一介の剣客
極太刀。
それは見事な太刀であった。
刃幅35㎝、刃長さ135㎝。
戦国時代から脈々と受け継がれる太刀術。
十回り太い太刀を極太刀と呼ぶ。
鉄砲の弾をガード、弓矢をガードしながら戦える極太刀は、間合いに入れば馬の首を跳ね、と同時に騎手も切り上げたという。
時は流れ、2054年。
その極太刀術を継承している家がある。
前田家。
その前田家嫡男、前田宗二 (まえだそうし)。
豪腕、ガタイ、申し分無し。
身長185、体重120キロ、跳躍力、握力、オリンピック並み。
大学を卒業したばかりである。
現在16歳。
この時代は頭が良ければいくらでも早く進学出来る。
サラサラの黒髪で、目鼻立ちは日本人離れしている。
鍛練を毎日欠かさず、師範を目指し、そして、先日父親に勝利し、免許皆伝を得た。
やっとこれからという時に、核戦争が起きた。
日本には核は落ちなかったが、そのせいで大量の移民が押し寄せ、治安は激化。
日本以外の都市は壊滅し、人間が住める国は日本とロシアの一部だけとなった。
日本の国は総力戦として、外国人勢力と戦ったが、多勢に無勢。
日本の軍隊、警察は実質的に敗北し、あるにはあるが、外国のマフィア、日本のヤクザのドンパチの後片付けが仕事となった。
軍事施設も、国会も、外国の各国の軍人崩れに選挙されたと一時期報じられた。
今では不自然な程、そのニュースはやらない。
だが、民衆は大切にされた。
何せ働くのが嫌な連中ばかりだからだ。
働くのが好きな民衆は大切にしなくては楽に生活が出来ない。
道場もその一つとされ、閉鎖はされなかった。
上のマフィアはともかく、チンピラ相手の護身術として極太刀術は人気があった。
日本警察は日本国民に限り、廃刀令を廃止したからだ。
急激な治安悪化に対する応急処置である。
つまり、自分の身は自分で守ってくださいという突き放しだ。
父親が負ければ、その家族は食い物にされるのが当たり前になった。
だからどこの家庭でも用心棒を雇うのが通例に。
道場にも雇いたいというハガキ、客、手紙が大量に届くように。
前田宗二は受けないと突っぱねていた。
前田宗二の哲学は自分だけに命を掛ける、そういうモノだったから。
しかし、悪人達は気が気でない。
いつ雇われてしまうか分からない者、強いと解っている者を放っておく理由はない。
ガトリング、マシンガン、を持って道場をいきなり撃ちまくり。
宗二は友人の伝で、マシンガンを手に入れて、訓練もしていた。
極太刀とマシンガンとの相性は抜群だった。
次第にあの道場には関わるなというお触れが悪者達の間で取り決められ、道場は平穏な日々を送っていた。
大量の用心棒を排出する傍ら、訓練を惜しまない宗二。
自分の役目は用心棒の排出、そう思っていた。
悪人達の戦国時代も終わり、ロシアのマフィアがトップとなり、闊歩し出した頃、その日本支部、ロシアアンマフィアトップの女が道場に挨拶に来た。
宗二がお帰りください、そう言うと、女は一人の若い少女を後ろから呼び出し、少女の両肩に手を添えながら話し出した。
宗二は訳が解らない様子。
女の説明によれば、この少女は大変貴重な特殊能力を持っていて、どこの国でも喉から手が出る程欲しい存在だと言う。
そこで、宗二に護衛依頼をしたいと言う。
宗二は自分達で守れば確実なのでは?と聞いたが、女は首を振った。
女によれば、大きな組織になればなる程裏切りが怖いと言うことだった。
宗二は能力について聞いた。
女は部下らを全員外に出すと、耳元で囁いた。
星読みと易読みの能力であると。
少女は勉強をしていないにも関わらず、何故かそれが出来るのだという。
そしてそれは、単に未来を予知出来るだけでなく、改善出来るという。
ロシアマフィアが日本支部でトップになれたのも、この少女の力だという。
宗二は信じられないという表情を浮かべた。
