決闘と恐怖
別視点です
奴はこの僕に向かって決闘のルールを選んでいいと言ってきた。ならルールは決まっている。ロケーションは円形闘技場でルールは第二種騎士決闘だ。このルールでは近接武器と非殺傷性の補助装備のみが持ち込める。決闘は30分後、得意の近接戦なら五分であの男を負け犬部屋送りにしてやれるだろう。だが、アカデミーとはいいものだ。どれだけ雑魚を堕としても相手は死なず、負け犬部屋つまり控室へ送られるのだ。つまり何度でも痛めつけて僕への恐怖心を植え付けられる。そうすれば僕に反抗する愚か者も消え去る事だろう。
約束の時間だ。僕は帝国から持ち込んだ専用機ブラックナイトに乗り込んだ。僕はこの機体で領地に現れた魔物を三体も討伐した実力者だ。あんなオンボロに乗った雑魚とは訳が違う。
「どうやら逃げずにやってきたようだな」
緑のオンボロを前にそう言い放つ。お互い剣を抜き、一礼。これが騎士決闘の始まりの合図だ。どうやら作法は弁えているらしい。僕はブースターを吹かして一気に肉薄する。オンボロだが相手は重量機。純粋な振り合いではこちらが不利だ。だから推力を上乗せした一撃と手数で相手を圧倒する。推力を乗せ剣を大きく横に薙ぐ。意外と手ごたえは軽かった。これならいける!今度は手数で圧倒する。斜めに横に、縦にと言葉通り縦横無尽に剣を振るう。奴は後ずさりながら防戦一方だ。円形闘技場の壁まで50mといったところで奴はブースターを使い大きく後ろへ飛んだ。だが後ろに逃げ場はなくバックパックが壁に触れそうだ。好機と言わんばかりにこちらもブースターを吹かして間合いに入ろうとした瞬間、奴は消えた。正確に言えば奴は煙幕を使ったのだ。しかもレーダーかく乱機能もあるのだろう、レーダーでは相手の位置が把握できない。だがその条件はあちらとて同じだ。どうやら苦肉の策で煙幕を使って逃げたに違いない。なら取るべき行動は後方へ方向転換し一歩一歩慎重に歩く。こうして闘技場の中心を目指したが突如後ろから斬撃が飛んできて左腕を落とされた。幸い剣を握っていた手ではなかったので振り向きながら一撃お見舞いしようとするが空を薙いだ。また後ろから今度は足を崩された。これでは碌に身動きが取れない。そうなった瞬間この決闘で初めて恐怖という感情が脳裏に浮かんだ。どこからやってくるかわからない斬撃、ずしんずしんと無数の攻撃でモニターのステータス表示はどんどん赤く染まっていく。最後地面に叩きつけられたような衝撃の後煙幕が晴れた。どうやら僕のブラックナイトはコックピットのある胸部を残して粉々に切り刻まれていたようだ。そしてコックピットハッチに剣を突き付けられる。ほんの数十秒前に頭に現れた恐怖という感情は刹那の間に何百倍にも膨れ上がっていた。僕は負けた、悔しいなどといった感情より先に恐怖で気を失ったのだった。