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第二十三話 流星の運命

 気がつくと流星は、雲の上に横たわっていた。

 頭上には、蒼く透明な空が広がっている。


 「ハッ!」


 慌てて自分の手を見ると、人間の形だ。ホッとする。


(良かった……(ブチ)じゃねえ)


 流星の姿で安堵はしたものの、現世の時みたいな肉体ではないのも自覚する。どちらかと言えば、地獄にいた時と同じ感覚だ。そもそも現世の人間が、雲の上にいられる筈がない。


(やっぱ死んだんだな、俺……)


 氷黒と喧嘩した後、トラックに轢かれた時までは覚えている。

 結果として死んだらしい。あんな派手な轢かれ方では、仕方ない。


 光里が気になるものの、今はこの状況を受け入れるしかなかった。

 二本の足でしっかりと立ち、流星は辺りを見渡す。


(綺麗だな……)


 流星がいる雲は優雅に流れ、一時(ひととき)も同じ形を留めていない。遠くには金色に光り輝く豪勢な御殿があった。その手前にある池はハスの花が咲き誇り、一面に漂う芳しい香りが流星の心を落ちつかせる。


 今までの体験が遠く彼方に消え去りそうなほど、(おだ)やかで(さわ)やかな気分だ。薄汚れた街が住処だった流星は、こんな場所に来た経験がない。


 現世とも地獄とも違う、安らかで平和な世界。

 ここは正に、極楽だ。


 また直ぐ地獄に落とされないかと、キョロキョロしながら慎重に歩く。改めて眺めると、地獄どころか現世とも天と地ほどの差がある。こんな幸せな世界で暮らせるのは、認められた特権階級や上級国民だけなのだろう。


 だが流星にとっては、どこか居心地が悪い。

 その理由も、自分では分かっていた。



「あ、起きましたよ」

「良かった良かった」

「みんな来てくださ〜い」


 流星の存在に気付き、続々と天上人達が集まってきて流星を取り囲む。特務機関にいそうな人達や中学生ぐらいの子供達に、ペンギンもいる。(にこ)かな顔をする彼ら彼女らは口々に、流星に向けて祝いの言葉を述べ始めた。


「おめでとう!」


「おめでとう!」


「おめでとう」


「おめでとう」


「おめでとう」


「おめでとう!」


「めでたいなぁ」


「おめでっとさ~ん」


「クックゥ〜!」


「おめでとう」


「おめでとう」


「おめでとう」


「おめでとう」


「「おめでとう」」


 なぜか、別れた両親そっくりな二人もいる。


「ありがとう! ……て言うかボケェ!! どっかのアニメじゃねえんだぞ!」


 流星は怒りを爆発させ、囲む輪から出ようとした。

 この世界は不自然なほど綺麗すぎて、流星には縁遠い。

 流星は一刻も早く、ここから抜け出したかった。


 キャー!

 逃げろー!

 グワッグワッ!


 天上人達は流星の勢いに恐れ、口々に叫びながら逃げていく。以前も会ったどこかの王子が果敢に立ち向かってきたけれど、流星は一撃で吹っ飛ばした。


 鬼のような流星の立ち振る舞いにすっかり怯え、誰も寄って来なくなる。暴力反対の世界で生まれてきた天上人達は、流星みたいな無頼漢(ぶらいかん)に慣れていない。突然の来襲に、なす術がな かった。


「おい、釈迦の野郎、いるんだろぉ? 出てこぉおおい!」


 でてこぉおーーーい

 でてこぉ〜〜い


 流星が発する大声はこだまして、極楽中に響き渡る。 

 お釈迦様ならば、どうせ何処かで聞いている筈だ。


「いい加減出てこねえと、あの屋敷をぶっ壊すぞ!」


 ぶっこわすぞぉおーー

 ぶっこわすぞぉ〜〜


「やれやれ、相変わらず(うるさい)い奴じゃのう」


 金色御殿の方から、小さな雲に乗ってお釈迦様がやってきた。

 相変わらず威厳たっぷりな顔付きだ。普通の人なら平伏する。

 だが流星は一歩も怯まず、背丈も変わらないお釈迦様を睨み付けた。


「よくぞ、ここまでたどり着いた。褒めて遣わす。お前なら、必ずやり遂げると信じておった。ついては……」


 バチィン!!


「イタッ!!!」


 流星は、お釈迦様が喋り終える前に張り手をかました。

 お釈迦様はまともに顔面に受け、ぶっ倒れる。

 こんな狼藉者(ろうぜきもの)は、極楽にいない。


「痛い、痛い! ブッタな! 親父にもぶたれた事ないのに!」

「泣き入れてんじゃねぇ! てめえ、俺がどれだけ大変だったか知ってんだろ!」


 今までの理不尽な出来事を思い出し、流星はいきり立った。


「まあ、その件は多少遺憾に思うが、今後関係各者と連絡を取り合い前向きに検討をして対処しようかと……」


 バシッ!


