これは
自分がその村にたどり着いたのは、アフリカは北東部に位置する都市アルキソンから車で5時間ほどかかってトンダ共和国の国境を渡ってからすぐのころだった。それまでビル群は消えていたがそれに代わるようにして続いていた、薄茶色の草原地帯と空が急になくなり、緑の葉が生い繁る木々が自分たちの上と左右を囲む暗い森林のトンネルを4輪駆動が駆け抜ける中で、自分は目の前のフロントガラス一面に広がる野生味あふれる風景に触発されて、同じように野蛮的な感じになっていった。バックミラーに掛けられている、細長い木の人形を、前のめりになるような感じで体全体が傾いているのから真っすぐに直立した姿勢へと運転手兼ガイドの宮本さんが左手で直して、そしてそのまま流れるような動きでその左手とそれに繋がった腕を動かしてスムーズに下に置いてある缶ジュースを手にとって飲み始めた。ハンドルを右手で運転しながら。丁度中身がなくなったようで、めいっぱい傾けた缶を口から離した後は助手席の下のスペースのところにそれを投げた。これで宮本さんが飲み終えたジュースはもう5本目ぐらいだと思う。
スマホも使えないだだっ広い環境の中で与えられた5時間というとてつもない暇。それを持て余さないために、自分が用意したのは、大量の漫画の単行本とお菓子と缶ジュースだった。それぞれ漫画はTSUTAYAのレンタルと実家に帰って自分の部屋とか倉庫を探し回って、お菓子とジュースは自宅の近くにあるドラックストアで手に入れて、どちらも相当多い数を買ってきたつもりだったのだが、甘かった。まず漫画なのだけれど、アフリカの荒野の上を車が歩くと、その凸凹とした地面のせいか、車の中がこの上ないくらいにガタガタと揺れ続ける。そんな状況の中では、とても漫画なんか読めたものではなくて、実際「HUNTER☓HUNTER」を読んでみてもキルアがすべてのコマでめちゃくちゃ震えていてとても見れたものではないんだけれど、それでも無理矢理にセリフを読もうとしたら、頭がすごくグラグラとしてきて、胃から食道を通ってゲロが逆流してくるのをすごく感じたから、宮本さんに車をその場で停めてもらって外に出て吐いた。戻って車に乗ると隣に乗ってるカメラマンの築村さんが「ほら、だから読めねえって言っただろが。」と少し怒ったような口調で言った。こんなんじゃ読めないじゃんと築村さんが愚痴ったのに対して自分が反抗して、「いや読めますよ」と意地を張った末でのこの醜態だったから、戻ってきた僕を見る築村さんの顔が、こいつ使えない奴だみたいな顔をしていた。その偉そうな感じにすごく嫌な気持ちになったけれど、「すみません」と言ってすぐに座席に座った。こんな感じで漫画はだめになって、残りはお菓子とジュースだけになった。パッケージを持ち運びやすくて食べやすいお菓子は漫画の穴を埋めるようにして自分を含め全員が手を付けていったので、2時間ぐらいでなくなってしまった。それで最終的に残ったのは大量の缶ジュースだけで、それが次々と飲み干されていって段々と空き缶が床に散乱して埋め尽くそうとしていた。
「もうそろそろすかね。」と、築村さんが大きな声で宮本さんにそう言った。でもその声からは疲れが見え始めていた。もう勘弁ならない、早くしてくれとでも言ってそうだった。
「どうなんですかねぇ、あと20分ぐらいだと思うんですけどね。」宮本さんは半ばのん気そうな感じでそれに返した。築村さんから不安と不満が一緒になったムードを感じる。自分はまだまだ目の前の景色に興奮している。