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世界がヤバイ

 国際連合理事会の会議場の壇上に小柄なエルフが立たされていた。腕を組みながら機嫌を悪そうにしている。


 扇状に広がった席に座る各国の代表者たちと護衛の人間。代表者が何度も同じような質問をすることにウンザリしながら無言を貫いていた。


 彼女に対して代表者たちの印象は悪く、その質問内容はまるで魔女裁判の様相を呈していた。


 しかし、エルフも無視を貫き暖簾に腕押しの状況だ。その態度に代表者の言葉も自然と強くなってくる。


「我が国の民間人を虐殺した件も認めないのかッ!? 死者数が数千人もいるんだぞ!」


 デザイナーズチャイルド計画の実験体を利用して、えるしぃちゃんを殺そうとした事を棚に上げながら、いけしゃしゃあと責め立てる露国の代表者。


 エルフが人差し指を露国の代表者に向け何かを呟いた。その瞬間、露国の集団の顔面に呪詛印が刻まれた。代表者を護衛していた後方の関係者諸共巻き込まれてしまう。


「がっ――あぎゃああああッ!!」


 会議場が凍ったように静まり返る。一番非難の声を上げていた露国に責めるような目線が向けられる。裏で非道な計画を行っていたのかを各国が調査していたからだ。


 他国の代表者は責める姿勢を見せるものの侮ることは決してしない、エルフの実力を正確に把握していたからだ。


「た、田中――いえ、エルシィ殿。こちらに側に少し手違いがあったようだ。あの国は非人道的な人体実験を行い貴殿を殺害しようとした事が判明している。――代表者の処分はこちらで行いますので…………どうか矛を収めて頂きたい」


 ピクリと口元を歪めると異空庫より以前撮影で使用した玉座を壇上に出した。


 その玉座に堂々と座ると足を組み肘置きに腕の乗せ頬杖をついた。そして反対の手を払うような仕草を示すと、代表者たちの発言を許す旨を伝えた。


 会場内の人間達はどちらが場の主導権を握っているかは明確だ。この会議場は王に跪く貴族共の為に開かれたの謁見の場なのだ。


 上位者に許された事に安堵し代表者は質問を続ける。


「霊的スポットや土着の宗教組織を根こそぎ殲滅しているテロ組織≪魔神教≫に聞き覚えは? 我々の国家に所属する民族が虐殺されていることが判明しております――資料はこちらです」


 ピクリと長い耳が反応した。それを確認した代表は畳みかける時だと判断する。


「なんでも日本国で使用された『アストラルアンカー』なるものが現場で発見されました。これは、あなたしか製作不可能なアーティファクト……ですよね?」


 さらに言葉を続ける。確かにアストラルアンカーは製造方法が一切分かっておらず国連に日本国からサンプルが届けられている。代表者は手にその白い杭を掲げ見せつける。


「我々はさらに調査を進めました。するとアストラルアンカーを打ち込まれたであろう重要スポットの場所には意味があったのです――スクリーンをどうぞ」


 職員に指示を出し世界地図が大きなスクリーンに表示される。次々にアンカーを打ち込まれた予測スポットにピンが刺されていくと、とある術式陣へと変わっていった。


 そして、この陣が一度だけ世界に公表された時があった。


 ――『儀式術式陣』


 光の巨人がこの世に降臨した時に発見されたものだ。それを世界規模で再現し、各国で暗躍している魔神教のトップとはすなわち――


「くくくッ、ははははははははッ!! 見事! いやはや、国の――世界の代表とは頭が良くないと務まらないものなのかのぉ? かかかかかかッ!!」


 その邪悪な笑いは闘神なのか慈愛なのか判断できない。人間を虫けらのように見下すような傲慢な瞳だ。


「お認めになるのですね。――いったい何を成そうとしているのですか!? 数万、数十万人もの人間を虐殺してまで……神にでもなるおつもりかッ!?」


「神――神とな? 貴様らは何を言っておる。我はすでに神と言う存在。――人間というウジ虫共を浄化する為のなぁッ!!」


 エルフの身体が全身銀色に変わった。それは粘性のを伴い会場内へ広がっていく。こんな生物、慈愛でも、闘神でも、えるしぃちゃんでもない――


『我が名は“アラメス”ッ!! 世界を創世し、全ての人類の祖でもある。この世界には我が起源ではない下級種族が蔓延る汚染された大地だッ! ――この世のすべてをリセットするしかないではないか』


 手を掲げると世界中の儀式術式陣が発動する。


 この世に存在する神性存在はアラメスと言う超越存在に取り込まれていった。


 膨大な量の“銀”が溢れ出し会議場は飲み込まれた。そこには人間の身体も魂さえも存在する事はできない。







 現世とは次元の違うどこかの場所。そこには三人のエルフが浮かび上がっていた。


 目がツリ上がっている闘神が慈愛に対して愚痴をこぼす。この状況の原因は慈愛の女神であるエルシィにあると判明しているからだ。


「なぁ慈愛の――これ、我らやってしまったんじゃないかの」


「…………アラメスの欠片が身体の中にあるだなんて分かるわけないじゃないッ!! まさか、世界樹に渡された力ある欠片が創造神の残滓だったなんて……」

 

