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森の神による非人道的無制限緑化計画  作者: 赤森蛍石
1-4 最後の試験
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シュットーゼ2

 ルキウスは霧の中でゲホゲホ咳きこむ、ふりをする。


 常人が一息吸えば、すぐさま顔を青くして絶える猛毒と呪いの霧。しかし両方とも耐性が防ぐ。


 魔術の専門家である〔魔術師/ウィザード〕系は魔術で多彩な攻撃、防御を可能にする。あらゆる属性を使い、毒、病気など状態異常に精神への干渉、幻覚を生み出し、肉体を変化させる。


 対して〔自然祭司/ドルイド〕は植物などの生物、自然現象に関する魔法と回復魔法が使える。森の神としての魔法も使えるが、ここではあまり活きない。対空戦闘は苦手だ。


 優位性になるはずの回復魔法は、吸血鬼の高速治癒に打ち消されている。ただし回復魔法が攻撃に使える。


 演技で攻撃を都合のよいものに絞り、魔術師の利を少しでも減らす。相手が効かない魔法を使うたびに一つ有利になる。


 成否はルキウスの演技力次第だが、仮面があるので見た目では判別できないだろう。

 苦しみながら必死でどうにか、といった感じで魔法を使った。


 中位魔法〔強風の護り/ゲールプロテクション〕

 風の流れがルキウスを取り巻き、緑と黄の霧を吹き飛ばした。


 シュットーゼが空からルキウスを見下ろし、高位魔法〔魔法の大砲/マジックキャノン〕を使った。


 空中に青く輝く半透明の大筒が現れ、ルキウスに照準すると、同じように輝く丸い砲弾を連続発射して大筒は消える。


 ルキウスは次々に飛来する砲弾を〔未来軌道/フューチャーオービット〕の魔法を使い軌道を読みかわす。

 ドーンと大きな爆発音が連続して響き、土と石が舞い上がって小さなクレーターができた。


「ハハハハ、大変そうだね。喰らいたまえ、〔上位・エネルギー弾・負/グレーター・エナジーショット・ネガティブ〕」


 土埃が収まらぬ間に、シュットーゼの手の平から連続して黒いボーリング玉のような玉が放たれた。

 雨のように黒球が降りそそぐ。黒球が着弾した付近の草や、木の一部が枯れていく。


(枝葉を無視して認識している。探査魔法にしては遠距離。光学的感覚だな。少しは透過しているようだが、分厚い物の裏は見えてなさそうだ。効率的な認識のために、意図的に透過させていないとしても、切り替えはしないだろう。俺が地中に隠れたりしなければな)


 ルキウスは右へ左へ木の間を縫うように駆け抜けてかわしていった。

 さらに〔追尾燃球体/ホーミングフレイミングスフィア〕〔太陽光線/サンレイ〕で反撃。


 左手から放たれた複数の太陽光線が、飛行するシュットーゼに向かうが、また常闇の盾で受けられた。


 遅れて少し外した角度で放っていた直径約一メートルの火球が、常闇の盾を迂回して側面から命中した。

 しかし本人も装備も無傷、何かの魔法で防御している。

 

