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サポートキャラクター3

 生命の木の中から出てきたのはウリコ。

 高速で左右を確認すると、こちらへ駆け出した。かなり速い。


「どうしたウリコ? 中でな――」


 生命の木の中で何か起きたのかと、ルキウスに緊張が走る。


「ウリコは十年間も何も食べてないのに、社長だけおいしい物食べてるのですー。悪の神社長なのですー!!」


 ズザザッと両足ブレーキをかけて、ルキウスの直前で急停止したウリコが、ルキウスを指さし、目を見開いて早口で文句を垂れた。


 アトラスには満腹度のパラメータが存在する。


 戦闘や生産をしていると低下し、〇で全ステータスが一割減。無視するには大きいが、雑魚狩りだけの場合は無視するプレイヤーもいた。

 ウリコは店にずっと配置しているので食料を与えていない。


「特別に半分与えてもよいぞ」


 現実なら十年食事無しはやばすぎる。

 ルキウスは内心で冷や汗を流し、恩を着せようとした。


「ええ。でもー、社長から食べ物をもらうなんてー」


 ウリコが体と尻尾をクネクネしながら言う。


「そうか、ならばやめておこう」

「もらうのです。もらうのですー」


 ルキウスはため息をつき、魔法でリンゴを切ってウリコに渡す。ウリコは牙をむいてリンゴにかじりついた。


「うみゃみゃあああぁぁいいい。神降臨! 神降臨!」


 ウリコは気が狂ったように踊りながら走り出した。


 小さくなっていくウリコ。

 猫又商人の使い道はあるのだろうか。取得したスキルも思い出せない。本人に確認すると、構成を認識していないと露呈してしまう。


「飯はうまいし、森あるし、まあ、なんとかなるだろ」


 ウリコが生命の木を一周して帰ってきた。リンゴを食べつくしている。


「気にいったようだな」ルキウスはウリコの頭を押さえた。


「うにゃ?」


 ルキウスは新たに出したリンゴを口にねじ込んだ。少々狭いが、なんとかなるだろうと押し込む。リンゴが潰れながら、なにか言いたげなウリコの口に入った。


「いくらでも食え」


 よしいける、とさらに次のリンゴの出して、口に入れた。次はなかなか入らない。

 ウリコはモガモガと言って、さらに腕をばたつかせて抵抗したが、ルキウスの力は強い。

 ウリコは黒猫に変化して手から逃れると、「シャー!」と総毛立った。


「なぜ怒る?」


 ウリコは離れて人型に戻った。


「息ができないのです。社長に殺されるところだったのです!」

「十年分をやろうと思ってな。ほら、まだあるぞ」


 ルキウスはリンゴを軽くかかげた。


「今は満腹! なのです」

「長く食べてないんだ、その分が入るはずだ。詰めれば入るだろ。それで帳消しな」


 ウリコは下がって寄ってこない。帳消しをあきらめ、代わりに尋ねる。


「ウリコ、なんで外に出てきた? 外は危険だと言っただろう」

「猛烈な金の匂いを感じたのですー。利益は逃さないのですー」


 ルキウスがリンゴを机に置くと、ウリコは離れた椅子に掛けて答えた。


(〈商人の勘〉系統のスキル? プレイヤーがサポートから利益を得る対象と判定されるっておかしくない?)


 ルキウスはいまだに、ウリコを操作しているプレイヤーがいるのでは、と疑っている。


(プレイヤーにしては馬鹿すぎる。悪意があるはずなんだ、騙しているんだから。本物のウリコであるということか? 奇妙な表現だが、そうとしか言えないな)


 彼は、バカの顔だな、と思う。よくよく観察したウリコの顔に知性を発見できない。


「それで儲けはあったか?」

「社長がリンゴくれたのですー」


 ウリコは机の上のリンゴを素早く奪いとり、インベントリにしまった。


(あげてなかったら、無いってことだ。これは仮想演算? スキルは俺の行動まで予測可能なのか。だとしたら予知の効果が凄まじいが)


