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僕の青空  作者: 彼方遥陽
僕の青空
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7.俊哉





一年前、入学したばかりの自分には沢山の仲間がいた。

中学から同じ高校へ入学する連中が多かったのもある。

仲のいい連中と何の部活をしたいか話したり、新しくできた友人達とこれから予定されている行事について楽しく話をしたりした。

クラスで盛り上がっている所には絶対といっていいほど、自分がいて、リーダーではないけど、だいたいその脇にいる面白い奴。

それが自分のポジションだった。


けれど、今の自分は全くといっていいほどあの頃の自分と重ならない。




* * *




「お前、1ヶ月以上たったけどどうだ?」


日誌を置きに職員室までやってくると、担任は徐ろにそんな問いかけをしてきた。

そろそろ聞かれるだろうな、と思っていたせいもあり、驚きはしない。


「先生って、何気に熱血教師タイプだよね」


「そうでもない。ただ面倒見のいい優しい先生様だ」


自分でよく言うよ。

そう思うがあながち間違いではないのであえてツッコミはしなかった。


「吉野と仲がいいので、そこそこ楽しくやってますよ。クラスの連中も分け隔てなく絡んでくれてるし」


担任はホッとしたように表情を和らげる。

色々と心配をかけているんだろう。


「たださ、一年前の自分とは全然違う。お調子者の結城俊哉はもういなくて、時折2年の友達と会うと言われる。落ち着いたなって。それって褒め言葉なのか、別の何かなのかよくわかんないんだ」


弱音になるのかもしれない。

ポソリと漏らしてしまったその言葉に担任は少し驚き、眉間に皺を寄せた。

担任が何か考える時の仕草だ。


「ま、そんな感じでした。それじゃ戻ります」


「結城」


軽く頭をさげると、名前を呼ばれる。

担任を見るとまだ眉間の皺は深かった。


「確かに去年の入学した頃のお前と今のお前は違う。でもどっちもお前だろ?2年の連中はお前の変化についていけてないだけで、落ち着いたなっていうのは戸惑いの言葉なのかもしれない」


「はぁ」


「んー上手くいえないな。とりあえずさ、お前は他の連中よりも一つ人生経験を多く積んだわけだ。良くも悪くもなんだろうけど、それがあったから今がある。今は悪いことばかりか?」


「いいえ」


「なら、今を楽しめ」


答えにはなっていないかもしれない。

だけど、悪い答えではなかった。


「先生、ありがと」


お礼をいって、頭を下げ、すぐに踵を返した。

なんとなく嬉しくて、こそばゆい感じが恥ずかしくて逃げるように職員室を出た。


教室に戻るとまだパラパラと人が残っている。

カバンを取りに自分の席にいくと、友永が椅子に座り、きょとんとするタカを見ながら楽しそうに笑っていた。


「珍しい組み合わせだな」


「あ、ごめんね俊さん」


「いいよ、そのままで。何見てんの?」


隣の椅子を引っ張って、そこに腰をおろす。

机の上の本を覗き込むと、お菓子の作り方がのっているような料理本だった。


「なんか真剣に読んでるなーって覗き込んだらコレでね。しかも上級者向けの本なんだもん。気になって、何か作るの?って聞いたら、“いや、美味しそうだから買ってみた”って・・・」


何か思い出したように友永は笑い出した。

この1ヶ月の付き合いだが、多分タカのことだ。

凄い真剣な顔で友永がいったセリフを宣ったのだろう。


「普通、本じゃなくて食べられるお菓子買うんじゃないのか?」


「いや、こんな手が込んだのこの辺じゃ売ってないし、本ならいっぱい見られるし」


どこかややずれてるタカの発言に友永と顔を見合わせ笑い出す。


「吉野ってこんなに面白いキャラだと思わなかった」


「始終こんなんだよ。落ち着いた優等生に見せといて、実は何本かネジが飛んでる」


「そこまでいうか」


ムスリとするタカの様子に笑いはなかなか止まらない。

タカは個性的だ。

仲が良くなるにつれ、それがじわじわとわかってくる。


「そういえば珍しく残ってるけど、どうした?」


「突然たこ焼き食べたくてさ。これから行こう」


「ケーキの本見てたのにたこ焼きって・・・」


「行かないなら帰る」


「まったまった!行くって!」


カバンを持って立ち上がろうとしたタカを押さえた。

タカはややご機嫌斜めだ。


「ねぇ、どれ食べたいの?」


「たこ焼き屋は、」


「違う、違うケーキ!一番上の姉が製菓でてるから道具が結構あるんだ。姉に教えて貰って作ってた時期あるから、作れるかも」


不機嫌だったタカの顔がパッと明るくなる。

食べたいらしいケーキの写真を指差した。


「フレジェね。これなら作れるよ。写真みたいに綺麗にはいかないだろうけど」


「マジで!?」


「作ってもいいけど、思いっきりケーキだし、どうやって持ってこようかな」


学校にケーキなんてもってきた日には取り合いになる上に男子へとなると、色んな憶測を呼ぶ。

タカもそれを察したのか渋い顔をした。

どうしてやるのがいいのか、頭を巡らすと、一つの提案を思いつく。


「・・・友永明日それ作れる?」


「作れるけど、明日土曜日だよ」


「そんで、明後日二人とも暇?」


キョトンとする二人にニッと笑った。

担任が言うように今を楽しめばいいんだ。


「日曜、暇ならうちにこないか?」





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