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『ごめんなさい事件』

 滝壺の中に落ちた二人。

 

 しかし、一切冷たさを感じられず抱き合った二人はプカプカと浮かびながら言葉を交わしていく? 恐らく結界の影響で過ごしやすい環境が保たれているようです。


「蓮ちゃん蓮ちゃん蓮ちゃん蓮ちゃんっ!!」


 えるしぃちゃんは言葉を交わすよりも大いなる母性の象徴に顔をうずめて幸せな顔をしている。


 抱き締めてた時に『これ、どさくさに紛れてパフパフできるんちゃうか!?』と、脳内のドスケベエルフ回路に電流が駆け巡り、ちょっとのつもりが全力でアクセルを吹かしている状態だ。


 ぱふぱふ。クンカクンカ。ぱふぱふ。クンカクンカ。


 しかし、大聖母蓮ちゃんはそんなえるしぃちゃんを優しい顔で抱きしめ頭をぽんぽんを軽く叩いてあげています。


 絶対甘えたいエルフVS絶対甘やかしたい聖母系美女。


 まったくもってキリがありません。


 蓮ちゃんが真面目な空気を出し始め悲し気にえるしぃちゃんへ別れの言葉を告げようとします。その顔はとても、とても辛そうです。


「会いに来てくれて、な? ほんま嬉しかったで? ――でもな、ウチ生贄にされるねん。最後にえるしぃちゃんに会えたんは嬉しいんやけどな……」


「ん? なんか蓮ちゃんを生贄にしようとした爺共は全員ぶっ殺したよ? ――それよりも美味しい弁当を買って来たよ!! 一緒に食べよう!?」


 蓮ちゃんとの再会の嬉しさにどうでもいい爺共の事は脳内の片隅への屠られています。美味しい弁当を買ってきているので蓮ちゃんと一緒に食べる事の方が比べられないくらい大事なのです。


「――ん? んんん? ほへ!? ――えるしぃちゃん。ちょっとその話詳しく聞かせてくれへん?」


 なんかちょっとどころか、とっても嫌な予感をし始めた蓮ちゃんはえるしぃちゃんに詳しい話を聞かなければ夜も眠れなくなりそうです。


「りょ! その前にあったかくして景色の良い場所にいこう!!」


 ぱちりと指を鳴らすと濡れて冷たくなった身体が暖かくなり水分が全て吹き飛んでいった。そして、えるしぃちゃんが水面の上に立つと連ちゃんをお姫様抱っこして足に力を入れ始めた。


「ちょっと、飛ぶね?」


 華奢な足をぐっと屈めるとジャンプの体制へ入った。


 目標は山の頂上、さっき食べてめっちゃ美味しかった、いくらととろサーモン弁当しか頭に無いえるしぃちゃんは気を遣う事が出来ていないようです。――つまり。


「え? もしかして――――ひぃやぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!」


 強烈な風圧が蓮ちゃんを襲います。死にはしませんがジェットコースターを十倍にしたくらいの圧力と臓腑が持ち上がる感覚を数十回ほど味わったようです。


 そしてなんだかんだと頂上に着くとぐったりとした蓮ちゃんをクッションに座らせてお弁当の用意を始めたのです。







「な、るほど……」


 絶句。それしか言いようのない状況に頭を痛める蓮ちゃん。


 あの、本家の爺の蓮ちゃんの身体を舐めるような目で性的に見てきた奴が死んだのは正直スカッとしたようですが。まさか、鬼払家そのものが消滅しようとは予想していなかったのです。


 ですがその証拠は山の中腹に空いたドロドロに溶けた大穴が証明しています。――ミサイル何百発撃ってもあないな抉れかたにならへんやろ……。


 歩く対惑星外生命体最終兵器エルフちゃんは地面に敷いたタオルケットの上に座りながら、一押しのいくらとろサーモン弁当を食べているのです。


 蓮ちゃんはとっても頭が痛くて箸がイマイチ進んでいません。


「? この弁当わたしは美味しいんだけど蓮ちゃんの好みに合わなかった?」


 ――違う、そうじゃない。


 えるしぃちゃんの強い“力”をとても頼もしく思える反面、この力はみだりに振るわれていいようなものではないな、と。


 ――せめて常識をウチが教えてあげるくらいしかできへんなぁ……。


 実は、再会した瞬間に『迎えに来たよ?』と颯爽と現れたえるしぃちゃんに蓮ちゃんはメス堕ちしてしまっていたのです。

 

 死が確定し絶望の最中にとびっきりの笑顔で王子様が迎えに来たのです、それに靡かないメスはこの世に存在しません(蓮ちゃんの視覚には王子様補正のフィルターが掛かってます)


