表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の青空  作者: 彼方遥陽
僕の青空
8/49

8.瑞樹





部活にいく友人たちと玄関までむかった所で携帯を忘れたことに気がついた。

1人教室に戻るとまだ人はパラパラと残っている。

机の中にある携帯をカバンにいれ、さて帰ろうかと思った時、窓際の席の吉野に目が止まった。

物凄く真剣に本を見ていて、時折嬉しそうに小さく笑っていた。

傍目から見れば少し気持ち悪い光景だろう。

だが、自分は興味の方が勝った。


クラスメイトからはガリ勉認定されている吉野の生態はよくわからない。

ガリ勉キャラだけれど、面白くてノリがいいらしく、男子達でカラオケに行く時は絶対といっていいほどに参加するらしい。

けれど、それに女子が混ざると参加率は低く、途中で抜けることもしばしばとか。

女子の中ではソッチの気があるんじゃないかと噂まである。


そろそろと怖いもの見たさで後ろから近づくと、机の上に置かれていたのはお菓子作りの本だった。

しかも、どちらかといえば上級者向けの手が込んだ物ばかり載っている手引きだ。


「何か作るの?」


「うぉ!びっくりした。友永か」


驚きはしたが、嫌がっている様子はないので、前の席に腰掛ける。


「あ、これ好き。これも美味しいよ」


「そうだろうね。キラキラしててどれも美味そうだ」


「何か作るんでしょ?」


「いや、美味しそうだから買ってみた」


ん?

聞き間違えただろうか。


反応に困る私に彼は再び同じワードを被せてくる。


「本屋行ったら特集コーナーがあってさ。美味しそうだなぁって思って買ってみたんだ」


どうやら聞き間違いではなかったらしい。

しかも、目を爛々とさせて子どもみたいに宣うのだ。

もう、堪えられるはずがなかった。


「ぶっ、あははは!」


「え?なんか面白いこといった?」


「いや、もう面白いっていうか」


どうツッコむべきか悩みつつ笑いが止まらない。

このなかなかいない天然キャラは面白すぎる。


「珍しい組み合わせだな」


どこからか俊哉さんが戻ってきた。

そういえば今自分が座っているのは彼の席だ。


「あ、ごめんね俊さん」


「いいよ、そのままで。何見てんの?」


隣の椅子を引っ張り、彼はそこに腰をおろした。

机の上の本を覗き込み、予想外の本だったのかどこか悩ましい顔をしている。


「なんか真剣に読んでるなーって覗き込んだらコレでね。しかも上級者向けの本なんだもん。気になって、何か作るの?って聞いたら、“いや、美味しそうだから買ってみた”って・・・」


再び笑いがこみ上げまた止まらなくなる。

俊哉さんは納得したようで笑いをこらえながら吉野を見た。


「普通、本じゃなくて食べられるお菓子買うんじゃないのか?」


「いや、こんな手が込んだのこの辺じゃ売ってないし、本ならいっぱい見られるし」


どこかズレている発言に俊哉さんと顔を見合わせ笑ってしまう。


「吉野ってこんなに面白いキャラだと思わなかった」


「始終こんなんだよ。落ち着いた優等生に見せといて、実は何本かネジが飛んでる」


「そこまでいうか」


吉野はムスリと不貞た。

それでも申し訳ないが面白いものは面白いのだ。


「そういえば珍しく残ってるけど、どうした?」


「突然たこ焼き食べたくてさ。これから行こう」


「ケーキの本見てたのにたこ焼きって・・・」


「行かないなら帰る」


「まったまった!行くって!」


カバンを持って立ち上がろうとした吉野を俊哉さんは押さえた。

笑い過ぎたお詫びのつもりで、一つ提案をしてみよう。


「ねぇ、どれ食べたいの?」


「たこ焼き屋は、」


「違う、違うケーキ!一番上の姉が製菓でてるから道具が結構あるんだ。姉に教えて貰って作ってた時期あるから、作れるかも」


不機嫌だった吉野の顔が子どものようにキラキラしだした。

彼はパラパラと本をめくったと思うと指をさす。

イチゴとたっぷりのバタークリームとカスタードを使った可愛らしいケーキだ。


「フレジェね。これなら作れるよ。写真みたいに綺麗にはいかないだろうけど」


「マジで!?」


「作ってもいいけど、思いっきりケーキだし、どうやって持ってこようかな」


男子にケーキを持ってこようものなら色んな憶測を呼ぶ。

吉野もそれを察したようで2人で頭を悩ます。


「・・・友永明日それ作れる?」


俊哉さんの突然の問いに驚いた。


「作れるけど、明日土曜日だよ」


「そんで、明後日二人とも暇?」


なんだろう。

よくわからず首を傾げる。

吉野も同じようできょとんとしている。

すると、俊哉さんはいたずらっ子のように歯を見せて笑った。


「日曜、暇ならうちにこないか?」


「え?まぁ、暇だけどいいの?」


「大丈夫、大丈夫。日曜は親も弟も出掛けるんだ。妹みたいのがきてるかもしれないけど、いい子だから」


「私はいいけど、吉野は?」


吉野はパッと嬉しそうな顔をしたと思うとまた悩ましげな顔をした。


「・・・俊、一つ聞きたい」


「なに?」


「妹みたいのって百瀬じゃないよな?」


ここまで苦渋な顔をするかと思うほど彼は渋い顔をしている。


なるほど、彼は男好きでも女嫌いでもないのだ。

紗香みたいなタイプのキラキラとしていて賑やかなギャル系女子が苦手らしい。


そんなクラスメイトの一面を知ったこの日、吉野の奢りでたこ焼きを食べて家路についたのでした。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