試される大地(偽)
えるしぃちゃんは怒っていた。とってもとっても怒って――拗ねていた。
かの邪智暴虐たるリスナー共を懲らしめてやると。
こうなったらテュイッチを片手に旅に出てやんよ、と。
昔キャンプが流行った時に購入してホコリを被っていたでっかいリュックサックにパソコンやカップ麺を放り込みいざ出発。
――そうだ!! ピコンと閃いたえるしぃちゃん。
試される大地と言われる伝説の地へ行けばえるしぃちゃんのバトル技術が上がるのではないかと。
そうと決まれば善は急げと電車の屋根に飛び乗り都内の空港へ。(切符は購入しています)
お、たしか試される大地はあっちやから、あの飛行機の上に乗ればええやんけ!!(よくありません)
せや、結界張ればいつの間にか着くやろ。テュイッチでモンスターを厳選しつつ、いつの間にか寝てしまうえるしぃちゃん。(飛行機の上はとても危険です良い子は真似をしたら絶対ダメです!!)
むにゅむにゅ、と飛行機の上で目を覚ますと銃を構えた警察官に囲まれてしまっていたえるしぃちゃん。しかも、喋っている言語は日本語ではなさそうです。
「[ヘイ! お嬢ちゃん! 両手を上げる前にそのテュイッチを下に置きなッ!!]」
なんか、ちょっと、すっごい、蓮ちゃんを超えるダイナマイトセクシー女性警官が叫びながら指示を出している。銃口はえるしぃちゃんに向けられたままです。
「ふぇっ? 試される大地は?」
未だに自身は日本にいるつもりの様です。
飛行機の屋根にも雪が積もっており、辺り一面真っ白の銀景色。女性警官の話している言語が日本語ではない事から翻訳魔法を無意識に発動させます。
「は、はわぁっここは日本じゃない、の――ひぇっ」
人見知りが発動しました。これは大変なことになりそうですねぇ(にちゃり)
女性警官は銃を構えたままです。いくら少女であろうと怪しい人物なので構えを解くわけにはいきません。何せ、飛行機の上に乗って生存している人間なんてありえないからです。
運が悪い事に彼女はえるしぃちゃんの事を知りませんでした。
「なにを言ってるんだいお嬢ちゃん? ニホン? ああ、日本国ではないよ? ――ここは露国の首都さ」
どうやら銃は降ろしてくれなさそうです。高圧的ではなく丁寧な女性警官だったのですぐには沸点を超えないのですが――時間の問題です。
すると飛行機の上で警戒している女性警官に無線が入ってきます、警戒中なので銃口を向けたまま喧々諤々のやり取りをしているようです。
無線での通話が終わると溜息を吐きながら女性警官は銃を降ろし、ぎこちない笑顔をえるしぃちゃんに向けました。
「一体どんな手を使ったんだい……――いや、なんでもないよ? ようこそ露国へ――ッチ。……………柄に合わねえや。なんか“上”のお偉いさんがお嬢ちゃんを歓迎しろだってさ。――特別待遇でな」
ぎこちない笑顔がすぐに不機嫌そうな顔に変わり、忌々しそうに無線を睨みつけています。どうやら、上司とは折り合いが悪いようです。
不機嫌そうなのが上司への感情だと分かりホッとしたえるしぃちゃん、黙ったまま女性警官の後ろへトコトコついて行きます。
飛行機の上に近づけられた昇降用の特殊クレーンで地上に降り、警備室に向かって行きます。
「飛行機の上に何で乗っていたのかは知らないけどさ、さすがにパスポートは持っているだろう? 出しとくれ」
マズイ。
えるしぃちゃんの顔面から滝のような汗が流れ始めた。
未だに手の中には緊張のあまり握り締めたままのテュイッチがあり、対戦相手を待ったままです。
「……もしかしてないのかい!? ――あんたほどぶっ飛んだ少女を見た事ないよ……。頭が痛い……」
ダイナマイトセクシーなパツキン美女相手に、緊張のあまり会話ができないのはモテ道を究めるえるしぃちゃんとしては看過できません。――そうだ!
異空庫に手を突っ込み、ずももも、と取り出したるは、ちっちゃい手持ちのホワイトボード。
試される大地の特集動画で変な影響を受け『ヒッチハイクってなんかカッコいいよね?』と、できもしない妄想を抱きながら売店で購入しておいたブツです。
空間にできた異次元に手を突っ込む少女に、パツキン美女は思わず拳銃に手を伸ばしそうになりましたがなんとか堪えます。
『わたしはこれで会話ができる。です?』
ちょっとえるしぃちゃんの書く露国の言語は拙いのですが、一応伝わっている様子。
見た目だけで言えばハイなエルフである、えるしぃちゃんの容姿は露国人に近い様子なのですが。
『わたしは思い出したら飛行機の上でテュイッチしながら、冬眠してたら露国にいました。わたしは驚きました。わたしはとっても驚愕です。わたしは冬眠している。怪物と戦闘の修行できますか?』(ネット翻訳風味)
(う~ん、飛行機の上でテュイッチで遊んでたらいつの間にか寝ちゃったんだよね……そしたら露国って言われて、めっちゃびっくりしたなぁ。夢の中でモンスターバトルの修行をしてたんだけど。ここにバトルできる人いないのかなぁ?)