 シュットーゼの後ろの絵画のオーラが一瞬、強烈に瞬いた。


「〔上位・魔法拘束/グレーター・マジカルバインド〕」


 シュットーゼが生み出した大量の魔法の鎖が、ごちゃごちゃもつれ合い、不規則に回転しながら降ってくる。


「今度は絵……魔術を強化する魔道具か、なんで絵なんだ。〔蔦の性質/アイビープロパティー〕」


 降ってきた鎖の塊を神気を宿した杖で打ち払うと、バラバラに飛び散り消滅した。

 対拘束装備は身に着けているが、喰らえば即死に等しい。念のために拘束耐性を上乗せして対処した。


「中々やるねえ、サファイアの中にでも閉じこめてあげようと思ったのに。人類の至宝になる機会を逃したぞ」


 シュットーゼの楽し気な声が空から降ってくる。


「余計なお世話だ。お前は日干しにして棺桶に展示してやる」

「それは無理だろうね、〔氷山の水雷/トーピードオブアイスバーグ〕」


 巨大な氷山がドームの空を覆い尽くした。氷山は端の方からひびが入り崩壊していく。崩れ落ちた鋭利な氷の塊が、次々に加速してルキウスへと殺到する。


「〔赤の列柱/レッドバシリカ〕」


 瞬間、巨大な火柱がゴウッと地面から吹き上がった。一本ではない。七本の柱が二列平行に並び、火柱の列柱廊ができあがり、その中心にルキウスが立つ。


 ルキウスを目がけて飛来した氷が、火柱に阻まれ瞬時に融解気化して爆発していく。火柱は頭上の氷山を溶かし尽くすと消えた。


「ほっほー、これも凌ぐか」

「〔聖なる小枝の弾丸/セイントツウィグブリッド〕」


 ここまでの戦闘で飛び散った周囲の無数の小枝が、聖なる白い輝きを帯びて浮かび上がると次々に発射された。


「〔上位・盾/グレーター・シールド〕、そんなものが当たると思ったのかねい? 薪にでもしたほうが有意義だね」


 空中を自在に動く青い半透明の凧盾カイトシールドが現れて、全ての小枝を受けた。


「いちいちやかましい男だ。〔火の嵐/ファイアストーム〕〔太陽光線/サンレイ〕〔赤と黒の爆弾/オブシディアンボム〕」

「〔上位火属性抵抗/グレーターファイアレジスト〕〔常闇の盾/エヴァーラスティングダークネスシールド〕」


 シュットーゼは空を覆う激しい爆発に包まれたが無傷。そして前回同様に常闇の盾で光線を受ける。


 だがさらに、人間大の赤く光る溶岩爆弾がゆっくりと向かっている。

 シュットーゼが浮遊している金属板を手に取った。


「〔絶対零度光線/アブソリュートゼロレイ〕」


 青い光線が金属板の一点から発射され溶岩を直撃した。溶岩は瞬時に赤から黒に変わり落下していく。


(あの金属板は球レンズか? 小さすぎてここからでは見えない)


 レンズや宝石は魔法の触媒によく使われる。消費触媒ではなく発射口としての使用だ。だから杖にはよく石が付いている。

 シュットーゼが加速しつつ高度を落とし、ルキウスの頭上を横切る。


「〔上位・骨砕き/グレーター・ボーンクラッシュ〕」


 ルキウスは腕を押さえ、回復魔法を使う振りをする。


「〔時間停止/タイムストップ〕」

「時間魔法の対策はしてあるんでな、〔太陽光線/サンレイ〕」


 いきなり停止したふりをするのが困難だっただけだ。


「ならば永久に止めてあげようじゃないか。死ね」


 太陽光線を簡単に防ぎ、そこから高位魔法〔即死/デス〕、その名のとおり即死させる。

 ルキウスが少し心臓を押さえてから魔法で反撃し、シュットーゼがそれに応じた。


 それからも距離をとった魔法の撃ち合いが続いている。お互いに決定打なし。

 シュットーゼは縦横無尽に飛行して主導権を取っている。魔法の射程距離はまちまちなので、自由に距離を調節できると魔法戦で有利。


 ルキウスは太陽光と火の魔法を意識して使っている。

 太陽光は単純に吸血鬼に効く。火の魔法は自分の火属性弱点を隠すため。火魔法が得意なら、通常は火の対処が得意だからだ。


 火魔法は元々使うが、無理して威力を上乗せするのに神気を消費している。


(こいつ、魔術師にしては力押し。一発が重いのが多い。幻術で虚を衝き、状態異常で弱らせ、破壊力の高い魔法を叩きこむ、そんな組み立てがない。それがかえって俺には不都合だ)


 ルキウスの立てた計画は半分崩壊している。接近して物理攻撃か回復魔法で仕留める計画は、奴の剣が危険すぎて実行不可能になった。


 他の浮遊している物体にも何かあると考えるべきだ。

 ただし最終的に目指すところは変わらない。一気に畳みかけて滅ぼすか、徐々に削って滅ぼすかの二択。


 短期戦なら詰めきれる組み立てが必要。

 持久戦なら相手が負の回復魔法を使えるか確認する必要。高位の回復魔法があるなら、ルキウスと同様に手足を生やせる。それができないなら、自分の腕一本と相手の指一本の交換でも割に合う。


 魔力が切れるまで粘る手もあるが、相手は魔術師かつ夜の吸血鬼、先にこちらの魔力が切れる。もっとも現状では純粋な魔術師かどうかは不明だ。


 種を見つける必要がある。敵が隠している種を。種が確実にある。


(スキルの能力により問答無用で可能、があるのがこの世界の厄介なところだ。それでも絶対に万能にはなれない。俺だって地形制限以外に火属性と神殺しが致命的な弱点だ。なんでも斬れる剣などありえない)


