招待状
「クロウ!起きてー」
聞き慣れた声が聞こえる。だがまだ目覚めるには早い。もう少し寝ていても罰は当たらないだろう。
「クロウ!起きなさい!」
毛布を勢いよく剥ぎ取られる。
「なんだよアリシア」
「おじいちゃんが呼んでるよ」
「クソジジイが?こんな朝早くから模擬戦の相手させられるのかよ」
「おじいちゃんもそこまで鬼じゃないって!なんでも私達に招待状が届いたみたいよ」
「招待状?」
俺に招待状が届くのは珍しい事じゃないどっかの軍の高官が戦勝の祝賀会を開くだとかで呼び出される事はあるあるだ。だがアリシアにも招待状が届くと言うのは珍しい事だ。彼女はクソジジイの孫娘とはいえ別に有名な訳ではない。彼女も呼び出されているとなると、
「パーティーじゃないんだな?」
俺は思考を纏め質問し直す。
「うん!詳しくはおじいちゃんの所で!」
彼女はそう言うと寝巻きのままの俺を引っ張る。着いた先はクソジジイの部屋、第七師団長の執務室だ。本来ならこんな格好でこの部屋に入れば1週間は独房入りかトイレ掃除だがクソジジイは別に気にしない。彼女はノックもせずに勢いよくドアを開け放つ。
「おじいちゃん!連れて来たよー!!」
クソジジイはコーヒーを啜りながら書類に目を通していた。
「来たか、アリシア、クロウ。お前達にアカデミーの招待状が届いておる。入学は一週間後、準備をしておけ。」
アカデミーとはレリックのパイロットとメカニックとして才のある12歳を世界中から集め3年間訓練する場だ。俺は勿論パイロットとしてそしてアリシアはメカニッカとしてだろう。
「ちなみに拒否権は?」
「無論ない。言い忘れたがクロウ、お前の小隊は本日付けで解散する。以上だ」
威厳に満ちた筋骨隆々の老人は告げる事を終えると書類に目を戻した。
俺はアリシアと部屋を出ると一言呟いた
「マジかよ」
アリシアと別れ俺は小隊の詰め所へ入る。すると、
「おう!隊長、じゃなかったクソガキ!お前のお守りもこれで終わりだぜ!」
そう言ってボブが荷物を片付けていた。
俺は怒りに顔を歪めながら答えた
「ボブ!次同じ戦場になったらせいぜい背中に気をつけるんだな!ところでジャックは?」
「あいつなら先に片付けて配属先に行ったぜ3年後生きてたらまた会おうだってな」
「じゃあなクソガキ!」
そう言って片付けを終えたボブも詰め所を後にした。
詰め所を出ると事務員が部屋のネームプレートを入れ替えていた。俺は行き場を無くし、自分のレリックの元へ向かった。
格納庫ではアリシアが指示を飛ばしながら俺のレリックに追加装甲を着けていた。こんなん着けたら元の面影無くなるだろと思いながらアリシアに声を掛ける。
「俺の機体に何やってるんだ」
「何って擬装付けてるのよ」
「ギソウ?」
彼女は溜息を吐きながら答える。
「クロウあなたね、あなたのレリックどれだけ国外で悪名高いと思ってるの!アカデミーは王国だけじゃなくて帝国や大陸中から生徒が集まるのよ!このまま入学したら途轍もなく悪目立ちするのよ!」
さらに彼女は悪戯っぽい顔をしながら続ける。
「安心して!とっておきの仕掛けも用意してるし5日で仕上げてあげるから!ちなみに見た目は私の趣味で王国の二世代前の正式採用機・ガラガラヘビ似よ!」
彼女は12にして天才メカニックだ。ちょっと旧式機オタクなところがあるが任せておけば問題ないだろう。暫く作業を眺めた後手伝わされる前に格納庫を離れた。
用語解説
・アカデミー
遥か昔より異空間に存在するレリックについて学ぶ学び舎。各国より才ある少年少女だけが招待状を受け取れる。ここを卒業した生徒達は様々な功績を残しており、卒業するだけで各国の軍に上級士官待遇を約束される。
・銀の老獅子
アリシアの祖父にして王国最強格のパイロットの一人。師団長と近衛騎士のみが搭乗を許される王国軍精鋭量産機・アナコンダを駆り戦場で幾度となく無比の活躍をしてきた。