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儀式  作者: SPRINGMAN-2001
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生空気

そうして20分ぐらいすると、宮本さんが急にブレーキを踏んで車を停めて、「ここらへんじゃないかな。」とつぶやき始めたので、自分は思わずスゲェ、と声が出ちゃって笑ってしまった。そうしてると築村さんが何も言わずに自分の荷物だけを持って車から出ていったので、自分も慌ててそばにあったケータイや絆創膏などが入っている小さめのショルダーバックととキャリーケースを持ってそれについていった。外に出て見た風景は別にさっき窓で見たそれと変わらない。緑は緑だし、特に変わった何かがあるわけではない。太陽がその緑で隠されているから、気温があまり高くなくて涼しい。宮本さんがどこともわからないような方向へ歩いていった。自分たちもそれに続く。


 自分がこの場所に行くことになったのは、元々自分が勤めてる出版社の中の、僕が所属しているオカルト雑誌、オカルト以外にも、ヤクザや薬物などの裏社会関連や、変わった風俗の体験レポとか、とにかく有象無象の色んなアングラな情報ががごっちゃ混ぜに入った雑誌の編集部が企画した、「世界の奇村」特集の一部としてその村が特集されることになったからで、普通はこういう海外とかの遠くへの取材は、うちみたいな弱小出版社にとってはお金がかかるので、カメラマン1人、それとそれ以外の雑用(ホテルやガイドとかの手配や荷物運び、撮影の手伝いとか、とにかくカメラマンとガイドがやらないこと全部)をする係が1人、それにガイドも合わせて合計3人ぐらいの少人数で構成される取材班が行くことになっているのだけど、その取材班の中の雑用係だった1年先輩の社員の人が肺の病気で入院してしまって、しかもそれが分かったのが出発1週間前のことだったから、どうしようか、誰にしようかとみんなが20分ぐらい騒いで、結局編集長が「そういや中学高校バスケ部だったって入社式の打ち上げの、自己紹介で言ってたよね、どうあの、体力仕事とかできる感じ?」と急に自分に向かって言ってきた。その編集長の声に合わせて他の社員の人も自分を見てきて、その時見たその目から何か、早くさっさと「はい」と言えというような、すごい不可抗力めいたものを感じて、それを見た瞬間、思わず「はい」、とそのまま言ってしまった。そうして自分が行くことが決まってから、会社の近くにある居酒屋で編集部のみんなで軽い壮行会、という名を借りた飲み会もやってもらった。今まで会社の中であまり交流がなかった分話しかけてもくれた。だけど、今までそういう大人数がいる場所で自分から話をしたことがないから、その飲み会でも今までと同じように、あまり話をせずに先輩の話に相槌を打つだけをしてしまった。ぼんじりとかを食べながら社員の人たちが話す話を聴いて思うのは、その殆どがなんの生産性もないけれど、すごく面白いということだ。中学生の時に大麻を吸って、不味かったとか、デリヘルで呼んだ女に刺されそうになったとか、あんな雑誌の編集部にいる人達だから、やっぱり危なっかしい。そこから得られる仕事論とか、教訓なんて皆無に等しいけど、聴いていてすごく笑ってしまう。多分それでいいだろうし、自分もそういう話や言葉を吐きたいと思う。飲み会から帰って、家の中でキャリーバッグに着替えや洗剤、本とかを詰め込みながら考え続けた思いが、この旅への後付けの理由みたいなものにいつの間にか変わって、自分に備わったような気がした。

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