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己の正義を成せ

カタ、カタカタカタ、ターンッ!


室内にキーボードの打刻音が響く。


複数あるモニターには最近話題沸騰中のえるしぃちゃんの情報が映し出されている。


【えるしぃちゃんねる登録者数七百万人突破!!】

【日本政府が公式見解・全国退魔士協会が公的組織へ】

【大妖怪は存在した!? 裏で守られている日本の平和】

【鬼払家の分家が謝罪会見・生贄の儀式的呪術は存在した】

【えるしぃちゃんイチオシ駅弁特集・筆者の最推しはいくらとろサーモン弁当!!】

【神聖アクデゥキレウス正教の教皇が正式に対魔機関の存在を肯定】

【ユーロ圏に舞い降りた女神はえるしぃちゃんが濃厚? 信者が証言する】

【米国の軍に復帰したハーケン大佐が語る女神の奇跡とは~再生した右腕~】

【話題沸騰・冬コミに女神は降臨するのか!?】

【個人事務所設立? 手続き申請との新情報】


 部屋の主である女性は、高度な呪的プログラムを組み上げネットの海を漂う情報を大量に収集したり操作することを得意としている。

 

 偽・仙術。


 人の身のまま仙人化を目指す集団が編み出した秘術の総称だ。しかし未だに仙人に至れたものは存在せず。その事実を戒めに仙術の頭文字に“偽”の文字を使用しているのだ。  

 

 だが、若手の仙人候補である道士たちは、“偽”を頭文字に付けることは老人の血迷った世迷言でしかないと強烈に否定。


 若人たちは『我らこそは本物の仙人なり』と、ニュージェネレーションムーブをぶちかましてる。


 老人達からすればイキったジャリボーイ・アンド・ガールであり、縁側から孫を見守るような目で見ているらしい。仙人候補であった老人達の謙虚で穏やかな心こそが仙人足る資格を持っているのは皮肉なものである。


 部屋の主である女性もニュージェネの若手であり、個人専用の宝貝パオペエを発現させ今もっとも仙人に近い道士だと期待されている。


 宝貝とは、自身の気をなんやかんやと具現化したすっごい道具なのである。


 その性質は発現させた本人の気質で大きく左右され、発現後も性質が変化したりもする。そしてこの女性が発現させた効果と言えば――


「ふふふ、ふひひ、今日もえるしぃちゃんとっても可愛いアル。今日のパンツの色は……ふひっ――グレーあるネ。おパンティを履くのが恥ずかしくて、ボクサーパンツを履くなんて……ふひっ」


 特定の人物、物質、概念、を地の果てにいようと大気圏外に存在しようとも、執着心が続く限り視覚、聴覚、味覚などの五感を共感し、個人情報皆無にする恐ろしいほど強力な宝貝であったのだ。


 このストーカー御用達の宝貝の名前は≪理沙我知宝珠りすな・がち・ほうじゅ≫あらゆる媒体に情報の入出力を可能としており、思考制御可能と言うSF世界に登場しそうなアイテムだ。


 デメリットとしては執着心を失ってしまえば宝貝が砕け散り使用不能となる。さらに特定の相手を決めてしまえば変更不可という、ある意味でストーカー以外の目的では全く使えないものとなってしまっている。

 

 だが、その特定の対象を世界の重要人物である、えるしぃちゃんに定めていた事だけはこの女性のファインプレーであった。


 ちなみに【えるしぃちゃんねる】のリスナーでもあり、厄介系ガチ恋勢でもあった。


 えるしぃちゃん本人は見られたり調べられていることにとっくに気付いているが、害意が無く強烈な好意しか感じないためにまったく気にしてはいない。


「ッチ。このヴァイスリッターとかいう女が邪魔くさいアル。他にはきららとか言うコスプレイヤーもいるけどわたしの敵では無いネ。私の恋路の邪魔をする奴らは……――っといけないアル。害意や殺意を抱くとえるしぃちゃん気付いてしまうからネ、脅威の感知能力ヨ」


 この女はえるしぃちゃんの能力を凡そ掴んでいる、と思っているだけだ。


 だがこの世界の誰よりもえるしぃちゃんの情報を掴んでいるとも言える。


 厄介ガチ恋勢であるので情報を独占して『ふひひ』とコレクションして楽しむだけなのだ。


 ある意味その行動が、ギリギリえるしぃちゃんに処されないデンジャーゾーンの真上をタップダンスし、あまつさえそれを楽しんでいるからこそ“厄介”なガチ恋勢なのであった。


「まだまだ、事務所の従業員は募集している……ネ。こうなったらわたしの有能な力をえるしぃちゃんに知ってもらうしかないアルネ」


 厄介な奴が厄介なことを考え始める。直接的な危害を加えるわけではないのでえるしぃのピコピコお耳センサーにも引っかからない。


 カタタタタ、とキーボートをカッコよくブラインドタッチで操作して、日本行きの飛行機の便を詳しく調べ始めた。


「待っててネ。すぐにわたしが会いに行くから……ああ、えるしぃちゃんのうなじをペロペロしたいアル……――ちょっと、ベットに行くアルカ」


 部屋の主は自らのベットでちょっとなチョットをするようだ。


 えるしぃちゃんの貞操の危機が訪れようと――するのか?