女はそれを見透かして、少女を呼び、何か読んでくれと日本語で言った。
少女は日本語で答えた。
宗二が日本を破壊する人、そして新しい国を作る人を最期まで守る、と。
少女は引き続き言った。
あなたの体は特別、星で出来ているから、硬い、柔らかい、強い、あなたは特別、と。
宗二が頭をかく。
女は引き受けるなら報酬とし、ドル札でと隣の紙袋5袋を顎で指す。
宗二は自分が引き受けなかったらどうする、いや、世界はどうなる?と聞いた。
少女は答えた。
暗闇は晴れない、人類は滅ぶ、生き物も死ぬ、全部一からやり直し、と。
宗二は何故俺なんだ?と聞いた。
少女は答えた。
あなた以外には無理だから、と。
少女の瞳は澄んだ青色、黒い部分は青と黒が混ざり合い、深い青、その瞳は瞬きをせずに、宗二を飲み込む。
宗二は少女の瞳の中に銀河を見た気がした。
女がおい!と声をかけた。
宗二はハッとし、頭を振った。
宗二は女性に飢えていた、しかし、治安の関係上、結婚は諦めていた。
宗二は条件を出した。
自分の家を守ること、自分の大切な友人、門下生を守ること、自分の家族を守ること、その代わりそのお金は要らないこと。
女は了解した、契約成立だと言い残し、紙袋を部下に運ばせ、去った。
少女は金髪の青い瞳。
かなり美人だ。
だが、浮世離れしてる雰囲気があり、なんというか、この世界に定着していないような、朝起きたら居なくなっているような、そんな少女だった。
宗二はとにかく今日はもう眠ると言い、寝室に向かった。
少女はスーツケースをゴロゴロ転がし、着いてくる。
宗二は空いている部屋をスパンと開け、お前の部屋だと言い残し、隣の部屋に入った。
開けた障子を見つめる少女。
暫く立っていたが、やがてゴロゴロと入って、閉じた。
翌朝。
少女は昼過ぎまで寝ていた。
少女がこしこし起きると、ご飯がお盆で隣に置いてあった。
少女は上手に箸を使い、食べた。
少女が内弟子らに台所に案内され、水所に食器を浮かべた。
内弟子らのお兄さんらは基本薄着で、筋肉隆々。
お兄さんらは皆可愛い、可愛いと撫で撫でしてくれた。
撫で撫でされながらモシャモシャと昼飯のおかずだけ食べる。
宗二がやって来た。
内弟子らの背筋が伸びる。
宗二がいただきますと言った。
内弟子らの一斉ないただきますに少女は喉を詰まらせ、内弟子らから麦茶を頂き、事なきを得た。
内弟子らの稽古を宗二と宗二の父親とが先生となり、見て、指導して回る。
宗二は16歳だが、ガタイはゴツく20後半のノっている肉体をしている。
その為、誰も馬鹿になんてしないし、その強さを疑う者は一人としていない。
少女の名前は、ハーシャル・ミヒリル・ボトロフ。
宗二は面倒な名前だと言った。
少女はむっとなったが少し考え、ハルと呼んでと言った。
宗二は解った、ハルと返事をした。
そんなある日、深夜、星と、羅針盤を見ていたハルは来る!と言い、宗二の部屋にいきなり入った。
宗二はエロ本ごと、布団で、自身を隠した。
宗二はばか野郎!と怒ったが、ハルは無視し、来る!来る!と言うばかり。
宗二は、ため息を付き、落ち着け、何が来るんだ?ちゃんと説明しろと言った。
ハルは落ち着いて、深呼吸した後、言った。
日本にアメリカ軍の生き残りが来る、と。
日本のトップを狙い、争いになり、あのお姉さんは殺される、と。
宗二は直ぐにその事を電話線で電話した。
衛星は全て戦争で落とされたから、現在は電話線、手紙しか連絡手段はない。
女は来たか、そこを離れろ、ハーシャルを連れて逃げろと言って、電話を切った。
宗二は電気をつけて回り、内弟子らを全員いきなり破門にし、困惑する内弟子らに、すまないと言うと、門を閉めた。
内弟子らは皆目で会話すると、開けておいた塀の壁穴から中に侵入し、床下に這っていき隠しておいた特注のチタンセラミック加工の鎧をバケツリレーで外へ運び、それを装置する。
