場時間は、乱暴な冒険者も多いだろうから、ケンカも増えそうですね」


「そうなんですよ。ジョーモさんが深夜にフラッと来てくれるから、助かっています」



 それでジョーモさんは、昼過ぎに起きてくるのか。彼がこの宿に移ったのは、料理長の料理が食べられるからだと言っていたけど、料理長を守るためかもしれないな。たぶん、まだ盗賊に狙われているだろうし。


 ノワール洞窟で拘束された盗賊達は、結局ほとんどが情報と交換に、解放されている。王都の騎士団の人達の狙いは、タイトさんの罪を明らかにすることだったから、盗賊には関心がなさそうだもんな。


 もしかして、料理長がずっと厨房内で仮眠しているのは、昼の食べ放題を始めたことで、彼がここにいることが盗賊にバレたからか?



 僕は、朝食を食べ終わったジョーモさんの方に、視線を移した。でも、ここで料理長のことは聞けない。


「ん? エドさん、何すか? あー、デザートならいらないっすよ」


「いや、そうじゃなくて……」


 ジョーモさんと話したいけど、今の僕は仕事中だから、外へ行こうとは言えない。でも、料理長のことが気になる。


「あぁ、夜の散歩のお誘いっすね? いいっすよ」


「じゃあ、お願いします」


 夜まで待つことになるけど、まぁ、結果的には悪くない。この宿から離れた場所の方が、料理長を狙う盗賊のことは話しやすい。



「エドさん、Cランクに上がるには、あとどれくらいの経験値が必要っすか? DランクとCランクでは、扱いが大きく変わるから、俺でよければ、エドさんがCランクに上がる手伝いをするっすよ?」


「ジョーモさん、ありがとうございます。経験値は足りているはずなんですが……」


「じゃあ、実技試験だけっすね。そんなに難しい試験じゃないっすよ?」


 いや、僕には、とんでもなく難しかったんだ。どう説明しようかと悩んでいると、デザートの味見をしに来ていたホール係のオバサンが、ポンと手を叩いた。



「エドさんは食堂を手伝うようになって、人と話す訓練ができたじゃない。もう一度、試験に挑戦してみたらどう? 今のエドさんなら、大丈夫だと思うよ」


「えっ? あー、あはは、はぁ」


「なるほど、声出しが難しかったんすか。じゃあ、問題ないっすね。今夜の散歩のついでに、冒険者ギルドに手続きに行くっすよ」


「いや、ジョーモさん、僕が話せるのは魔道具のおかげだから、そういうのは不正になるというか……」


 僕は慌てて、ジョーモさんの思いつきをお断りしたが、彼は首を傾げている。


「冒険者ギルドでは、実技試験時の魔道具の使用は、禁止されてないっすよ? 俺も、Bランクに上がるときは、魔力増幅と魔法防御の魔道具を身につけていたっす」


「そう、なんですか? でも、僕は支援局員をやめたら、人と話せなくなるし……」


「あぁ、錬金協会の人が説明してないんすね。支援局員を辞めても、エドさんは普通に話せると思うっすよ。対人恐怖症の冒険者の多くが、わざとパーティ追放されて、追放ざまぁ支援局のスカウトを狙うことも少なくないっす」


「ええっ? そうなんですか」


「そうっすよ。ただ、錬金協会は、すぐに辞められることを避けるために、支援回数か何かで縛ってるっすよね?」


「全然、知らなかったです」


 僕が呆然としていたのか、ジョーモさんは僕を気遣うような優しい目をして、口を開く。


「エドさんは、ある意味、ハメられたっすね。俺は、追放ざまぁ支援局ができた時から知ってるっすけど、あの人が新人を担当するのは、エドさんが初めてだと思うっす」


「アロンさんですか?」


「そうっすよ。あの人は、追放ざまぁ支援局を設立した王都の錬金術師っす。局長なのに、彼がこの街にいるのは、エドさんがいるからっすよ。王都の錬金協会は、研究者の集まりっす。自分の損得しか考えてないっすよ。悪い人ではないだろうけど、信用しすぎない方がいいっす」


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