表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/25

第十七話 ヒカリ奪還

 タカシのアドバイス通り、そこの土は柔らかくブロック塀の下も難なく掘れる。ブチ(リュウセイ)は鼻ゴフゴフしつつガンガン掘り進め、遂に家の外まで繋がった。


(おっしゃぁああ!!!)

 

 必死にくぐり外に出ると、ブルブルっと体をふり、泥を落とす。

 だが全然落ちず、真っ黒なままだ。これ以上は仕方ない。


 振り向くと、タカシの周りに天女たちが集まっている。

 どうやら、時間切れらしい。


『リュウセイ君、後はお願いするよ。僕のご主人、頼りなくてごめんね。あ、そうだ。黒幕は氷黒(ひぐろ)っていうヤクザみたいなおじさんだよ。きっとリュウセイ君なら見れば分かると思う。気を付けて』


『ヒグロ? そいつは、何で光里を襲うんだ?』

『ごめん、そこは聞いてなかった』

『しゃあねえな。ありがとよ、タカシ!』

『じゃあね。向こうで待ってるよ』


 こうしてタカシは、天に召されて行った。


 一方ブチ(リュウセイ)は、ヒカリを探す旅に出る。

 夜も遅く、人通りも少ない。人目を気にせず、ブチ(リュウセイ)は疾走した。


(おっしゃぁああ!! ヒカリィイ、どこだぁあ?)


 まずはクンクンと、道路に(こす)り付けるようにして鼻センサーを最大にする。道の一つにヒカリの香りが、ほのかに続いていた。ここが川山田駅に向かう毎日の通勤経路のようだ。


(待ってろよ!)


 最近運動不足の鬱憤を晴らすかの如く、ブチは全力で走りまくる。血が(たぎ)り興奮するのは、本能らしい。喧嘩好きなブチ(リュウセイ)にとって、こんな場面は大好きだ。


 匂いを辿って閑静な住宅街を進んで行き、人気の無い小さな商店街を出ると、大通りの横断歩道にやって来た。ここを渡れば、駅まで一直線で行ける。


(ん?)


 対面の信号近くに大きな白いバンが停車しており、数人たむろしていた。良く見えないが、誰かを囲んでいるようだ。行き交う車の音に混じり、声が聞こえる。


「い、嫌です」

「まあ、そう言わず。話だけでも」

「そうそう、お姉さん綺麗だし。ちょっとだけ」

「や、止めてください」


 ヒカリだ。見つけた!

 信号が青になるや否や、ブチは真っ直ぐ駆けて突進する。


 ワンぅんん!!


(待てぇええ!!! ヒカリから離れろ!!)


 ブチ(リュウセイ)の向かう先には、無理やりバンに乗せられそうな光里と怪しい男三人がいた。格好はチャラい二十代で、タカシの言うヤクザみたいなオヤジはいない。


 初め男共は野良犬のブチ(リュウセイ)に無関心だったが、止まらず猛進して牙を剥くブチ(リュウセイ)の姿に、狼狽し始めた。大きくジャンプして、ヒカリを掴んでいる男の腕を噛む。


「痛ぇ! うわ、何だこの犬?」

「おい、やめろ、こら!」

「おれ、犬苦手なんだぁ!」


 ワゥウ!! ワンワン!!


「え? ブチ?」


 真っ黒で汚くても、光里はブチと分かったようだ。

 男達に反撃の間を与えることなく服を噛み切ったりスネを噛むと、たちまち悲鳴が上がる。乱闘騒ぎに周りの民家も、何かが起きていると気付く。明かりがつき、ベランダから様子を伺う人もいた。


 ワンワン!!


