堕天使の塔
永い眠りから覚めた異国の王子が、仲間とともに、恋をしたり、神との戦いに身を投じていく不思議な物語。少し出来が荒いですが、ご閲覧よろしくお願いいたします。
城を出ると、天使に選ばれた二人は歓声とともに街並みに歓迎される。
御伽噺は本当だった。
未来の英雄に栄光あれ!
大変な騒ぎだ。
なぜならエリアリーゼの背中にある羽が消えない・隠せないのだ。
常に眩く輝いてしまっているのだ。
本当に天使と同化してしまったようだ。
そう頭を抱えるエルシードも少し雰囲気が変わり、剣を抜けば漆黒の閃光が轟くのだ。
以前の無属性魔法どころではないのだ。
確かにそこには魔王の力と魂はエルシードの中にある事が実感できるのだ。
二人ともその力に翻弄されるばかりだった。
そんなエルシードはもう一つ行かなければならない場所があった。
心が無視させないのだ。「堕天使の塔」だ。そこに何かが待っているのだ。
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「 ここが、堕天使の塔か・・・高い塔だな。ここからアルシオンは天界に挑んでいったのだな。」果てしなく高い塔の上を見上げる。
「エリアがエルシードの腕にしがみつく。」
それがメルティゼロなのか?エリアなのか?確かめる方法はない。
今となってはきっと一緒なのだろう。
ただ、何かが大きく変わったのを感じるのだ。
自分たちは自分だけのために生きてはいけないのだということは、気づいていた。
静かに一歩一歩塔を登り始める。
階段と所々破壊されており、浮遊魔術を使って登っていく。
壁には焼けただれた跡があったり、古い血液の跡と思われる影がいくつもこびりついている。
まるで今にも叫び声が聞こえてきそうな塔内の状態にやりきれなさを感じる。
「なぜ、戦争になってしまったんだろう。ぼくにはアルシオンだけが悪いとはとても思えない。」神にも過ちがあぁるというのだろうか?
45階を超える頃、突然大きく広い空間に出る。
その空間もひどく荒らされていて、ひどい状態になっていた。
奥は少し高い寝台のようになっており、その寝台の上に古い血濡れの衣服のようなものが残っており、周囲に恐ろしい量の魔力が凝縮していた。
その奥に青黒く深く輝く大剣が一本突き刺さっている。
ゆっくり近づいていく。
しっかりと握って引き抜く、青白い魔力を纏ったその大剣はひき抜かれた。
同時に傍に縋り付いているエリアがつぶやき始める。
「その大剣は、我が主アルシオンです。」
驚いて、エリアに聞き返す。
「剣に姿を変えているのか。」
「いいえ、神々によって大剣の中に封じ込まれたのです。私はあの人を連れて行かなければならない。力を貸しなさいアルカテイルの王子よ・・・あなたにも相応な力が授けられるでしょう。」
エルシードは黙って考え込む。しゃべっているのはメルティゼロである。
「前回の天との大戦は、神の管理をすり抜けた種族、堕天使や私のような天使の一部、魔族そして虐げられた力なき人間たちを、戯れに殺戮し始めた亊から始まった…」
「本来は天界に逆らった堕天使のみを抹殺するためのものでしたが、いつの間にか地上を一掃して浄化するという目的にすり替わっていました。」
「そして我が主は天界と戦うことを決めたのです。神の勝手で、静かに短い生命を全うしようとしている多種族から、生を奪い去ってしまう。その無念を晴らすために立ち上がったのです。現在今の人間が生き残っているのは、我が主の苛烈な抵抗が生み出した血塗られた証なのです。」
ゼロは続ける。
「また、そう遠くない未来に天界は攻めてくる。その時のために、お前には黒き英雄になってもらいたいのだ。『神殺し』として、主の愛した世界を主に代わって守ってほしいのだ。もちろん私も一緒だ!アルシオンの・・・主の無念を晴らさず、私も生きていけないのだ。」
真っ青な瞳に涙をたたえて、ゼロはエルシードに懇願しているのだ。
あまりに愕然たる事実に絶望しながらももう逃げられないのだと感じていた。
傍で聞いているエルセフィアも涙をこぼしながら、震えて聞いている。
「わかった、生きている間に天界との大戦があったら、全力を尽くす覚悟はある。」
「申し訳ないが、そなたは18歳で成長が止まるのでそのつもりでいてもらいたい。
私も16歳で成長が止まるようにしてある。他の重要な兵士がいれば成長は止められるから、言ってくれれば処理しよう。」
「あ~、ずっと神と戦い続けるわけね・・・」
「もう少し登ってください。主の使っていた青い飛竜が眠っている。他にも数匹の竜やグリフォンがいるので役に立ててください。」
必要な戦力を確保し塔を後にした。
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同盟の交渉よりも、重大な事実と宿題を渡されてドアルネスに帰ったエルシードは、アスファに説明した。
「聞くんじゃなかった・・・でも、現実にエリアリーゼ様の体は確かに天使に変異していますし、無理にでも理解しなければいけないのでしょうね。」
アスファは頭を抱える。魔剣士たちは、自分たちの頭を整理するように、一様にうつむいて話し出す。
「まさか、これからは神様を相手に戦わないといけなくなるなんて、全く想像もできない・・・」
エルセフィアはいう。
「要は私たちが20歳前後で成長を止めてしまうかどうかです。神と戦う勇気のないものは、そのまま年齢を重ねれば、自分が生きている間に天魔大戦は起こらない可能性が高くなるでしょう。」
ランディア「よくわからないのは、神を殺さなければいけない理由だよ。」
それは、もう一度僕からお話しします。エルシードは目を閉じる。
「要は神様が絶対に正しいものであるということが幻想だったということです。むしろ我々が忌み嫌っていた、魔族の王が人間に慈愛を向けてくれていた事実。人間は神にとって虫けら同然だったという亊なんです。」
レシール「では、もう我々人間が、お互いにいがみ合っている場合ではないということですね・・・ドアルネスがどうとか、アルカテイルの復興のためにだとか・・・」
「そういうことですね・・・」
エルセフィアが口を開く。
「みんなより少し考える時間があったので、私の考えを言うね。もう、運命だと思うの。これからの私たちの仕事は、とにかく強くなる亊。このままでは何もかも届かない。大切な者も守れない。幸いにも成長を止めてもらえば時間だけはいくらでもあるわ。これからずっとこんな亊考えて、おびえて生きていかなきゃいけないのは辛いけど、知ってしまった私たち自身の責任。私は成長を止めていただく亊にしたわ。」
出来ましたら、ご意見・応援などいただければ幸いです。