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古い遺跡

「片づいたか、リーダー」

「こっちはな」


 ウィッチハットに使い魔を乗せたペーネーが、周囲をキョロキョロと警戒して二人に合流する。


「うまくいきましたね、ちょっと緊張しました」

「一応は予定通りだ」とドニ。

「こっちはほかにいない。レニが合流したら、あっち側に向かう」


 トンムスが首を数えて言った。

 捕り逃しがなかったのは幸運だった。ゴブリンはすぐに逃げる。それが別の群れを連れて来ることもある。

 あっちは単純に数が多い。武器をどうにかできてもゴブリンが大量にいる。応援に行くべき。


「いやあ、お見事ですねえ」


 声は三人のすぐ近くから。三人が一斉に振り向く。木陰からルキウスが出てきた。


「フォレストさん、セイントさんも」


 トンムスが驚いた。そうしている間に合流したレニがルキウスを見て「え、もう終わったの」と言った。

 暗闇に立つ仮面男は少々不気味。レーザーガンのおまけ付きで、何か怪人っぽい。隣にはヴァーラもいる。


「全部、終わったのですか?」

「このとおり、問題なく。あと周囲に魔物はいません」


 ルキウスが、抱えたレーザーガン三丁をちょっと上げて見せる。

 彼は骨船谷の弓の戦闘を観察していた。

 慣れない物を相手によくやったという印象だ。初手で銃だけ奪う手段があれば、それが一番確実だがそれはできなかった。


 トンムスには星一つ分以上の能力差を感じた。同時に複数のゴブリンに攻撃されても、流れるような無駄の無い動きでかわしつつ反撃、さらにドニもフォローしている。本気でないようにすら見えた。


 逆にドニは強引に攻撃しているので、派手に敵を倒す代わりに鎧にはかなり攻撃を受けていた。

 レニはよくわからない。弓でどれぐらいできればいいのか、あの距離なら自分にも当てられるのは確かだ。


 ペーネーが使った〔魔女の火/ウィッチファイア〕はアトラスにない。単純な攻撃魔法なら初見でも対処可能だが、特異な効果の魔法は難しい。魔法情報はできるだけ仕入れておきたい。