 振り払われても何度も立ち向かうブチ(リュウセイ)に、男共は手を焼いた。


 やがて駅の方から、警官が歩いてきた。助かった、これなら一安心だ。人間の頃は目の敵だったお巡りさんが、これほど頼もしく見えたことは無い。


「ヤベェ、一旦引き上げるぞ」

「うっす」

「畜生、覚えていやがれ!」


 三人の男は、慌ててバンに乗り込み走り去って行った。


(フウ、何とかやったぜ……)


、暴れまくったブチ(リュウセイ)も、息が切れそうだ。

 ハアハアと舌を出して、呼吸を整える。


 一難去って光里は気が緩んだのか、ぺたんと座り込む。ブチが近寄って慰めるようにほっぺたをペロペロ舐めると、光里の目に涙が浮かんだ。


「ブチ……」


 泥で汚れているにも関わらず、光里はブチをギュッと強く抱きしめる。彼女の心臓の鼓動は、まだ早い。やはり相当ショックだったらしい。


「怖かったよぉお。ありがとう、ブチ!!」


(ふ〜、何とか間に合ってよかった)


 タカシのおかげで、光里を付け狙う奴らがいることはわかった。

 今日は偶々うまくいったが、今後は対策を考えねばならない。


「大丈夫ですか?」


 騒ぎを聞きつけて来た警官は、がっしりした体格の男性と小柄な女性二人だった。


「いえ、なんか急に男の人達に話しかけられて……」

「この犬は? 野良犬?」


 男の警官は、不審そうにブチ(リュウセイ)を見る。紐も付いてないから明らかに怪しく見える。


「あ、私の犬なんです。すいません、紐外れてて」

「じゃあ、特に問題はないんですね」

「はい。あ、いえ、男の人達に無理やり車に乗せられそうになったんです……」

「さっきの車ね。交番で話を聞いた方が良い?」


 女性警官の方は、事情が飲み込めているようだ。


「いえ、大丈夫です」


 説明下手な光里は、行っても話せる自信が無かった。初めて会った相手だし、特徴も良く覚えていない。光里に声をかけて来たのも偶々だろうし、これ以上関わりたくなかった。


「そう。じゃあ巡回を多くしておきます。気をつけて」

「ありがとうございます!」

 ワン!

 

 光里は二人に深々とおじぎをして、ブチと一緒に帰って行った。


「ブチ、ありがと〜 でも何で来れたの?」


 帰り道、少し落ち着いた光里は不思議そうにブチに聞く。


 ワゥ?


 聞こえないフリをして、ブチ(リュウセイ)は道端の草を食う。


「ま、良いか。とにかくありがとう。帰ったら体きれいに洗ってあげるね」


 ワン!


(細えことは言いっこなしよ)


 あの穴は今後も使える。黙ることに決めたブチであった。


 ❖   ❖   ❖   ❖   ❖   ❖   ❖


『大活躍だったようじゃの』

『まあな。タカシのおかげだけどな』

『光里みたいな子が不幸になるのは、儂も耐えられん。仮にお前ら二人が死んで極楽に来ても、嬉しくはない』

『そりゃそうだ』

『ほら、ステータスじゃ』


【ステータス】

名前   :ブチ

徳    :★★★★☆

イケメン力:★★★☆☆

洞察力  :★★★☆☆

統率力  :★★★☆☆

コミュ力 :★★★☆☆

腕力   :★★★★☆


特殊能力 :

アイテム :ナイルの炎



『おお、遂にあと一つかよ!』

『長かったが、だいぶ頑張ったの。現世に送った甲斐があったと言うものじゃ』


 問題児の流星が何とかここまで来て、お釈迦様はホッとしている。


『そういや、タカシは元気か?』

『ああ、今はゆっくり楽しく過ごしておる。ショタ好きの天女達に囲まれて、ウハウハじゃ。『これじゃ、入院してた頃と変わらないよ』とか言っとるわ』

『マジかよ!』


 少し羨ましくなる。


『お前ももう直ぐじゃ。イケメンだから天女達もほっとかんだろう』

『いやあ、それほどでも』


 そう言いつつもリュウセイの顔はニヤついている。ヒカリが心配ではあるが、それはそれ、これはこれ。残り一つでやる気が出てきたリュウセイであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] よしっ! リュウセイ頑張った! 偉いッ! 一時的に窮地を脱したとはいえ油断は禁物だ。 残り★ひとつとはいえ、きっちり悪を倒して余分にポイントを稼ぐべきと愚考します。 なぜなら、あのお釈迦様…
[良い点] ブチ、格好いい……! タカシからのお別れのシーンは、台詞にじんとしました。そこはかとない友情が感じられて。追跡からの防衛、奪還の様子も勢いがあって、ハラハラしつつ引き込まれました。 ヒカ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