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――庭

『ミヤビよ、あの時の恨み、ここで晴らしてくれる!』

「ふふ……貴様如きが私にかなうと思うか? 返り討ちにしてくれるわ!」


 とりあえず、仕切り直しである。


(美菜にキレられたせいか、何か両者とも微妙にテンション低いなー)


 などと、美奈とともに縁側に座る礼司が余計な事を考えた刹那、


「また貴様は余計な事を!」

『人間如きが我を愚弄するか!』

「あ、スイマセン」


 二人にキレられ、思わず礼司は謝ってしまう。

 再び、妙な沈黙が訪れる。

 そして、


「……さて」

『うむ』


 軽く頷きあうと、ミヤビとヒサメの両者は激突した。



 雷光が閃き、炎の弾丸や不可視の衝撃波が飛び交う。

 両者は宙を軽やかに舞い、派手な空中戦が繰り広げられている。

 とはいえミヤビの張った結界の中なので、流れ弾が家や礼司たちに被害を与えることは無いようだ。

 それにミヤビが言うには、他者から認識される事もないという。

 この家の周囲は田んぼや畑、工場ばかりなので人はほとんど住んでいない。しかしそれでも万一という事もあり得るから、それはありがたかった。


「おおっ……まさかこんなのが見れるとはねー。特等席だな」


 戦闘を眺め、礼司が呟く。


「それはいーけど……礼司さん?」

「な……何?」


 横からの、美菜の声。

 彼女にじっと見つめられて、礼司は内心たじろいた。


「ミヤビちゃんって……何者?」

「えっ? いや、さっき妹って……」

「でも……本当は妹じゃないよね? あの時、何か催眠術みたいなのかけられたけど……」

「あー、スマン。実はな……」


 先刻のゴタゴタで、美菜ににかけられた暗示はすっかり解けてしまったのだろう。

 仕方なく礼司は、ミヤビとの出会いの顛末について語った。


「……と、いう訳さ」

「ふ〜ん。石から現れた勾玉から変化して、ね」

「ああ。目撃した俺としても信じがたい話だがな」

「ふ〜ん? で、したの?」

「へ? ……した? 何を?」

「そりゃー決まってるでしょー、いやらしー事だよ。あたしが来た時、あの子裸だったしー。あー、もしかしてあたしも襲われる可能性もあるのかなー?」

「いいいや、してないって。そもそもそういう趣味ないしっ! というか、今までも美菜ちゃんをそういう目で見たことないだろ?」


 そう抗弁しつつも、礼司の背中には大量の汗がにじむ。


「そうだっけー? あーそういえば、その手の本は持ってなかったっけか。あたしが見つけてないだけかもしれないけど」

「……へ? ちょっ、をまっ……」


 硬直する礼司。


「だって礼司さん、そーいうの隠すの下手だしー」

「おいィ⁉︎」


 そして、礼司は思わずいたずらっぽい笑みを浮かべる美菜の両肩を掴んだ。


「ああああのなぁ!」

「いや〜っ! 助けてお父さんー。礼司さんに犯されるー」

「ちょっ、をいィ⁉︎」

「さっきから何じゃれてる、二人とも!」


 そこに、ミヤビの怒声が響いた。


「あっ、ごめっ」

「あー、決着ついたんだー」


 見ると、ミヤビの足元には、ボロボロになったヒサメが倒れていた。

 息も絶え絶えといった有様だ。四肢の先端付近も透き通っている。

 もしかしたら消えかかっているのだろうか?