「まず、銃の安全装置をかけておくべきでしょうね」

「これ、よくわからねえんだ。頼むよ」


 ドニはそう言って手で掴んだ銃をルキウスに渡そうとする。


「よいので?」

「興味はあるが、武器だからな。慣れない武器は持つもんじゃないぜ」

「なら安全装置だけ、それで弾が出なくなるはず。多分ですが」


 ドニの持っていたレーザーガンを受け取ってから、それを見たルキウスの表情が凍りついた。


「ドニさん、どこか操作ボタン押しました?」

「いや、変なの出たら困るし、何がどうなってるかもわからねえし、持ち方もわからねえよ」


 この平べったいレーザーガンは側面にモニターがある。ビデオカメラのモニター画面のような形状で、起こすと画面を見ることができる。

 ドニから受け取ったレーザーガンは、画面が起きていて光を放っていた。


 画面を見れば青い背景に赤い物体が見えている、赤い物体は自分の手だ。熱探知モードになっている。これなら、気温の低い夜、生き物を見つけるのは簡単だっただろう。


 これはゴブリンの会話では言及されてなかった。ゴブリンが夜目でキャンプを見つけたと思っていたが、これを使った可能性がある。

 偶然に自動照準補正でも使われていたら、命がなかったかもしれない。

 ルキウスが確保した三丁はそうではなかったので油断していた。


 少し飛び出た安全装置を動かしてドニに返す。


「これで引き金を引いても弾は出ないはずです」

「こいつの知識があるのかい?」

「あいにくそれほどはわかりませんが、武器以外にも色々と機能がありそうだ。探知にも使えるでしょう、多分」

「自動で力を補充できるやつなら使えそうだな」


 ドニが色んな角度でレーザーガンを見ながら言う。


「そこまでは判別しかねますね」

「良かったね、兄さん。夢がかなったじゃないの、未知のお宝じゃないの」


 レニが弾んだ声で言った。


「でも、まだだろ。これの発掘元がどっかにあるはずだ」

「それはそうだけどねー、これで納得すればいいのに」

「未知には限りがないからな、だからいいんだろう」

「いっつも言ってますよね、未知」とペーネー。

「ハンターとしては遺跡一個は発見しないとな、でないとハンターを名乗っていられないぜ」


 トンムスがゴブリンの左耳を切り取っている。ゴブリンはギルドの定める討伐対象であり、討伐証明部位の左耳がお金に変わる。


「ああ、こいつの耳も必要でしたね。あっちのも回収してきます」

「それぐらいは手伝いますよ。過半数を二人に任せてしまいましたからね」


 全員でルキウスが受け持った方へと向かう。


「これ、どうやって倒したんです?」


 トンムスが、死体の耳をナイフで切りながら聞いた。


「投石ですよ」

「投石だけですか」

「ええ、返り血を浴びたくないし、触れたくもないし」

「頭蓋骨が陥没してるんですけど」

「これなら弓とか要らないね」


 レニが苦笑いだ。


「であっちがセイントさん?」


 綺麗に首が落とされたゴブリンが大量に転がっている。首の真ん中に水平な切り口、すべてが同じ、首を別の胴体にくっつけられそうだ。


「そうです、すべて斬りました」


 トンムスがヴァーラの全身を見るが血は付いていない。足元に灰と土の汚れがあるぐらい。


「二人の力量はちょっと普通じゃないですよね」

「森で鍛えたので」

「私もです」


「兄さんもあれぐらいできるようにならないと」


 レニもナイフで作業をしながら言った。


「難しいんじゃあないか、これは」


 ドニは剣で大雑把に耳を処理している。


「誰でも鍛えればできますから」ヴァーラが優しい調子で言う。

「いやあ、どうかねえ」


「魔法は使わなかったんですね」


 ペーネーがルキウスに言った。


「工夫の必要な相手でもなかった、銃しかまともな武器がないし」

「私はゴブリンでも接近戦はしたくないです。石でこれも無理ですよ」

「森で鍛えていればこれぐらいできます。純粋な魔法使いでもね」

「実戦経験が多く必要なのでしょうか。師匠も悪魔の森の魔物を皆殺しにすれば強くなれるだろうから全部殺してこいって言っていましたね、本気で言ってたのかなあ、あれ……」

「そいつは流石に難易度高いですね」


 ペーネーがいつものように考えこむ。ルキウスもこれを見慣れてきた。


「じゃあこれ、取り分はパーティーで半々ですからね」


 ゴブリンの処理が終わり、ルキウスが持っているレーザーガンの一つをトンムスに渡そうとする。


「それそうですが、流石にこれだと……」

「構いませんよ、契約は契約。それに特に欲しい物ではないですし、これでも二つ、一人に一つ分ですからね」


 レーザーガンは中位から高位の品質だ、最高位なら命中した木が倒れている。

 恩に変えてしまったほうが得策と、ルキウスは考えた。

 彼は割と他人頼みの人生を生きてきたので頼れそうな人間はわかる。トンムス・ラワトという人間には機嫌を取っておく価値がある。


「俺は畑やったり、獣を追い回して人生を終えるのは嫌だったんだ、昔からよう。昔はすげえものがあったってのに、それと無関係に生きていくのは退屈。最初から無ければ気にならねえかもしれんが、あるのだけは確実ときてる。そりゃあ探すだろうぜ」


 キャンプに戻ってしみじみとドニが言った。話している間もレーザーガンのモニター画面を色々やって見ている。彼以外も視線は銃だ。


「まあ、ハンターで畑耕したいって人はあまりいないからな、この国だと。他はまた違う様相になっているが」


 トンムスが言った。


「もう一人じゃないんだから、少しは手堅い仕事を増やせばいいのに、癖が強いのばかり受けてなかったらもっと稼げてるのに」

「結婚できないお前に言われたくないよ」

「何言ってるのよ、兄さんが適当にやってるから私が結婚できないんでしょう」

「いやそれは関係ねえだろ。それに普段からああやってるからこれが手に入ったんだ。これが夢の第一歩だ」


 ドニが自慢げにレーザーガンの光る画面を見せる。さっきからずっと操作している画面。それに表示されている意味はわからないが、彼に人生に欠けていた何かであることは間違いない。