兜、首、上半身、腹、太もも、藁敷きブーツ。
そして、特注の極太刀8本。
持ち手は重く、剣先も重く、手前と、中間は軽い仕組み。
切れ味は最高。
戦国時代のソレ。
内弟子8人、庭に正座し、宗二が出発しようとし、気づく。
宗二はため息をし、ニヤっと笑った。
宗二は好きにしろと言い、白月 (しらつき)を持つ。
白月とは、現代科学の推移を持って日本科学鍛冶職人家、三國家で作った3D金属融合精製プリンターの名前アキュラスで、一から特注したチタン、金、銅、真鉄、隕鉄、月の砂、をブラウンガス、プラズマで溶かし、鍛え、溶かし、鍛え続けた一品。
本来鍛え続けた金属は黒い色になるモノだが、この刃は見事なまでの白色になった。
白色になった原因は現在研究中。
月の光に照らされた時はライト代わりになるくらい光る。
これも原因は不明。
白月の切れ味は言わずもがな、驚くべきは耐久性。
万力、高火力、マシンガン、ロケットランチャー、水と砂のウォーターカッター、あらゆるモノで三國家が実験したが、傷が付かない。
その後いくら同じモノを作ろうと過程を真似ても出来なかった。
黒い色のまあまあな刀が出来ていくだけ。
三國家はこう結論付けた。
刀にも魂が入る事があるのではないか?と。
周波数を調べたら白月の周波数は遥かに高いことが解った。
原因は不明。
そんな白月はまだ不思議な現象がある。
宗二意外が白月を持つと、具合が悪くなるのだ。
目眩、吐き気、悪寒、風邪、どれでも良いが必ず体調を崩す。
宗二だけが何ともない。
刀は主人を選ぶという、古来からの言い伝えも、あながち間違いではないのかも知れない。
宗二は白月を持つと鎧を来た体の背中に白月を納めた。
今の時代、自分の身は自分で守らねばならない。
道場の側には比較的大きな運動公園がある。
3000m陸上競技のグラウンドの中心。
そこに二人の影。
ハーシャルと男一人。
ロシアマフィアのトップの女の首がハーシャルの目の前に転がった。
ハーシャルは泣きながら目を瞑る。
男はハーシャルの目を手で隠す。
男は出てこい!と叫ぶ。
周囲の軍隊はクスクス笑いながらスナイプで男の回りの土を掘る。
男は慌てて少女を盾にする。
ピタリと攻撃は止み、静寂が続く。
男は小声でハーシャルにすまないと言い、ハーシャルはいえと答えた。
スナイプ班からの連絡がない。
アメリカ軍のリーダーはまさかと思ったが、時既に遅し。
意外な事に、間合いに潜られてはお手上げでは話にならないと、白兵戦も訓練していた、宗二ら。
外は風、中は暴風、奥義は常に内にあり。
前田家の家訓である。
アメリカ軍は近接戦闘により、一人一人やられていた。
スナイプが居なければ、極太刀術に敵う通り無し。
マシンガンを跳ね返しながら走り、切り伏せる。
全員殺した。
ハーシャルが易を読み、もう暫くは安全だと言った。
皆と道場に帰った。
1ヶ月後、アメリカ軍を撃退したという噂を聞きつけ、日本政府、公安が直に来た。
是非、学校教育の教師となって欲しいという。
町の治安は未だロシアマフィアが仕切っている。
ロシアマフィアが警察の役割をしてくれていて、大変助かっている実情と、実は日本警察と大変仲良くやっているという事を伝え、是非、教育という観点から、貴殿の内弟子らのどなたでも良いから、生意気な子供らに葛を入れて欲しいという。
宗二はどういう名目でその仕事をやれば良いか分からないと言った。
ロシア軍指導部、教官という名目ではどうか?と、言ってくるので、一応内弟子らに聞いてからという話になった。
一番優しい30歳の前田優介が行く事になった。
宗二は頑張れよと言い、ハルはファイトと言った。
優介は直立し、極太刀術の広告という大役!必ず成し遂げますと意気揚々と出発していった。
学校のグラウンド。
極太刀術という武術はアメリカ軍を全滅させたという事で、大人の見学者らも大勢いた。
