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森の神による非人道的無制限緑化計画  作者: 赤森蛍石
1-6 東の国々 眠りの国
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王城2

 二人が話しているのは少し前にレンダルで開催された発掘品オークションで競り落とした品の話だ。

 発掘元の遺跡は、銃器が多く、次いで貴金属類が多かった。他にも剣等よく見られる部類の装備が少々、植物の種もある奇妙な遺跡だった。


 この遺跡と発掘物はこれまでとは異質の存在で、歴史学者、地殻変動を研究する魔術師を混乱に陥れたらしい。学者たちがこぞって鑑定役を希望した上に現地行きを希望した。


 しかし現地方面で吸血鬼ヴァンパイア騒動が発生してそれどころではなくなり、ハンターは無茶して現地に行きたがる彼らの突き上げ喰らっていると、タリッサは知り合いのハンターから聞いている。


 この遺跡からの主な出品物だった銃器は人気がない。発掘品の銃は弾丸を調達できないからだ。一部の銃器は魔力で弾を補充したり、変換器を使って魔力を必要な動力に変換すれば使えるが、それが可能な人間は限られる。


 しかし手軽に戦闘能力が得られるので、頻繁に戦闘しない商人には盗賊避けのお守りになる。今回の銃の大半も一部の商人が買っていた。競り合う商人は剣を振るう兵に劣らぬ熱量で、供給量を考えれば割高になっていた。


 タリッサは護衛を雇ったほうが確実で安いのではないかと思ったが、彼らには彼らの理屈があるのだろう。


 今回はタリッサの目の前で随分な金額が動ていた。ハンター時代にも見ないレベルの額だ。ハンターギルドに鑑定代、保証代を含め二五%、王家にも、税、手数料で二五%分入った。財政が少し良くなっただろう。

 規模が大きかった今回のオークションで彼女が手に入れたのは護符アミュレット


 二剣葉の護符、長剣ロングソード二刀流時のみ装備可能、筋力・敏捷力一〇%上昇、攻撃速度上昇・小、クリティカルダメージ上昇・小、植物属性に追加ダメージ小、拘束・毒・麻痺・幻惑耐性五〇%。

 一日に一度、三十秒間筋力・体力・敏捷・判断力を四〇%上昇させる効果を使用可能。


 鑑定で読めた効果はこれだけ。正確な鑑定には、鑑定者の熟練、知識、実際に機能が発揮されているか等が関係する。力量不足で発動していない能力がある可能性があるが、使ってみて明らかな不利益は感じていない。


 世の中には特殊な素質がないと能力を発揮できず、逆に深刻な不利益をもたらす品や、鍛え上げた者だけが恩恵にあずかれる品があるが、タリッサには制限がないに等しい魔道具だ。


 制限がなければ国宝級の品だろう。彼女はこれを思いのほか安く落札できた。この護符は彼女のためにあるような効果だ。彼女相手に競るのは印象が悪かった。

 タリッサは体が衰える前にこれを使うにふさしい敵に会いたいものだと思う。


「呼び出しの要件は何だろうな」


 タリッサが様々な敵を思い浮かべながら言った。


「クロトア半島だろう、そうに決まっている」


 レメリが自信に満ちた願望を垂れ流した。


「確かに帝国の大攻勢であったようだが、凌いだのは確実だ。状況は変わらん」

「いよいよ、派兵の時が来たのさ。これでザメシハが舐められなくなるってものだ」


 レメリが気取った笑顔で言った。

 国力が大きくなったのに、変わらず立場が低いとの思いはザメシハ全体にある。


「違うと思うが。それに船は遠慮願いたい、遠いし」


 戦死するのは覚悟の上だが、水死しては堪らない。カッカドアム海峡では死体が上がらないので復活も無理だ。


「確かにそこはそうだ」

「私は物資供与だけで十分だと思う。それが役割だろう」

「いくら物資を送っても立場は上がらない。貢物ぐらいとでも思っているさ」


 なまくらなレメリらしくないが、少しは貴族らしく体裁を気にするようになったのか。いや、騎士として戦車の相手をするのが恰好いいとでも思っているのだろう。


「安く上がっているならそれでいい。こっちはこっちで厄介ごとを抱えている。そうでなくとも人は足りん」

「心配事などらしくないじゃないか、いつものお前なら先陣で突撃だろうに」

「魔物と兵器では話が違う。大地をえぐる威力の砲弾が十ラッツ以上先からだぞ。専用装備が無ければ耐えられん。我らは魔物特化だぞ」

「それはまあ、国に金を出してもらってだなあ」

「そんな考えだからあんたはいつも金が無いんだよ」


 レメリは金が無いので競りのために戦士にまで頼み込んで金を借りていた。流石にタリッサもどうかと思ったが、自分も参加する手前、口利きをしてやった。結果、レメリは槍を競り落としている。


