事務所を設立しまっせ
「事務所を作る理由としてはね~配信環境を整える事と、色々な手続き関係を手伝って欲しいなぁ~なんて……。えへへ。決して、銀行の通帳に振り込まれた金額にビビったわけじゃないんだからねッ!!」
テーブルの上に置いてあった通帳の振込金額を見ながら可愛いお手々がプルプルと震えているのが伺える。――税金恐い税金恐い。と、小声で呟いている。
:えるしぃちゃん経費全く掛かってなさそう
:恐怖の国税局
:ケツ毛まで毟り取られるで
:立候補しまぁ~す!!
:【きらら】わたし、何でもします!!
:働きたい!!
:[家政婦として雇って頂ければ金銭はいりませぬぞ! 神よ]
:まじかぁ~社長さんになるのか
:本気で働きたいです!
:確かにえるしぃちゃんに書類のアレコレ……無理だよね……
「本当は【ヴァイスリッター】氏に手伝って欲しいんだけど連絡取れないんだよね。ちょっと本気で探してみ――――るのは、今は辞めておこっと。時期が来たら連絡してくれそうだしね! 特に人数は決めていないんだけど、業務内容は、企画に編集に事務作業に撮影と、う~ん、後なんだろう? わたしのご飯作り?」
うんうんと指折り数えながら悩んでいるえるしぃ。
ご飯作りの発言で立候補者がどんどこ増えて行く。
:あの、ヴァイス氏と連絡取れないのか
:うらやましいわ
:従業員は一人確定か
:【きらら】私! ご飯作り! 得意です!
:[中華料理なら得意アル]
:[私の国の料理は絶品ですぞ、神よ]
:事務作業ならお手伝いできそうです
:編集は任せろ! えるしぃちゃんアーカイブに無造作に動画おいているだけだしな
:広告関係なら……
:企画力が問われるな……でも、えるしぃちゃんコミュ障なんじゃないの?
:コミュ障なんですか?
:あー、そういえばその問題があったな……
「――うん。クソ雑魚ナメクジコミュ障のままだよ? もうさ、そこは開き直って社長を【慈愛】のエルシィに丸投げしちゃおうかな~って。わたしじゃなければ実質無傷!! と、思われ? 企画モノでも【闘神】のエーテリアが『ボケッとモンスター』をやりたいって言っていたしね。それと、あの二人の二つ名を正式に言っておくけど【慈愛の女神】と【殺戮の闘神】だからね? 殺戮じゃあ物騒だし【闘神】って呼ぶけどね」
:コミュ障が治ったわけじゃないのか
:慈愛のエルシィ様なら何とかなりそうだね
:モンスターを厳選しなきゃ
:ボケッモンの大会待ってます
:人はそれを丸投げという
:事務所費用として少しでも【5000円】
:自分が社長なのに自分じゃないというパラドックス
:殺戮の闘神というパワーワード
:殺戮www慈愛の事馬鹿にできねぇじゃねーかwww
「そういえば募集に手を上げてくれた【きらら】ちゃんは入社確定だからね? 顔見知りだし、とっても可愛くてえちちなコスプレイヤーでお料理が得意のなら文句なしの採用なのです!! お給料は要相談だけど頑張って出すからね? それでも一緒に働きたいっ!! て人は、わたしの公式ツブヤイターのアカウントにメールを送ってね?」
おめでとう~と言いながらパチパチ手を叩いて祝福する、先程の投げ銭乱舞で事務所の設立資金は充分なためリスナー達も安心して応募する人間が多いようだ。
:【きらら】ひょえっ! ありがとうございますぅぅぅううぅ
:おめっとさん
:おめ!
:うらやまけしからん
:てぇてぇ始まった?
:従業員二人目がえちちなコスプレイヤー
:履歴書書いて送ります!!
:[日本に馳せ参じます]
:[司祭様が激怒してるよ……]
:[日本に行くのもいいかもネ]
:グッズ販売もするのかなぁ?
