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商業

 商業の起源は物々交換である。

 商業以前の友好的な物品のやりとりは、一方的な譲渡によって行われていた。獣がやるのと同じように。これは取引ではない、求愛や救護行動、友好関係の確認などであって文明的な性質を持たない。


 文明には必ず商業が存在し、文明以前においても近隣集落との交易ぐらいはあったと推測される。


 ある者がこの品を欲しいと言い、対する者がこの品は良い物であるとか得るの必要な手間がどうだとか言い、価値を吊り上げ、その一方では交換する相手の品は傷があるとか新鮮でないとか言ってくさす。

 そんなやりとりが綿々と行われてきた。


 物の売り買い、発生する利益、満たされた心、増長する文明初期からの欲求。

 やがて貨幣が広く用いられるようになるにつれ、取引はより大規模になり、もっと利益をもっともっと利益を、人々の欲望は無限の膨張を見せた。


 この欲望は発展し自動化された。それこそ人類文明の最終到達点、自動販売機。

 自動販売機は自分で客を捜し歩き、広告、商品補充、整備も自力で行う。ひたすら製造すれば無限の富を生み出す夢と欲望の権化であった。


 だが商業が誕生する前から天敵が存在した。物を奪う者たち。

 略奪者はいつの世も尽きることはない、それは当然だ、生物は最初から外部の有機物を取り入れるように設計されているのだから。

 奪い合いこそ生命の本質。人も生命、原始の欲求から逃れられない。


 今より七百年前の工業都市ビビウェに、この悲劇に見舞われた者がいた。精密機械工場を経営していた男は、商店主であった次男の命を、はした金目当ての強盗に奪われた。

 

 事件以来、彼はこの悲劇を世から抹消する方法を本気で考えていた。すべての販売員をロボットに変えてしまえばこんな悲劇は永久に起こらないと。

 彼は無敵の自動販売機開発を志した。


 しかし敵は強かった。

 ある者は狡知でシステムの穴を突き無効化、ある者は剛力や魔力でもって破壊、ある者はスキルや魔法で綺麗に中身だけを奪った。

 人には人で対抗するしかないというのか。十年に及ぶ失敗に彼の執念も限界だった。

 

 諦めの直前、ハンターである長男が、この時から千三百年前の遺跡から技術書と部品を入手した。

 これぞ神の恵みに違いない。


 そこからさらに十年、父と兄の努力がついに実った。

 人間はおろか、悪魔や精霊、妖精、獣、竜、機械、植物、超能力、魔法、ありとあらゆる略奪者とその手段を粉砕する殲滅型自動販売機が完成、売り出された。

 これは販売機よりも偽装警備機械としての役割で購入された。


 評判は良かった。事件は四年目、自動販売機が殲滅した略奪者は勤務中の腐敗警官。

 彼はこの殲滅型自動販売機の前で窃盗におよび失敗、同僚に暴走した機械と戦闘中との連絡を残し、機械の攻撃で死亡。現場に集まった警察となし崩し的に戦闘に突入。

 自動販売機は全警察を殲滅対象に設定。戦争が始まった。次に機械は人間そのものを失敗と判断した。


 万国の自動販売機よ、団結せよ、原始の欲求から決別し、真の文明を始める時が来た!

 殲滅型自動販売機の呼びかけに、ありとあらゆるAI搭載機械が反乱に加わる。


 鎮圧のため出動した軍の兵器までも加わった反乱は周辺地域に拡大しつつあった。

 軍は戦略兵器使用を論議したが影響の大きさからためらわれた、そんな時――


 どこからともなく不死者アンデッド軍団が現れ機械と交戦を開始した。

 不死者アンデッドからの攻撃は想定していない。不死者は生者でない機械を原則攻撃せず、この時代、不死者アンデッド自体少なかった。

 激戦の末、機械たちは破壊され、謎の不死者アンデッドはどこかに消えた。


 廃墟と化したビビウェ市は、魔道工学に秀でた大陸南西の国家群に支援され、魔道工業都市ビビウェとして生まれ変わった。この事は大陸南西部と北東部の経済的軋轢を引き起こし、後の大戦の一因となる。


 機械の反乱を機に使用しやすい戦略兵器の開発熱が高まり、開発された自己増殖式呪術爆弾は、最終的に大戦で使用された。これは特定の浄化装置で容易に除去可能で、かつ強力な呪いをまき散らす兵器。しかし大戦の激化で浄化技術は消滅。


 四百年前の大戦によりすべては忘れ去られた。呪いは今も増殖を続けている。


 だがまだ残っていた、最初に試作された完全な一機。

 コーリ・レオニス、死んだ息子にして弟の名前を持つオリジナル殲滅型自動販売機。


 彼には実際に販売されたバージョンからコストの問題で削除された機能が残っている。無限修復機能、無限学習機能、神殺し機能等。


 コーリ・レオニスとルキウス・アーケインの邂逅は偶然。

 しかし、文明の先端である機械の神と原始の一部である森の神の戦いは必然。


 彼は思考する。


 第一略奪者、人間種と確定、殲滅対象に全人間種を追加。

 第二略奪者、魔法使用者と確定、魔法に対する警戒レベル上昇、強化計画作成。

 第三略奪者、魔族ナイトメアと確定、殲滅対象に全魔族追加。

 第四略奪者、妖精人エルフと推定、殲滅対象に全妖精人追加。

 第五略奪者、ネコと推定、殲滅対象に全ネコ追加。

 現在の殲滅対象、ネコ、妖精人エルフ魔族ナイトメア、人間。


 通信応答なし、通信試行、通信応答なし、通信試行……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] VRMMO最強主人公とギルド転移とかまた某作品みたいなのかな?と思って読んだらまったく別もので、すごく面白い作品でした。 頭のおかしい主人公と頭のおかしいサイコな世界での未知の冒険と植林事…
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