14、シノア洞窟での事故のこと
「エドさんの冒険者ランクは、Dランクでしたね。錬金協会がご協力をお願いするのは、どのパーティにも属さないCランク以上の冒険者さんなのですが」
追放ざまぁ支援局のアロンさんは、ジョーモさんから紙を受け取ると、魔道具を取り出して操作を始めた。
ジョーモさんが、僕が参加するならやってもいいと言ったのは、断る口実なんだろうな。
「俺は前にも、この仕事を受けたことがあるっすよ。もう二度と引き受けないと、そのときの担当者に言ったんすけどね。ただ、ノワール洞窟なら、話は別っす」
ジョーモさんは引き受けるつもりなのか。だけどノワール洞窟は、彼が世話をしていたパーティが全滅した洞窟だ。行きたくない場所じゃないのかな。
「なるほど。ジョーモさんには、シノア洞窟のご協力をお願いした記録がありますね。あぁ、それでエドさんの同行が、引き受けていただく条件なのですね」
「俺は、シノア洞窟では、餓死しそうになったっすからね。錬金協会が依頼する冒険者は、はっきり言って、盗賊も多いっすよね?」
ジョーモさんの指摘に、アロンさんは苦笑いを浮かべて、魔道具を操作している。図星なのだろうか。
しかし、シノア洞窟で餓死? シノア洞窟といえば、僕でさえ単独で入ることができる、初級者向けの洞窟だ。強い魔物はいないし、階層も5階層しかない。しかも、各階層には休憩所が完備されている。
一方、ノワール洞窟は、50階層ほどあると言われる迷宮だ。5階層までは各階層に休憩所があるが、その先は僕は知らない。Dランクでは、立ち入る権限がないためだ。だが、5階層をクリアするのは、Cランク冒険者でも厳しいと言われている。
「ジョーモさんは、シノア洞窟で餓死しそうになったんですか? 初級者向けの洞窟だと思うのですが」
「あぁ、エドさんには話がわからないっすよね。錬金協会がソロ冒険者に依頼するのは、護衛なんすよ。日数が長いこともあるんす」
「錬金協会の人達の護衛ですか? シノア洞窟は5階層までしかないし、手持ちの食べ物が無くなったら、休憩所で手に入りますよね?」
僕の素朴な疑問に、ジョーモさんはチラッとアロンさんの表情を確認した後、口を開く。
「錬金協会が行くのは、その休憩所のメンテナンス業務っすよ。浅い階層の休憩所は、錬金協会と冒険者ギルドが運営してるっす。シノア洞窟は弱い魔物しかいないから、護衛は三人だったんすよ」
「その中の一人が、盗賊だったんですね」
「いや、俺以外の二人が盗賊だったっす。階段を爆破されて、俺は5階層に落とされたんすよ。しかも錬金協会の職員は、俺が魔物に喰われたと報告したらしくて、シノア洞窟自体を3日間も封鎖したんす。俺の魔力が回復して1階層までたどり着いても、出られなかったっす」
「ええっ! ひどい」
「錬金協会の職員は、簡単に騙されるっす。しかも盗賊二人は、慌てて店員が避難した休憩所から食料も盗んで、街から逃げたんすよ。冒険者ギルドを経由しない仕事は、追跡できないっすからね」
「うわぁ、それなら、この仕事は、盗賊に狙われる理由しかないですね」
僕は、アロンさんが、話に割り込むタイミングを探していることに気づいた。彼の方に視線を向けると、軽く会釈された。
「ジョーモさん、今回はノワール洞窟の3階層ですから、多くの冒険者さんにご協力いただきますし、シノア洞窟の件があった後は、事故防止の対策を徹底しております」
「その中に盗賊がいないとは限らないっすよね? 錬金協会のメンテナンスなら、貴重な鉱石も盗み放題っすから。冒険者ギルドを通せば、こんな心配は減るはずっすよ」
「まぁ、いろいろと大人の事情もございましてね。今回は、私もご一緒しますので、以前のような事故は……」
「確実に信用できる冒険者が一人もいない依頼は、受けられないっすよ!」
えっ? ジョーモさんは、僕を冒険者として見てくれていたのか。僕が、混ぜ飯を作れるからだと思った。嬉しい!
「わかりました。エドさんはDランク冒険者ですが、弱点はないので、エドさんにもご一緒してもらいます。ただし、ノワール洞窟ですから、3階層でも魔物は結構強いですよ」
「俺は、エドさんと常に行動を共にするっす。盗賊かもしれない冒険者とは組まないっすよ」
ジョーモさんは、いろいろと嫌な経験をしてきたんだな。僕は冒険者になって、まだ1年ちょっとだし、ずっと信頼できる幼馴染と一緒だったから、そんな苦労はしていない。
そっか。やっぱり僕は、幼馴染にとって邪魔な存在になっていたんだ。僕は人と話すのが苦手だから、みんなに頼りっきりだった。
ヤバイ。また、辛くなってきた。
「エドさん、エドさん?」
「えっ? あ、はい。すみません、考え事をしていました。何でしたっけ?」
「明後日の昼に、北門から出発します。こちらに目を通しておいてください。サインをして、明後日お持ちください」
アロンさんから、数枚の紙を渡された。
「僕も参加することになってるんですか?」
「はい、よろしくお願いしますね。エドさんの支援局員のお仕事にも良いと考えました。洞窟内では、よくトラブルが起こりますので」
「あっ、追放される人がいるかもしれないんですね」
「ええ、今回はそれを理由として、エドさんの参加許可を取りました。ですので、エドさんは護衛ではありませんから、通常の出来高制の給料のみとなりますが、冒険者としての経験値は獲得していただけます」
報酬は出ないってことか。出来高制の給料ってことは、追放ざまぁ支援ガチャを引いてもらえば、給料がもらえるのか。
「エドさんも、出来高制なんすか? 対象者を見つけにくいのなら、気の毒っすね」
「魔道具から排出された品によって、給料を支払っております。ガチャで排出された品と同じ物が、追放ざまぁ支援局内でも生成されますので」
「えっ? ジョーモさんが引いた魔法手袋と同じ物が?」
「はい、そうなのです。レアな品物でしたので、それに応じた給料となります。私達としましても、レアな魔道具が生成されると、大変嬉しいです。エドさん、ジョーモさん、ありがとうございます!」
アロンさんは、心底嬉しそうな顔をしている。
「なるほど、理解したっす。錬金協会の慈善事業だというわけじゃないんすね。だいたいは、ガラクタしか出ないっすけどね」
ジョーモさんは深く頷き、また、僕の混ぜ飯を食べ始めた。気に入ってくれたみたいだな。