 白金蓮を迎えに行き、無事奪還に成功したえるしぃちゃんは世の中の混乱を治める為に――特に何もしませんでした。


 ツブヤイターにも神秘が暴かれたり、どっかの国のひげもじゃの爺さんが聖なる何たら結界がどうのこうの言っていたが、異世界帰りのえるしぃちゃんにとっての日常でしかないからだ。


 むしろ、よく今までバレなかったものだと感心はしたが。


 蓮ちゃんに事務所の設立を提案すると『万事任せろ』とイケメンな発言をして去っていき、きららちゃんの公式アカウントに蓮ちゃんの連絡先を送って全てお任せしている。


 【えるしぃちゃんねる】がいつの間にか登録者数七百万人を超えているが蓮ちゃんときららちゃんがなんかうまい事やってくれると信じている。(他力本願とも言う)

 

「と、言う訳で暇なんだよね」


:今北産業

:世間混乱 事務所設立(他人任せ) えるしぃちゃん暇

:ひどいものを見た

:えるしぃちゃん難しい事わかんないもんね

:暇ってwww暇ってwww

:世界の神秘を暴くだけ暴いて放置かw

:まぁ、確かに被害者ではあるが関係ないよな

:むしろ良く暴いてくれた

:世界の秘密が次々に暴かれていく

:ウチの近所に大妖怪いたわwお隣さんとか嫌だw


 日本が公式発表した全国退魔士協会は各都道府県に必ず存在しており、人払いの結界を張られている。稀に、迷い込む人間もいるが丁寧に記憶処理が行われていたようだ。


「あぁ、なんか大妖怪さんを封印しているみたいだね。それって精霊みたいなもんでしょ? 自然的なものでそれに人間の思念で歪められるとかなんとか……ある意味人災だとおもうけどなぁ~」


 えるしぃちゃんが語るにはちゃんと祈ったり浄化したりして調和が取れればいいのだが、封印だけして放置していたが為に力が大きくなり災害のような性質を持つようになった、と。台風や地震は素直に受けているでしょう? と、言われれば確かに、と。なってしまう。


:はぇ~そうなんや、封印も良し悪しっちゅうことなんやな

:封印している間に浄化しなきゃいけないって事か

:えるしぃちゃん浄化したりしないの?

:退魔士協会へ苦情いってそう、でも守られたりもしてるか考えるとなぁ

:私の親戚が退魔士だとカミングアウトしてきたわ、普通の人でしたよ?


「ん~? 浄化ならこの前ので少しはできているよ~? ほら、空がキラキラ光って無かった?」


 蓮ちゃんを奪還した日の夕方に日本全国に守護の意を込めた祝福を振りまいたのだ。効果は短期的なものだが封印された大妖怪の力は半分程削れている。


:あ、あの日か! 病院の患者が元気になったとか

:事故に遭ったのに怪我をしない人が続出しているとか

:俺の事故の後遺症が治ったんだけど……【50000円】

:ありがとうえるしぃちゃん! ウチのペットが元気になりました

:あれか! 嫁さんの機嫌があれから良いんだよな【1000円】

:退魔士として感謝いたします。大妖怪の封印も落ち着きましたエルシィ殿

:[私どもの教皇も対魔機関の事を公表しましてな、公に行動できますぞ! 神よ]

:[公表前に我が女神と接触したかったんだがな]


「大妖怪さん? ――んと、多分だけど半分ぐらいの力になってるね? こういうのはあまり好きじゃないんだけど、浄化の護符を作るから今度あげるね。地域を守ってくれている優しい退魔士の人だってちゃんといるって信じているから――ね?」


 首をコテンと傾げ笑顔を振りまくえるしぃちゃん、何人のリスナーがその笑顔にやられた事か。こうして不意打ちに笑顔を振りまいて初見さんをリスナーへと作り変えて行くのだ。


:恋しました【500円】

:ウッ!(昇天)

:不意打ちやわぁ……

:[ああ、天に召されます。神よ]【100ユーロ】

:あなたの心意気に感謝を! 護国の為に! 民衆の為に!

:退魔士さんリスナーにいたんだwwwいつもお疲れ様です

:退魔士に、対魔機関に、あとは何があるんだろう? 仙人とか超能力者?

