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イベントは握手会

「ズンドコズンドコ~! ――こんえるしぃ~。祝・登録者数一億……え~と、何人だっけ? そうそう、一億二千万人突破ッ!! したらしいよ? 昨日の前夜祭で十数倍に増えちゃったんだけど……にへっ」


 承認欲求がもりもり満たされた事で自然と素敵な笑顔を浮かべるえるしぃちゃん、その笑顔でハートブレイクした一般視聴者がリスナーとなってしまい、純粋なファンの人数がかなり増えてしまったようだ。


 ――ずるる、ずぞぞぞ。


:[この子があの“えるしぃちゃん”か、可愛い子じゃないか]

:海外ニキ(兄貴)ネキ(姉貴)が増えたな

:[ニュースで見たよ! 光の巨人だって?]

:[神よ……。とうとう降臨されたのですね]

:うわ、コメントの流れが凄いや

:ズンドコズンドコ【500円】


 海外勢のリスナーも増えてはいるが前夜祭を楽しんだリスナーからの投げ銭の金額が凄い。すでに数百万を超えているがこの投げ銭はエル・アラメスプロダクションのイベント予算へ回される予定だ。


 この配信のコメント欄は事務所の社員である鈴ちゃんやウィザー丼が逐一モニターしており怪しい人物はすぐさまリストアップされて行っている。


「光の巨人? ああ、あれはえるしぃちゃんのVチューバーのアバターだよ? ヴぁ~チャルなわけよ、ヴぁ~ちゃる。――いいね?」


 ――ごくっごくっ。


 とっても苦しい言い訳に騙される人々は……少しはいた。一応Vチューバーという設定は未だに生きているらしい。だって長いお耳が生えているのだから。だけどえるしぃちゃんは最近考えていた。――妖怪もいるんだしVチューバーである必要あったかなぁ、と。


:さっきから美味しそうに食べてるものは?

:露骨な案件やなwww

:でも、めっちゃ美味そう

:[ヌードルと言う奴か]

:美味そう

:さり気なくねぇな


 会話をしながら食事ではなく、食事をしながら会話をしているえるしぃちゃん。配信より食欲を優先する食べ盛り育ち盛りのちんまいエルフ。


 案件を初期に依頼したため月清食品の案件金額はかなり低めに抑えられている。


 光の巨人事件後の初の配信であった為、現在の同時視聴者数が数千万単位であり関係者は相当喜んでいるらしい。


 今えるしぃちゃんが食べているカップ麺は生麵タイプであり麺の強いコシと深いコクのある豚骨スープが特徴的だ。


「あ゛あ゛……うめぇッ!! この、豚骨の癖のある香りと生麺のコシが絶妙! 実はお察しの通り案件なんだけど金銭よりも二年分ぐらい色んな種類の味を事務所に送って欲しい……本当に美味しいんだってコレ」


 ゴクッゴクッ、と全てのスープを飲み干し満足そうな笑顔のえるしぃちゃん、このまま横になってアザラシの様に寝そうな勢いだ。


 実際、エル・アラメスへ数年間無料で送ってもいいぐらいの費用対効果は得られており、月清食品から事務所に大量のサンプルが送られてくることになる。


「あ、でも本当に美味しく無かったらわたし微妙な顔をしそうだから案件はバクチと思ってくれたら……嬉しいかなぁ……。シュワシュワの麦の飲み物なら無制限で受けると思うよ――マジで」


 見た目が幼い美少女ハイエルフがカシュッと、缶のプルタブを開け腰に手を当てると一気に飲み干した。飲み終えた時の表情は本当に幸せそうで画面の向こうのリスナーもアルコール飲料を飲み始めた。


 その姿にユウヒビール企業が追加の案件を事務所へ速攻で依頼してくることになる。


「ああ、幸せ……。皆も美味しいカップ麺に喉越しガツンの飲み物で幸せになろう! あ、これも案件ね? 十年分くらい欲しいです、はい」


 瞳がとってもキラキラしており、その部分だけを見れば清純な少女なのだが飲食物のセレクトがおっさん臭い。


:これは月清食品さんもニッコリ

:美味そう

:ユウヒビールがファインプレー

:本当に幸せそうな顔するもんな

:案件向けエルフちゃん

:しょうゆ味も美味しいですぞ

:十年分www強欲エルフwww


「昨日は前夜祭を楽しんでくれてありがとぅ~。みんなもズンドコ楽しんでくれたかなぁ~?」


 日本国内に在住の人間やもれなく動植物たちもズンドコ踊らせた狂気の祭典。多幸感を得られ中毒性のあるフレーズは仕事中や学校でも口ずさむ人が続出。俗に言う“バズッた”状態である。


:職場がズンドコ汚染されてる……

:脳内リピートするフレーズがヤバイ

:ミーム汚染ですね

:この国はズンドコ支配された

:ズンドコ帝国の始まりであった


 そして、えるしぃちゃんが聞かれたくない事があり『本番である今日のイベントは?』のコメントが現れないことを祈る。だが――


:前夜祭という事は今日のイベントは凄いんだろうな~


 うっかり新参者のリスナーがそのことに触れてしまう。古参のリスナーは気を使って言わなかったのにだ。


:あ、バカッ! みんな言わなかったのに

:えるしぃちゃん凍ってるやん

:あーあー、多分前夜祭ってワードをなんとなく使ったに決まっているのに……

:えるしぃちゃん……

:昨日の時からみんな空気読んでるのに

:オウンゴールですね


 笑顔のまま固まり冷や汗をダラダラ搔き始めるうっかりエルフ。リスナーの言う通り何も考えていなかったのだ。瞳を潤ませながらデコをテーブルに打ち付けた。


「びぇぇぇぇええぇぇぇぇんっ!! ちょっと、前夜祭ってパワーワードがカッコ良かったんやぁ! 使いたかったんや~。ひっぐえっぐ……」


 撮影を行っているスタジオ内でも『やっぱり……』という居た堪れない空気が流れている。リスナー達も予想していたのか暖かいコメントが流れている。


:予想通りッ!