 かつて精霊を使役した際に世界樹を調査する事があった。ほい、これプレゼントだよ!(特大の爆弾『アラメスの欠片』)と渡されたものをホイホイ受け取ってしまっていたのだ。


 幼い頃に身体に適応しあらゆる能力が上昇しとっても喜んだ記憶がある。エルシィは冒険の末に手に入れたクエスト報酬だッ!!(ワクワク)と言っていた。

 

 二人の女神が口喧嘩をする様子をボケッとえるしぃちゃんが眺めていた。膨大な神性の流入によってこの次元空間で完全に分化してしまったのだ。


 慈愛の女神、殺戮の闘神、そして中庸の女神えるしぃ。


 新たに生まれた神の位についたえるしぃちゃんの身体は両性となり生えてきてしまっていた。そのことに『はわわわ! ハーレム展開きちゃう? わたしの時代がキター!!』と呑気にも喜んでいた。


 背も少しだけ伸びており、怪しくも美しい妙な色気が出ていた。


「アラメスと言う名の神は異世界の創造を行うシステムのような存在です」


 慈愛が手を振ると暗い空間にプログラムの様な記号が滝のように流れて行く。


「アレは残りカスとしか言えない力しか持っていなかった――ハズ。――私はこの世界の神性存在を駆逐して取り込むなど、物騒な事を考えていませんでした」


 自信がなさそうに言う慈愛。現実にはアラメスに身体を乗っ取られ自己増殖を繰り返している。


「我らが操られ世界の浄化の片棒を担がされていた。ということかの?」


「ええ、間違いなく。当初は『えるしぃ』つまり私達のリハビリのつもりだったはずです」


 話し合っている二人に視線を向けられる中庸の女神(えるしぃちゃん)。サボって寝転がっていることに気付かれると、慈愛と闘神の女神たちの額に血管が浮かび上がる。


「あなたが引きこもりのクソ雑魚コミュ障なのがいけないんですよ!! わかってますか!!」


「こればかりは我も擁護はできぬな」


 だらしないえるしぃちゃんは二人から責め立てられてしまう。すごいとばっちりだ。原因は慈愛の陰謀に加担した闘神にもあるのだが。


「ふぇ!? ――ってどっちもわたしじゃん! 引きこもりの原因はあんたたちもじゃん!?」


 えるしぃの答えに気まずそうに眼を逸らす女神共。やはり同じ人物なのか人の責任にする癖は似ているようだ。


 慈愛はコホンと咳ばらいをすると話を戻した。


「アラメスの力の源はかつて地球の神であった存在の残骸。――神性の力とは言いますがゴミクズを搔き集めて作ったハリボテでしかありません」


「そのゴミクズに身体の制御を乗っ取られておるから始末におえんの」


 その通りである。


 乗っ取られた事を慈愛の女神のプライドが許せないようだ。


「…………今も制御権システムを奪おうと術式を組んでいるのですが、さすがは創造神の残滓。――プロテクトが固いのです」


「難しい事はわからぬ。――つまり我らはどうすればいいのじゃ?」


 再び手を振ると空間投影された映像には【えるしぃちゃんねる】と書かれている。


「信仰とは私達の力を増幅させ存在を固定するもの。存在力を増幅し内側から三人で力を合わせれば――」


「アラメスを破壊し制御権を奪える……か」


 何処からか取り出したポテチの袋を開けてぼりぼりと貪り食うえるしぃちゃん。難しい事は二人がやってくれると謎の信頼を抱いている。さすが中庸の女神。


「アラメスが集めた神性を吸収し利用する準備はできています。どうにかして信仰を集めなさい。――あなたの出番よ。中庸の女神えるしぃ」


「――ん? わたし? 難しい事は分かんないよ?」


「表のシナリオは私が考えるわ――世界を破壊する創造神を間違って連れてきちゃいました、世界が崩壊するので協力してください――と言われて人間達は協力するの? だから、異次元の侵略者を私達三女神が押さえている事にするわ。会議場での発言も内部でアラメスと戦ってるとでも言っておけばいいわ。――一応事実ですから嘘は言っていません」


「う~ん。良く分かんない。でもどうやって?」


 だるそうに返事をするとうまいスティックを頬張り出した。

 

「いつも、あなたが楽しそうにやっている事よ!」


 闘神は『我にやれることはないようじゃのぅ』とソファーを出して寝始めてしまった。


 慈愛はえるしぃちゃんを撮影する為の術式の準備を始めた。次々に現れる複雑な術式で空間が埋め尽くされていく。しかし、術式を展開していく慈愛の女神の額には大量の汗が流れ始める。