「あ、今日の投げ銭は事務所の設立資金にさせてもらうね? グッズかぁ~、ラミネート加工した守護の護符でもいい? 車に轢かれても軽症になる効果があるモノなんだけど。もちろん、わたしが配信始めた初期の頃から投げ銭くれた人には無料で発送するよ? 何かしらの方法で発送できるように手続きをして貰うからのんびり待っていてよ! 今までわたしの食生活を支えてくれた人たちだからね」
可愛らしくウェブカメラに向かってパチリとウィンクする、人差し指を桃色の唇に触れさせリスナーを悩殺する。えるしぃちゃんは感謝の気持ちを表現したつもりなのだが、投げ銭で札束ビンタをされてしまう。
現在の【えるしぃちゃんねる】の同時接続者数は百五十万人を超えており回線がやや重たくなってきている。【投げ銭】の合計が八千万を超え恐ろしい事になっている。
「ん~、ちょっと投げ銭を貰いすぎかもしれない。あ、リスナーのみんな、配信を見ている画面に手を当ててくれない? 触れれない人は心の中で繋がりを求めてくれたらいいからね? 準備はいい? じゃあ――――喜び、怒り、哀しみ、楽しみ、想い、願い、祈り――救いを求める子らよ。汝らに我からささやかな祝福を≪神聖祝福≫」
えるしぃちゃんの事を信じて画面に触れていた、心の中で祈っていた人々にはほんのちょっとだけ幸せになり、悪意や脅威を逸らせる祝福が与えられた。逆に馬鹿にしていた人間達はえるしぃちゃんとの縁が断ち切られ遠のいていく。
:何こいつうそば――――
:あったかい【1000円】
:俺の手が光ってるんだけどぉ!
:あばばばばばばば
:ママぁ【1000円】
:詐欺師め! きさ――――
:荒れすぎw
:人数多いからねぇ。ああ、あったかいなぁ
:ありがとうございます
:[おお、祝福だ!]【500ユーロ】
:[これ、どうなってるアル? 未知の現象ネ]
:[……我がステイツに全力でお迎えしたい]
:ご利益ありそうな光やな
:ご利益代【5000円】
「また投げ銭増えてるぅぅぅぅううぅぅぅ!! しょうがないにゃあ……何かしらの方法で還元するから待っててね? 取り敢えず今日の重大発表は終わりだからね? あとは別の配信枠を取ってがんしゅーてぃんぐなるものでマッチングしたりするから楽しみにしててね~? ば~いび~! エンディングッ!!」
画面の前で両手をブンブンと笑顔で振ってお別れの挨拶をする、このあとオンラインゲームでのマッチングをしたりするので一時的な別れなのだが百五十万人も視聴している人間が居る為、重大発表の配信を終了させ区切りを付けた。
配信が終了しアニメ映像化されたコミカルなえるしぃちゃんのエンディングが流れ始めた。そのクオリティは高く放送局で放映されているアニメと遜色のない出来だ。
:うおっ、エンディング始めて見たけどクオリティたけぇ
:おお~、アニメえるしぃちゃん可愛い
:配信のセリフが切り取られて使われているな
:いいねぇ~私もイラスト書こうかな
:このエンディング製作会社有名なところじゃん
:えるしぃちゃんのリスナーがあの会社にいるのかwww
:えるしぃちゃんの同人ゲーム作ろうかと企んでいる
:ば~いび~
:マッチングはいれるかな?
:別の配信枠か、活動的になったのねえるしぃちゃん
◇
「――ふぅ。久しぶりの配信はちょっと緊張したなぁ~。投げ銭がちゃんと振り込まれたし事務所の設立の手続きは――」
重大発表の配信を終わらせると早速調べものを始める。
ノートパソコンで色々と手続きの仕方を調査していくが大変であろうことが分かっただけで、うんうんと知恵熱が発生し始めているえるしぃちゃん。
「やはりヴァイスリッター氏を迎えにいくしかないかなぁ~。でも、なんか山奥で修行っぽいことしてるしな~」
ヴァイスリッター氏と連絡が取れていないことに結構ショックを受けていたのだが占いを使ってまで捜索はしていなかった。心配になって占いを行ったところすぐに居場所がわかりどのような状況下は把握できた。
占いの力が凄く通り易かったので不思議に思っていたのだが、原因は霊的な場所にヴァイスリッター氏がいる事でアカシック的な何かとの接続が容易であったからだ。
「それにしても本当に巫女や退魔士的なものが存在したんだな~、いつからこの地球はファンタジーな世界になったんだろうか?」
えるしぃちゃんは不思議に思ってはいるが、地球に帰還した際に世界線が少し違っていることに気が付いていない。ちなみにえるしぃちゃん自身は神聖存在でもある為一種の特異点となってしまっている。
つまり、どこの世界に行こうともエルシィ・エル・エーテリアはたった一人しか存在しないのだ。
むしろ、世界や理の方からえるしぃちゃんに対して様々な矛盾を辻褄合わせしようとしてきている程だ。
神聖存在であるえるしぃちゃんは地球の理に大歓迎されており、ずっといて欲しいと思っている最古参のリスナーなのであった。
「う~ん。会いに行ってお願いしてみようかな? 聞いてみない事には分かんないしね!!」
気まぐれに日本の古来から存在する退魔士の家系が大混乱し、とんでもない事になることが決定した瞬間であった。
無自覚に引っ掻きまわし運命を捻じ曲げ、強制ハッピーエンドをぶちかますロリ可愛いえるしぃちゃんなのでした。




