聖女と近接防御
翌日ゴリ先生は宣言通り近接防御の実習を始める。近接防御とは剣やナイフのみで相手の近接攻撃を捌く技術だ。集まったAクラスの生徒は大半がヴァルキリーに乗っている。一日では機体の修理が間に合わなかったのだろう。自分の機体を用意しているのはクロウと帝国貴族と聖女様と王女様の4人だけだ。
ゴリ先生は無作為に生徒をペア分けした。俺の相手は高性能機チューリップ、聖女様だ。チューリップは戦場の制圧能力に重きを置いており機体の至る所に武装を仕込んでいる。だが今日は近接防御。それらを警戒する必要はない。
「よろしく頼むよ」
「よろしくお願いいたします」
まずはレディーファーストだ。向こうに先手を譲る。ブーストを使って距離を詰めてくると横一文字斜め袈裟切りと攻撃を繰り出してくる。俺はそれらを両手のナイフで丁寧に捌いていく。これが近接防御だ。レリックの近接戦闘の基本にして最大の課題。数十秒聖女様の攻撃を捌き切ったところで攻守交代だ。まず俺はナイフで突きを放ってみせる。これはフェイントだ。相手が突きに対する防御を取った所を蹴り上げて崩す。そしてそのまま相手のコックピットの寸前にナイフを突きつける。
「つ、強い。もう一度お願いいたします」
二度目も三度目も俺は一方的に聖女様に泥を付ける。五回ほど立ち会った後ゴリ先生は実習終了の合図を出す。聖女様のチューリップは地面に座り込んでいた。俺はナイフをホルダーに戻し立ち去ろうとした所を聖女様に呼び止められた。
「お願いします。私にレリックの操縦を教えてください」
「嫌だね。誰が喜んで自分の手の内を晒すか。」
聖女様は俺の返答にかなり動揺しているようだ。そりゃそうだ。聖教国の聖女様なんて立場なら幼いころから周りの人間に頼めば何だってしてもらえる立場だ。彼女は人生で初めて自分の願いを断られたのだ。
「あ、あなたのような強い方がどうして断るのですか」
「あのなぁ人に物を頼むときは対価を用意しろ。お互いに利ってモンが無ければそれは物乞いにする施しと一緒だ。お前が今やろうとしてるのは俺に対する物乞いと同じだよ」
俺は半分放心状態の聖女様の前を去った。聖女様が努力しているのは認めよう。だが自分が特別だという考えを捨てなければ次の強さの段階へはたどり着けない。ま、俺には関係ない話だがな。
設定解説
聖教国:大陸の東端に位置する。機神アテナを擁しまた機神ヘパイストスのパーツの3割をも保有する。枢機卿という絶対の指導者と機神アテナに認められた女子を聖女として神聖化している。国としては中立の立場を貫いており大陸における紛争の講和仲介を幾度もしてきた。が、その反面大陸東部で流通している兵装は殆どが聖教国産であり死の商人としての裏の顔も持つ。




