6.紗香
高校を入学してすぐにテストがあるなんて誰が思うだろう。
入学試験はギリギリだった私としては苦行以外の何よりでもなかった。
「ねぇ、しゅんちゃん!どうだった!?」
やっとテストを終えた昼休み。
幼なじみの俊哉のもとに駆け寄ると彼は眉間に深い皺を寄せた。
「一教科毎に聞いてくるな。そしてうるさい」
同じクラスになって一週間。
彼の態度はいつもこんな感じだ。
昔から適当にあしらわれることが多いのであまり気にはしないけど、たまには優しくしてほしいと思う。
「冷たいー。ね、瑞樹もそう思うでしょ?」
中学からの友達の友永瑞樹にそう言えば彼女は苦笑いを浮かべる。
「俊さんの言うように少し賑やかすぎるよ、紗香。やっと終わったし、結城にもテストどうだったか聞いてくれば?」
「名案だね!とも君にも聞いてこよう!瑞樹もついてきてー」
瑞樹の提案に3組にいる俊哉の弟の智哉の所へ足をむける。
少しは嫉妬してくれないかなっとチラリと振り返れば、瑞樹に向けて片手を顔の前に出していた。
なんとなく、それに嫌な気持ちを覚える。
私ってば逆に嫉妬してどうするんだろう。
どこかもやもやした気持ちで3組につくと、智哉の姿はなかった。
逆に自分達のクラスの6組に向かったと言われてまたクラスへ戻る。
「あ、とも君!」
教室の中から出てきた智哉に抱き付くと彼は優しく抱きとめてくれる。
同じ幼なじみでも、俊哉はこうはしてくれない。
「どうした?探してた?」
「探してた!テストどうだったのかなって!」
「兄さんと違うからそこそこの点じゃないかな。難しかったよね」
「ねぇー!でも、とも君そういいながらいつも点いいじゃない。瑞樹もそれなりに出来たって言うし、私だけバカだよ」
落ち込む私の頭を智哉は優しく撫でてくれた。
その手は大きくて、とても安心できる。
「相変わらず仲いいね」
「いいだろー」
「あんまり羨ましくないかな」
えー、と非難するがこれはよく言われる話だ。
智哉と私は幼なじみとしては仲が良すぎるって。
「兄さん、1週間たったけど瑞樹のこと気がついた?」
「ぜーんぜん。身長かなり伸びたし、刈り上げてた髪は今じゃこれだけ伸びたしね」
「言っちゃえばいいのに」
「後輩がクラスメイトっていうのも難でしょ。先輩の復帰祝いを兼ねて夏頃にでもOB・OG会を今年やるっていうし、その時にでもバラすよ。それまで伏せといて」
俊哉は中学時代バスケ部で、瑞樹はその後輩になる。
瑞樹は中3で急激に身長が伸びたし、短かった髪は今は肩より少し長いくらいだ。
1年ぶりじゃなかなかわからないかもしれない。
「しゅんしゅん!」
大きな声に教室に視線を向ける。
俊哉の所で茶髪の男の子が騒いでいた。
「あれ?うちのクラスの大倉だ」
「なんか楽しそう。盛り上がってるね」
俊哉と仲がよくなったらしい吉野とその友達らしい大倉君が騒いでいる。
俊哉は我関せずでお弁当を開きながら笑っていた。
「・・・ずるい!」
「へ?何が?」
「私もご飯食べる!」
智哉に手を振り、さっさと教室に入る。
きょとんとしていた智哉も手を振ってくれて、瑞樹はゆっくりと後ろを追ってきてくれた。
ずるいのは勿論ご飯じゃない。
俊哉は私にあんなに楽しそうに笑ってくれない。
私にも笑ってくれればいいのに。
この願いは彼に届くんだろうか。