眉唾物、噂だろ、大げさ、嘘嘘という声が聞こえて来る。
高校生の生徒らも皆酷い態度だ。
木で出来た極太刀を肩に背負い、優介は、では、生徒全員対私一人で構いませんという。
ただし、腕、足のどれかは必ず折ると明言。
その代わり頭は狙わないから、そちらは好きな攻撃をしても良いと。
生徒らは顔を真っ赤にして、やってやる!ふざけんな!ぶち殺すと意気揚々。
優介は、皆若くて覇気がある殺気だなあ、ホクホクと微笑み。
さあ、いよいよスタートの合図がかかる。
生徒らは男女65人。
いずれもスポーツは出来、武術経験者揃い。
女生徒の一人が話しかけ、せいぜい後悔する事ね?と言った。
優介はホクホク笑顔で、覇気は素晴らしい、しかし、覇気がこもった殺気を出すようじゃまだ若い、と言った。
女生徒は首を傾げた。
男生徒の一人は優介の実力に気付き始めていた。
何故誰も気にしないのか。
優介が片手で持つ極太刀の木は、誰がどう見ても片手で持てる重さではない筈なのに。
合図の鐘が鳴った。
勇猛果敢な青年らがうおーと叫びながら一斉に走り出す。
優介はふすーと吐いたかと思えば、何と前進しながら、回転、横に両手フルスイング。
生徒ら8人の塊が横へ、ズ レ た。
そこで、刀に直接当たった3人、リタイア決定。
特殊なポリマーの服を着ていなければ、恐らく脊椎まで折れていた筈だ。
一歩踏み出すごとに、荒ぶるハリケーン。
男生徒は、こんなの、どうやって踏み込めば良いんだよとガクブル。
そう。
勇気を出し、台風の目の中に入らなくては何も始まらない。
が、それが出来れば苦労はしない。
これが、極太刀術。
剛力任せ、シンプル、しかし、シンプル故に強い。
女生徒はおしっこをもらし、尻餅。
大量の死体もどきが散らばる惨状。
最初に生意気を言った女生徒に近寄る優介。
大丈夫?と手を伸ばす。
女生徒は歯をガチガチと震わせながら、睨みつけ、このままで済むと思わないでね!と言った。
優介はにこやかに、そんなの僕達にとっては日常だよ、怖いけど、怖くないよ?と微笑み。
女生徒がまだ睨むので、優介は手を引っ込め、また最初の定位置へ。
定位置へ戻る途中、泣き叫び、転がり続ける生徒らを避けながら歩く。
65名中重症30、骨折程度15、残りは逃亡か、沈黙。
優介を案内した女体育教師がおずおず、これにて授業を終わります、解散、救護班、お願いしますと言った。
待機していた救護班により、次々理科室へ運ばれ、待機していた医者らに処置を受ける。
優介はやり過ぎでは?と女体育教師からおずおず言われた。
優介は大丈夫ですよ、殺す程痛めてはいませんからとあっけらかん。
それから、優介の体育の授業には、怯えて傍観していた生徒、逃亡した生徒らがおずおずと稽古をしにやって来た。
まずは基礎体力作り。
特に指懸垂をやらせる優介は鬼教官と呼ばれた。
優介に負けた生徒らは全く来なくなった生徒も居れば、ますますグレた生徒や、刀でいきなり斬りかかった生徒もいた。
刀で斬りかかった生徒は散々避けられた後に、指一本で胸を強く押され、気絶。
大動脈が変形しており、手術。
優介は正当防衛が認められ、悠々と教官として、教えていた。
ある生徒が先生の師匠を知りたいと言ったことがきっかけとなり、師匠を見たい、ついでに乱取りならぬ、乱切りも見たいという生徒らの熱い要望を、宗二に伝えた。
宗二はいいよと言った。
優介は喜んだ。
沢山の生徒の前で自分が無様に負ければ、生徒らに、何か深いモノが残る筈だと確信していた。
そして、優介と宗二の乱切りが始まった。
大勢の生徒の親、野次馬も集まった。
優介は何度も、何度も、宗二に立ち向かう。
宗二は意を汲み、全力で弾く。
宗二に全力で弾かれては、態勢そのものが崩れ、無様に見える。
それでも、何度も、何度も、優介は立ち向かう。
息が切れ、膝がガクガクでも、涎をすする体力が無くても。
