27、獣人の女の子の噂
それから数日が、穏やかに過ぎ去った。
たぶん、僕の再加入禁止期間は、昨日で終わったと思う。でも今の僕は、パーティ加入ができない。追放ざまぁ支援局員になったためだ。
ノワール洞窟から戻ってからは、ずっと暗い顔をしていたジョーモさんも、少し落ち着いてきたようだ。昨日の朝に会ったときには、笑顔も見せてくれるようになった。
錬金協会のタイトさんが監獄島に流刑されたことは、毎日のように耳にする。彼は、王都に住むリューベルク伯爵の子息だけど、正妻の子ではないらしい。
彼は、まだスキルを得ていない学生の頃から、悪い仲間と遊び半分で、亜人の奴隷を魔物だと言っては殴っていたそうだ。事件が発覚した後、リューベルク伯爵は、彼をしばらく監禁したらしい。
だが、彼が貴重な錬金術師のスキルを得たことから、更生を期待して、王都の錬金協会に預けられたそうだ。しかし、監禁生活でのストレスからか、彼は、さらに行動をエスカレートさせたという。殴るだけでは足りず、夜な夜な魔物狩りと称して、亜人の奴隷を殺すようになった。
怒ったリューベルク伯爵は、彼に家名を名乗ることを禁じた。また、差別意識の強い彼を危険視し、亜人の奴隷がいない街へ追放することを決めたという。
しかし、王都の錬金協会は、最初の対応を間違えた。彼には追放命令が出ていたが、抵抗されることを恐れて、他の街への転勤という形にしたようだ。
その後、自分に王都からの追放命令が出ていることを知った彼は、亜人の奴隷がいない街では、最も弱い立場の貧民をターゲットに選んだらしい。
彼が問題を起こすと、錬金協会は転勤させることで、彼の環境を変えようとした。だが、何度転勤させても、同じことが繰り返された。
なぜ、彼がそこまで歪んだ感覚を持ったのかは、誰にもわからないという。ただ、彼が全く愛情を受けずに幼児期を過ごしたことが、事件の根底にあるかのように暴露されていた。
でも僕は、生い立ちを理由にする噂には、苛立ちを感じた。誰かのせいじゃない。彼自身の責任だと思う。
◇◇◇
「エド、悪いが、今日の昼も頼めるか?」
「わかりました。昼の食べ放題は、満席になりますもんね。それに、ミッションが終わる夕方に散歩する方が良いらしいので、大丈夫ですよ」
「あぁ、錬金協会のガチャか。まだ二人目は見つからないらしいな。揉め事の多いノワール洞窟でも見つからなかったと、ジョーモが言っていたな」
「はい。錬金協会のアロンさんも、いろいろとアドバイスをくれるんですが、魔道具は反応しないんですよ。ジョーモさんも、夜の街歩きなら付き合うと言ってくれてるし、皆さんに心配をかけているみたいで」
「まぁ、トランクの街は、それほど治安は悪くないが、夜はミッション終わりの冒険者が増えるし、盗賊も増える。エドが一人でウロつくより、ジョーモと一緒の方が俺も安心だぜ。じゃ、今日の昼時間、よろしくな」
「わかりました」
この数日は、昼の食べ放題から夕食時間も手伝うことが多かった。でも夕食時間は早めに切り上げるから、逆にこの方が、支援局員としては都合が良いと思う。いっそのこと、昼時間に変えてもらおうかな。
◇◇◇
「今日は、混ぜ飯の兄ちゃんがいるじゃないか!」
「こんにちは、いらっしゃいませ」
この数日で、僕の顔を覚えてくれるお客さんが増えた。だけど、名前は覚えられてないし、冒険者だと言っても、料理人だと思われている。まぁ、いいんだけど。
「混ぜ飯の兄ちゃん、数日前にノワール洞窟に出張料理人をしに行っていたか?」
料理の減り具合を見に行くと、毎日昼の食べ放題に来るお客さんから、声をかけられた。
「錬金協会の休憩所のメンテナンスですかね? 出張料理人じゃなくて、僕は冒険者なので、冒険者の仕事として行きましたよ」
「へぇ、ノワール洞窟って迷宮だろ? あんな場所で料理を作るなんて、大変だな」
出張料理人じゃないから!
「僕は変わったスキル持ちだから、大丈夫なんですよ」
冒険者だと言っても、このお客さんには覚えてもらえないから、僕はもう諦めている。
「ふぅん、あっ、ノワール洞窟といえば、義賊が有名だろ? ほれ、セルス村のさ」
「あ、盗賊セルス団のことですか?」
「そうそう、それ! 獣人の子供がいるんだよ。人族と何かのハーフらしくてな。ノワール洞窟に潜る冒険者なら、みんな知っているほど有名らしい。兄ちゃんも知ってるか?」
「はい、一度会ったことがありますよ。4〜5歳くらいの女の子ですよね?」
「年齢は知らないけど、まぁ、そんなもんか。数日前から、この街にいるみたいだぜ」
はい? あの子が、この街にいる?
「そうなんですか? セルス村からこの街までは、半日近くかかるのに、どうして……」
「さぁ? 数日前に、冒険者ギルドに現れたらしい。しかも昨日、あの有名なAランクパーティに加入したんだってよ。獣人は、人族とは違って、年齢に関係なく冒険者登録できるからな」
まさかそれって、ジョーモさんに酷いことを言っていた人達か? 彼らは冒険者としては、ほとんどがAランクで有能らしいけど、はっきり言って、人としてはクズだと思う。
「その有名なAランクパーティって……」
「あぁ、チャラチャラした男が多いとこだよ。若い女の子がキャーキャー言ってるだろ? なーなんとかって所だ。なー、なんだっけな?」
「ナープラストっすか?」
あっ、ジョーモさんが、会話に入ってきた。寝起きなのか、髪が大変なことになっている。
「そうそう、ナープラストだ。パーティ名って、俺達には覚えられないよな。おっ? 兄さんは、個性的な髪型をしてるな」
「これは、寝癖っす。ナープラストに獣人の女の子が加入したという話は、いつ聞いたんすか?」
「ん? ここに来る道で、冒険者が話しているのを聞いたよ。しかし、あんな子供を連れてミッションなんて、大丈夫なのかね? 一昨日から大発生しているモンツク狩りに行ったみたいだよ」
モンツク? 知らないな。
「モンツクの大発生といえば、ノワール洞窟っすか。それなら、あの子は大丈夫っすね」
ジョーモさんは、ふわぁっとあくびをして、厨房内に入って行った。朝食を食べるみたいだな。
「えーっと、魚料理が足りないかな?」
「おっ! 魚料理祭りが始まるのか? 兄ちゃんの混ぜ飯なら、何でも嬉しいよ」
「ありがとうございます。すぐに作りますね」
僕は、空いた大皿をいくつか持って、厨房内に戻った。