 下半身をキュンキュンいわせてくる当の王子様は、蓮ちゃんの膝の上に乗っかって頬に米粒を付けながら、もりもり弁当を食べているリスみたいな駄エルフなのです。


「まったく。かなわんなぁ……コレが惚れた弱みっちゅうやつか……? あかん、胸が苦しいわ……」


 蓮ちゃんの頬が熱くなり胸がドキドキしています。


 それを誤魔化すように買って来てくれた弁当を勢いよく食べ始めます。――これ、ほんまにうまいやん。


 そして、なぜか置かれている麦の飲み物。蓮ちゃんは全てを忘れようと酒精を一気に飲み干した。







 えるしぃちゃんはすっかり忘れていますが世間は混乱の渦に巻き込まれています。今ならうっかりエルフ検定の一級に合格するでしょう。


 日本列島を襲う大災害の始まりに全国退魔士協会本部は各地で錯綜する情報に頭を痛めています。退魔士専用のギルドの様な組織で依頼の受注や斡旋を主に行っています。


 他にも退魔士資格の免許証の発行や、基礎的な術の講習会なども行っており、秘匿されていると言えど行っている業務は、自動車免許を発行している公的な組織とあまり変わらないようです。


「各地の結界の許容限界を超えそうです!! 大妖怪が……解き放たれる」


「雷雨による降雪量が過去最大規模になると観測結果が出ています」


「地震の頻度が異常に増加。太平洋プレートに高エネルギーが溜まって来ています!」


「この異常現象の発生源である呪詛は……鬼払家本家の集落からです!」


 退魔士協会の局長は入って来る情報の重たさに対応を決めかねていた。


 この呪詛の発生源の特定はとっくに終わっている。


 なぜかと言えば強制力はあまり持たないものの、民衆に暗部である退魔士の存在と後ろ暗い事実が暴露されたのだ。


『日本政府が喧嘩を売って来るのならば全力を持って応戦しようぞッ!!』


 神的存在としか思えないような膨大な呪力に“憤怒”という感情だけでこうして日本中に影響を与えることが出来てしまう。そう、できてしまったのだ。


 そのような存在は今は隠れられてる日ノ本の神ですら不可能なのだ。過去の文献や残っている情報でもそのような事は記録されていない。


 まさに、現代に蘇った禍つ神。


 大妖怪が可愛く見えて来るほどの超越存在だ。


 地方の町を焼き尽くす恐ろしい大妖怪だが一気にスケールダウンした、この大災害の前兆にランク制度が一新されるであろう。


 大災害対策本部へ日本政府直通ラインから通信が入る。オペレーターが退魔士協会のドンである元防衛大臣からの通信であった。


 本部局長は胃が痛くなる思いで通信に応答する。――あの人優しい顔して圧力が凄いから苦手なんだよな……。


「――本部局長の葉隠 雷蔵です。元防衛大臣殿いかがなされましたか?」


 元防衛大臣は第一線から退いたものの国内有数の退魔士であり軍神と呼ばれていた。しかし、身体の衰えを理由に退いていたはずなのだが最近になって若々しく変貌しバリバリ外注の依頼を熟している。


 本部内モニターに映る軍神と言われた爺さんは、一切の陰りすら見えず強大な覇気を伴っているようにしか見えない。


 筋肉の鎧を纏った豪傑が局長へと一言発言する。


「――うん。ごめんなさいをすると良い」


 対策本部内が沈黙する。――誰が? ――局長クビかしら? ――あーあ、あの人クビなのか。狙ってたのに。 ――え、あの人怒らせたの局長。 ――ご愁傷様。 ――えー金だけは持っていたのにね。 ――顔も悪くなかったけど……使えない男は駄目だわ。


 本部局長の愛人の座を狙っていたオペレーターたちが一斉に、高く保たれていた評価値がゴミカス以下へと転落した。


 局長は滝の様な汗を流し始めた。女性オペレーターたちの自身への散々な評価などどうでもいい。――私は嫁と娘一筋だッ! クソッ! 一体何に対して『ごめんなさい』なんだ!? 意図が読めない……。


「――申し訳ございません。一体誰に対してごめんなさいなのでしょう?」


「ああ、端的に言い過ぎたね。渦中の彼女は……僕の友人であり、本物の女神だよ。それに元々生贄などと言う前時代的なシステムは嫌いだったんだ」


 ――は? 友人? 誰が? あの禍つ神と?


