歓迎会だよ?
オフホワイトのデスクに、一緒に購入されたパステルピンクのゲーミングチェア。デスクの上には北欧の女神ヴァルキュリアをモチーフにしたヘルムが置かれている。
えるしぃちゃんが知らない人とコミュニケーションをとるために錬金術で新たに製作された一品である。可動式バイザーには平行にスリットが数本入っており、耳元にはふわふわな羽根飾りが数本装飾されている。
可愛さを重視してカラーリングは淡いラメ入りメタルブルーで仕上げられており、クールな印象の中に煌びやかさを感じさせる。
ゲーミングチェアを小刻みに揺らしながら、新品のデスクをスリスリ撫でて喜んでいる駄エルフがいた。
季節が変わり、コートが必要となった時期にようやく『エル・アラメス』プロダクションが開設された。
ちなみに『事務所』を『プロダクション』へ言い換えているのは、なんかその方がカッコいいからとの事。
開放感を感じさせるオープンタイプの室内中央には、ふかふかのソファーに観葉植物が随所に散りばめられている。
撮影スタジオも併設されており、自由度が高く、働く社員達の希望に沿って家具や機材の配置を行っている。
今日は、社長としての初出勤日であり今後の方針を決めるために社員達が会議を行っている。【えるしぃちゃんねる】をサポートする事がメインではあるが、ファンクラブ会員への特典制作や、グッズ販売、配信内容の企画なども行っていく。
エル・アラメスに所属しているタレントはえるしぃちゃんときららの二人だけであるが、今後の方針次第では一般人からタレントの雇用も検討されている。
えるしぃちゃんが好んで飲食している、麦の飲み物やお菓子、カップ麺などの案件への問い合わせが殺到している。
もうすぐ【えるしぃちゃんねる】の登録者数が一千万人を突破するので、ギャランティの設定なども会議で決定される予定だ。
総合的なタレントへの運用も行うが、えるしぃちゃんが製作する不思議なグッズ関係も、退魔士協会や対魔機関などの特殊な業界へ発送するルートも担っている。
不思議グッズには国家防衛特措法が適応されるので税金が掛けられていない。チラシの裏に書き込んで製作された一枚三百円の護符。えるしぃちゃんが頑張れば頑張るほどプロダクションの収益になる。
超人的な身体能力でパパッと製作する事によって一日で数百万稼ぎ出し、社員達の福利厚生や手厚いサポートが約束されている。しかし、天下りや不正を一切認めておらず。えるしぃちゃんの見通す瞳によって全て処断される。
簡単に言えば“えるしぃちゃんの気分次第”という事だ。
入社式という名の歓迎会には十一人ものメンバーが集まっていた。各自、好き勝手に飲み食いを始めており、とってもフリーダムな空間となっている。
アネゴ系黒髪ショートカット美女【ヴァイスリッター】氏、改め、白金 蓮。肩書は副社長と秘書を兼任している。背が高く、中途半端な関西弁とプリケツがチャームポイントでおっぱいがでかい。結構ピュア。
「ようやくここまでこれたんやなぁ~。えるしぃちゃん好みの、食い物の案件取って来とるから楽しみにしとってなぁ~!」
そう言う彼女のデニムのパンツからケツがはみ出している。えるしぃちゃんの視線を釘付けにしているようだ。
ロリ巨乳で有名なコスプレイヤー【きらら】こと、星きらら。タレントとして所属しており自称・えるしぃちゃんのお世話係。所属する社員の中では一番おっぱいがでかい。たぶん腹グロで打算的。髪型はセミロング。
「この事務所には簡易キッチンがありますから“私が”美味しいお菓子や料理を作りますね? ――家庭的は女性は魅力的だと思いませんか? ねぇ?」
視線が蓮ちゃんのケツに向いていることに嫉妬して、家庭的な女アピールを始めたきららちゃん。蓮ちゃんとの間には火花が散っている。
変態チャイナ娘【鈴】こと王・鈴。世論操作、情報収集担当。えるしぃちゃんに関わるあらゆる情報を操作、改竄、探知ができる。幅広い仙術の知識と高い戦闘能力を誇る。口元の黒子が色っぽく、おっぱいがでかい。あと、ふたなり。性自認は女性。髪型は腰までのロングヘア。チャイナ服大好き。
「余裕のない女ほど醜い物はないアルネ。わたしとえるしぃちゃんは心の底で繋がってるネ。勝者の余裕とはこの事アル」
鉄扇で口元を隠しながら何度も足を組み替える。えるしぃちゃんに魅惑のデルタゾーンを見せつけている。その魅力に駄エルフのイケない扉が開きそうになる。
剣術爺(石塚 厳)警備担当、細身ながらも纏う剣気は凄まじい、日本でも有数の実力者。愛用する仕込み刀の範囲内に入る事は死を意味する。