「もう! これで少しは落ち着くかと思ったのに」

「仕方ありませんよ。私もこれが気になりますから、これ魔道具じゃなさそうですねえ、なんでこんな物をここで見るのか興味深いです。動力を魔道系に入れ替えても動くのでしょうか」


 ペーネーもレーザーガンをずっといじっている。モニターの光で大きく見開かれた目が輝いている。


「私には剣と盾があれば十分ですから、これは必要ないですね」


 ヴァーラも少しは興味があるらしいが、そう言った。


「二人はそうだろうな。これが相手でも簡単にやったし、あの戦闘跡を見ただけでとんでもないとわかるぜ」


 ドニから見るとこの二人は何かすごいとしか認識できない。大火力の攻撃魔法や全力の斬りこみを見れば力はわかる。

 しかしさっき見たものは、小麦を刈り取るように作業的にゴブリンを始末した感じだった。二人には戦闘ですらなかったのだろうと推測できた。


「さあな、意外と何かの足しになるかもしれんぞ」


 ルキウスが言う。


「そうでしょうか?」

「最低限扱えないと意味はないだろうけどな」


 六人は話しながら時間が過ぎていく。

 まだ朝は遠かったが、再び眠ることはなかった。

 環境が変わった森への警戒も含まれていたが、目の前には生きた発掘品だ。そしてゴブリンとはいえ発掘品を装備した敵との戦闘、一生語れる物語を手に入れたのだ。それは多くのハンターが望んでも不可能な事柄だった。

 その興奮で、みな話し続けた。


 朝が来る前に出立準備を終えた一行は、朝日が森に差し込むと同時にゴブリンの足跡を追った。探索時間を増やし、騒ぎの地から遠ざかるためだ。


 追跡に秀でた野伏レンジャーであるトンムスが先頭になって追っているが、大量の足跡は完全には途切れず、素人でも追えそうだった。


 ただし統一感のない足取りが広範囲に散らばっているので、メインの足取りを押さえないと、あっちへフラフラこっちへフラフラと無駄足を踏む事になる。トンムスは散らばった足跡を川の流れのようにとらえて、その流れをたどっていく。


「あの武器のせいか、はしゃいで強気になっていたらしい。騒ぎ具合がよくわかる、乱れた陽気な足運び、恐れが感じられない」


 トンムスが言った。


 木々の間から、低い角度で淡い光が差し込み、長く伸びた木の影があちこちに見られる森。容易な追跡とは対極的な緊張感があった。ほかにもレーザーガンを持つゴブリンがいる可能性がある。


