23、裏ギルドの薬、盗賊の襲撃
僕達は、アロンさんの後ろをついて行く形で、ノワール洞窟の3階層の休憩所付近を、ずっとウロウロしている。
「ジョーモさん、エドさん、適当に休憩してくださいね。もう深夜ですから、作業する職員も交代で仮眠していますし」
「俺は大丈夫っす。エドさんは少し寝ておく方がいいっすよ」
「わかりました。じゃあ、少し仮眠を……あれ?」
僕は、休憩所の前に並んでいたはずの荷物が消えていることに気づいた。しかも、その付近を守っていたはずの冒険者が、地面に倒れている。眠っているのか?
僕の視線に気づいたジョーモさんは、険しい表情に変わった。そして、周りを警戒し始めたようだ。
「見張りがサボって寝てるっすよ」
「えっ? あ、交換済みの資源が消えていますね。不覚にも、全く気づきませんでした」
アロンさんは、休憩所前に駆け寄っていく。そして、作業中の職員に声をかけ始めると、急にパタリと倒れた。毒が撒かれているのか?
「エドさん、やられたっす。俺も、眠い時間だから、気づかなかったっすよ。あの付近に、弱い睡眠系の薬が撒かれているみたいっすね。アロンさんは、大声を出したときに、大量に吸い込んだんすよ」
「睡眠系の薬? そうか、あの子が嫌いな臭いがするって言ってたのは、その薬なのかもしれませんね」
「おそらく幻覚作用もあるんすよ。俺達も吸っているはずっす。長時間のメンテナンスだから、こういう手を使ったんすね。やられたっすよ」
ジョーモさんは、悔しそうな顔をしながら、何かの小瓶を取り出した。僕は、嫌な予感がした。
「ジョーモさん、待ってください。これまでにも錬金協会のメンテナンスは、何度も被害に遭ってるんですよね?」
「ん? そうっすよ。だから、毒消しを持って来たっす。エドさんの分もあるっすよ」
「飲まないでください! 罠じゃないですか? 錬金協会の人達なら、みんな毒消しくらい常備してるはずだから、盗賊も、それはわかってるはずです。目立つ場所の荷物が無くなって、そこにいた護衛が倒れてるんですよ!」
僕が大声を出したから、近くにいた冒険者も、僕の方に視線を向けた。メンテナンスが始まる前に、僕の混ぜ飯を食べた人達は、僕には友好的な雰囲気だが、他の冒険者には睨まれている。
「どんな罠なんすか? 毒消しを飲んでいる隙に何かが起こるんすか?」
「撒かれた薬は、1種類だとは限らないですよね? 弱い睡眠系の薬を吸っても、幻覚作用はありません。眠くても荷物が盗まれたら、気づくはずです」
「あっ! 確かにそうっすね。弱い睡眠系の薬は、確かに幻覚作用はないっす。弱い薬なら、どんな状態異常でも毒消し薬で消えるっすけど……」
僕は必死に、薬の知識の中から該当するものを探していた。幼馴染のパーティでは、備品調達も僕の仕事だったから、普通の冒険者より詳しいと思う。
しかし、わからない。幻覚作用を引き起こす薬は、裏ギルドで取り扱われる物も多いから、これだという決め手がない。
あっ、そうか。ここの物を使って作ればいいか。
僕が付近に生えている草を抜き始めると、ジョーモさんも手伝ってくれた。そして、洞窟内の土を利用して、器を作り、抜いた草や砂利を放り込む。
混ぜ混ぜを始めると、草や砂利がどんな異物を含んでいるかがわかってきた。僕は、その効果を改善しようと意識しながら、混ぜ混ぜを続ける。
ぷーんと、青臭いニオイが広がっていく。
空気中で、パチパチと弾ける音が聞こえ始めた。やはり、そうか。ここに撒かれていたのは、反作用を起こす吸引タイプの薬だ。これを吸った状態で、毒消しを飲むと、毒消し薬は毒薬として身体に作用する。
「リゾットの兄さん、すごいスキルだな。散布タイプの毒消しが作れるのか」
「毒消しじゃないぜ。これは、消すんじゃなくて潰してるんだ。この付近に広がっていた裏ギルドの状態異常の薬を、パチパチと潰してるぞ。すごいスキルだな。浄化魔法じゃなきゃ消せない薬なのに」
冒険者の一人の手が、淡い光を放っている。サーチ魔法で分析しているのだと思うけど、僕は、混ぜ混ぜに忙しくて、話す余裕はない。
ジョーモさんは、剣を抜いて、僕をかばうように立った。すると、近くにいた冒険者達も、同じ行動に出る。
僕は、混ぜ混ぜに集中しているから、話せない。散布タイプの薬は、完了するまで混ぜ混ぜしていないと、広がっている薬が効果を失って消えてしまうためだ。
だから、役に立たないって、幼馴染に言われたんだよな。毒の沼の調査ミッションに行ったとき、空気中の毒消しのために、僕がずっと混ぜ混ぜしていて動けなかったから、毒の沼の先へ進めないって、怒られたっけ。
僕のスキルレベルが上がれば、何か変わるのかな。僕の『混ぜ壺』は、ずっとレベル1のままだ。幼馴染は、レベル10を越えたあたりからレベルが上がりにくくなったって、盛り上がってたけど。
キンッ!
「クソッ! どうなってんだよ!」
ジョーモさんが何かを弾いた。今のは誰の声だ? 混ぜ混ぜを続けながら周りを見回すと、大勢の人に囲まれていることに気付いた。
冒険者達が、次々と剣を抜き、乱闘状態になっている。盗賊が襲ってきたのか。
僕達に魔物をけしかけようとする人には、見覚えがあった。貧民街で見た盗賊だ。そして、その横には、冒険者風の軽装の服を着たタイトさんの姿があった。
「魔物が、なぜ言うことを聞かないんだ?」
貧民街にいた盗賊は、魔物を操るスキルでもあるのだろうか。彼は3階層の魔物を集めているが、魔物達は、襲いかかってきても、僕達の近くで引き返している。
ケモ耳の女の子が、僕の服に付けたニオイのおかげか。
「なぜ、タイトさんが冒険者のふりをしているのですか!」
アロンさんは、目を覚ましたようだ。3階層で説明係をしていた職員さんと一緒に、僕達の方へと近寄ってくる。
一方、下の階層から上がってきた普通の冒険者達も、盗賊との乱闘に加勢していたから、盗賊達の大半は、地面に転がっている。
正体のバレたタイトさんは、真っ青な顔をして、軽装を脱ぎ捨てているが、さすがにもう遅い。
「アンタが、盗賊と繋がってることは、わかってるっすよ! 伯爵家の子息だからって、許されることじゃないからな!」
ジョーモさんが、逃げようとしたタイトさんに、大量の小さな土偶を飛ばしたことで、タイトさんは土偶を踏んで盛大に転んでいる。
アロンさんは、魔道具を使って、何度も転んで立ち上がれないタイトさんを拘束した。




