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僕の青空  作者: 彼方遥陽
運命の人
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9.紗香 運命の人(完)





その日のうちに久慈さんからのメールがあり、モデルを了承した後日には親に電話でモデルの件のことの詳細と今後衣装合わせをしたり、リハーサルなどで久慈さんのお店に来てもらう事もあるという話をしてくれた。

そしてその際はきちんと責任持って送り迎えをしてくれること、心配であれば同乗者として女性スタッフを連れて行くとまで言ってくれた。

両親は久慈さんの事を信用してくれたらしく、女性スタッフの件は断り、色々経験させて欲しいと話をしていた。

それが終わってから少し電話で話をしたが、長々とするわけにはいかない。


少し名残惜しい気がして切るに切れないでいると、また電話をしてもいいかと問われた。

真意を探る間もなく、仕事の話や将来ホテル関係の仕事につくなら色々参考に出来る話を聞かせてくれると言った。

お願いしますと答えれば明るい声で任せてと笑ってくれた。


季節は過ぎていく。

体育祭や修学旅行、もちろんテストもいくつか終えた1月。

またブライダルフェアでドレスを着た。

結婚前に白いドレスは婚期が遅れるというジンクスがあるらしく、着せてもらったのはピンク色の可愛いフワフワしたカラードレスだった。

去年のは淡いピンク色で、花柄ドレスだったので同じピンクでもまた違った雰囲気だった。


この時の新郎もまた久慈さんがしてくれた。

以前、ウェディングフェアでモデルをする事が何度かあったという彼は慣れているので、慣れない私の為にやってくれたようだった。

彼の気遣いも優しさも物凄く嬉しくて天にも登るような気持ちでこの日を終えた。


もう彼との関わりはこれでなくなってしまうんだと家に帰ってから悲しくなったけれど、本当は一年前のあの時で終わりだったのだと心を納得させた。


だけど、そうはならなかった。

あれからも時々彼はメールをくれる。

くだらない内容ばかりで、私が返す内容も同じような下らない話ばかりだ。

でも、繋がっていられることが私の支えだった。




* * *




高校3年の12月、指定校推薦での大学の合格が決まった。

合格が決まるまではバイトの日数を落としていたものの、合格が決まるや否や車の免許講習とバイト漬けの日々を送っていた。


1月のブライダルフェアは初めてスタッフとして参加して、それを最後にホテルのバイトを終えることにした。

飲食店のバイトも2月いっぱいで終え、今後は大学の近くへと引っ越すのでそれに向けて準備を少しずつ始めていた。


俊哉達はセンター試験、二次試験と乗り切り、3月の合格発表を迎えた。

何も心配していなかった俊哉は勿論予定通り合格し、吉野と瑞樹は目指していた大学からランクを少し落として同じ公立大学に合格した。

そして智哉は関東にある有名私立大学に入学が決まった。


「遠くに行っちゃうんだね」


智哉の部屋のドアが空いていたので中にいる彼に声をかけた。

荷造りをしていた彼は驚いて立ち上がる。

2人だけで話をするなんていつ以来だろう。

それくらい顔を合わせる時間すらなくなっていた。


「紗香・・・」


目が合う。

私を見据える彼は久しぶりに真っ直ぐ私を見てくれた気がする。


「ごめん」


「なんで謝るの?」


「だって、あの時いいだけカッコつけた癖に顔を合わせた時にどんな顔をしたらいいかわからなくて、結局距離が出来たまま今まで過ごしてた・・・」


「別に気にしてないからいいよ」


「俺は気にしてる。本当にごめん」


智哉はその場で頭を下げる。

前の彼なら私の元に駆け寄ってきた事だろう。

けれど今は近寄ってくることはない。

この距離が今の私達に合った距離なのだ。


「お互い、やりたいことやってこれから頑張ろう。一人で向こうに行っちゃうの大変だろうけど、応援してるから」


顔を上げた彼は何か言おうと口を開いたが、音は発されることなく終わった。