「道場は倅に任せたから警備全般は俺に任せときなっ! ――たまには社長の嬢ちゃんに死合って欲しいんだが、周りの嬢ちゃんたちのガードが固くてしょうがねぇや」
「警備担当が社長と死合ってどうすんねんッ! アホゥ爺がッ!!」
副社長である蓮ちゃんに良く怒られる事が定番になりつつある。杖に偽装した仕込み刀の圏内に入らないように、えるしぃちゃんは気を付けている。
呪術爺(逢魔 忠臣)裏の世界へ不思議アイテムの流通や販売を担当。裏社会の知識量は随一。日本各地の封印術式にも関わっている。白金蓮に対して負い目を感じている。呪力を失っており、えるしぃちゃんに製作してもらったアイテムを使用し術式の負担を代用しているらしい。ガリガリのミイラ爺。
「ずずっ……。ほぅ……。爺婆共も元気になったねぇ」
茶を啜りながら騒がしい光景を眺める呪術爺さん。長年身体に蓄積された呪詛をえるしぃちゃんに払ってもらい、すっかり丸くなってしまっている。余生をこうして楽しく過ごすのも悪くないな、と思っているらしい。
忍者婆(閏 トキコ)潜入、攪乱、破壊活動など得意とするも現代ではあまり活用されずに朽ちる技術だと思っていたが。えるしぃちゃんの躍進により再び表舞台へ。とっても張り切っている。敵対組織は背後に注意せよ。隠しきれない外道の香りを漂わせている。
「娘さん達は若いねぇ。わたしももう少し若かったら混ざれたのにねぇ」
「婆さん無理すんじゃねぇぞ? そんな皺くちゃがまざ――カヒュ」
忍術婆に隙を付かれ頸動脈を閉められる剣術爺。昔からこういったやり取りを繰り返えしており、剣術爺の隙を付ける数少ない人物。
切り抜き爺・軍神・元防衛大臣(曾我部 武蔵)大戦時、若くして軍神と謳われ数々の戦場を渡り歩いた猛者。筋肉の鎧を纏った豪傑。その眼力は凄まじく、実力者と言えど怯ませる。えるしぃちゃんが最推しのただのオタ爺。
「僕もプロダクションの活動が楽しみだなぁ。えるしぃちゃんの活躍を間近で見れるなんて。退魔士協会にも布教しなきゃね」
全国退魔士協会に未だ強い影響力を残している。防衛省ともコネクションを持っており、裏社会の動向にアンテナを常に張っている。
動画編集や撮影などを得意としており、自ら編集作業員へ志願している。
ウィザー丼(大黒 旬)ツブヤイター経由で採用された。類まれなるハッカー能力を持ち、ホームページ作成やファン会員の情報管理、サーバー管理などのシステム関係全般を担っている。実は他国の軍事施設へのハッキングも容易であり、王鈴とは話が合う。見た目は優男だが、柔術が得意であり自衛程度なら可能。えるしぃちゃんのファンで彼女に救われた一人。顔には出さないが並々ならぬ忠誠心を秘めている。
「これがえるしぃ様が直接採ったクロマグロのお寿司……採用されてよかったなぁ」
えるしぃちゃんが潜って採ったクロマグロを歓迎会の為に特別に提供されている。システム関係でコキ使われている彼はもっと労われてもいい。
カメ子(鳶 美羽)カメラマン、スタイリスト、メイクアップアーティスト兼任。美術関係や撮影の総合職。とってもホワイトなエル・アラメスでは職種が兼任されるほど給料がどんどん増えて行きます。癖っ毛の天然パーマで、瓶底眼鏡をかけている。背も胸もちんまい。おどおどしているが、意外としたたか。給料が良すぎて呼吸が止まりそうになった。
「…………美味しい。はぁ、皆さん可愛いなぁ」
女傑三人衆に憧れを抱いており、その彼女達を自身がさらに綺麗にすることが出来ると自負している。引っ込み思案ではあるが腕は一級品。多くの企業関係に引っ張りだこであったが自らこの会社へ応募。即採用された。実は眼鏡をとると可愛い、かもしれない。
雷蔵(葉隠 雷蔵)元退魔士協会本部局長。なんか、色々な雑用係。ウィザー丼を上回るコキの使われ方をしている。対外交渉や、営業関係を担う。嫁と子供はとっても可愛い。愛妻家。局長であった為に交渉、戦闘、情報。なんでもござれ。その分、給料がとっても高いので現状には満足している。
実は、局長時代よりも高給取りになっており嫁に凄く喜ばれた。危険が少なくなった上に、娘ちゃんがえるしぃちゃんのファンであり。将来はプロダクションに入りたいと言い出しているのが最近の悩み。
「――平和だねぇ……。俺の仕事も誰かさんが増やさなければもっと平和なんだが」
「雷蔵くん? 何か言ったかい?」
「いえ。何も言っておりません!! じゃんじゃんバリバリ仕事がしたいです!」
余計なボヤキを軍神に聞かれてしまいツッコミが入る。頭が上がらない元上司と増えて行く仕事量に挟まれ、最近頭髪が薄くなってきている。