:ニチャリ……

:計画通りだぜッ!

:もう、小規模でファン限定イベント行ったら?

:別にビックリしなくても俺達はついて行くぜ

:うんうん、世界とか日本とかどうでもいいじゃん

:僕は、自然の笑顔のえるしぃちゃんが好きだよ


「――あったかいなぁ……。そっかぁ。ビックリさせなくていいんだ……」


 前夜祭で日本の人々を『あっ!』と驚かせたえるしぃちゃんは上がったハードルにプレッシャーを感じションボリしていたのだ。最初から『えるしぃちゃんねる』着いて来てくれているリスナー達の固定ネームは覚えている。暖かいコメントはもれなく彼らからのコメントが大多数を占めている。


 えるしぃちゃんのアホ可愛さやそのままの魅力に引かれて着いて来た根強いファン達であったのだ。


「嬉しいよぉ、リスナーたちぃ……。――よしっ。ファン会員限定で握手会とサイン会する!! ――ゲロったらごめんにぇ」


 その発言を聞いた瞬間社員は都内の空いているイベント会場を速攻で押さえに走る。とんでもねぇ事を起こされるより胃の負担が少ないので大歓迎のようだ。


 それと同時にコミュ障クソ雑魚エルフの身体の負担が懸念される。すでに、青い顔をしながら震えておりめっちゃピンチであった。そんな自分を追い込んで行くスタイルはうっかりエルフらしいとも思われている。


:無茶しやがて……

:すでにリバース寸前

:見られても平気なのに接するのは苦手なのね……

:涙目可愛い

:骨は拾ってやるよ


「突発での開催だから会場にこれない人たちにも直筆サインと特別なグッズを送るね? ――お、会場が決定したみたい。開催時間は夕方以降になるからみんな来てね!!」


 蓮ちゃんがカンペを表示して開催する為の会場と開催時刻を伝えて来る。そのイベント会場に来場できるファンが少ない事を懸念して二日間のイベントにしたようだ。


 もちろん会場を当日押さえる事など普通はできない。雷蔵が前日の件で政府組織にゴリ押し、コネをフル活用している。


 えるしぃちゃんの決定したファン感謝祭イベントは決定したものの、重要な問題が解決していない。


「今日は配信時間が短いけどイベント会場で会おうねぇ~! ば~いび~!」


 いつもよりエンディングの挨拶が異常に短い。リスナーも不穏な空気を感じているようだ。


:嫌な予感が……

:焦ってるな

:早く映像切ってぇッ!

:もう喉から出かかっとるやん

 

 素早くウィザー丼がカメラの映像をシャットアウトしエンディング映像を流し始め、スタジオにいる社員は空気を呼んでササッと退室していく。

 

 その異変をすでに察知していた蓮ちゃんはダッシュでエチケット袋をえるしぃちゃんに渡して体で隠した。――次の瞬間。


「ゲ※※※※※※ッ!! ――オロ※※※※※※…………ぴえん」


 すでにリバース直前だったえるしぃちゃんは限界を超え――やっちまった。


 配信中にブチ撒けなかったのはよく頑張ったと連ちゃんは励ますもシクシク泣き始めてしまう。これでサイン会など行えるのかと心配されるも、えるしぃちゃんには対策があるとの事。


 口元をパパッと浄化してスポーツドリンクをゆっくり飲んで行く。ソファーに項垂れながら一息ついた。


「なんか対策あるん? めっちゃ不安なんやけど……握手辞めてサインだけにするか? それなら距離開けれるしいけるやろ?」


「……握手会やる。リスナーが応援してくれたんだもん。わたしも頑張る」


「でも、そんなんしんどそうやったらリスナーも心配させるんやないの?」


「大丈夫……ヴァルキリーヘルムを被って人と会話をしなければ……ギリ……。酔い止めも飲んで……」


 対処療法な対策だけで魔法的なものは使用しないらしい。最悪、慈愛と闘神にお願いをするらしい。――限界までは頑張るらしいが。


「ほなうちらはイベント会場の設営に忙しゅうなるからえるしぃちゃんも一緒に会場に移動するで」


「ぅん……。いっつも迷惑かけてごめんね……?」


「何言うとるん。えるしぃちゃんを守ってサポートするんがうちらの仕事や。そうやなくてもえるしぃちゃんの事は大好きやで?」


 その言葉に感動したのか。きゅっ、と蓮ちゃんの腰元へ抱き着いた。えるしぃちゃんの小さな頭を撫で始める蓮ちゃんの顔はとっても優しい顔をしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ズンドコ狂気の祭典ありがとう!! ズンドコ汚染は、私もです。耳から離れないーと思ったら 狂気の祭典(巨人)!とまたゲロ!ヒロインなのに笑
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