「部下に金を返せよ」

「分かっている、もう三日も酒を飲んでいない」

「・・・・・・今日飲むんだろうが。それに次の代の問題もある。遠くを気にしている場合ではない」


 レメリ、タリッサは歴代の中でも非常に強い部類と目されている。さらに両先代も強い方であった。しかし、二人の部下には飛びぬけた者がいない。


「そうだな、そろそろ次代も考えねばならんな。このままで二十年ほどやらされかねん。だが先代の問題もあるぞ」


 レメリはそう言って苦笑いした。


「問題があるのはお前だけだ」


 レメリは先日、素行について、前騎士団長ターキエン・レヌ・ヴェノータと前戦士団長カーク・タルメディに挟まれ、万力でしめるような圧力で説教を受けていた。

 西部に居るはずの先代二人が王都に居たのは、吸血鬼騒動で死んで復活したからだ。


「タルメディ殿とヴェノータ殿が後れを取るとはな」

「あのジジイども、死んだままでいれば良かったと思うんだがね」

「それも人手不足だ」

「団長のほうは記憶が飛んでる。遠目に見た者の話では敵は見慣れない鎧を着ていたとか」


 復活魔法で復活した人間は記憶が数日飛ぶ事がある。標本数が少なく研究は進んでいないが、老齢の隠居者に多い傾向で、死体もボケる、などと言われている。


「綺麗に真っ二つだったそうだな。おかげ復活は簡単だったようだが」

「しかし今から二人で仲良く鍛え直すってなあ、どうせなら現役の時に仲良くやって欲しかった」


 先代は歴代でも最悪に仲が悪かった。立場よりは、几帳面なヴェノータと、がさつの極みであるタルメディの性格によるものだ。


「仲が良ければ先日のようになっただろう」


 タリッサが軽く笑い、レメリが苦笑いしてから言った。


「しっかしまあ、あの二人を殺せるレベルのがいたのは間違いない」

「そうだ、それだけに完全な空振りになるとは思わなかった」


 ザメシハは王都レンダルから騎士団長と戦士団長の二人を同時に派遣していた。それだけで事態の深刻性が分かる。


 二人は話しながら歩き、目的地の扉の前で足を止めた。


「で、結局お前は何の件だと思うんだ」


 レメリが尋ねた。


「吸血鬼が見つかったのでは、それぐらいしか思い浮かばん」


 タリッサは軍務大臣バッデン・レヌ・ティーゼの部屋の扉をノックした。 

 タリッサは入室を促す声に扉を開けて、二人が部屋に入った。


 机の向こうには、太って下膨れした垂れた顔で、全身も同じように膨らみ宮廷服がぴっちりした印象の中年であるティーゼ大臣が座っていた。


「騎士団長レメリ・レヌ・ホウエン参りました」

「戦士団長タリッサ・エンドール参りました」


 二人が姿勢を正した。


「うむ、忙しいので早速要件に入る」


 ティーゼ大臣は疲れているか、緩慢な動きで机の上の書類をしまって続けた。


「端的に言うと王都が何か変だ」


 曖昧な言い様に、二人が揃って怪訝な顔をした。


「そうなるであろうな・・・・・・密偵が既に二人戻らん。決定的なのはそれだけといえば、それだけだ」


「派遣先は王都内ですか?」


 レメリが言った。


「そうだ、炭の卸問屋、中規模の石工いしく衆、別段怪しくもなかったが、税のごまかしもないようだし」

「それを言っても良かったので?」

「両方ともぬけの殻だ、何も見つけられなかった。思念すら追えぬ。捜査用の魔法使いが完全に空振りだ」

「黒ではあると」


 タリッサが言った。確かに何かしらが起きているようだ。自らの縄張りで暗躍する存在があるなら斬撃をくれてやるしかない。


「そうだが……彼らは特別な任務ではなく草だった。王都内の様子見るために適当にばら撒いていた人員に過ぎん。そして両方とも普段と違う、何かおかしな動きがあると曖昧な連絡が最後だ。連絡は西部騒動の三日後だな。騒動でそれどころではなかったし、特に何もなかったので気にしていなかったが、月に一度の定時連絡がなかった。そこで異常に気付いた」


