4.春一
「結城の様子、どうだった?」
そう、養護教諭の佐藤梢に尋ねると彼女は深々と溜息をついた。
「三浦先生、今からそんなんだと心臓いくつあっても足りませんよ」
佐藤はズズッともう温くなったであろうココアをあたかも熱いものを啜るように飲みながら眉間に皺を寄せる。
彼女の言うことは最もだった。
昨年の事故で留年となった生徒を受け持つことになった。
教員としてそこそこ経験年数があり、歳が彼等とそう遠くないという理由で自分が担任に抜擢された。
しっかりとしてなんでもテキパキできるように見せているが、自分はハッキリ言ってビビりの心配性だ。
それなのにこんな大役の責任に押しつぶされそうだった。
自分のサポートとして、年配の島田先生が副担任、そして養護教諭の佐藤が入ることになっているが、定年間近の島田先生の手を煩わせるのも憚られるために佐藤に相談する率がかなり高いといえる。
「あの子が登校期間になってから暫く保健室で預かって毎日課題やらせてましたけど、ごく普通の男子高校生ですよ。確かに去年とは印象が違いますけど、あの様子なら上手くやってけるんじゃないですか?どっから聞きつけたのか2年の子達も彼の様子見に来てましたし、普通に会話してましたよ」
「だよなぁ」
「今日は朝から鬱っぽかったのは否めませんが、状況的に大なり小なりそういうことあるでしょう。むしろ教室ではどうだったんですか?」
そう問われて言葉に詰まる。
今回、クラス編成の際にちょっとしたテコ入れがあった。
一つ下の弟とは別のクラスにすること、そして親しいであろう幼なじみと同じクラスにすること、だ。
「・・・幼なじみの百瀬と同じクラスにしたのは失敗だったかもしれない」
「こちらの気遣いが裏目にでる事もあるでしょーよ」
「でも、百瀬を介してクラスメイトの何人かと話をしてたし、悪くはない選択だったと思う」
自分を励ますように言えば間髪入れず、佐藤梢に一刀両断された。
「それはエゴっていうんですよ、エゴ。エゴイズムの押し付けです」
「・・・そういうな」
「私はもう結城のことは本人任せでいいと思いますよ。むしろ結城弟の方が心配ですし、その他にも生徒達の事前情報的に目を向けるべき子は沢山います」
「確かにな・・・」
結城に目を向けがちだが、同じようにその弟のメンタルにも注意すべきだろう。
それに自分のクラスだけで言っても中学で虐められていた子や怪我で推薦取り消しの末にうちの学校を選んだ子など色々いる。
「やっと、普段の三浦春一ですね」
「はい?」
「眉間に皺を寄せて真剣に悩んでるとこ。へにゃへにゃとして慌ててるのは貴方らしくないですよ」
眉間にデコピンを食らう。
気がつくと目の前で空になっていたマグカップに再びココアが注がれていた。
「それ飲んだらさっさと戻ってください。まだやることあるんでしょう?」
佐藤は自分のカップにもまたココアを注ぎ、必死に冷まそうと息を吹きかけている。
佐藤なりの激励を受け取るように二杯目のココアに口をつけた。