宗二は静かに無惨に弾く、涼しく弾く。
優介の全体重の攻撃を、優介の体ごと跳ね返す。
それがどんな怪力が可能としているか、訓練を受けた生徒らは全員凍り付く。
優介の木剣が飛んだ、離してしまったのだ。
優介は息を切らしながら、泥だらけの全身を震わせ、綺麗なお辞儀をし、参りましたと言った。
宗二は優介を木剣で、貫く真似をした後、お辞儀をし、去って行った。
拍手も起こらない。
あまりに無惨なモノだったから。
それに最後のアレは何なのと周囲はブーイング。
優介は黙れ!と一喝。
優介は説明をし始めた。
戦いとは、試合ではない。
負けたら止めを刺される、当たり前の事。
負けたら次は無い、それが当たり前で、その気概を忘れない為に、ああやって止めの真似をするのだと。
周囲は黙ってしまった。
確かにその通りなのだ、敵を生かす理由などありはしない。
奪う、殺す気概のない、スポーツチャンバラなど、訓練になりはしない。
普段から奪うことに慣れておかなければ、実践では役には立たない。
殺す真似だけでも、普段からやっておかなくてはならないのだ。
優介はこれが現場だ、これが実践だ、そして今の実践が、実力差がある戦いだ。
実力差があっても、奇跡は起きない、自分が奮い立つしか道は無いのだと。
優介は生徒らに言い聞かせた。
優介のこの教えは優介の人気を不動にした。
優介もまた、目指す者だと、決して頂点ではないと、上には上が居る、高みはまだある、階段は長く、遥かに長く、全く見えないのだと。
優介をいつの間にか応援していた悪ガキら、悪親達、皆で優介を胴上げした。
勝ってないのにやめてくれという優介の申し出は却下され、結構な時間胴上げは続いた。
宗二は寂しく隅っこで着替えて帰った。
それから半年後、優介は教育が楽しくて仕方がない立派な教官となっていた。
教官として、人格者の才能が開花したのだ。
そんなある日、極太刀術等何の役にも立たない事を証明してやると、マシンガンを持った新入生らが、グラウンドに入ってきた。
12人。
優介はニコニコ。
不良学生らはこれが見えないのかとマシンガンを振り、ゴムはゴムでも模擬戦使用のゴムだ!目に当たれば脳ミソまで貫通するぞ!怖いなら今の内に謝れ!と叫ぶ。
優介はキョトンとした顔になり、ふっと笑顔になり、早く撃つなら撃てば良いと言い、立ち上がる。
柄の鍔を持ち、ガードしながら近づく優介。
不良学生らは近づく優介に来るなとマシンガンを振るが、ずんずん近づく優介に対して上等!と発砲。
木剣であるから柔らかい為、衝撃は思う程無し、ずんずん近づく優介。
不良学生らは愕然とする。
半身ならば、すっぽり剣の幅に体が入り、弾が当たらない。
ならばと足を狙うが、極太刀の剣先は真四角、足も横歩き、全く当たらない。
鉄壁。
そしてー。
優介は背中腰から模擬戦用の拳銃を取り出し、撃つ。
足を撃たれ、沈んでいく不良ら。
卑怯だぞ!拳銃なんかありかと叫ぶ不良らに対し、優介は不良の一人の口に拳銃を突っ込み、マガジンを下に落とすと同時にトリガー空音を何回も響かせ、気絶させた。
優介は微笑み、良かったら君達にも教えるよ、是非カリキュラムに参加してねと言った。
定位置に戻って行き、いつもと同じ授業が始まり、不良らはすごすご帰った。
生徒らは改めて極太刀術の凄さを思い知った。
戦車の大砲や、ロケットランチャーでもない限り、無敵だと。
優介はまずは、体を鍛えて、筋肉で体重を増やす事、特に指の力と、手首の力が重要だと教えた。
そしてまた指懸垂。
しかし、生徒らは真面目にしていた。
優介の教官としての質の高さは有名になり、宗二の耳にも届くようになった。
宗二には敵わなくても、優介には敵いそうという輩がこの頃から出てくるようになり、優介に対する道場破りが頻発するように。
優介も優しそうだという事が裏目に出た。
だが、それは誤った認識だったと、後悔する事になる。
