第1章 幼なじみの転生は気付けない(4) SIDE マリ
目を覚ますとそこは病院……ではなかった。
ここ、どこ?
知らないうちにやたらと高そうな椅子に座り、豪華なドレスに身を包んでいる。
とても胸が重い……って、胸元開きすぎじゃない!?
あと、自分の身にかけられた香水もきつい。
普段めったに使わないので、その強烈な匂いに気分が悪くなる。
目に映る部屋の様子は、まるで映画に出てくる中世の貴族みたい……。
さらりと肩を流れる髪はブロンドだ。
染めたつもりなんてないのに!
となりに座る偉そうな男は誰だろう。
それ以前にここはどこ?
とても夢とは思えないほどリアルだ。
私は混乱と衝撃で、思わず手に持つ扇で口元を隠した。
目の前では、勇者がどうの、転生がどうのという話が展開している。
ケンの趣味に話を合わせたくて見たフィクション作品に、そういった設定が多くみられたのを覚えている。
えぇ……。
まさか私、転生しちゃった!?
とても信じられることではないけど、そうとしか説明がつかない。
よく手足の感覚を確かめてみると、明らかに私の体じゃないし。
背丈は似てるけど、ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ、激務のせいで余計なお肉のついたお腹がひっこんでいる。
というか、コルセットがめちゃくちゃ苦しい。
その代わりに激しいまでのお胸の主張だ。
おそらく男性からするとたまらないプロポーションだろう。
現代でもグラビアモデル級……いや、それ以上かも。
もっと取り乱しても良さそうなものだけど、こんなにもあっさり順応できたのは、フィクション作品を嗜んでいたおけげだろう。
ケンには感謝だ。
そう……ケンだ。
彼はあの後どうなったのだろう。
助からなかっただろうな……。
もしかするとあの後、私も死んだのかもしれない。
誰かが私に向かって叫んでいたし。
そっか……せっかくケンに助けてもらったのに……。
ごめんねケン……。
でも私が転生したのなら、もしかしてケンも転生してたりして……。
そんな偶然あるわけないか。
都合良すぎだよね。
なんてことを考えていると、勇者がどうのこうのという話はいつの間にか終わっていた。
勇者と呼ばれたみすぼらしい格好の青年が命令されて小動物を殺していた。
凶悪そうなそれは光の粒子となって消えていた。
ただの中世ではない。
ファンタジーな世界のようだ。
えぇ……ほんとに……?
転生なんてものがあるのだから、ちょっとくらいファンタジックでも不思議ではない……かなあ?
「あの……マリー様……」
侍女らしき女性がおそるおそる私に話しかけてきた。
いつのまにかとなりの中年男はいなくなっている。
いつのまにかお開きになっていたようだ。
「なにかしら?」
「ひっ……! お許しください!」
考え事をしていたのでそっけない返事になっていたかもしれない。
だからといって、いきなり土下座することはなくない!?
この世界に土下座という概念があるとは思えないので、傅くとか平伏するというのが正しいのかもだけど。
「あっ、ごめんなさい。なんでもないの」
私の一言に、部屋にいた兵士や侍女たちがざわめいた。
「あやまった……?」「マリー様が?」「え? もしかして、ここにいる全員処刑か……?」
待って!?
この体の前の持ち主っていったいどんな人だったの!?
もしかして……悪役令嬢ってやつ!?
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