すべてのはじまり
「わあぁぁぁ!宝石だー!」
街中でのんびりと果物を齧っていると唐突に現れた強面の人間に追われ、慌てて逃げ込んだ大きな洞穴の奥地にそれは存在した。
洞穴の地面に無造作に転がっている、身の丈程もある巨大な虹色の宝石、集落に持って帰ればしばらくはヒーロー扱いだろう、今年のパレードでやんややんやと崇めてもらえるかもしれない。どや顔しちゃう。
妖精は先ほどまで人間に追われていた事などすっかり忘れ、宝石に頬擦りしながらどや顔でどうやって持ち帰ろっかなぁ等と考えていると、突如宝石が虹色に光輝き始めた。
「おぉぉぉ?すっごい!きれい!」
妖精に危機感は無い。
『生体情報を確認、マスター登録を開始します』
「いえいっ、あいむますたー、やっちゃって!☆」
『マスター登録を完了しました、ダンジョンの最適化を実行します』
「どんどんぱふぱふーっ!」
更に光が増すと共に洞穴自体が大きく揺れ始め、地形がにゅるんにゅるんと縮み、途中入口のほうから人間の潰れるような悲鳴が響きつつもみるみるうちに石造りで粗末ではあるが通路や部屋、扉等が作られていく。
妖精ダンジョンの始まりである。
『初期セットアップが正常に完了しました』
「わーわー、ぱちぱちー」
不思議な光と共に妖精の目の前に古びた本が現れ、わくわくしつつそれを開くと本の中には文字がびつしりと、詰まってはいなかった。
子供向けの絵本のように大きな文字と挿し絵で分かりやすく、ダンジョンに必要な物事や、ダンジョンの所持ポイント、ダンジョンマスターのステータス、ダンジョンの情報等が書き記されていた。
ロアフレンドリーさは皆無だが極めてユーザーフレンドリー。妖精向けに宝石が必死に頑張った成果である。
妖精がぽちぽちと[はじめに]とかかれた項目に触れると最初にやるべきこととしてダンジョンの整備とモンスターの設置、罠の設置などが分かりやすく書かれているページが現れた。
まずはそこからダンジョンの整備を選択して……
「むむむ……わっかんない!!」
ダメであった、分かりやすくしたところで元がダンジョン管理用の制御装置、幼い妖精にとってはこれでも情報過多である。光と共にページに新たな文字が追加され、おまかせ機能が実装された。今後も宝石が必死に頑張る事が確定した瞬間である。妖精要らなくねとか言ってはいけない。
宝石の気持ちなど一切わっかんない妖精は良いものめっけたと満面の笑みでおまかせボタンをぺちぺちと叩いている。
宝石は無いはずの胃が痛み始めた気がした。
おまかせ機能が実行され、自動で(宝石が頑張って)ポイントに応じてダンジョンの地形が変化していく。宝石を安置するための宝石部屋、マスター用の個室や風呂、トイレ等の居住設備から、ボス部屋、簡易的な迷路、モンスター用の部屋をいくつか配置。
ボス部屋には猫、迷路にはネズミと小型のゴブリン、モンスター部屋には小さなうさぎが配備された。
通路には床や壁からトゲが出てくるスパイクトラップが多めに配置され、モンスター部屋には戦闘中に粘着力の高い網が飛んでくるトラップが配置されていく。
仕上げに一部に松明を設置して暗闇に目を慣らさせず、通路の随所に木の根を這わせて足場と視界を悪くして完成である。
『おまかせ機能によるダンジョン拡張が完了しました』
「すっごーい!」
宝石が頑張ってダンジョンを作っている側で、ポイントを消費してぽてちという異界のお菓子を取り寄せてぽりぽりと食べていた妖精も宝石の作業が終わった事に気付きわあいわあいと一緒に喜んでいる。
その後、[侵入者をやっつけたり撃退したらポイントが貰えるよ、貰ったポイントでダンジョンを大きくしたり色々な物を取り寄せたり出来るよ]ということをなんとか妖精に頑張って教え込み、ぐだぐだとしつつも妖精ダンジョンはなんとかダンジョンとして動き始めた。