優介は奪う覚悟が出来ている側だった。
事、戦いに関しては止めのフリまでやる徹底ぶり。
血だらけの木剣、グラウンドは、悪人の血で染まった。
悪人の過半数は一生病院生活か、一生障害が残るだろう。
鬼。
学校に噂が流れる、優介は鬼だと。
しかし、また別の噂も流れる。
優介が鬼ならば、優介より強い宗二は何だ?と。
鬼神という事で落ち着いた。
ある夜。
ブラジル、タイ、インドネシアの軍の生き残りが日本にやって来るという星読みがなされた。
その中にはギャング達も大勢居て、人数も数千人だという。
三国家の現当主、三國義香 (みくによしか)21歳は既に準備は終えているというのを、宗二は電話で確認をした。
放射能で汚染されている土地を捨て、楽土、日本。
放射能除去細菌装置を海域に撒かれ、海が綺麗な楽園、日本。
外国からの生き残りが目指し、押し掛けて来る。
来るなとは、言えない。
が。
支配される気は毛頭無い。
宗二はチンピラ、誘拐、婦女暴行から、ハルを守って来た。
優介の努力も相まって、宗二は会長になり、小さな道場は、大きなビルへと変貌していた。
屈強な男達が訓練する様は圧巻である。
ロシアと日本が手を組み、日本を発展させてきた、警察組織も一度解体され、また再建された。
一般人に混じった悪人程厄介な者は居ない。
宗二はネットに繋がっていないパソコンを開き、来るであろう、要警戒人物、組織を見ていく。
人食い族まで居るようだ。
宗二はため息をつき、コーヒーを飲んだ。
手首には、黒い鋼の広い腕輪。
宗二19歳。
肉体は以前とは逆に痩せていた。
古代の肉体改良方、練り込みという作業を会得し、筋肉組織を一度肥大させ、それを丹念に特殊な運動、ストレッチを行う事で、セーターを編み込むように、縮小化に成功。
宗二の肉体は、マシンガン、ショットガンを至近距離で撃たれなければ、致命傷には至らない。
ハルからはいい感じと誉められた。
彼らは堂々とやってきた。
まずは麻薬汚染を進める、人脈作りである。
しかし、麻薬犬、麻薬感知ロボットが完全に普及しており、容易ではない事が解ると、今度は人身売買、売春をしようとした。
だが、人身売買は見つかれば即死刑、売春は見つかれば即逮捕、お金のやり取りは全て電子決済、項目があり、自分の行動と項目が合致しない場合、容疑が掛けられる仕組みに、慌てふためいた。
スラム、戦争地域を日本で作るしかないと、武器が沢山載った小船を日本の陸へ上げた瞬間、違法行為となり、取り囲む部隊。
その部隊は極太刀を皆構えていた。
内弟子一番弟子、前田宗吾 (まえだそうご)隊長率いる部隊。
宗吾はスピーカーで投降せよと叫ぶ。
持ち込んだ武器を手に取り、戦う意志を見せる悪人ら。
宗吾は仕方無し、突撃!と叫ぶ。
日本刀使いはマシンガンを使わないという思い込み。
鉄壁ガードからマシンガン攻撃ではたまらない。
あっという間に圧倒され、足や腕に空いた穴に苦しみながら、囲まれた。
二人を残し、全員その場で撃ち殺された。
二人は手厚く保護され、お金を渡され、母国へ帰された。
それから一切その国から悪者らはやって来ない。
鬼ヶ島。
日本はいつしかそう呼ばれるようになった。
しかし、ロシア人もあわよくば日本人より偉いのだぞと、圧をかけてくる。
黄色の猿共がと。
鬼神、宗二を知らないのか?と知っているロシア人は哀れみ、笑う。
大抵は内弟子に負け、止めを刺され、帰されるのだが、希に、本当に恵まれたセンスにより、内弟子に勝つ者が居る。
宗二が呼ばれる。
宗二がため息をつき、のっしのっしと道場へ歩く。
ロシア人が内弟子をマウント、殴り続けている。
ピリッとした空気、辞めて、宗二を見る。
ロシア人は身長210はある、体格も、別格だ。
対して宗二は186、体重は 軽 そ う だ。
ロシア人はこんなチビが大将か?体重も軽いなあチビ!と日本語で笑う。