「これ、は――きついわね。でも、暗躍していた私への罰ね……彼女達《信仰者》には迷惑を掛けたわ……」


 世界中で工作をしていた蜉蝣カゲロウや退魔機関の人間達。まさか世界の浄化に力を貸していたとは想像にも及ばなかっただろう。


 この現状を人類に伝え信仰を向けさせるには何かが足りていない。次元が異なる場所にいるために縁のようなものが存在していないのだ。


「神性力が流れ込んできた副次効果で精神が完全に独立できたのは不幸中の幸いね。存在力が増した上に個体として確立された。――けれど、現世で存在するには肉体が必要ね……」


 物凄い勢いで展開していく術式。魔術神としての側面でも崇められたのは伊達じゃない。女神にもできない運命による“切っ掛け”を見出すために全力を出すだけだ。


 もし信仰を集められなければ七日と絶たずに地球の人類が滅亡することになる。







「国際連合会議場が壊滅ッ!? えるしぃちゃんは無事なんか!?」


 国際会議場の中継を見ていた軍神と雷蔵がプロダクションの社員に説明をする。現在、仮称災害個体“銀”という粘性の物質が大地や建物を飲み込んで増殖していっている、と。そして、その発生源が会場内で質疑応答を行っていたえるしぃちゃん本人でであることも。


「なにかの間違いやろ!? 人類の浄化なんてえるしぃちゃんが考えるわけないやん!」


 軍神も雷蔵も沈黙する。裏で何かを行っている所を何度も確認しており、その傾向性を垣間見ていたからだ。


 蓮ちゃんが涙を流しがら軍神を問い詰めるも首を振るばかりで話が進まない。


 その時、鈴ちゃんが水晶のようなものを取り出すとテーブルの上に置いた。何かしらの呪文を唱えると空間にキーボードの様なパネルが出力された。


「これは『理沙我知宝珠りすな・がち・ほうじゅ』わたしの宝貝よ。効果は対象の五感や情報の完全探知、そしてあらゆる媒体への情報投影」


 重大な局面にエセ言葉を使っていない鈴ちゃん。表情には普段の余裕がない。淡々と何かを打ち込みながら社員一同に説明をしている。状況を察するに何かを探っているようだ。


「――つまりどういう事や? えるしぃちゃんの事に関わるんかいな? ん――対象の五感や情報の探知……? それ、完全にストーカーやないかッ!?」


 都合の悪い事を突っ込まれ目を逸らす鈴ちゃん。コホンと咳ばらいをして説明を始めた。


 下っ端の雷蔵に大型モニターを用意させ宝貝を接続する。キーボードでの操作を終了させると鮮明ではないもののモニターに映像が映し出された。


 大型モニターには慈愛と闘神が映し出されていた。


「なっ!? えるしぃちゃんが二人? いや、視覚をジャックしているのなら三人になるんかいな?」


 視覚を同調させえるしぃちゃんの場所の特定を行っている。普段では見られない女神たちに動揺するも冷静に作業を進める鈴ちゃん。


「ちょっと待ってっ! ――取得情報を切り替えて三人が映るようにするわ」


 あらゆるえるしぃちゃんに関する情報を取得できる宝貝。視覚情報から空間の情報へ選択すると映像が切り替わった。


 母性を体現するかのような優しさの中に凛とした雰囲気の女神が慈愛。ソファーで寝転がっている荒々しい雰囲気の女神が闘神。そして残る一人の呑気にお菓子を頬張っている女神が――


「えるしぃちゃん……無事やったんか……。それにしても相変わらず吞気やなぁ」


 慈愛の女神が見られている事に気付くと、鈴ちゃん盗撮している場所へ視線を向けた。表情は喜びに溢れ両手をパチリと合わせた。


『これは…………よくやったわ鈴っ! ――あなたはこの世界を救う鍵ね』


 ようやく女神達と連絡が取れるようになった事で様々な情報を得ることに成功する。


 国際会議場で起きた事の説明を始めた。


 各国の代表者とのやり取り。アラメスの目覚め。儀式術式陣の発動。創造神の目的である地球人類の滅亡。猶予期間である七日までにしなければならない事を伝える。


 その地球規模というスケールの大きさに社員一同は頭を抱えた。特に軍神や雷蔵はどうやってこれを日本政府や他国へ伝えればいいのかわからず胃がキリキリと痛んでいた。


「あかん。アラメスっちゅうラスボスがヤバいから人類から信仰を集めて内側からぶっ殺そうぜ作戦? 胃がキリキリしてきたわ……」


 説明を粗方聞き終わるとどうやって信仰を集めるかの会議が行われる。慈愛の女神は作戦を詰める為に会議に参加しているが、中庸の女神と闘神はやることが無くのんびりと寛いでいた。


 女神が三人存在している事に女傑三人は腹の中でこう考えてた。


 三人もえるしぃちゃんがいるのなら『ウチが』『私が』『わたしが』正妻になれるチャンスではないか? と。


 世の女性はどんな状況になってもしたたかなのだろう。そりゃあ男性は尻に敷かれるはずである。

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[一言] ひっひっふぅーひっひっふぅーー…よし、すこしは落ち着いたw
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