天界の魔女
魔力だけあって何もできない少年が、無属性魔法に目覚め、多くの能力を獲得して強くなっていく物語。徐々に物語はスケールを増して、神や天使との戦いに発展していく。良かったらご閲覧お願いします。
アルカテイル自治領砦の戦闘で2柱の大天使を失った天界の管理者達は、驚きをもって結果を受け止めていた。
「まさか、時間操作と致死能力を持つ大天使が2柱も倒されてしまうとは・・・」
「ましてや、わずか二人の人間に敗退するとはいかなることか!」
聖戦の首謀者の一人、ガレスが苛立ちを隠さない。
「一対一に特化した、天使が討ち損ねるということは、敵は加速系の高速行動ができるということか?戦闘に費やした時間も1時間で勝負がついたという話だったが。」
太陽神バルロンは、首を傾げる。
「情報は入ってきております。標的の一人は堕天使アルシオンの憑依している魔剣士で、無属性魔法を非常に巧みに使いこなすとのことです。もう一人は、メルティゼロと融合してその力を得た魔導士で、過去に見たことのない巨大な魔法を制限なく使ってくるとの事でした。」
「厄介な連中だな。」クロメテウスは参謀ロキアの報告にため息をつく。
「現状のこちらの戦力には、9柱の大天使が残っておりますが、1柱は天界を見限っている状況で、2柱の大天使はまだ復活が済んでおりませんし1柱は協力を表明しておりません。残った5柱は、基本的には大きな力は持っていますが、特殊な能力に特化した者は残っていません。」
「今、戦うなら力押しの消耗戦になると思われます。」
「やはり、ナルザエル・ルザリエルの敗退は大きいということですな。加えてメルティゼロが、こちらの情報を持っていることも大きな障害になっていますな。」
「ここは、天界に封印されている災害級の魔物を送り込むのがよろしいでしょう。」
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エルとエリアの二人はドアルネスの周囲に結界を準備するために、二人で国内の各地を回り始めた。
町の周囲の防御結界・侵入経路の攻防結界・対天使軍用のトラップ、やることは尽きない。
二人は、青い飛竜に乗って各地を転々として作業を行っていた。
「今日はこの町の結界を作ろうか。」
町の入り口付近に飛竜を降ろす。
町には沢山の人たちが集まって出迎えをしてくれていた。
「わざわざ、このような町にまで、結界を準備してくださるという事、誠にありがとうございます。本日はささやかな宴を設けさせていただきますので、ゆっくりしていってくださいませ。」代表者は歓迎の意思を示してくれている。
夕方には結界を作り終えて、一息つける状況になっていた。
宴の会場に案内される。
「お疲れさまでした。ところで、神様は本当に我々を滅ぼしに来られるのでしょうか?」
「来てほしくないんですけどね。この結界も発動しないに越したことはないと思っています。」寂しそうにエルシードは話をする。
「我々も、本来は神を崇める立場ですので、少々混乱しているのですよ・・・」
「無理もありません。」
「人間は、その人間同士でも戦争をし、大切な自然を自ら汚し、人をだまし、嘘をつき、神からは見るに堪えなかったのかもしれません。ですが、だからと言って、地上の浄化を目的に人間族を含めた多くの生命を絶滅に導いていいわけではないと思うのです。」
「それに今回の結界も、こちらから神様に攻撃を加えるものではありませんので、単なる守りです。」
町に来てから、背中に羽の生えた少女はずっと、エルシードの隣にいた。
「そのお嬢さんが、天使の祝福を受けたという方ですね。確かにお美しい方ですね。少しお元気がないようですが大丈夫ですか?」
「はい、毎日結界を作り続けていると少し疲れてきますが、大丈夫です。」
エリアは、エルシードの肩にもたれかかって、ふわっと柔らかに笑う。
それを見て、町の人たちの、顔も笑顔になる。
「天使様は本当にいらっしゃるのですね・・・」
町の人たちは、エリアの姿を見て一様に安心するのであった。
《ズドドオォォォォォン》