 ティーゼ大臣が思い返す様子でゆっくりと話した。


「どの辺りを疑っているので、吸血鬼ですか?」

「その可能性もあるが……この件に関してはまだ絞れん。どうも妙な動きが山ほどある。他国の何か、とも考えたが他に何もない」

「他にも何か?」


 レメリが言った。


「ここ数日、感度を上げて探っておるとな、普段は放置する小さな不正が見つかる。その中に妙なのがあった。やたらと大人数を経由して禁制品、毒や洗脳の魔道具、その材料を運ぶのだよ。さらに何人かは魔法で操られていた。本人の自覚はなかったがな。ある下男はいつもの届け物と認識しながら、途中で通行人から物を受け取り届け物に足していた。暗示を重ねて常識化したのだろうというのが魔法使いの見解だ」

「その届け先を捜索すれば良いのでは?」


 レメリの意見にティーゼ大臣はふっと笑った。


「届け先も記憶しておらん。もしくは普通の贈り物と思っておる。ダミーも混ざっておるらしい。さらに届け先からさらに次の届け先に行って渡したり、逆に何かを受け取る。緻密に魔法を掛けて記憶を呼び覚まして確認できた過去の一件では、辿ると最終的に路地の隅に置いておるな。必要な誰かが拾ったのだ。色々やるのは目くらましか、それとも他に意味があるのか、それも不明だ。病的に用心深い」


 二人も異様な事態である事を認識して黙る。普段過ごしている王都が得体の知れないものに変質してしまったようだ。


「他にも似たような件があった、追いきれなかったが。探せば無数にありそうだ。恐ろしくないかね? これまで何の関係もなかった小さな商店、物売り、下男下女、役人、何かで繋がっておるのだ。中には自覚して不正を行う者も多く居たが、自分が組織の一部である自覚は無かった。組織の中枢は不明。しかし何か起こると考えるべきだ」


「片っ端から押さえては」


 タリッサが言った。


「無理だ、レンダルの生産活動が止まる。門番などもことごとく怪しいのだから。一個一個は小さいのだ。税金逃れの小規模な密輸であったりな。たまに重要な何かが混じるのではないかと考えるが不明だ。末端は小遣い稼ぎぐらいの認識しかない。行方不明者が増えているが、単に捜査の精度を厳にしたせいかもしれん」


「動きようがないと?」


 レメリが言った。


「中核を成す何かに当たりを付ける必要がある。現状では何を追えばいいかわからない。かように誰も信用できない状況だ、誰も、の意味が分かるか?」

「部下も信用するな、と?」


 レメリの眼光が鋭くなり、ティーゼ大臣は彼を見て言った。


「実のところお前達すら確実とは言えぬ、一分は怪しい、その大半は騎士団長だが」

「そうでありましょう」


 タリッサが深く頷いて納得し、レメリが嘆いた。


「それは酷い、大臣あんまりだ」

「お前はいつも金に不自由しておるではないか」

「それは給金が安いからでして」

「あればあるだけ使うからだろう」


 タリッサがすぐに呆れながら言った。


「金に執着がない証拠と考えていただきたい。私は不正とは無縁の美丈夫なのです」

「後はお前の女共も駄目だぞ」


 ティーゼ大臣がため息をついてから言った。


「うちは元々仕事の話はしない主義なんで、心配しなくても大丈夫です」


 レメリが得意げな様子で言った。それを見ずにティーゼ大臣が言う。


「そんな状況だ。騎士団長は身内におかしな動きがないか警戒せよ。戦士団長にはハンターのコネを使ってもらいたい。特別に信用できる腕利き、戦士団長の娘だとか、上位のハンターの手を借りたい、選出は任せる。特に魔法使いはいくらいても足りない。予算はある」


 タリッサはこの段階で呼ばれたのはハンターに繋ぎを取るためだと理解した。捜査だけなら、専門の部署の人員が動くはず。


「それは承りました。しかし娘は半人前ですので役には立たないでしょう」

「赤三ツ星で半人前はなかろう。私も活躍は聞き及んでいる」


 ティーゼ大臣は謙遜と受け取ったらしい。


「才能はありますが、あれがものになるには十年必要です。これだけは申し上げておきますが、周りと装備に恵まれているだけです。本人は赤一つにも及ばない。力量も経験も足りておりません」