 ルキウスは、戦いながらあらためて周囲に目を凝らした。


 魔道具がまだ隠されてるのを疑ったのだ。特定属性を強化する場を発生させれば、斬撃を瞬間的に強化できる。

 しかし周囲には何も見当たらない。他ならぬ自分が徹底的に破壊している。


「何かお探しかね?」

「ちょっと公園の景色を楽しんでいただけだ。それよりどうしたんだ、自慢の剣ではなかったのか? もう錆びてしまったのかな」

「はっはっは、そんな古典的な手にはかからんよお」


 ルキウスは挑発したが、あの剣と接近戦がしたいとは思っていない。あのまま追撃を受ければ危険な状況だった。

 しかし情報を得るには何度かあの剣を受けるしかない。


 魔法戦でも押し負けている、相手は魔力を減らしていないようだ。これではこちらの魔力が先に尽きる。残りの魔力は半分ほどになっている。


(地上戦のほうがマシ、足を地に付けてもらわないとどうにもならん)


 ルキウスはローブの内に手を突っ込んで、インベントリからマジックポーションを取り出し飲みほした。


 エヴィエーネが昨日開発に成功した新薬、アトラス最高のマジックポーションの三割増しの回復力がある。ただし、猛毒と精神錯乱の副作用があるので双方の完全耐性がないと使用不能。


「おお! もう喉が渇いたのかね、アーケイン氏。見た目の割に貧弱だなあ、ハハハハ」


 わざとらしく笑うシュットーゼを無視して、ルキウスは魔法の準備をする。


「ちまちまやっていては駄目か、〔雷雲城/サンダークラウドキャッスル〕〔重引竜巻/グラヴィティトルネード〕」


 たて続けに最高位魔法が使われ、空の景色がみるみる変わる。

 黒い雲がドームにはりつくように空を覆い、光と共に耳をつんざく雷鳴が轟く。さらに黒い竜巻が地表から発生し、徐々に巨大化し雷雲と一体化し雷をまとった。

 荒れ狂う黒い竜巻がすべてを喰らった。この世の景色とは思えない。


「おお! 確かにこれは楽し気な景色だねえ」


 シュットーゼは笑みを崩さず、ゆるりと構えて空に浮いている。

 竜巻の強烈な黒い流れが彼を渦の中に引き込んだ。無数の雷が立て続けに彼を打ちつける。


 地上にも無数の雷が直撃して木々を燃やした。さらに遺跡の入口を何度も直撃して倒壊させた。光と轟音が連続し、暴風が吹き荒れて多くの物体が空へ舞い上がった。


 しかし彼はまたも無傷。半透明の球状多面体結界に包まれている。

 最高位魔法〔魔術師の防御/ディフェンスオブウィザード〕。


 魔術系魔法使いの切り札。この魔法は全魔法を問答無用で防御する。


 他にも単純に魔法の強化、弱体、妨害など魔法に直接的に作用する魔法を使える。

 だから純粋な魔法戦では不利なのだ。


 これを覚えるには最短でも魔術系魔法使いのレベルが百五十必要。防御術に特化していないならもっと魔術師系レベルが必要になる。


(純魔術師系のレベルが高くないとあれは使えない。しかもかなり強化されているな。五百は振っている。とすると剣の威力がおかしいが、接近しないと駄目だ)


 巨大な豆の木を大量に生やせば空中に足場を作れる。

 弓を使う手もある。上と下という構図だがルキウスの得意な中距離ではある。


 魔法を妨害する矢や、神聖な矢なら効果的な攻撃ができる。しかし大きなダメージを与えて仕留め損ねれば、二度と降りてこないかもしれない。


 少し考えてから隠密性の高い十字手裏剣を複数取り出し、小さく素早い動作で投擲した。


 手裏剣が黒い竜巻に吸い込まれた。

 魔法が終わり、竜巻が分解されるように徐々に消え、最後にスッと消滅した。

 中からシュットーゼが姿を現す。

 手裏剣が眉間に浅く刺さっていた。相手をイラつかせる加減の攻撃だ。


「よお、変わったアクセサリだな」

「ふざけたことをやってくれるじゃないか、アーケイン氏。でも降りないよ、吾輩はね〔召喚・蟲/サモン・ヴァーミン〕」


 シュットーゼが少し高度を下げ、手裏剣を抜くと召喚魔法を使った。

 同時にウサギの人形が強烈なオーラの光を放った。


(今度はウサギか)