 ツブヤイターで宣戦布告していた悪魔の様な存在を思い出す。


 局長の思考が混乱している間に、何かしらのデータが元防衛大臣閣下から送信されモニターに映し出された。


 ――いったいどんな情報なんだ……見るだけで胃が痛くなりそうだぜ。


 心を冷静に保とうと歯を食いしばり戦々恐々としていると。


 そこにはユアチューブと言うコンテンツのページであり、そこには【えるしぃちゃんねる】登録者数五百万人と書かれていた。


 バナーに使用されている画像はとびっきりの笑顔でピースをしているエルフがいた。


 他にも、エンディングに使用されているアニメや、切り抜かれたと思われる【えるしぃちゃんうっかり集】や【貧乏えるしぃ列伝】などタイトルが表示されている。


「僕は彼女の切り抜き師なんだけどね、彼女とっても可愛いんだよ? 今、僕の最推しは彼女なんだ」


 嬉しそうな顔で自慢の切り抜き動画を披露して来る筋肉鎧の爺さん。


 もう、本部局長である葉隠は、軍神と言われた爺の評価を空の彼方へ放り投げた。


 ――もうこいつ、ただのオタ爺じゃねえか。


 急に真面目な雰囲気を漂わせ、厳しい視線を向けてきた。ビクリッと局長は飛び跳ねるもバレないように冷静な顔を保つ。


「彼女は善性の心を持つ優しい子なんだよ。友人の為に怒れるなんて素晴らしいじゃないか。でも、君達も彼女の笑顔を陰らせるなら――僕は君たちの敵になるからね?」


 対策本部の室内に軍神の本気が伝わった。こいつは本気で殺しに来ると誰もが理解したのだ。


 ――狂ってやがる。


 軍神である元防衛大臣の瞳にはドロリと濁った殺意が見えた。女神の為ならば人切りも問わないと。そこには強烈な信仰心と忠誠心が垣間見えた。


「意外と簡単に事態は収まると思うよ? 政府広報で彼女に言うと良い『ごめんなさい』とね。言っておくけれど人質や暗殺行為をした瞬間、日本は無くなっちゃうからね? ――じゃ、あとはよろしく“局長”」


 通信が切れると表示されたままである、えるしぃちゃんのドジっ子集がリピート再生されていく。


『びゃぁあぁぁぁぁぁぁ!! ゴ、ゴキブリぃぃぃいいぃぃいいい!! あびゃびゃびゃびゃびゃ!!』


 そこには配信中にゴキブリが発生し大慌てのえるしぃちゃんが涙目で敵を撃退しているシーンであった。手に持っていたパックお寿司で叩いてしまい無事大惨事になった模様。


 ――こんな小娘一人に何慌てていたんだろう。話が通じるなら俺の命を掛ける意味は……あるか。


 日本退魔士協会本部局長の発言は重い。


 えるしぃちゃんに謝るという事は彼女が発言した内容を国が肯定したという事だ。


 本部局長のクビだけで済む問題ではないのだ。


 ――嫁よ、娘よ。父ちゃんもう駄目かもしんない。


「命令だ。今現在で指示できる広告や広報媒体に一斉に上げろ『えるしぃちゃんごめんなさい』と。――急げッ!! 国難の時なのだ!!」


 オペレーターは本部局長を見てこう思ったそうだ。――冷静に狂ってやがる。と。


 その後、国営テレビやラジオ、ユアチューブの広告やツブヤイターでは『えるしぃちゃんごめんなさい』一色になった。


 日本政府がごめんなさいしたことに、帰りの電車の中で蓮ちゃんと駅弁の話をしている最中に気付くと慌てて呪詛を霧散させた。


 国が頭を抱え対策を取るために東奔西走していたのにも関わらず、あっけなく日本中の異変は停止した。


『めんごめんご、代わりにちょっと守護しとくわ』と、軽い気持ちでえるしぃちゃんの加護が日本中を包み込み、犯罪発生率や事故発生率、病院に入院している人たちの症状が緩和した。


 このことは、世界規模の大騒動となり連日連夜えるしぃとはなんぞや? と、話題となる。


 日本政府そのものが神秘を認めたことにより連鎖的に世界中の民衆が不思議な物は存在すると認知した。してしまったのだ。


 しかも、その不思議な事は“えるしぃ”ってやつが原因らしいぞ、と。


 認知は信仰と成り、膨大な神力へと昇華される。


 だが、当の本人はなんかちょっと調子が良くなったな、まぁいっか、とお夕飯の献立よりもどうでもいい物であった。


 そしてのちにこの事は『ごめんなさい事件』と、日本にとって不名誉な称号が世界に広がった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ごめんなさい事件wwwえるしぃちゃんパワーアップしちゃったよ。さらにやばくなっちゃたよ。日本政府の人たち乾いた笑いが止まらないよwww 更新頻度が早いのは読者としてうれしいことですが、世も末…
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