超能力者(山本 舞子)慈愛の女神が唯一引っ張って来た社員であり、俺っ子。高校中退であり特殊な能力者でもある。慈愛の女神に対して崇拝の感情を抱いており。命すら投げ出す覚悟を持っている。戦闘技術は拙いが潜在能力はかなり高い。
復讐心を抱いていたようだが現在は晴れている模様。未だに社員達とは馴染めていない。そのことに社員一同ゆっくりとコミュニケーションをとって行こうと思っている。社員の中では最年少であり、本人は気付いていないがとっても可愛がられている。
「……俺は。いや、なんでもない」
「ほれ、嬢ちゃん。大トロの握りだ、食っちまいな? 俺たちゃこれから仲間になるんだ。――一緒に頑張って行こうぜ?」
いつも、空気を読めない剣術爺が空気を呼んでいる。爺婆たちにとっては孫の様な年齢であり庇護対象でもある。良く、爺婆にお菓子をプレゼントされて困っているらしい。だが、お菓子を受け取る時の顔はまんざらでもなさそうだ。
女傑三人衆と爺婆四天王以外とも何とかコミュニケーションをとれるようにはなっている。自らのプロダクションの社員ともあり少しずつ歩み寄ったようだ。
ちなみに、コミュ障を解決する方法とは、用意されたトークデッキを使用しながら数センチずつ近寄っていくという荒業が使用された。もちろん、勤務時間として手当も出ており、実験的な方法ではあったが成功したようだ。
むしろ、そこまでしないと初対面の相手にはヨワヨワなエルフのコミュ障っぷりが社員一同の共通認識となった。
その、大社長であるえるしぃちゃんが人数分の何かをテーブルに置いた。
「入社おめでとう~! 今日、みんなに揃ってもらったの歓迎会もあるんだけど、渡したかったものがあるんだ。なるべく、普段使いできるように目立たない色と細工にしたんだけど……」
バングルを試しに蓮ちゃんが装着してみると、一瞬だけ膜の様なものが周囲に展開された。きららちゃんが触れようとするも手を素通りしてしまう。疑問の表情を浮かべるも、えるしぃちゃんがバングルの説明を始めた。
「身に着けているだけで常に清潔になり。自動障壁がメインだけど、サブには対魔、対衝撃、対害意、全環境適性、総合力上昇、発着信機能、任意の聖結界の展開。――あとなんだっけ? ああ、ビルから飛び降りてもふわりと浮かび上がるよ! 発着信機能と聖結界は触れて念じれば使えるよ?」
とっても聖遺物クラスのヤバイものが出てきた。
女傑は目を輝かさせるも。他の社員は顔を引き攣らせる者、尊敬の眼差しを向ける者と様々だ。
「一度装着すると個人認証されて他の人には使えないから気を付けてね? ――材料はとっても貴重なもので、わたしでも手に入れるのが困難な特級の神銀を使用しているから無くさないでね?」
神銀。神の名を冠するほどの貴重な金属を社員証代わりに渡す大社長。
社員一同さすがに受け取る手が震えている。あの、えるしぃちゃんが手に入れるのが困難な時点でかなりヤバい物である事が伺えた。
「あ、雷蔵。それ解析に回したらクビね? それだけは注意してね?」
ビクリッ! と、背を震わせる雷蔵。密かに考えていたことを見抜かれて気まずそうな顔をする。
「外れないように呪を掛ける事も出来るけど……。希望者居たりする?」
もれなく全員が希望した。さすがにうっかり無くしたくないのだろう。ひとりひとり装着したバングルへえるしぃちゃんが触れると何かしらの作業を行っていく。
手で触れながら呪文を唱えると、バングルが淡く光り作業が完了した。
TIPS
特級指定鉱物・神銀
・神話時代の内のいつかの時代、巨人が世の春を謳歌していた時代があった。しかし、何かしらの理由で滅亡。地に伏した種族の身体は、地上に堆積していく大地に埋もれ化石となった。巨人族には大きな体に極小量だけ特別な力場を発生させる機関が備わっており、発掘された化石の体積の数万分の一程の量が発見された。それがミスリルと呼ばれてからもさらに永い時が過ぎる。
・どこの時代か分からないがダンジョン生成機構が開発された超文明が存在した。その機構を使用する事により地下深くに眠る資源を抽出。ドロップアイテムへと変換する技術が確立された。そのことは古い文献に記されており墓守の一族の秘密となっている。
・エルシィ・エル・エーテリアが活躍していた時代。死の渓谷と呼ばれる地にて過去の偉大な遺産を発見。遺物がごく少量程発見された物質が神銀であった。
・調査の結果、地下数千メートル程の地層に神銀を発見。現在、発掘できる人物がエルシィ・エル・エーテリアのみとなっているので資源としての活用方法は断念された。