「イタタッ!!」


 煮え切らない態度のお釈迦様に、またしても流星は張り手する。


「二度もブッタな!」

「うるせえよ! それより、あの後どうなったんだ? 教えろよ!」


 流星は、それだけが気になっていた。

 この世界に住むよりも、光里の下に行きたかった。

 せめて光里が元気なのか、それだけは知りたい。


「ああ、光里のことか。多分、うまくやってるぞ。うん」

「本当か? 知らねえんじゃないのか?」

「……はい、嘘ついてました。イタッ!!」


 業を煮やした流星は、お釈迦様を蹴り飛ばす。流星のローキックをもろに受けたお釈迦様はたまらず崩れ落ち、弁慶の泣き所を押さえてのたうち回る。


「痛いよ〜 何をするのじゃ! 折角、お主のステータスがこんなになったのに」


【ステータス】

名前   :吉良里 (きらり)流星(りゅうせい)

徳    :★★★★★

イケメン力:★★★★★

洞察力  :★★★★★

統率力  :★★★★★

コミュ力 :★★★★★

腕力   :★★★★★


特殊能力 :

アイテム :


「ほら、満点だぞ! 久しぶりじゃ。何でもできるぞ! さすが儂が見込んだ男だけある」

「おうそうか、ありがとよ。んじゃ、元に戻してもらえるか?」

「いや、それは無理」


 痛みを堪えながらも即答である。何でもできるは嘘だったらしい。


「ち、使えねえな。じゃあ俺の代わりにブチが復活したとかは、ねえのか?」


 ルーシーとタカシのように、流星が消えてもブチがいるかも知れない。

 流星より、ブチが好きだった光里だ。それなら未だ救われる。


「いや、あいつ(ブチ)も撃たれて死んでおる。ほら、そこにおるじゃろ」


 お釈迦様の指差した先には、光里の母と戯れるブチの姿があった。


「オバさん!」

「あら、リュウちゃん? リュウちゃんも此処に来ちゃったの?」

「そうなんだ。ごめん、光里を助けたんだけど……」

「良いのよ。頑張ったのね。でも光里は独りぼっちなのね……」

「ごめん……」

 クーン、クーン


 オバさんが暗い顔をするので、ブチは一生懸命慰める。

 やっと立ち上がったお釈迦様も、神妙な面持ちだ。


 たまらず流星は、お釈迦様の胸ぐらを掴んで脅しにかかる。

 お釈迦様は先ほどの暴力を思い出し、震え上がった。


「ヒッ!」

「じゃあこういうのはどうだ? お前なら出来るだろ?」


 そう言って流星は、お釈迦様の耳元でごにょごにょと喋る。

 その内容を聞き、お釈迦様の顔色がサッと変わった。


「い、いやそれは……最上級の神様まで稟議を上げて決裁を通さねば無理かと……100万光年以上も先にいる上司達に光速ファックス送って最終的に承認印を押した決裁書を受け取る必要があるから、全部で5億年はかかると思われ……特に緑のタヌキと和歌山パンダが難関なのじゃ……それに最も大事なチャイニーズピープルも……」


 お釈迦様はおどおどして、言い訳がましく言う。

 また暴力を振るわれたらかなわんと、思っているようだ。

 だがそんな相手の都合は、一向に聞く気のない流星であった。


「ふざけんなぁ!! 神様なんだろ! DXでも何でもやって早くしろ! デラックスじゃねえぞ、デジタルトランスフォーメーションだ! 俺も意味分かんねえけど!」

「あ、あわわ……」


 流星の迫力にお釈迦様も気圧される。


「お釈迦様、私からもお願いします。どうか娘を助けて下さい」


 オバさんの真摯な願いに、お釈迦様も断りづらくなる。


「……分かったよ、やれば良いんだろ。やりますよ」

「ありがとうございます!」

「話が分かるな、釈迦!」

 ワンワン!!


 お釈迦様の言葉に、二人と一匹は喜んだ。

 だがどうも、お釈迦様には陰りがある。


「ふう、何でこんな奴が……」

「あぁあ? 何か言ったか?」

「い、いえ。じゃあ他の神様に話を通してくるから、その辺で待っとれ」

「いや、俺も行く。信用できねえからな」


 今までの所業を見ていたら、当然とも言える。


「うーむ…… こいつを屋敷に入れたら何と言われるか…… だが仕方あるまい」


 あれだけ徳を積まれたら、極楽から追い出す理由もない。

 再び暴力を振るわれては、かなわない。

 八方塞がりのお釈迦様は、流星の言葉を聞くしか無かった。


「仲良く行こうぜ!」

「う、うむむ……」


 お釈迦様はブツクサ言いつつも、上機嫌で気楽に肩を組んでくる流星を引き連れて、彼方にある御殿に向かって行った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 毎回楽しく拝読させて頂いております。 チャイニーズピープルに、にやにやが止まりません。時事ネタ最高! 次回、最終話ですか。流星くんともお別れか…。ちょっと寂しい。 ラスト、頑張って下さい。 …
[良い点] いやあぁぁあああ!!!! (歓喜) もうう、なんてことでしょう。勢い、丁寧なのにすごい……!! 最初は神妙な面持ちだったんですよ。 ある意味、前回ラストも大絶叫だったので。 なのに今回は…
[良い点] 『ブッタな! 親父にもぶたれた事ないのに!』 オマエはアムロ・レイかッ!?(昭和ネタ炸裂!) そう言えばあのキャラクターも、情けないクセに神がかっていたな……。 然も、お釈迦様が『ブッタね…
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