「ゴブリンどころかそれ以外の気配もない」とトンムス。

「奴らが晩のような調子であれを撃ちながら歩いたんだろうよ」とドニ。


 ゴブリンの足取りを確実に追うために、警戒しつつ二時間ほど歩いた。

 一行はゴブリンの足跡から少しそれた場所で立ち止まった。不自然な穴を見つけたからだ。

 トンムスが周囲を警戒しながら、ゆっくり静かに穴に近づいた。



 後悔とはこんな感情に違いない。絶対的な確信がある、世の中の全ての人間が知りたくない種類の感情であろう。

 だがルキウスは自分が後悔していると、すでに認識してしまった。


 彼はあまり後悔しない。失敗しても次から気をつけようとなり、過去を長々と顧みない。

 とりあえず面白そうなことがあればやる。駄目なら次を考える。そんな感じで生きてきた。


 一例を紹介しよう。彼はある日、ふと思った、椅子が爆発して座っている人間が飛んだら面白いのではないか、すぐに徹夜で椅子を改造した。

 次の日、友人をその椅子に座らせた。友人は椅子から横に吹き飛び尻が焼けた。友人は怒った。彼も反省はする。

 次は火薬を半分にしてみた。ズボンが燃えた。友人は怒った。

 次は三分の一にしてみた。ほどよく爆発して、友人はちょっと浮いた。友人は褒めた。万事がこんな感じだ。


 彼は周囲に少なからず被害を及ぼす類の人間であったが、目上の人間や天才的な人間には好かれやすかった。

 いつの世も常識的な凡人よりも行動的な変人が評価される。何もやらない者は広い世界ではいないのと同じであるからだ。

 尻を爆破された友人も、若手の優秀な文化人類学者として著名になっていた。


 それにグレートサプライズプランによる再構築を成したのは革新者。つまり変わり者であるから、この時代、社会の上層にはまだ変わり者が多かった。

 そんな理解ある人々に支えられたおかげで、今に至るまで彼の行動傾向に変化はない。


 そしてルキウス・アーケインが世界的な有名人であるのもまた必然。凡人がたまたまアトラス内で目立ったのではなく、普段からやっている、凡人から見れば異様な合理的試行錯誤をゲーム内で繰り返した結果に過ぎない。


 普通の人間は映像がリアルなアトラスで、器用にムカデで編んだムカデ紐を作ってトラップに利用しようとは思いもしない。本人は単にできそうだからやっただけだ。


 ある種、宗教的禁忌と戦った解剖学者と同じような精神性を彼は有していた。

 ゲーム内に無かったこの紐は、ゲームシステムを無視して、ありとあらゆる場所に強引にトラップを設置できたのでルキウスの防衛線に大いに役立った。

 そしてあまり他人には真似されなかった。


 これは普通の虫がアイテム扱いでないことを利用した現象だった。

 もっとも、本人が本物の虫ではないと認識したからこその行動、今は不可能だ。


 アトラスの開発者が、雰囲気作りの意味合いで実装したであろう虫を最大限に利用した最初のプレイヤー、革新者である。これ以降アイテムでない自然物を利用した、からくりトラップが流行った。ドミノを倒して爆弾のスイッチを押す、そんな感じの物を自然物と既存アイテムを混ぜて複雑に構築して作る罠だ。


 しかし偉大な革新者も、今回はやっちまったな、と思っている。


 後悔の原因は目の前の穴。人三人が同時に入れそうな竪穴。

 土は固まっておらず、新しくできた地形とわかる。深さは約三メートル、多少斜めになっているので一人で出入りできそうだ。穴の底には横穴が見えている。

 これは自分の判断による結果で、人のせいにできる見込みはなかった。


 すぐそこには、ルキウスが木こり仕事で急成長させ、切り出し、枯らした木がある。間に木々が茂っているのでヴァーラは気がついていないだろう。

 ルキウスにとってはそのまま気がつかないでいてもらいたい。

 この穴はあの木が原因で発生したものだ。急成長した根が地中に影響を与え、枯れた際にしぼんだ。それで地中に空間ができてこの穴になったのだろう。


「おかしいですね、ここに足跡はないのですが」


 トンムスは顔を地面に近づけて、穴の周囲を懸命に探すが、足跡は見つけられない。


 それもそのはず、穴は約五十メートル先にもう一つある。茂みの中で石によって蓋をされている。ゴブリンが隠したのだろう、レーザーガンの元はこっちだ。ゴブリンは目の前の穴を発見しなかったらしい。


 二つの穴の中の様子はルキウスにもわからない。全力の探査魔法でも。視界の中に砂粒ほどの黒点があって視界が欠けているような感覚だ。

 彼の力が及ぶのは自然だけ、つまり穴から先には人工物がある。


 穴の生成だけでなく、穴の発見も回避することは可能だった。それにも失敗した。


 彼は前日と違い、レーザーを警戒して全力の探査魔法を使っていた。だから、穴があるのは知っていたのだ。穴は森に大量にあるので、意識を割いていなかった。


 遺跡を発見した経験があれば、浅い穴の先が見えない違和感で遺跡だと気がついたはず。気づいていれば、こっそりと遠距離から魔法で地形に干渉して埋めるぐらいはできた。この世界での経験不足が祟った。


