26、錬金術師タイトと盗賊
「さぁ? 覚えてないですねー。そんな下位ランクパーティなんて、どうでもいいでしょう」
世の中には、こんな人がいるのか!
僕は、激しい怒りと嫌悪感を感じた。だけど、ジョーモさんが必死に耐えているから、僕が口を出すわけにはいかない。
「タイトさんは記憶にないですか。では、盗賊の方々はどうですか? 王都の騎士団の調査に協力すれば、今回は錬金協会としても大きな被害はありませんでしたから、穏便に済ませることも可能だと思いますよ」
アロンさんは、同じく拘束されている盗賊達に視線を向けた。彼の手には、細長い棒が握られている。拘束具が外れないようにするために使っていた魔道具かな。
「ジョーモというのは、シノア洞窟の生き残りのBランク冒険者のことか?」
口を開いたのは、僕が薬を混ぜ混ぜしていたとき、タイトさんと一緒にいた、魔物を操る能力のある盗賊だ。
「ええ、妙な報告のせいで、シノア洞窟に閉じ込められて餓死しそうになったそうです。その時の担当者は、タイトさんでした」
「それなら、タイトさんの指示だな。シノア洞窟で仕留め損ねた、貧民街の生まれのBランク冒険者が、有名なAランクパーティに加入したと、悔しがっていたからな」
「シノア洞窟では、彼を殺そうとしたのでしょうか」
「俺は関わってないぜ。俺は魔物使いだから、爆弾は使わない。爆弾の臭いがあると、スキルに影響が出るんだよ。ここには来てない奴がやったんじゃないか?」
「では、ジョーモさんが有名パーティに加入する前に所属していたパーティは、なぜ魔物に襲われたのですか。報告では、普段はおとなしい魔物だったようですが」
「あぁ、それは俺が手を貸した。だが、まさか全滅するとは思わなかったんだ。可哀想なことをしたよ。タイトさんは、ジョーモという奴が有名パーティで浮かれているときに、脱退したパーティが怪我をすれば、面白い顔が見られると笑っていたから、俺は、軽いイタズラだと思ったんだ」
なんだよ、それ……。
僕は、もう、ジョーモさんの顔を見ることができない。彼は、自分のせいで脱退したパーティの人達が殺されたと、思い詰めているだろうな。
「待ってくれ。まるで、俺が悪いみたいな言い方じゃないか。冒険者は自己責任だろ。まさか、王都の騎士団までが、盗賊の言うことを信用するのですか?」
コイツ……。
「あぁ、私は今の話を信じる。アロン殿、彼の拘束具を解除してやってくれ。情報に対する正当な対価だ」
騎士団の女性にそう命じられ、アロンさんは、その盗賊の拘束具を解除した。
「俺も話がある! タイトさんの依頼は、すべて記録に残してあるんだ!」
一人が自由になると、盗賊達は、次々とタイトさんとの関係を暴露し始めた。タイトさんが監獄島に流刑されるから、今なら話せると判断したのだろう。
「待ってくれ! 人を殺したことが罪になるなら、その茶髪の男も捕まえろよ! 暗殺者だぞ! 盗賊だけでなく、3階層の魔物まで、その男を恐れて近寄らなかった。コイツの魔物使いのスキルでも、魔物は動かなかったんだぞ!」
タイトさんが僕を指差して、また暗殺者だと騒ぎ立てている。騎士団の人達が警戒したことが伝わってくる。
「アロン殿、あの青年のスキルは何だ? サーチが弾かれるが」
やばい、僕も道連れにする気だ。
「エドさん、よろしければ、騎士団長にステイタスを開示してもらえませんか?」
「普通に表示すれば良いのですか?」
「ええ、騎士団長には、ステイタスの閲覧権限がありますので、普通に表示してもらえれば、彼女には見えますよ。私の魔道具でも見れますが、別の資料だという疑いがかかりますので」
僕は頷き、左手の腕輪に触れた。そして、ステイタスを表示したいと考えると、目の前にステイタス画面が現れた。
騎士団長と呼ばれる女性は、僕の背後に回ってきた。
「なるほど、そういうことか。サーチが弾かれるわけだ。特記事項を見て納得した。スキルは『混ぜ壺』か。ピッタリな仕事ではないか」
あっ、特記事項には、追放ざまぁ支援局員(レベル2)という記載がある。ジョーモさんにガチャを引いてもらったから、レベル2に上がったんだな。
「ええ、私もそう思いますよ。ただ、対象者がなかなか見つからないようです」
周りの人が僕が支援局員だと気づいたから、アロンさんは、キチンと補足をしてくれている。
「スキルの影響があるのか」
「はい、通常でしたら魔道具が優位なのですが、彼の場合はスキルの影響で、彼が主人となるようです。非常に興味深いのです」
「そうか。あぁ、もう画面は閉じてもらって構わない。しかし、珍しいステイタスだな。苦手がないようだ」
冒険者達が、ガヤガヤと騒がしい。僕のステイタスを誤解されているのか。こんなに弱いのに。
「そうか! アロンさんは、追放ざまぁ支援局の局長だから、その男をかばっているんですよ! 騎士団長、騙されないでください! 暗殺者ですよ」
追放ざまぁ支援局の局長?
「は? エドさんには失礼だが、彼に暗殺される者がいるのか? 暗殺者に絶対的に必要な、物理攻撃力とスピードが、ギルドの下限値だが?」
騎士団長さんは、僕のステイタスを隠してくれている。すべてが下限値なんだけどな。
「なっ……」
もう、彼は何の反論もできないようだ。騎士団の人達に抱えられ、2階層へと上がっていった。
「ジョーモさん、彼は、もう一生、監獄島から出ることはないでしょう。脱退されたパーティが全滅したことの責任を感じる必要はありませんよ? 偶然が重なった不幸な事故です。それに、魔物に充分に備えることは、冒険者自身の責任ですからね」
アロンさんは、静かに、ジョーモさんに語りかけた。僕も何かを言うべきなのに、どう言えばいいかわからない。
「アロンさんは、優しいっすね。ジッと黙って寄り添ってくれるエドさんも、優しいっす」
ジョーモさんの目からは、涙があふれている。
「ジョーモ、俺からも言っておく。おまえの責任ではない。強いて言えば、ミッション受注時に、しっかりと警告をしなかったギルド職員の責任だ。これからも下位冒険者を育ててやってくれ」
冒険者ギルド長の言葉に、ジョーモさんは何度も頷いている。
「まずは、エドさんの教育からですね。彼のステイタスでDランクは、もったいないですよ」
アロンさんは、なぜか僕を巻き込んだ。
「そうっすね。エドさんの剣は、余裕でCランクっすよ」
ジョーモさんは、僕にやわらかな笑顔を見せてくれた。