宗二は辺りを見回す。
どうやら内弟子らは、武器無しタイマン形式で、やられたようだ。
宗二はロシア語で言った。
始めて良いか?と。
ロシア人は防護具をつけろと言う。
宗二は必要無いと言う。
ロシア人は震脚をし、構えた。
後悔しても知らんぞとロシア語。
宗二もロシア語で返す、俺が死んでも気にするな、と。
内弟子の一人が始め!と腕を降ろした。
お互いタックル。
ロシア人は馬鹿が、体重差を考えろと思った。
が。
嫌な音を奏でながら空中へ浮いたのは、自分の方だった。
ロシア人は背骨が逝っており立ち上がる事さえ、二度と出来はしない。
ロシア人は殺せと言った。
宗二は、言った。
自分で死ね。
その後、ロシア人は自分では死ねない体となり、安楽死を望み、薬で逝った。
戦うなら、死より怖い事態になって本望という気概でやれと、内弟子らに一喝した後、また書斎に籠った。
ハルは高校生になった。
白兵戦を叩き込まれていたハルはいじめ犯人らを片っ端から排除していき、男の中の男として、女番長になった。
そしてハルの家があの有名ビル鬼神のビルだと知られた。
誰も近寄らなくなった。
と思ったが、大人し組グループの女子らにはハルは強可愛いと人気があった。
ハルは様々な大人し組の子供と口喧嘩を経験し、弱い者らの気持ちを知り、それでも、立て、戦えと、抱き締めた。
ハルは友達ではなく、親友が数人出来て、高校生活を終えた。
ハルは大学には行かないと言っていた。
道場で稽古するんだと、言って聞かない。
最近。
最近やたらと、宗二の部屋に入り浸るように。
宗二は邪魔扱いするが、お構い無く!の一点張り。
周囲の人間は二人をくっつけようとするが、何しろ鬼神、おっかない。
進展、何も無し。
そして、ハルは成人になった。
そして、宗二はお見合い結婚をしようとしていた。
自分の役目の節目がハルの成人式までと決めていたからだ。
それを、知ったハルは宗二を夜這い。
宗二はハルを押し退けたが、ハルの涙に負け、何もしないで一緒に寝た。
ハルは寝たが、宗二は一睡もしていない。
それからハルと真剣に話し合いの場を設け、そこには国のお偉いさん方も沢山居た。
出た結論は。
ハル、宗二と結婚してよし。
宗二は頭をかき、ハルは跳び跳ね喜んだ。
年齢差7歳。
宗二とハルは結婚した。
その年、日本解放軍という組織が爆弾を使い、暴れた。
何でも日本から外人を追い出し日本人だけの国を作りたいという思想だった。
このままでは日本人の血が薄くなり、日本人がこの世から消えてしまう、と。
内弟子らの中には賛同の声があったが、宗二は反発した。
馬鹿野郎!日本ってのは血か?違う!日本魂だ!他国共栄!それこそ先祖が説いた道だ!日本魂は、日本人しか持つ事が許されないのか?そんなに日本魂を独り占めしたいのか?馬鹿野郎!、と。
内弟子らは土下座し、謝った。
確かにそうだ、その通りだと。
宗二は立ち上がり、テロは断じて許さん、被害者にも子供が居たんだ!殺すのは殺されても良いやつだけだ、それを忘れるな!と去った。
そして、警視庁へ車を飛ばした。
ハルは既に車へ乗っていた。
ハルは言う。
まだまだ危機は続くだろう、でも、宗二の固い意志がこの国を守る、未来は揺らいでいない、と。
宗二はハルを抱き寄せ、車を走らせる。
三國科学研究所。
三國義香は巨大な機体を見上げながら言った。
義香「アメリカが悪いのよ、フランスとイギリスも、あーあ、私の得意分野増えちゃうじゃん、ふふ」
高さ30m、幅50m、ガンダムもどき?が巨大なアキュラスにより、作成中。
眼鏡を外し、ポニーテールのカチューシャを外し、首を振る。
改めて眺め、その優美な機体を見る。
義香「ねえ・・宗二・・見て・・戦争が変わるわ」
《オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ》
『END』