21、ノワール洞窟前広場で混ぜ飯を作る
「休憩時間が短くて申し訳ありません。おかげさまで、予定通りの到着ですよ。ありがとうございます」
街道に穴が開いたり、魔物の大群に遭遇するアクシデントはあったが、まだ明るいうちに、ノワール洞窟前広場に到着した。
あの後は、ジョーモさんが手早く街道の穴を塞ぎ、途中の宿場町で軽食を食べた。本来なら、宿場町で仮眠をとる予定だったらしい。
「大丈夫っすよ。俺達より、アロンさんの方が大変そうっすけど、仮眠しなくてよかったんすか?」
「私は、慣れておりますので、大丈夫ですよ。ご心配いただきまして、恐縮でございます」
ノワール洞窟前広場に着いてからは、アロンさんは大変そうに見える。大きなリュックを背負って、この距離を歩いてきた疲れもありそうだけど、錬金協会のメンテナンス業務のリーダーみたいだもんな。
洞窟の入り口には、3階層の休憩所のメンテナンスに関する注意看板が出ている。今日は、昼で閉鎖したようだ。そのせいで、2階層や1階層の休憩所の混雑が予想されるという注意喚起だ。
だから洞窟前広場は、こんなに人が多いのか。いつもなら夕方には露店は閉まっているのに、今日はまだ開いている。
「どうして、入っちゃダメなのーっ!」
ん? なぜ子供が?
「メンテナンスがあるんだよ。ノワール洞窟の浅い階層は、今日はもう入れない」
入場制限もしているのか。
「あたしは、10階層に行くんだもんっ!」
ここからではよく見えないが、こんな場所に子供がいるわけないか。ノワール洞窟は鉱物が豊富だから、様々な種族が潜るようだ。人族の言葉を話せる背の低い種族といえば、何だろう?
「エドさん、あの子は盗賊の子供っすよ。ノワール洞窟では有名っす」
「盗賊の子供なんですか?」
「ここから一番近い集落の、セルス村の子供っすよ。全員が盗賊っす」
「盗賊セルス団? 義賊だと聞いたんですけど」
「俺達からすれば、義賊っすね。盗賊を狙う盗賊っす。しかし、錬金協会のメンテナンスがあるのはわかっていたはずなのに、なぜ来たんすかね。まぁ、子供だからっすね」
あれ? 何だか普通の子供ではないような? ケモ耳があるように見えたけど、尻尾はない。
「ジョーモさん、エドさん、4階層でトラブルがあったらしく、少し入場が遅れそうです。お差し支えなければ食事をしてしまいたいのですが、お願いできますでしょうか」
アロンさんは、混ぜ飯を、錬金協会の人達に食べさせたいみたいだな。大きな作業台の上に、金属製の寸胴鍋のような物や野菜を出し始めた。
「こういうときは、携帯食じゃないんすか?」
ジョーモさんは、ピシッと強い口調で断ってくれた。
「あはは、私、エドさんの混ぜ飯にハマってしまいまして。ここまでの道中にアクシデントもありましたし、携帯食を持っているはずの者が、先に洞窟に入ってしまったようでして……」
そういえば、タイトさんの姿はない。僕達を足止めしている隙に、新たな罠を仕掛けているのだろうか。
「構いませんよ。あー、パンはあるんですね。それなら、サラダ系がいいのかな」
「パンもありますが、穀物も持って来ましたよ」
僕も、料理長から、いろいろな食材をもらってきた。腕輪のアイテムボックスに入っている。だけど、これは非常用だから、アロンさんにも言わない方がいいだろう。
「では、適当に作りますね」
寸胴鍋のサイズからして、大人数分を作らせたいのだろう。余っても、夜食になる。
アロンさんが出した野菜や穀物を寸胴鍋に入れ、水魔法を使って水も入れる。そして、左手を鍋に当て、混ぜ混ぜをした。
「出来ましたよ。取り分ける方がいいですか?」
「もう出来たのですか! むむ? なぜ湯気が……?」
「野菜がたくさんあったので、温かいリゾットにしました。サラダ用の野菜も一緒に混ぜてあります」
僕は、皿に入れて、アロンさんに渡した。そして、匂いを嗅ぐジョーモさんにも、リゾットを入れて渡す。
「見た目は赤いけど、何かわからないっすが、美味いっすよ。少し酸味があるんすね。ケチャップが入ってるっすか?」
「それは、サラダ用の赤い実ですよ。熱を加えると、美味しいソースになります」
いつの間にか、寸胴鍋の前には、行列ができていた。僕は、せっせとリゾットを入れて渡す。
あれ? この子も?
ジーッと僕の顔を見上げるフードを被った子供。さっき、洞窟の入り口で騒いでいた子だろうか。
「あの、お嬢さん、これは錬金協会の人と護衛の人に配ってるんだ。ごめんね」
「あたし、あーちゃん。キミは?」
「僕は、エドです」
「エドちゃん、あたしも食べたいっ。護衛をしたら食べていいの?」
「ん? うん、そうだと思うけど……」
アロンさんの姿を捜したけど、見つからない。ジョーモさんの方に助けを求めてみると、頷いてくれた。だよな。盗賊の集落の子供かもしれないけど、義賊だし、こんなに小さな子供だもんな。
「あたし、護衛するよっ!」
「そっか。じゃあ、どうぞ。熱いかもしれないから、気をつけてね」
「うん! わかったっ!」
リゾットを渡すと、その子は、僕の横の地面にぺたんと座り、お行儀よく、いただきますと言ってから、食べ始めた。
僕は、その後も、次々とおかわりに来た人達の皿に、リゾットを入れていた。あっという間に、無くなったな。気に入ってもらえてよかった。
「エドちゃん! すっごく美味しかったっ。エドちゃんは料理人なの?」
足元に座っている小さな子供は、目を輝かせている。
「僕は、料理人じゃなくて、冒険者だよ」
「冒険者なのに、こんなにすごく美味しい料理が作れるのっ? もしかして、天才なの?」
子供は純粋だよな。精一杯の言葉で、美味しかったを伝えようとしてくれてる。
「ありがとう。これは『混ぜ壺』という僕のスキルなんだ」
「珍しいスキルだねっ。あたしのスキルは、『錬金魔術』だよっ。たぶん珍しいよっ」
いやいや、4〜5歳に見える女の子に、スキルがあるわけがない。スキルを得るのは、学校を卒業する15歳だ。でも、そんなことを子供に言っても可哀想か。
「へぇ、珍しいスキルなんだね。錬金術師じゃなくて、錬金魔術なの?」
「うんっ、『錬金魔術』だよっ。エドちゃんは、知らないでしょ」
「初めて聞いたよ」
「うふふっ。あたし、すごいでしょ」
女の子は立ち上がって、思いっきり胸を張って、僕にドヤ顔をして見せた。かわいい姿なんだけど……ズレたフードの中に、ケモ耳が見えた。獣人の子供だ!




