11、ジョーモさんのスキル『土偶』
「下位冒険者の世話は、もう俺にはできないっすよ」
僕が個人的な意見を言ったことで、ジョーモさんの表情が暗く沈んでしまった。
やはり僕は、自分の意見なんか言うべきじゃない。魔道具のおかげで人と話せていることを忘れていた。僕は、偉そうなことを言える立場じゃないんだ。
どう話せば弁解できるかもわからない。魔道具のチカラがあっても、僕が考えてないことは話せない。
「エドさんの研修は、ここで終わりました。ですが、少し検証をしたいと思います。ジョーモさん、差し支えなければ、ここからは錬金協会にご協力いただけませんか」
追放ざまぁ支援局のアロンさんは、失言をした僕に、柔らかな笑顔を向けてくれた。ジョーモさんに何を依頼するんだろう。僕のことなのかな。
「錬金協会に協力? あぁ、アンケートっすか。謝礼をくれるんすよね?」
「ご協力に応じて、わずかではありますが、謝礼をお支払いします」
「まぁ、スーパーレアの魔法手袋をもらったから、協力するっすよ。今日の予定といえば、新たな宿探しくらいっすからね」
彼は宿を変えるつもりなのか。まぁ、そうだよな。さっきの感じ悪い人達に宿を知られているなら、出て行きたいだろう。
大容量の魔法袋を持つ冒険者は、定宿を決めず、常に私物を持ち歩く人が多いらしい。急なミッション参加があるためだと聞いたことがある。ジョーモさんも、腰に魔法袋を下げている。Bランク冒険者なら、それなりに稼ぎもあるだろうな。
「宿といえば、昨日から宿屋フローラルが、珍しい昼営業を始めたそうです。この近くだから、行ってみませんか」
えっ? 宿屋フローラルといえば、僕が泊まっている宿だ。宿の話は、アロンさんにはしたことがないけど、これは偶然なのだろうか。
「あぁ、さっき聞いたっすよ。昼食時間が食べ放題になっているんすよね? 安宿が集客に困ってやっているのだろうと、彼らは笑ってたっすけど」
「宿屋フローラルは、新人冒険者や旅人が多い宿ですよ。確かに料金は良心的ですが、大きな宿なのに掃除も行き届いているので、この街で錬金協会の会合があるときは、私達がオススメしている宿の一つです」
「俺は、泊まったことないっすね。あの宿屋通りをウロウロしていると、貧乏な冒険者だと思われるから、通り自体を避けてたっす。まぁ、それは俺の被害妄想っすかね」
だから昼間は、人通りが少ないのか。
「冒険者は、ランクに応じて泊まる宿のランクを上げようとする風習があるためですね。あの通りには、オススメできない粗悪な宿も少なくないですが。じゃあ、宿屋フローラルは、やめましょう。ん〜、他に面白そうな店は……」
「錬金協会の人達は、変わった物が好きっすよね。まぁ、その食べ放題の店でいいっすよ。二人とも昼食を食べてないんすよね? 俺も、さっきは食った気がしなかったっす」
「我々は、変わり者の集まりですからね。では、宿屋フローラルの珍しい店に行ってみましょう」
「いや、ちょっと待ってください」
しまった。油断していて、声を出してしまった。
「エドさん? まだ、お腹は空いていませんか? 昨日行った人から聞きましたが、この時間ならデザートがたくさん並ぶそうですよ」
「いや、嫌なわけじゃないんですが、その……」
「あっ、何か不都合なことがあるのですね。ん〜、どうしましょうか。私は、とても行ってみたいのですが」
「僕が泊まっている宿なんです。僕はパーティを追放された日の夕方から、その食堂を手伝うことで宿代を無料にしてもらっていて……」
「おお! それは好都合ですね。昨日行った人から聞きましたが、補充された炊き立てごはんが、とても美味しかったそうです。もしや、エドさんのスキルではありませんか?」
そういうことか。アロンさんは、僕があの食堂で働いていることを知っていたらしい。
「料理のスキルなんすか? でもガチャがおかしくなるのは、スキルの影響なんすよね?」
ジョーモさんは、僕のスキルに興味を持ったみたいだ。僕も、ジョーモさんの『土偶』というスキルには、興味がある。
「僕のスキルは『混ぜ壺』なんです。冒険者としては、外れスキルです」
「混ぜ壺? 聞いたことないスキルっすね。あっ! だから、壺がいろいろおかしかったんすか」
「壺が一番良いのですが、深い鉢でもスキルが使えます。だから料理にも使えるし、薬草があればポーションも作れます」
「それのどこが外れスキルなんすか。すごいじゃないっすか。ポーション切れで、効果の弱い薬草のまま食う必要もないんすよね? 俺なんて、土魔法で壁をつくるか足止めをするか、土偶をつくるくらいしかできないっす。俺の方が外れスキルっすよ」
「土偶をつくるって、どういうことですか?」
僕がそう尋ねると、ジョーモさんの右手が光った。
「これっす。土人形っすね。簡単に割れるから、魔物の気を引くぐらいにしか役立たないっす」
ジョーモさんは、つくった土偶を地面に落とした。パリンと高い音を立てて、粉々に壊れた。確かに、魔物の気を引くには有効だと思う。
「お話は、昼食を食べながらにしませんか。私は空腹で、目が回ってきましたよ。昼食代は、もちろん錬金協会でお支払いします」
アロンさんはそう言うと、僕達を先導するように歩き始めた。僕は、彼が僕のスキルを体験したいのだと、気づいた。まぁ、空腹なのは嘘ではないだろうけど。
◇◇◇
宿の前には、大きな立て看板が出ていた。可愛らしいイラストもある。これは、モモさんの字だな。
「へぇ、夕食時間前までなら、ずっと食べ放題なのですね。それで、銅貨10枚は安すぎる気もします。あっ、並ぶ料理には、新人料理人の料理もあると書かれています。なるほど、新人を教育するために始めたようですね」
アロンさんは、細かな説明まで読んでいる。錬金協会の人って、こういう理屈が好きなのだろうか。
「じゃあ、不味い料理もあるんすね。逆に、ガチャみたいで楽しいかもしれないっす。激マズ料理で悶絶すると、笑えるっすね」
ジョーモさんは、やはり陽キャだな。僕なら、お金を払って不味い料理に当たると、嫌な気分になるけど。
「そういう娯楽性もありますね。非常に興味深いです。では、参りましょう」
アロンさんは宿のフロントで、僕の分まで代金を支払うと、ワクワクした顔をしながら、食堂へと入っていった。宿泊者は無料なんだけど、まぁ、いっか。




