5.俊哉
入学式の次の日から数日はオリエンテーション。
一週間目には一年生のみ学力テストがあった。
一教科40分の計5教科で、成績には関係なく、教員が目安にするだけのテストだ。
休憩5分の鬼のような詰め込みテストは去年受けたしサボらせてほしいというと、却下され、手を抜いたら数学の先生が集まる教科室の掃除をさせると言われて渋々受けた。
「ねぇ、しゅんちゃん!どうだった!?」
昼休み。
午前、全ての教科をやり終え、疲労感にぐったりしていると、キーンと反響しそうなほど大きな声と勢いに身体を反らす。
「一教科毎に聞いてくるな。そしてうるさい」
同じクラスになって一週間。
紗香は何かにつけ声をかけてくる上に、周囲の輪に自分を入れようと躍起になっていた。
周囲もそれに便乗して、色々と質問責めにされ、それをのらりくらりと適当にかわした。
事故当時のことやその後の話なんかも知りたがる子もおり、少し嫌な気持ちになったのは秘密だ。
「冷たいー。ね、瑞樹もそう思うでしょ?」
そう振られて紗香の中学からの友人だという友永瑞樹は困ったように笑った。
「俊さんの言うように少し賑やかすぎるよ、紗香。やっと終わったし、結城にもテストどうだったか聞いてくれば?」
「名案だね!とも君にも聞いてこよう!瑞樹もついてきてー」
友永を引っ張るように手を引いて紗香は弟の智哉のいるクラスにむかっていく。
友永に向けて片手を顔の前ですまん、と出すと彼女は小さく笑ってくれた。
友永は智哉のことを結城と呼んでいるらしく、区別するために俊さんと呼ぶ。
彼女の中ではどこまでいっても自分は智哉の兄貴らしい。
上手く空気を読んでくれるとてもいい子だ。
「俊、これどうやった?」
後ろから声をかけられ振り返ると、吉野隆雄が数学の問題用紙を出し、頭を悩ましていた。
「これは多分こう・・・」
「あ、なるほどね。難しく考えちゃったよ。答えはあってるけど、これをこうさ・・・」
「・・・むしろそんな公式しらんわ」
出席順の関係で席が後ろのタカと何かにつけセットとなる機会が多くあった。
なんとなく性格が合うタカと一緒にいる機会が増えている。
「俊、頭いいよね」
「暇だったからリハビリがてら結構勉強してたんだ。でも、世界史は壊滅的」
「ホント?俺いい本持ってるよ。“血塗られた世界”って殺戮の歴史を中心にかかれたやつ。地味に面白いから貸すよ」
「なんでそんなマニアックな・・・あれ、智哉。どうした?」
パンを齧っていると、入り口でウロウロする弟の智哉がいた。
智哉は自分を見つけると嬉しそうに駆け寄ってくる。
「兄さん、これ母さんが忘れたでしょって」
大きな弁当箱が目の前に置かれた。
「悪いな。紗香に押し付けてもよかったのに」
「紗香じゃひっくり返すかもしれないでしょ。折角の弁当なのにさ」
「ありがと。紗香に会えたか?そっちのクラス行ったはずだけど」
「え!すれ違ったかな?戻るね、じゃ!」
慌ただしく智哉は戻っていく。
途中で男女の隔てなく声をかけられ、一部の女子が顔を赤らめている所をみると、相変わらず人気者のようだ。
「青い春だねぇ」
にゅっと机の横から顔をだした人物に一瞬ビクリとする。
自分の反応とは異なり、瞬時にその頭にタカはチョップをいれた。
「イッテ!相変わらず酷いな、たかっちゃんは」
「気持ち悪い。6組まで何しにきた」
「え?この一週間でクラスメイトとお友達になったから、他のクラスに開拓の旅に来たんだけど、イッテー!」
また1発頭にチョップをいれる。
やり取りからしてどうやら仲はいいらしい。
「どちらさん?」
「同中の腐れ縁」
「どーも、3組の大倉康弘です。隣町の下中からきてんの俺とたかっちゃんだけなんだよね。よろしく!」
ニカッと笑う姿は昔の自分と少し重なった。
今こそこんなんだが、高校入学したころは自分はお調子者に部類されていた。
「あの女子人気急上昇イケメン結城智哉のお友達さん、お名前教えてー」
智哉と友達か。
知らない人間から見ればそう見えるのかもしれない。
「結城俊哉。3組なら智哉と同じクラスだよな?どっかから聞いてるかもしれないけど、アイツの兄貴だよ。よろしく」
一瞬、彼は何か考えるように止まった。
本当に一瞬の出来事で、次の瞬間にはまたニカッと歯を見せて笑う。
「しゅんしゅん!」
「はい?」
「今日からしゅんしゅんはしゅんしゅんね!」
高らかにそう宣言すると、持ってきたコンビニの袋を広げた。
「こいつ、昔からこんなんだから。ここで、食べだすなよ!」
もくもくと頬袋を作りながら彼はおにぎりを食べだした。
ただのお調子者ではないらしい。
二人のやり取りを眺めながら、智哉がもってきてくれた弁当の風呂敷を広げた。