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森の神による非人道的無制限緑化計画  作者: 赤森蛍石
1-4 最後の試験
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楽園

 ルキウスは彼らが死んだ翌日には生き返らせていた。ヴァーラの無言攻撃に敗北したのだ。


 人形のような整った顔で表情を動かさず黙り続ける美女、兜を被っている時は表情が確認できず中身が般若の形相になっているのではないかと想像をかきたてた。

 怒っているのか、機嫌が悪いのかと尋ねても、特に問題ありませんと返ってくる。おそらく本人は本気で言っているので打てる手は無い。

 だから負けた。


 ドニには家族が居たので死んだことにして連れてきた。死体はエヴィエーネの実験で大きくなったゴブリンを加工して偽装した。


 ドニ・トニトレン、魔物の危険はあるが食うには困らないザメシハの一般的な農民の長男に産まれた。子供の時から棒きれを振り回し外の世界に憧れたが、跡取りであるため家を出るのは難しかった。

 自分の近所に未知の魔物、道具、魔法、遺跡があるのに自分はそれらを知らずに畑を耕して人生を終える、それを耐えがたい苦痛に感じながら日々を過ごす。


 十六になった年に流行り病で両親が死ぬ。悲しむよりハンターに成れという啓示と受け取る。ハンターとして生計を立てるようになり、それから結婚してもできるだけ未知を追い続けた。どこかに神話の世界を残す場所があると信じて。


 彼は奇妙な運命の巡り合わせの結果、神代の力により唐突に人生を終えた。しかしそこから日帰りの死の旅にて、目指した楽園にたどり着いたのだ。巻き添えでついでに妹も。


「ドニ、生活に支障があるし。普通にしていて構わないぞ。共に戦った仲ではないか」

「いえいえ、偉大なるルキウス・アーケイン様を直視できる訳がございません」


 ドニが顔面を床に擦り付けたままで答える。手足がピンと伸びて上がり妙な態勢になっている。


 ルキウスにとっては俺の家にすぎない生命の木は、彼にとってまさに楽園、この世のものとは思えぬ魔法の植物、おとぎ話の世界の住人達、太古の技術で製造された遺物アーティファクト、彼が求め続けた全てがある。


 ルキウスも外の人間からここがどう見えるか自覚している。しかしこれを見るとため息が出る。


「今は普通に仕事をして役に立ってくれれば十分だ」

「俺如きではとても偉大な神の役に立つ事などできません」


 確かに復活時のペナルティーで大きく能力が低下している、レニの方は恐らくギリギリだった。

 ドニとレニは復活した後も非常に友好的だった。だから放っておいたのだが、報告に戻って来ていたマリナリと十分ほど話すと狂信者になってしまった。レニはこれほどではない。


 ルキウスがここにいるとドニが永久に平伏したままなので仕方なく立ち去る事にした。


「何か困った事があれば言うように」

「ははあ、何とありがたいお言葉」


 スキルの効果なら時間で軽減するはずだが、実際に信仰されるだけの条件を満たしているのであのままの可能性が高い。そう思いながらルキウスはロビーから外に出て庭を少し歩く。


 そこで、派手目の赤いゴスロリのドレスを着て、机の上に片足を放り出し酒をラッパ飲みしている青緑の髪の女、サンティー・グリンを目ざとく見つけて、彼の落ちた精神状態が回復した。


「友は偉大だな、素晴らしいよ、朝から飲んだくれていられるなんて」


 そう言いながらルキウスはサンティーの隣に掛けた。


「……お前らが外に出してくれないからだ、外は危険の一点張りで仕事も無く退屈なんだ。これもどっかの友達が留守にしたせいだ、他の仕事は無いからな」


 サンティーはむくれながら上げた足を下ろした。


「それは悪かったが、実際に外は危険だから仕方ない。しかし、外は危険である、から、だから酒を飲もうに繋がる自由な発想、人として正しい姿を示している、友は完璧だ」


 ルキウスが椅子を魔法で浮かせくるくる回転しながら両手を大きく広げた。

 こんな芝居がかった動きをしてしまったのは、さっき部屋で置物にビリブ油を塗っていたせいだろう。


「……皮肉か?」


 サンティーがやさぐれた目つきでじろりとルキウスを見る。


「何を言ってるんだい、友の偉大さを称えているのがわからないのか?」

「どうしたんだ、本格的に頭がおかしくなったのか?」


 サンティーが不安げな表情で本気の心配する。


「私は今、自然体の素晴らしさを思い知っているのだ」

「……あの新入りの話か」

「察しがいいな、世の中思い通りにはいかん」

「あれが気に食わんのか?」

「度が過ぎるだろう、日常会話すらできない」

「神様らしく信仰されていれば良いじゃないか」


 サンティーがにやけて言った。


「神は体質に過ぎん、電気が出せるのと変わらない」

「超能力が拝められる場合もあれば、排斥される場合もある。神を自称する奴もいる。帝国では過去に魔術系が排斥されたせいで、魔術が寂れて困っているのは知っているだろう。私も多少変わって見られた」