本当に通じているのでしょうか? エルフという種族は学習能力が高いので、言語に慣れれば他国の人間ともきっと通じ合えるはずです。
「――あんたは熊かッ!? 怪物との戦闘って……いったいどんな熊と戦うんだい!?」
きっと露国の荒熊は冬眠するのでしょう。
不幸なことにこの女性は世界的に有名な『ボケッとモンスター』を知りません。モンスターバトルが“怪物と戦闘”と、変な風に変換されたのでしょう。
「はぁ……取り敢えずうちの上司がお嬢ちゃんを迎えに来るからちょいと待っててな? なにか飲みたいものはあるかい?」
飲み物と聞き『女性にはスマートに飲み物を用意しなければならない。それがデキル男と言うものさ(ダンディズム三月号)』と、モテ男バイブルに書いてあったことを思い出し、異空庫からむんず、とシュワシュワな麦の缶を取り出して彼女に渡す。
さらに、気を利かせたえるしぃちゃんはプルタブも開封しており、泡がシュワワと出てきています。
自らも飲みなれた缶を握りしめ開封すると、ニコニコと笑顔で女性に向けて掲げています。
「――飲め、と? 確かに日本語っぽい表記があるけど炭酸系の飲み物かねぇ……念のためお嬢ちゃんが持ってるものと交換して飲ませてもらうね」
危機意識の高い警察官はそもそも飲まないのですが、とびっきりのハイエルフスマイルを向けられた女性は根負けしてしまいました。
『祝福!!』
「乾杯だよ」
やはり噛み合っていませんね。
ゴッキュゴッキュと、二人は喉越しのよい麦の飲み物を味わいます。酒精は弱いものの意外と美味い事に気付いた女性は一気に飲み干してしまいました。
日本の飲食物は世界一なのです(えるしぃ調べ)
すかさずお代わりの缶をドンドコ出してるうちに、警備室は酒精の香りで漂ってしまいました。
しばらく時間が経ち警備室に軍人と思われる人間が複数人はいってきました。
「ここにアレクサンドラ君と国家最重要秘匿人物がいると聞いてい――」
部屋に入ると女二人が酒精の漂う空き缶を床に散乱させています。軍人であるお偉いさんはいったいどうするのか!?(怒ります)
「――アレクサンドラ君……君の事は上司であるグリゴリ君から、糞ったれに小生意気な女だが優秀だと聞いていたのだが……違ったのかね?」
女性の名前はアレクサンドラちゃん(二十八歳)。婚期を逃し始めてちょっと焦っている背の高いダイナマイトセクシーパツキン美女警察官。
今、直近の危機である上司の上司をどうやり込めようか顔を青ざめながら模索しています。
するとそこに険悪な雰囲気を感じ取ったえるしぃちゃんがホワイトボードに書き殴った文字を見せた。
『わたしはスペシャル↑! 彼女もスペシャル↑! わたしの側に一生↓↑一緒に↓↑居るべき伴侶↑! イェア↑↑!! フォオオオォォ↑↑!!』(ラッパーえるしぃ風味)
(わたしは特別待遇と聞いでるんだけどぉ! 彼女はいい子なの! 彼女と一緒じゃないと嫌だなぁ……怒らないでくれないかなぁ?)
彼女の困難に思い出したことがある『女性は男にとって守らなきゃならない時がある。それは一生だ。常に前に立ち背中で語るんだぞ! いいな?(ダンディズム五月号)』と、書いてあった気がする!! えるしぃちゃんは必死に彼女を庇います。アレクサンドラちゃんの背中に引っ付きながらですが。
「む、そうか。まぁ、友好を深めていたのならば良い。アレクサンドラ君、君の指揮権はグリゴリ君から受け取っている。そこのエルシィなる子供のお守を命令しよう。もちろん、特別手当は出そう。――ついてこい」
どうやらアレクサンドラちゃんの危機は脱したようです、えるしぃちゃんに庇われた事に苦笑いの彼女なのですが、どうやらえるしぃちゃんは彼女の好感度を結構稼いだようです。
しかし、えるしぃちゃんの名前が呼ばれた事からお偉いさん達はえるしぃちゃんの情報を握っているようです。(えるしぃちゃんねる調べ)
「ぷっ、ははははっ、面白いお嬢ちゃんだね――それなら伴侶のエスコートは私がしないとね。ほら、手を繋いであげるから――おいで」
――テュンク。
おっとこ前なパツキン美女の笑顔は超イケメンなようです。
えるしぃちゃんは変な扉を開きそうになるも、ホイホイついて行ってしまいます。