 できれば、遺跡を他人に見つけて欲しくない。いっそ今から地震でも起こして埋めてしまおうかとすら思う。

 骨船谷の弓の四人の記憶を消してしまえば、なかったことにできる。ここ五分ぐらいなら可能だ。しかし、せっかく友好的な関係を築いたものを変にいじるのは避けたい。

 何より遺跡の中身は不明。金目の物ならどうでもいい。渡せないのは自分に向けられたくない武器、魔道具や関連する技術情報ぐらいだ。それらがある可能性は低い。


 まずは中を確認、とルキウスは考える。

 まだだ、まだ失敗じゃない、適当なお宝を見つけて、気分よく皆で帰れば大成功だ。

 あるいは穴を発見しただけで帰ってもいい。時間ができたらその間に中を調査すればよい。


 一行が穴の周りで集まって穴を覗く。そんな中でルキウスが言った。


「それでどうしますか? 中は危険かもしれません。あのレベルの兵器があれば命はないかも」

「何が出てきても私が止めます、心配ありません」


 ヴァーラが、ルキウスの心中を察さずに言った。


「ハンターに危険はつきものだ。遺跡を前にしては退けねえな」

「危険そうならちょっと見て帰ればいいよ」

「私も遺跡なら興味があります」

「ここからだとちょっと遺跡かどうかもわからないですから、中には入りましょう」


 トンムスが思案してから言う。


「念のため周囲を一通り探ってきますよ、中に入って入口を塞がれでもしたら大変だ」

「お願いします」


 ルキウスは集団から少し離れると、背の高い草の茂みの中に素焼きの焼き物を置いた。ハニワの頭部分だけの、一摘みにできる小さく丸い焼き物だ。

 そして〔会話接続/メッセージリンク〕で通信する。


『ソワラ、いるか』

『もちろんです、お呼びでしょうか、私もすぐそちらに参ります』


 すぐに早口で反応があった。


『これから森で発見した遺跡に入る。森林地形でない場所だ。他のパーティーと一緒にだ』

『救援ですね、すぐに行きますから、なんならずっと私が張り付いておきますから』

『救援はまだ必要ない。あくまで保険だ、なんの問題も発生していない。私の仕事は完璧だからな。念のためだ、念のため、誰か連れてきて待機しておけ、それだけだ』

『しかし、森ではない場所ですし、やはり魔術師が一人もいないのは問題がありますから、私が常時隣に控えておけば何の問題も』

『四番マーカーだ、人もいるので見つからないように』


 まともに話しているとまた長くなる。強引に打ち切った。


「周辺には何もいません、安全ですよ」


 仕事をしてきた風に集団へと戻ったルキウスが言った。


「なら入りましょう。この穴ならロープ無しでいいでしょう」


 トンムスが横穴の奥を警戒しながらそろりと穴を下って、底で屈んで穴を覗く。動きにくいが十分進める。


「当然に暗いな」

「〔照明球/ライトボール〕」


 トンムスに続いて穴を降りたルキウスが、杖の先に魔法の灯りを作る。白の光球が横穴を照らす。近距離で見るといささかまぶしい光球を、杖で押すように横穴の奥へと進める。光の後を追うようにトンムスが進む。

 横穴は一メートルぐらいで直角に近い角度で曲がっている。曲がってすぐのところで横穴は終わった。


 扉があった。金属質の赤い片開き扉だ、横穴の地面ぐらいの高さに、扉の取っ手がある。

 扉は横穴のサイズより大きい、トンムスは取っ手を握った。


「どうです?」後ろからルキウスが聞く。

「取っ手は……動くようですね」


 トンムスが取っ手を回すと、扉は内側へと開いた。軽く開いた扉をトンムスが足で押すと全開になった。ルキウスのその先へと光球を進めた。

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