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僕の青空  作者: 彼方遥陽
僕の青空
3/49

3.俊哉





入学式はサボらせて下さい。


そう新しい担任に言えば、少し逡巡して保健室待機を命じた。

在校生とは少し遅れてやってくる一つ年下の新入生達を窓から眺めみる。

薄く開けられた窓からはそよそよと春の暖かさを感じる。

とはいっても雪が残っているので肌寒さは否めない。


「若いっていいねぇ」


「どこのオッサンよ」


軽く頭を叩かれ、顔を上げれば目の前にマグカップが置かれた。


「暇なら啜ってなさい」


渡されたマグカップにはココアが入っている。

養護教諭の佐藤先生は一生懸命マグカップに息を吹きかけていた。


「・・・先生甘党だよね」


「私コーヒー飲めないのよ」


「・・・どーも」


甘党なだけではなく、猫舌とは大変なことだ。

一生懸命冷まそうとしている人を他所にズズッとココアを啜る。

ぼーっと窓の外をまた眺めていると、よく知った顔が門をこえてきた。


それぞれの両親に付き添われやってきた弟と幼なじみだ。


真新しい制服に着られているような2人の姿はとても眩しく見える。


ふと、幼なじみが視線を横に流した。

目が合うよりも先にさっと身を隠す。


「結城君、これやってみてくれない?」


「あ、はいはいって、保健室待機って今日も課題やんの?」


「あったり前じゃん。ほら、やったやった」


言われるがままに机に着く。

在校生の登校が始まった数日前から課題をやりに保健室に通っていた。

簡単すぎるとボヤいてからまだ習っていないような問題を出してくるようになり、最近は四苦八苦してる。

深々と溜息をつき、シャープペンの芯をカチカチと出した。




* * *




ざわざわとする廊下を担任と歩く。

担任は去年、数学の教科担当の先生だった。

二、三度授業を受けただけだったが、厳しいが面白い先生であったのはよく覚えている。


「着いたぞ」


返事もする間も無く、担任はドアをあけた。

バッと視線が集まるが、想定内だ。

担任が指を指した席にさっさと座った。


「さっきも簡単に自己紹介したが、担任の三浦春一だ。有名な俳優と名前は似てるが、性格はこんなんだ。俺はそこそこ厳しいから気をつけろ」


つらつらとお決まりな自己紹介を言い終えいくつか質問を受け付けると、生徒それぞれに自己紹介をするよう指示を出した。


緊張した新入生の面々がそれぞれ自己紹介をしていく。


「百瀬紗香です。西中出身です」


入った時、気がつかなかったが、よく知った声が聞こえてきた。

緊張しているのかしどろもどろの自己紹介に思わず苦笑を零す。


弟とはクラスを外してくれとだけ伝えてあった。

出来る限りの譲歩はするといってくれたお陰か弟がクラスにいないことだけは聞いていた。

クラスメイトの名簿を見たいか問われた時、首を横に振ったのは自分だが、まさか幼なじみが同じクラスだとは思わなかった。

チラリ、と担任をみる。

少し窺うような視線を感じ、溜息をついた。

その様子に間違いだったと感じたようで担任はすっと目を伏せた。

住所を見れば、幼なじみだとわかるだろう。

学校側からの配慮か。

余計なことをと思うが、彼女のことは言わなかった自分が悪い。


「結城」


紗香の後、数人自己紹介を終えると、担任が自分の名を呼んだ。

その場に立ち上がると場が急に静かになる。

担任と入ってきた生徒がきになるのは仕方ないことだろう。

入学式にも参加していない上に、陰気臭く長く伸ばした前髪で片目を隠した男なんて明らかに問題を抱えてますといっているようなもんだ。


「結城俊哉です。西中出身ですが、皆さんより一つ歳が上になります」


ざわりと教室が騒めく。


「僕の名前を知ってる人もいるでしょう。去年の春に事故に合い、一年のリハビリの末に皆さんと同じクラスに席を置くことになりました。歳こそ違いますが、どうぞよろしくお願いします」


にこりと笑い、言葉を締める。

やや暫くざわつきはおさまらなかったが、担任の一声で次の人が自己紹介をやっと始めることとなった。


暫くは檻の中の動物と一緒だ。


そう思うもどうにも抗えない。

これから苦痛の学校生活が始まる。





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