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12、宿の食堂の食べ放題

「こちらの席でよろしいでしょうか」


 宿の食堂は、昼食には遅い時間なのに、半分以上の席が埋まっていた。案内をしてくれたのは、夕食時間にたまに見る女性だ。


「大丈夫ですよ。ありがとう」


 追放ざまぁ支援局のアロンさんは、キョロキョロと周りを見回し、興味津々だ。案内された席にすぐに座って、テーブルの上に置いてあるものを確認している。


 あっ、追放ざまぁ支援局のときは、白い白衣を身につけているから、今は、錬金協会の人か。黒い魔導ローブのような服の左胸には、金色の糸で『錬金協会』と刺繍されている。


 ジョーモさんが座った後、僕は空いている席に座った。案内の店員さんは僕が宿泊者だと気づいたみたいだが、黙ってくれている。



「簡単にご説明しますね。夕食時間になるまでは、食べ放題です。あちらに並んでいるお料理をご自由にお取りください。なお、お皿が汚れましたら、厨房へお持ちいただくと、新しいお皿と交換できます」


 そういう仕組みにしたのか。店員さんは話しながら、僕達の席に、大小の皿を一枚ずつ置いた。


「飲み物コーナーには、お水とフルーツジュースと紅茶をご用意しています。コップなどは、飲み物コーナーにございます。なるべく食べ残しがないように、お願いしております。他にわからないことは、ありませんか?」



「へぇ、ということは、激マズな料理を取ってしまったら、残せないんすか?」


 ジョーモさんは、楽しそうに質問した。なんだか、ケンカを売っているようにも聞こえる。店員さんは困った顔をして、厨房の方をチラチラと見ているようだ。


「あー、えーっと、お口に合わない料理は、残していただいても……あっ、料理長」


 店員さんが目で助けを呼んだのだと思う。どうしよう。僕がいる席で、クレーム的なことが起こってる。僕は、頭が真っ白になってしまい、何も話せない。



「俺にケンカを売りに来たのか? ジョーモ」


 料理長が、ジョーモさんの頭を小突いた。知り合いだったのか?


「アズさん、お久しぶりっすね。こんなとこで料理人をしてたんすか。店の再建を待ってたんすよ?」


 料理長は、アズさんというのか。名前は知らなかった。


「俺は二年前から、ここで料理長をしてるぜ。もう、店は再建できねぇよ。一度は建て直したが、すぐにまた燃やされちまったからな。あの場所は手放した」


「貧民街で一番美味い店だったのに、残念っすよ。まぁ、あの辺は、荒くれ者だらけっすからね。あっ、空腹のお二人は、料理を取ってきていいっすよ」


「では遠慮なく、お先に」


 アロンさんは、僕に目配せをして、皿を持って立ち上がった。ジョーモさんは、まだ、料理長と話したいことがあるのだろう。僕も、皿を持って立ち上がる。



「エドさん、これは楽しいですね。たくさん取りすぎてしまいそうですよ」


「自由に取れるのは、気楽でいいですね」


 僕は、魔道具のおかげで、普通に返答できるようになった。だけど、僕を知る店員さんは、驚いた顔をしている。あまり喋りすぎないようにしよう。


 アロンさんは、やはり変わった物が好きらしい。味の想像が難しい物ばかりを取っている。僕は、食べたことのある物だけを取っていた。チャレンジ精神は、僕には皆無だ。



 僕達が席に戻って食べ始めると、ジョーモさんは料理長と話しながら、皿を持って料理を取りに行った。随分と親しいみたいだ。


 さっき、貧民街で一番美味い店と言っていたよな。ジョーモさんは、この街トランクの貧民街に住んでいたのだろうか。中心街から離れた北側に、貧民街があると聞いたことがある。



「エドさんは、本当に完璧に制御できていますね」


「えっ? あぁ、魔道具ですか」


「はい。先程のジョーモさんの話にも、いろいろな疑問を感じられたでしょう。だけど、それを口には出さない」


「僕は、もともと無口ですから」


「ええ、それは存じています。ですが無口な人ほど、頭の中では多くのことを考えていると思うのです。長くかかる人ですと、数十日が経過しても、心の声がポロポロと口から溢れてしまうのですよ」


「そう、なんですか」


「はい。エドさんのスキルは、私達としましても、非常に興味深いです」


 アロンさんは、ニコニコと意味深な笑みを浮かべている。これは、僕の混ぜ飯が食べたいという催促だろう。


「ちょっと厨房に行ってきますね」


「はい! お待ちしておりますよ」


 僕が席を立ったときに、ジョーモさんが料理を取って、戻ってきた。見慣れた料理ばかりだな。おそらく料理長が作ったものだけを取ってきたのだろう。




「ん? エド、どうした? 今日は客だろう?」


 僕が厨房に入ると、料理長は首を傾げたが、すぐに理由に気づいたらしい。でも僕が説明すると、店員さん達が驚くかな? 彼らを驚かせたら、調理中の事故が起こるかもしれない。


 僕は魔道具のおかげで話せるようになっても、やはり、こういうときには、どう話せばいいかわからない。


「錬金協会の奴は、エドのスキルを試しに来たんだろ? ジョーモが少し話してたぜ。事情はだいたいわかった」



「あ、じゃあ、錬金協会の人が、僕の研修の付き添いだということも、ジョーモさんから聞いたんですか」


 しまった! 揚げ物をしていた人が、僕がしゃべったことに驚いて、大量のミートボールを油に投入して慌ててる。


「めちゃくちゃ喋れるようになっているじゃねぇか。錬金協会の魔道具の威力か」


「はい、魔道具のおかげで喋っています。肉料理が減ってたから、何か作ってもいいですか」


「おう! 今、ちょうど肉料理が足りないって言ったとこだ。エドも頼むぜ」


「わかりました」



 僕は、皆が作っているものをサッと眺めた。どれも僕には出来ない料理ばかりだ。


「料理長、エドさんの混ぜ飯なら、新人が血抜きに失敗した肉も使えますかね? アレを廃棄するのは、さすがに悔しいですよ」


 店員さんが、廃棄用のタンクに入れた大きな肉塊を持ち上げている。


「確かに、良い肉なんだよな」


 料理長は、チラッと僕の方に視線を移したが、他の調理ゴミにまみれた肉塊を料理に使うことには、抵抗があるみたいだ。



「大丈夫ですよ。タンクの形状は壺形だから、そのまま使えます。中に戻してください」


「ちょっと待て、エド。このタンクは不衛生だぜ?」


「余計な物は、別の物に変わるので大丈夫です」


 僕は、金属製のタンクに左手を当て、長めの棒で混ぜ混ぜをする。量が多いため、少し時間はかかったが、僕のイメージ通りの肉料理が完成した。



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