19、ノワール洞窟へ向かう街道
北門を出発した僕達は、街道をノワール洞窟に向かって進んでいた。錬金協会の人達は、盗賊対策で、分かれて移動するらしく、ジョーモさんがアロンさんを護衛する形で、全体の後ろの方を歩いている。
さっきの初老の女性が何者だったのかは、わからない。彼女はノワール洞窟には行かないらしく、北門で僕達を見送った。錬金協会の黒いローブを身につけていたし、ジョーモさんの反応から考えても、偉い錬金術師なのだろうけど。
「うわぁ〜! 助けてくれ」
必死な顔をした錬金協会の職員さんが一人、僕達の方に戻ってきた。盗賊に遭遇したのだろうか。
「どうしました?」
僕達と一緒に歩いていたアロンさんが、歩く速度を速めて、戻ってきた職員さんに近寄っていく。
「土色の魔物が出たんです! この先の街道は危険です。アロン局長、今日のメンテナンスは無理ですよ」
アロン局長?
「この街道は、夜はわかりませんが、昼間に魔物は出ませんよ? 見間違えではありませんか」
「見間違えていません。カマを振り上げると、人の首に届くほど大きな土色の魔物です!」
カマのある魔物ということは、ホッパー系か。夜になると草ホッパーが出現することはあるけど、草ホッパーは緑色だよな。
「先に行ったタイトさん達が、街道に魔物除けの薬を撒いていたはずですよ?」
「あの人達が通った後に、魔物が出たんです。分岐点の道案内に立っていたら、突然、街道の一部にボコっと穴が空いて、泥水が溢れてきて……」
職員さんの話を聞いたジョーモさんが、舌打ちをした。信じられない話だが、嘘をついているようにも見えない。
「アロンさん、やはりアイツが、わざと事故を起こしてるっすよ。職員の話から考えれば、泥ホッパーの巣穴を爆破したんすね」
えっ? 泥ホッパー? 沼地にしかいないから、街道に出てくるなんておかしいよな。
「場所はどこですか」
アロンさんは魔道具を取り出し、地図を表示している。職員さんが示した場所は、川の近くだ。
「ここは、雨季には大雨でよく浸水する場所ですね。地下水脈があります。なるほど、泥ホッパーの巣穴も多そうですが、街道に穴が空くような事故は、雨季以外には聞きませんが……」
アロンさんは、今の情報を魔道具に書き込み始めた。
「エドさん、これは足止めっすよ。アイツが逃げたときに北門から出て行った旅人二人は、昼前には貧民街にいたっす」
「えっ? ノワール洞窟に……」
ジョーモさんが、僕の言葉を合図で止めた。そうか、誰が盗賊に繋がっているか、わからないよな。彼はタイトさんを怪しんでいたけど、あんな軽そうな人が一人で連絡係をしているとは思えない。
警戒しながら歩いていくと、僕の目に、ピョンと飛び跳ねるホッパーが見えた。あの大きさは、確かに泥ホッパーだ。巣穴を壊されたなら、怒っているよな。
「ジョーモさん、かなりの数ですね」
「はぁ、面倒っすね。街道の穴を塞げばいいかと思ったっすけど、かなり街道に出てきてるっす」
「狩るしかないですね」
僕が剣を抜くと、ジョーモさんは楽しそうな顔をした。泥ホッパーは、たいして強い魔物ではないけど、振り回すカマには注意しないといけない。
「エドさん、盾は無いんすか?」
「えっ? 無いです。盾って、タンク役の人が持つんじゃないんですか?」
「それは大盾っすよ。エドさん、とりあえずこれを使うっす。泥ホッパーのカマくらいなら防げるはずっす」
ジョーモさんは、僕の左腕に魔力を放ったように見えた。光が収まると、赤茶色の焼き物のような盾が、僕の左腕に付いていた。
「これは? すごく軽いですけど」
「土偶っすよ。土偶が持つ盾と言う方が正しいっすかね。強度を上げてあるけど、あまり受けすぎると壊れるっす。盾の扱い方はわかるっすか?」
「学校で実習があったから、わかります」
僕がいくつかの基本動作をして見せると、ジョーモさんは笑顔で頷いてくれた。まるで先生みたいだ。
「じゃあ、行くっすよ」
「はい!」
僕は、泥ホッパーに駆け寄っていく。盾があると、安心感が桁違いだ。泥ホッパーは、ホッパー系の中では大きく、動きが鈍い。羽根はあるが、基本的に飛ばないので、振り回すカマにさえ気をつければ、僕でも討伐できる魔物だ。
振り回すカマを避けた直後に、ホッパーの急所である首を切り落とす。斜めに斬らないと頭は落ちないから、角度が重要なんだ。
シュッ!
よし! 一撃で倒せた!
僕に襲い掛かろうとしてきた別の個体には、剣を下から斜め上に振り抜いた。角度も完璧だ! えっ?
ガチッ!
首を落とした魔物が倒れるときに、カマが盾に当たって、ヒヤリとした。ホッパー系の魔物は、最後の足掻きがあるんだよな。だが、ジョーモさんの盾が、しっかり弾いてくれた。軽い盾なのに、すごいな。
「へぇ、エドさんは、かなり慣れてるっすね」
「はい、ありがとうございま……ええっ! ジョーモさんが、他のを全部倒したんですか」
「あはは、まぁ、俺は物理系っすからね。全部狩るつもりだったのに、2体も取られたっすね」
楽しい!
ジョーモさんがいる安心感もあるし、何より、討伐した後に、こんなに笑顔で笑ったことなんてなかった。幼馴染のパーティにいたときは、僕が一番討伐数が少なくて、引け目を感じていたっけ。
「ジョーモさん、エドさん、大活躍ですね。こんな短時間で討伐しまうなんて、素晴らしいです。ありがとうございます!」
アロンさんは、魔道具を持ったまま、笑顔で近づいてきた。あちこちに転がっている泥ホッパーの死骸につまずいて転びそうになったから、苦笑いかもしれない。
「その先に、穴が空いてるんすよね。俺が土魔法で閉じてもいいし、錬金術師に任せてもいいっすが」
「我々は臨時の補修だけをして、先に進みましょう。もうすぐ追いついてくる職員が対応しますよ。ノワール洞窟のメンテナンス作業は、利用者の少ない夜に行いますので、夕方には到着したいのです。途中で、軽食と仮眠も……」
ドォゥゥン!
えっ? 何? アロンさんと話していると、少し先の方で爆発音が聞こえた。アロンさんは、すぐさま地図を見ている。
「この音は、また……」
僕達の方へ逃げてきた職員さんは、ブルブルと震えている。
「爆破第二弾っすか、いや……」
ドォゥゥン!
バァァン!
前方だけでなく、僕達の後方からも、派手な爆発音が聞こえた。
「完全な作為を感じますね。しかも、魔道具が反応しなくなりました。何かの結界でしょうか」