 タリッサから見て娘は半人前だ。パーティーの支援がなければあっさり死ぬだろう。何が起こる分からない任務に大事な一人娘を連れて行けない。


「しかし信用できる戦力は限られている。腕が良いだけならどうとでもなるのだ。両方揃った――」

「腕も良くはありませんので」


 平坦な声のタリッサにティーゼ大臣も何か違うものを感じとったらしい。


「……そんなに言わなくてもいいのでは」

「まあ、確かにもう少し経験が必要かも知れませんね」


 横からレメリが割り込んだ。


「何だ? お前は娘に好きにさせてやれと言っていたではないか、どんな心変わりだ?」

「武器の恐ろしさを実感したからな」

「……あの槍か」

「そうだ、前の槍も名槍だったが、新しいのは突けば突くほどに感覚が変わってくる。槍に引っ張れる感じだ。武器頼みになるってのがよく分かる。今日の試合では試しに型を崩して連撃を優先してみたが難しい。最善の動きから遠のく」


 レメリが競りで手に入れた槍は連続で攻撃し続けると威力を増す性質を持っている。


「とにかく選出は任せるが、戦力はできるだけ増やすように」

「それは分かっております。しかし西部でまた吸血鬼の襲撃があった場合どうするのです? この状況、陛下はどう考えられているですか?」

「これはあの吸血鬼との関連はないので?」


 タリッサとレメリが続けて尋ねた。


「陛下も現状では判断しかねているのではないかと考えている。吸血鬼の襲撃は王都圏ではなかった。お前達がいない好機だったはずだがな。王都にいたなら動きがあったはず。今回とは分けて考えている」

「それはそうですね」

「森に逃げたと見せかけて王都圏に潜んだ可能性は?」

「大量に入ればさすがにわかる。あれから警戒レベルは上げている。今回の件でさらに上げた」

「もしも今、また同じ状況になった場合は王都と西部、どちらを優先する予定ですか?」


 タリッサが尋ねた。状況によって戦士団の編成も変える必要がある。


「そこは〔瞬間移動/テレポート〕で――」


 ティーゼ大臣が話している途中でレメリがわめいた。


「〔瞬間移動/テレポート〕だって! 勘弁してくださいよ! この間だって魔法兵団の三席が下水道にすっ飛ばされてたじゃないですか。あれの術士は気のふれた奴らばっかりだ」


 〔瞬間移動/テレポート〕と聞けばタリッサだって嫌なものを感じる。

 〔瞬間移動/テレポート〕をはじめとする転移術は目的地を正確にイメージできないと失敗する。魔法が発動しない分には良いが、とんでもない場所に飛ばされれば死ぬ。


 だから自然環境では使えない。季節で目的地の景色が変わってしまい、記憶したイメージとすぐにずれてしまう。さらに似た場所が新たに出現するとそちらに飛んでしまう。


「あれはレンダル特有の事情だ。王都圏から少し離れれば阻害要因は減る」


 レンダル近郊では大戦時の転移妨害装置が埋まっていると考えられている。

 かつての大戦では、敵が転移しそうな場所の景色を定期的に変化させ、別の場所に似た景色を作り出し、そちらに引き込んで攻撃するような戦法も取られた。他にも転移に対する引力斥力の妨害装置が国中に埋まっているとされる。


 王城には魔術的に保護された緊急用の転移で行き来しやすい部屋があるが、定期的に模様替えされている。転移役の宮廷魔術師は、当然変化パターンを暗記している。

 模様の無い平凡な部屋だと、誰かが間違いで転移してくる可能性もあるから防御措置だ。もちろん故意の場合も考えられる。


「減ると言っても、汚染地も悪魔の森もあれを妨害する要素でしょ。世界中妨害要素しかない」

「妨害が少ない土地もあるのだ。伝令の駅と同じように瞬間移動テレポート可能な道筋に転移の駅を造る計画だ。既に実験では成功している。コフテームまでは繋げている」

「……つまりそれで我々が移動すると」


 タリッサが硬い表情で言った。


「予定ではそうだ。大人数は動かせないが」

「絶対失敗しますよ、これまで何人の魔術師が彼方に消えたことやら」

「……現時点では失敗は無いらしい」

「とりあえず、大臣が百往復ぐらいしてください。重い方が難しいらしいから丁度良いじゃないですか」

「西部での有事の際には騎士団長を優先して派遣することにする」


 何かあれば、レメリが派遣されることが決定した。

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