「ウリコは食事が必要か?」

「ウリコは社長と違って食事はある方がうれしいのですー」


 ルキウスは〈緑の支配者〉の効果の一つで、森林・密林地形で満腹度が自然回復する。


「こうなってから変化はないか? 以前より腹がすくとか、体調が悪いとか」

「そういえば、いつも以上にお腹がすくのですー。死ぬような気がしたのですー」


 緊張感のない声は、食事を摂らなければ死ぬ、と解釈できる。食料の重要性が増した。


「食料の生産手段を確保するか」


 ルキウスが歩きだした。ウリコが追いかける。


「何するですかー、社長ー」


(社長、社長、俺を雇い主と認識しているのか? 給料など払っていない。十年食事なしでも指示を受け付ける程度の忠誠があるのはサポートだから?)


「こいつを使うのさ」


 ダグザボア産肥料の前で足を止めたルキウスが手にしているのは、黄金林檎アトラスアップルの種。アトラスに存在しないアイテム。


 三つの大粒種を等間隔に置いていく。一つは肥料の上。

 そしてルキウスは種に手をかざした。


「〔上位植物急成長/グレーター・プラントグロウス〕」


 種はいっせいにパカッと発芽し、急速に成長していく。


 根は大地のより深きへとグリグリ突き進み、紐のようだった幹はニョキニョキと天を目指すと同時に膨れあがり、強固な柱となって葉を茂らせた。その間、十秒。

 成木となった木は、輝くリンゴの果実を大量にぶらさげた。


「肥料の効果はある、か」


 肥料に撒いた種はほかより育った。大きいのが十五メートル、他が十メートルぐらい。リンゴにしては大きい印象だが、アトラスの名を冠する木、より巨大でも得心できる。


かねの成る木なのですー」


 ウリコのキラキラとした目線が、リンゴからリンゴへさまよう。味より金銭価値が上をいくらしい。


「販売先があればな……以降は腹が減ったらこれを勝手に食べていいぞ」


 リンゴが魔物を呼び寄せる可能性もあるが、来たら始末するまで。リンゴに満足して帰るならそれでもいい。

 どちらにせよ些事、とルキウスは考えた。


 だが防衛措置は必要。アトラスに存在しなかった未知の樹木。

 ルキウスはひとつ抜けた黄金林檎の木に触れた。


「〔覚醒・緑/アウェイクン・ヴァーダント〕」


 魔法を受けた木が、枝葉をざわめかせた。


「黄金林檎の木よ、外部より生命の木の敷地内に魔物が侵入したら撃退してほしい」


 了解を示すように枝が大きく振られ、リンゴがいくつか落ちる。それらはウリコにすばやく回収された。


「金、金、金」


 幸せそうなウリコを放置する。

 これは商人系の職業構成が、人格に反映しているに違いない。


「とりあえず警備員は手に入った。戦力は未知数だが」


 意志を持たせた樹木は、希少で古い木ほど強い傾向がある。

 あれが戦力になれば当座の安全は確保できる。駄目なら、課金アイテムの樹木栄養剤エラプショングリーンでより大きな木を育てよう。


「金が歩いていったのですー」


 黄金林檎の木は根を器用に動かし移動していく。トレントより鈍足だが、敵を追いまわすことは期待していない。普通の木のふりをして、無防備な侵入者に枝の一撃を打ちこむ役割だ。


「散歩でもしたくなったのだろう。一生、定位置なんてろくなもんじゃない」


 ルキウスは、名残惜しそうに歩く木を見つめるウリコの横顔を見た。


 記憶にはないが、こいつがここにいるのは売店に配置してあったからだ。

 生命の木は普段と違う場所で常連客は来ないが、いつもの癖で再配置したのだろう。


 配置。彼は何か忘れている気がした。大いに引っかかる存在を、心の内に感じる。


 彼は調査済領域にくまなく神経をめぐらす。

 見つけた。隠密性が高く、じっとしていて意識に引っかからなかったのだ。


「中に入るぞ」


 気が急くルキウスは、ウリコを置いてさっさと生命の木の中へ飛びこむ。


「あ、待ってください社長ー」

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