25、貴族の罪人は監獄島へ流刑される
「盗賊セルス団、マジで凄かったな。カッコ良すぎだろ」
「緑色の帽子は、団長の部隊だからな。盗賊セルス団の中でも圧倒的に強いらしいよ」
ノワール洞窟の3階層の休憩所のメンテナンスは、朝になる前には終了し、魔道具の結界が稼働を始めた。
緑色のキャップを被った人達が去った後、彼らがボコボコにした盗賊達は、錬金協会の魔道具で手足を拘束されて、2階層への階段近くに転がされている。
錬金協会の職員であるタイトさんも同じ扱いだ。伯爵家の子息らしいけど、セルス団に追われた盗賊達によって、盗賊と繋がる仲間だと暴露されたことで、さすがに言い逃れは出来なくなったようだ。
2階層への階段には、メンテナンス待ちの冒険者が大勢いたが、盗賊が捕まった後は、休憩所の食堂が営業を始めたため、大半が休憩所の食堂に移動した。
錬金協会の護衛で雇われていた冒険者の中にも、盗賊はいたらしく、彼らも盗賊セルス団によってボコボコにされたから、護衛の人数は半減している。
だが、下の階層から上がってきて盗賊との乱闘に加勢していた冒険者のほとんどが、この場所に残っている。彼らのおかげで、メンテナンス作業には何の問題もないようだ。
冒険者達は、ずっと、盗賊セルス団の話をしている。
盗賊セルス団が義賊だというくらいしか知らなかった僕は、面白い話がたくさん聞けて楽しい。
ノワール洞窟に出入りする冒険者は、彼らに助けられることも少なくないらしい。みんな、キラキラと目を輝かせて、盗賊セルス団に関するエピソードを話している。
冒険者からすれば、盗賊セルス団は、このノワール洞窟内での警備隊のような存在らしい。彼らは、困っている冒険者を見つけると、当たり前のように助けるらしい。だから、こんなに崇拝されるんだな。
◇◇◇
「皆さん、これにて、すべての作業は終了しました。現地解散といたします。ノワール洞窟に残られる方は、本日の休憩所の宿泊を無料にさせていただきます。ありがとうございました!」
錬金協会として、アロンさんが終了の挨拶をした。開始の説明をしていた人は、今は仮眠中らしい。
休憩所に宿泊を希望する護衛が多いようだ。だけど、階段でずっと待っていた冒険者もいるよな。僕も眠いけど、宿泊したいとは言えない。
「エドさんは、どうしたいっすか? アロンさんは、もうすぐ来る冒険者ギルドの人達の対応をしてから、ここを出るって言ってたっすよ」
「眠いですけど、休憩所のメンテナンスが終わるのを待っていた大勢の人がいるから、僕は、ノワール洞窟からは出たいです」
「そう言うと思ってたっす。じゃあ、ギルドへの引き渡しを見届けたら、俺達も出ることにするっすよ」
ジョーモさんは、拘束されている盗賊達が連れ出されるのを見たいんだな。いや、タイトさんがどうなるかを見たいのか。
タイトさんは、錬金協会の職員なのに、盗賊と繋がっていたし、冒険者達をわざと危険な目に遭わせていたらしい。ジョーモさんは、自分が貧民街の生まれだから狙われたと言っていたけど、被害者は他にもいると聞いた。
北門を出発する前に会った初老の女性は、タイトさんに関する証拠を得たいと言っていた。彼女は、錬金協会長という役職の人みたいだけど、僕には、どれくらい偉い人なのかわからない。
「錬金協会のアロン殿は、おられるか?」
凛とした女性の声が聞こえた。眠い雰囲気が漂っていた護衛の冒険者達は、一気にザワつき始めた。
3階層に次々と降りてくるのは、まるで騎士のような服を着た人達だった。トランクの街の冒険者ギルド長と職員も一緒だ。
「はい、私がアロンです。王都の騎士団の皆様、お待ちしておりました」
王都の騎士団?
「遅くなったな。王都の錬金術師は一緒ではないのか」
「錬金協会長は、トランクの街におられます。ノワール洞窟は危険な迷宮ですので、今回の件は、私に一任されております」
「そうか。盗賊どもは冒険者ギルドに任せるが、例の者は、どこだ?」
「あぁ、眠くなったようですね。リュックを枕にして眠っている彼です」
アロンさんは、眠っているタイトさんを指した。この騒ぎの中でも寝てるなんて、ある意味すごいよな。
「おい! 起きろ! タイト・リューベルク! あぁ、家名を名乗る権利を剥奪されたのだったか。起きろ!」
その女性は、タイトさんが枕にしていたリュックを蹴り飛ばした。
「はぁ〜? 誰ですかー。こっちは徹夜なんですからね」
完全に寝ぼけているのか、手の拘束具を見て、首を傾げている。だが、だんだんと状況を思い出してきたらしい。僕と目が合うと、ヒッと小さな悲鳴をあげた。まだ、僕を暗殺者だと思い込んでいるのか。
「どういうことですか。なぜ、王都の騎士団が、こんな田舎まで来てるんですか?」
「我々は、王都から追放された貴族の、その後の行動を監視している。タイト・リューベルク! 盗賊と結託し、多くの人を死に追いやった罪で、監獄島への流刑が決定した。謝罪があれば、被害者に伝えよう」
監獄島って、何?
「は? なぜ俺が、監獄島送りなんだ? 俺のスキルは、貴重な錬金術師だぞ。そもそも王都から追放されたわけじゃない。俺が自分から出て行ったんだ」
動揺しているのか、彼の言葉遣いが乱暴なものに変わった。
「処刑すべき罪を犯したからだ。だが、貴族の処刑は、執行できない。そのための流刑だ」
「俺が何をした? どこに証拠がある?」
「タイト・リューベルクが王都を追放された理由は、亜人の奴隷を魔物だと言って、夜な夜な惨殺していたからだ。その追放期間中に反省するどころか、事故を装って、今度は人族をターゲットにし始めた。歪んだ精神は、もはや修復不可能であろう」
殺人鬼じゃないか!
「待ってください。俺は、冒険者に試練を与えていただけです。強くなるための手助けですよ。それを乗り越えられない貧民は生きる価値など無いでしょう? 俺のおかげで、強くなった冒険者が、ほら、そこにもいるじゃないですか」
タイトさんは、ジョーモさんを指差した。ジョーモさんは反論したいみたいだけど、ジッと我慢している。
「ジョーモさんが以前所属していたパーティが、彼の脱退後に、ノワール洞窟で全滅する事故がありました。魔物が突如襲いかかったという報告もあります。まさかとは思いますが、タイトさんは無関係ですよね?」
アロンさんが無表情でそう尋ねると、タイトさんは、ジョーモさんの顔を見て、ニヤリと笑った。