 地上に、平べったく横に長い大きなクモの魔物が二匹召喚された。

 全身は地味な茶色、二対の前足が非常に長く太い。一番前の足ではゆるやかな弧を描く赤いギザギザの鎌が目立っている。


 二対の前足は二メートル以上、対して後ろの二対は短い。赤鎌大蟹蜘蛛プルガトリウムトムスディ、レベル千相当。


「このクモを知っているかね? うまくやれば一匹でも国を滅ぼす戦力だ。そいつを二匹、大サービスだよ、喜んでくれたかな」

「ああ、最高に嬉しいよ、実に幸運だ」


〔神銀肌/ミスリルスキン〕〔神銀木/ミスリルウッド〕〔先見/フォアサイト〕〔緑の祝福/ブレスオブヴァーダント〕 〔緑神の鎧/ヴァーダントディバインアーマー〕 


 ルキウスが自己強化魔法を展開する間にも、二匹のクモが赤鎌大蟹蜘蛛が挟みこむように接近する。速度はルキウスが走るよりかなり遅い。


 このクモは走るのが不得意だ。後ろ足が小さく、前の三対は体の横に出ていて、一番後ろの足は後方に向いている。


 ルキウスは空からの魔法をかわしながら、クモに挟まれるのを避けて一匹だけを相手にできる位置に移動する。


 赤鎌大蟹蜘蛛と正面から相対する。

 クモがのけぞり、後ろ足で大きく両前足を上げた。走っている間は低いこのクモだが、上がった前足の高さは三メートル以上あり迫力がある。


 長い前足の鎌が左右同時に挟むように、高い位置から斬りつけてきた。

 鎌が杖にかすった。腕を痺れさせる衝撃を感じた。力負け。

 移動速度とは打って変わって、前足が速い。左右同時ではとても受けられない。


 ルキウスは後退して、前足をやりすごす。さらに、木の枝の上に跳び上がった。


「どうしたんだい、アーケイン氏、楽しんでくれたまえよ」

「ちょっと忙しいんで、黙ってろ」


 ルキウスが苛々した感じで叫んだ。クモは赤い鎌のある長い前足を大きく広げて、木の幹を少しずつ上がってくる。八つの目がルキウスを見ている。


 さらに上の枝に避難する。

 二匹目のクモも木の幹にとりついた。

 ルキウスは二匹同時に攻撃する強力な魔法を使うために魔力を練る。


「降りないと言ったね、あれは嘘でしたー!! ハハハハハハハ」


 シュットーゼが叫びながら剣にオーラををまとわせて、真っすぐ急降下した。

 上からシュットーゼ、下からは赤鎌大蟹蜘蛛が来る。


 ルキウスはクモに背を向けてシュットーゼを迎撃するため、上を見て杖を構えた。

 不敵に笑っている男の顔が一気に大きくなる。

 シュットーゼが迫り剣を振る刹那、ルキウスは〔閃光/フラッシュ〕の魔法を使う。


「悪あがきを!」


 ルキウスの体から発射された光に彼はわずかに硬直したが、そのまま剣を振りきった。ルキウスはギリギリで剣閃をかいくぐり、すれ違いながら強引に体をねじって、どうにか下方へ振り下ろす一撃を胴体に当てた。


 シュットーゼは杖の一撃を喰らって地面に叩きつけられながらも、ルキウスが大鎌によって両断されると思ったはずだ。


 しかし彼が地面に這いつくばってルキウスの方を確認した時、目に入ったのは自分の方に突っこんでくるルキウスだった。赤鎌大蟹蜘蛛はどこにも存在しない。


「なに!?」


 余裕の男の表情が少し崩れる。


 〔緑の神罰/ヴァーダント・ディバインパニッシュメント〕、森に生息する魔物に大ダメージを与え、召喚体ならば確実に退散させる効果。赤鎌大蟹蜘蛛は森の魔物である。


「やーい! まぬけー」


 ルキウスは〈空歩〉で空中を蹴って加速、杖を振りかぶって剣を持つ肩に一撃を加えた。鈍い音が響きシュットーゼが転がった。

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