ものすごい、地響きとともに大きな音が響く。
町の結界に何か大きな力が衝突したのだ。町には被害は生じていない。
一体は全長100mを超える巨体の羽の生えた双頭竜と、もう一体は尻尾が5匹の毒蛇になっている大きなサイのような魔獣が町に攻撃を仕掛けてきたのだ。
この魔獣は、天界が今回エルとエリアが存在することを確認して送られてきた刺客なのだ。
「最近は落ち着く暇もない。本当に僕たちが邪魔で仕方ないんだな。」
「行きましょう、町に被害が出てしまうと申し訳ないわ。」エリアが言う。
町の結界の外に、足を踏み出す。
外に出ると、まずは双頭竜が待ち構える。
それぞれの口から、黒い霧と、雷光を巻き散らす。
それぞれの攻撃が入り交じりエルとエリアを襲う。
『空間障壁!』
二人の前に壁ができ霧と電撃を防ぐ。
隙を搔い潜ってエリアがナルザエルを葬った高速の冷気の矢を放つ。
『フリージング・ラピッド・ストライク!』
体内に打ち込みさえすれば、双頭竜を凍結粉砕できるはずだ。
『バーニング・シールプロテクト!』
冷気の矢は、命中前に相殺される。
「だれ?」
エリアは驚いて周囲を見渡す。
「《天界の魔女》って聞いたことない?あなた、なかなかセンスのいい魔導士みたいだから、私が邪魔してあげるね。」
ゼロがエリアに話しかける。「奴、セルフィエルは、最強クラスの天使だよ。魔法を使う大天使で、私の力を継承したあなたといい勝負かな。気をつけて。」
「あの天使が、この魔獣を二匹操っているってこと?」
「そうだと思うよ。」
エルシードはいやそうな顔をしながらも、右の口角を挙げて攻撃態勢を組む。
『身体強化』
『エンチャント空間切断』
・・・『閃空刃!!』
双頭竜の首を凪にかかる。
『空間転移!』
セルフィエルは100mを越える巨体を瞬間転移させてしまう。
驚いているエリアを抱きかかえるとエルは、空間転移で大天使の目の前に転移する。
出現すると同時に閃空刃を放つ。
「なるほど、君のほうが私の相手としては手ごわそうだね。」
セルフィエルは羽の一部を切断されてしまう。
「でも残念ね、エルシードさん。君はもう思うように動けないわ。」
『アルカナル・バインド』
「封じましたよ。」
「な!!」
確かに身体が思うように動かない
「だから、私もいるんですぅ」
エリアはエルをディスペルで解放すると並行詠唱済みの大型魔法を放つ。
『インフィニティ・クリムゾン・プラズマ!!』
広大な空間のエネルギーが広範囲から一気にセルフィエルに収束する。
深紅の電撃の嵐が襲う。
『空間転移!』
セルフィエルが逃げる。
『ディメンションケージ』
エルの空間魔法のほうが一瞬早い。
「うっっつ。」セルフィエルは逃げきれず左腕を深紅の稲妻に貫かれる、動けなくなる。
『閃空っっ刃うっ!』《ずどぅぅ》「がっはっつ。」エルシードの横腹が、大きなサイの角に貫かれている。
大量の血液を吐血する。
ここで終わらないのが、最近のエルシードの強さである。
閃空刃は攻撃目標を変えて、サイの首に振り下ろされる。
「すさっ」頑丈なサイの首は絶対切断の前に切り落とされる。
とはいえ、ダメージが大きいエルシードはそのままエリアのそばから落下して地面にたたきつけられた。
「今よ、双頭竜を倒して!!」
ゼロが叫ぶ。
『フリージング・ラピッド・ストライク!!」
エリアの高速魔法が今度こそ竜に命中する。
瞬間に凍結して完全に動きを止める。
「っち」
セルフィエルは落ちていったエルシードに必殺の神の加護を打ち込む。
『アルテミスティアーズ!』
激しい閃光が残像を残してエルシードにとどめを刺しに行く。
「んああぁぁぁぅぅぅ」力ない悲鳴を上げてエルシードは動かなくなる。
命中を確認したセルフィエルは空間転移で戦場の離脱を図る。
刹那エリアの放った、絶対零度の冷気の矢がセルフェイエルに命中。
「ちぃぃぃ」
右足に命中したが、凍結する前にセルフィエルには逃げ切られてしまった。
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