「全く……。まぁ、良かろう。後は、コイツを封じるだけだ」


 ミヤビはヒサメの首根っこを掴んで引き起こす。


「神様とか妖怪変化? なんて、初めて見たよー。そんなのが実在するんだねー」


 と、そこに美菜が興味津々といった顔で近寄った。

 その時、


『好機!』

「むぅ⁉︎ いかん!」


 ヒサメの姿が揺らいだ。

 それはまるで人魂の様な姿になり、ミヤビの手からするりと抜け出す。

 そしてそれは、


「ほへ? ……うひゃあっ⁉︎」


 無防備に近づいた美菜の身体にまとわりついた。そしてそれは美菜の身体全体を包み込んだのち、その中に染み込んで行く様に消えた。


「えっ……オイ、まさか⁉︎」

『はははは……さっきから気になってはいたが、この娘の身体はなかなかの“力”を秘めている様だな。ありがたく使われてもらう』


 美菜の口から語られる、ヒサメの“声”。

 同時に湧き出す、強大な“力”を感じた。

 そして、巻き上がる旋風とともに、美菜はヒサメの姿と化す。


「ああっ、何て事だ……」

「むぅ……人に取り憑きおったか。厄介な。しかし、我が敵ではない!」


 嘆息する礼司。そして、掌に“力”を集中するミヤビ。彼女のオーラが一際輝きを増し……


「跡形もなく消し去ってくれよう」

「ちょおぉっとぉ待ったぁ!」

「おうっ⁉︎」


 我に返った礼司は、慌てて彼女に飛びついた。

 このままでは美菜ごと消滅させられてしまう。それだけは、マズい。


「アレは美菜だ。それだけは止めてくれ!」

「ええい、どこを触っているか!」


 無理やりしがみつく礼司。

 なにやら薄布越しに、これまた薄く柔らかい肉の感触が伝わってくる。

 その状況に、ミヤビの注意がそれた。


『今だ!』


 ヒサメがニヤリと笑った。

 そして、両の掌に“力”を集中させ……

 しかし、


「ええい、鬱陶しい! 貴様の様なヤツは……」


 ミヤビは半ば強引に礼司の頭を掴み、その身体から引き剥がす。そして、


「こうだ!」

「うをっ⁉︎」


 ミヤビは礼司を投げ捨てた。

 信じ難い腕力。

 そして彼は宙を飛び……


「あでっ!」

『ぬおっ⁉︎』


 “力”を放とうとした美菜(ヒサメ)にぶち当たった。

 そして、


『あっ……』

「どあぁっ⁉︎」


 その“力”の暴発。

 爆発に巻き込まれた両者は、折り重なって倒れた。

 礼司に至っては、完全に目を回してしまっている。


『むぅ……今回は退散だ』


 負けを悟ったヒサメは、礼司の下から抜け出し、逃走にかかる。

 しかし、それを我に返った礼司が捕らえた。


「逃すか!」

『むぅ……貴様⁉︎』


 ヒサメは強引それを振り払おうとした。

 と、ボロボロになっていた服が、大きく裂ける。


「チッ!」

『今だ!』

『見ないでー!』


 礼司の手元に残るのは、ボロボロの布切れ。

 更に逃げようとするヒサメ。

 だが、


「逃がさん!」


 すぐにとびかかった礼司が彼女を強引に組み敷いた。


『離せ!』

『近い、近いよ礼司さん⁉︎』

「死んでも離さん! 美菜に何かあったら俺が殺されるだろが! 身体は置いてけ!」

『そんな理由ー⁉︎』

『……いいから離せ! ああっ、どこを触っている⁉︎』

「へっへっへ……もう逃げられねぇぜ」

『そこはダメー! ってゆーか、目が怖いって!』


 頭の中で何か妙な声が聞こえた気がしたが、構わずに抑え込む。


「むぅ……完全にアレだな。まずはあやつらを助けた方がいい気もするが……」


 引きつり笑いを浮かべるミヤビ。

 そして、再び掌に“力”を集中。


「……許せ!」


 “力”を解き放った。

 ほとばしる雷光。

 それはヒサメ、そしてついでに礼司を打ち据える。


「うをっ⁉︎」

『きゃっ!』

『ぐおぉ!』


 両者の身体は硬直し、くずおれる。

 “力”が尽きてしまったのか、ヒサメから美菜にその姿が戻ってしまった。

 と、白い“(もや)”が美菜の身体から抜け出す。

 それはなおも逃げようと……


「……今だ!」


 再びミヤビの掌から“力”が放たれる。

 それは瞬く間に“靄”を捕らえた。

 すぐさま印を結び、念を込めるミヤビ。

 と、“靄”は淡い光に包まれつつ、母屋の方へと向かった。そして居間にある割れた石の所へとたどり着いた。

 そして、


「封印!」


 その声とともに真っ二つになっていた石は、“靄”を飲み込む様に起き上がり、結合した。


「ふむ。これでよし。後は……」


 そこでミヤビは、折り重なって倒れる礼司と美菜へと目を向けた。


「……無事の様だし、後回しでも良いか」


 そう呟くと、彼女は居間の石へと向かった。

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