:超能力者いそうだよね

:斬撃で山をぶった切るえるしぃさまがいらっしゃるんだ、何がいてもおかしくない

:お嬢ちゃんの切り抜きさせてもらっておるよ【50000円】


「力のベクトルの違いだけで結局のところ根源は一緒なんだよ? 魂って本当に存在していて同じものは存在しないんだ……――存在力を数多の修練や死線を超える事により増大するの。あなた達人間の輝きが増せば増すほどおのずと見えましょう。――そうですね……今『超能力者いそうだよね』とコメントされた方も発現の兆しを感じます。明確な能力の指向性は“願い”により変質しますから、善き方向へ行く事を私は願っていますよ?」


 いつの間にか慈愛のエルシィ様は降臨していた。両目が金眼に変わっており聖母の様な雰囲気が漂っている。


:慈愛のママだぁ!

:【超能力者】マ? うっそ!? 超嬉しいんだけど!

:透視の能力発現させるんじゃねえぞ?w

:発火能力とか?

:能力試験は外でやれよ?

:ぜひ、退魔士協会に来てください、ね?

:ESPと超能力は別物だぞう? これマメな?

:願いか。なら癒しの能力が欲しいぁ


「そうですね、超能力の元素を司るという事は支配者の様な能力です。最小単位まで辿れば物質とは同一なものです、そうすると超能力者は全て原子や分子、素粒子使いになっちゃいます。ですから“概念”使いと呼ぶのが正しい答えですね」


 それから一時の時間、慈愛の女神による能力者講習が始まってしまった。どういうタイプの超能力者がいるか、聖術や陰陽術、呪術や仙術、式神や精霊の関係など。


 大妖怪や吸血鬼の自然発生のメカニズムや、宇宙の法則など世界中の研究者や実力者たちが求めてやまない“答え”が示された。


「――というわけです。あら、そろそろお夕飯の時間ですね。教授した身体強化の術は習得する地域によって異なるので一概に言えませんが、怪我をしにくくなる上に自己治癒を促進させるのでオススメですよ? 細胞分裂による老化は在りませんのでご心配なく。それと最後に――魂は巡ります。今世に置いて人を慈しみ、人を愛せる立派な人間になってくださいね? ではまた――――にゃぁん! 話をしながら眠たくなってきたよぅ……慈愛ちゃん教えたがりだからにゃぁ……お腹空いたぁ……」


:これ、とんでもねえ情報なんじゃねぇのか?

:宇宙の 法則が 乱れる!

:[そうか……魂の……心の目が開いた気がします]

:身体強化は欲しいよな……でもスポーツ界が阿鼻叫喚になるんじゃね?

:【超能力者】身体強化の術できたぜい! ホォォオウ! 小石が指先で砕けたわ

:え゛! いいなぁ……

:こう、なんか、感じるんだけど、難しそう

:オリンピックに身体強化部門できそう

:これだけでいくらの金を積めばいいか分からない程の情報だわぁ


「あ、術を使うのはいいけどめっちゃ疲れるから気を付けてね? 運転中とか慣れないうちに使っちゃ駄目だよ? 無事故でね? ――お腹空いたから配信終わりっ!! 次はなにしよっかにゃあ~。ヴァイスちゃんの情報待ちって事で!! んじゃ、ば~いび~!! エンディングッ!!」


 いつものエンディングがリスナーの画面に流れて行く。


 お礼のコメントと投げ銭がドンドコ溢れて行く。それほど能力などの講座の情報に価値があったからだ。これからも研究者や能力者たちは講座を設けて欲しいと期待を込めて投げ銭をする。







「コレが俺の力かぁ……ふふ、ありがとうえるしぃちゃん――これで殺せる……!」


 室内には粉々に砕けた石の粉末が散らばり、ぐにゃぐにゃに曲がった金属製品が無残な姿で落ちている。


 暗い室内で殺意を滾らせている人物は女神に感謝するもこの世の理不尽を嘆いている。【慈愛の女神】は復讐を否定しない。やられたらやり返せの精神だからだ。もちろん、力を得た人物がどのような感情を持っているか理解したうえで力の教授を行っている。


 それだから【殺戮の闘神】に腹グロ陰険クソ女神とよばれているのだ。

 

 えるしぃちゃんは各々の女神と言う人格を認識し存在を確立させた、だが、その女神たちは人間にとって正しい事を行っていくとは言っていないのだ。


 これは正義の在り方と一緒だ。


 正義の反対は正義。女神にとっての正義を成していくだけだ。それを人間に合わせるわけがない。


 ちなみに慈愛の女神であるエルシィは正義と言う言葉が大っ嫌いだ。


 正義を叫び侵略をしてくる人間を何万と見てきたからだ。


 だからこそ、超能力者の人物へ暗にこういったのだ『己の正義を成せ』と。

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