一度目が伏せられ、挙げられたとき彼は優しげに笑っていた。


「・・・握手して貰ってもいい?」


「うん」


手を差し出せば彼は入り口までやってきて手を握った。

さよなら。

そんな言葉が頭を過ぎる。


幼馴染みにも戻れなかった気がする。

だけど、友人になりきれなければ兄妹でもない。


この握手で何が変わるかわからない。

だけど、何かの終止符であることは確かだろう。


「元気でね」


「そっちも」


手が離れた。

もう智哉の事を気にする事のない日々がやってくるだろう。

それが私の選択だった。

だから、強く私は歩き出す。

自分の人生を歩んでいく為に。




* * *




大学生になった。

とれるだけ授業をとったので毎日それに終われている。


この時から久慈さんとの関係が変わった。

久慈さんの会社で私は専属のブライダルモデルになったのだ。

あちこちでやっているブライダルフェアにでたり、会社が参加するイベントにスタッフとして入ったりと楽しむ日々だ。


バスと地下鉄を乗り継げば行ける距離だけれど、行きはそうやって向かっても帰りは毎回送ってくれる。

雇用者と被用者の関係だからなのかと思うが、時々彼も私のことを気にしてくれてるんじゃないかって勘違いすることもある。


10歳も年上の男性なのだ。

こんな子どもを相手するはずがない。

だから私は今も気持ちを出さずに蓋をすることにしている。





* * *




学校終わりに入っている飲食店のバイトを終えて帰宅するともうすぐ日が変わるところだった。


明日も朝が早いし早く風呂に入って寝ようとした時、携帯が鳴る。

表示された名前に思わず笑みを溢した。


「もしもし、久慈さん?どうしました?」


『少しだけ付き合って貰ってもいいかい?』


そんな問いかけに了承してここ最近のあれこれを話した。

内容はないけれど、私はこの時間がとても好きだ。


『あっ、日付変わったね。誕生日おめでとう』


その言葉に驚いた。

もしかしなくても私の誕生日に合わせて連絡をくれたのだろう。

心がとても暖かくなる。


「ほんとだ・・・すっかり忘れてました。覚えててくれたんですね。ありがとうございます」


『うん、だって俺は、』


そして彼は口籠る。

沈黙のまま次の言葉を待った。


『・・・来年の誕生日、一緒に出かけないかい?出来ることなら前日からその日を迎えれるようにしたいかな』


「それって・・・」


一瞬、願望が口に出かけて噤んだ。

そんなに都合よく考えていいわけがない。


「来年は成人だし、みんなでお祝いしてくれるんですか?」


『・・・俺と二人だけは嫌かな?』


こんな事を冗談で言われるだろうか。

一年も先の話を今から予約をしようなんて普通ならそういうことだと考えてしまう。


「・・・期待しちゃいますよ」


『えっ?あっ、えっと、』


電話の向こうで慌てている姿が目に浮かぶ。

仕事ではしっかり者の敏腕副社長だけれど、プライベートでは少しおっちょこちょいで可愛らしい。


『・・・待っててくれるだろうか。いや、待ってて欲しいって表現はおかしいけど・・・でも、もし期待してくれるなら待ってて。俺は10歳も年上だから、どうしても大人としての責任を持ちたい。だから、君が大人になったその日に俺の気持ちを聞いてくれるだろうか?』


それはもう答えでしかなかった。

だから私も彼に答えを伝えたい。


「私、出会った時からずっと気になる人がいるんです。でも、私は子どもだから相手にされないってずっと思ってきました。だから・・・いつまでも待てます」


「それって・・・」


「一年後に答え合わせしませんか?」




いつか聞いた小説の話のように近くにいたり、目が合うだけで胸が高鳴る。

手が触れ合えばそれは尚の事。

少し先の未来、その手を取り合える時。

きっと私は最上の幸せを得る事が出来るはずだ。








運命の人…fin.






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