「……人とは救いがたい、神の力をもってしても」

「そこは同意しよう」

「何にしても、友が選ばれし友だとよく分かった」


 生命の木に来て数日間、サンティーにはマリナリを世話役として付けてあったが、一切信者化していない。

 何らかの特異な資質があるのだろうとルキウスは思った。


「その選ばれし友を忘れないでくれよ、もしくは他の仕事をくれ」

「これからはある程度ここにいる。一続きの森の中ならどこでも転移できるから。他は色々落ち着くまで待ってくれ」

「私も東の国々が見たいぞ、戦士とか魔術系魔法使いが歩いている街が見たい」

「あっちは街中でも吸血鬼がうろついてるから危険だ」

「吸血鬼、それも見たい。そういえば、相当強い奴が出たと聞いたが? あの馬鹿侍が機嫌良く帰ってきたぞ、酒くれる人の機嫌は悪かったけど」


「強いのが出た割にハンターとしての成果は今一だ」

「何で?」

「人前で戦っていないからな、あまり目立っていない」

「何だ失敗か? 酒飲むか?」

「失敗してはいない、予定と違っただけだ。村サプライズプラン、基地サプライズプランが完璧な成功を収めたのに対して、超優秀ハンター誕生サプライズプランは何とか及第点だな。できれば街を襲う魔物の群れとか、超大型魔物を華麗に倒してデビューしたかった」


「……サプライズじゃないと駄目なの?」

「サプライズは絶対正義だ、友だって刺激が欲しいから外に行きたいと言うのだろう。ここの方が安全なのに。私は今、世界に刺激をプレゼントしようという意志に満ち溢れている。いずれは世界を驚愕させるつもりだ」

「何で急に?」

「ちょっと昔を思い出してな」

「ふーん」


 サンティーは少しルキウスの顔を見たが、ぞんざいで興味無い風にしている。


「世界を幸せにするのに必要なのだ、ありとあらゆる驚きがな。友の基地だって今頃は愉快な驚きをばら撒いているだろう。あれで幸せになる人もいるはずだ」

「幸せ……だと、私は幸せだが、基地は壊滅しているだろう?軍は大混乱しているのではないか?」

「対処しなければならない担当者は大変だろうね。だが未知の現象は人をワクワクさせる。遠い所で起こっている大事件は人々の娯楽でしかない」

「それはそうだな、基地でも他の戦場の話をよく聞いた。確かに死に方ですら楽し気に語られる」


「それに進歩に犠牲は付き物だ、再構築による合理化ってのは対応できる人間だけが幸せを掴める。だが長い目で見れば最後には全体的に良くなる」

「ふーん」


 サンティーは酒を飲んだ。


「帝国の企業は再構築して首になる人いないの?」

「お前はその再構築ってのをよく言うけど、聞かないな、会社ごと潰れるのはよくあるが。詳しい話はどこかの社長にでも聞いてくれ」

「その辺りも調べないといけない、全く忙しい」


「まあ、帝国を消し飛ばすならその前に私の知り合いを回収してくれよ」

「それはそうするが……君は自分の国の事を気にしないな」

「別に私は貴族や金持ちじゃないし、汚染された土地が無くなるならそれが良いに決まっている。お前がさっき言った話じゃないか。最終的には良くなると」


 それはそうに違いないが、自分の責任で国を亡ぼすとなるとルキウスはためらいを感じる。

 この割り切りようが特異な資質なのだろうか。


「それに機神教会は絶対にお前を認めない、確実に揉める、協力はできないさ」

「一神教ね……友は変わってるって言われないか?」

「だとしてもお前ほどじゃないよ」

「ふふふ、そうだな、きっとそうだ」


 ルキウスは言われ慣れた台詞に笑った。


「ところであのすごく見てくるのは何だ」


 ルキウスが後ろを見て言った。

 二人の五メートル後ろには、地面についた巨大な竜の顔があり、その鼻息がここまで来ている。

 ティラノサウルスの花子が姿勢を低くして伏せ覗き込んでいるのだ。

 常人が見れば恐怖しそうな牙が生え揃った顔だが、見慣れた者には愛嬌があるつぶらな瞳が、興味深そうに二人の一挙一動を凝視している。


「遊んで欲しいんだろう、花子とはよく遊んでいる、私は暇だからな」

「何して遊んでるんだ?」

「街中に突如現れた恐竜に追いかけられる一般人ごっこ」

「……それは何をどうして遊ぶんだ?」

「私が悲鳴を上げるところから始まって、走って逃げる。最終的に口の中に収まって終わる」

「それ面白いか?」

「だって暇だし」


 ルキウスはサンティーに早く何かの仕事をあげたいと思ったが、人間発電機ぐらいしか思い浮かばない。電球をずっと灯し続けてと言ったら怒るだろうか。


「話は変わるが、友はいつもその席に座っているだろう」

「そうだが?」

「一定の行動を繰り返すと罠にかかりやすいと知っているか?賢い動物は通る道や巣を頻繁に変更するんだ」

「……なぜ今それを言うんだ?」


 怪訝な表情でサンティーが聞いた。


「つまりこうだな」


 言葉が途切れた瞬間、サンティーの座っていた椅子が下から火を噴いて一気に百メートルまで打ち上がった。


「これは完璧だ! やはり完全に決まらないと駄目だな」

「ぎゃあああぁあぁぁぁぁーーー」


 打ち上がったサンティーの悲鳴が遠のいていく。そして今度は近づいてくる。

 それを顔を上げた花子も興味深げに見ている。


「ぁぁぁあああああー」


 ルキウスは椅子ごと落ちてきたサンティーを魔法で受け止めた。


「驚いた? 今日から友を遠慮なく爆破していこうと思う」

「……何の恨みがあるんだ、お前は?」


 サンティーは全力疾走したような荒い呼吸になっている。


「恨みなどとんでもない、これは真の友になった証である。楽しんでもらおうと思って」

「お前の友達の認識おかしくない?」

「何だ、問題があったか?」

「最初から問題しかないだろう、会った時からだ」

「何が不満なんだ? もうちょっと低めからやるか?」

「……どうせなら高い方が良いな」

「それでこそ我が友」

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