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ヴァーラ

 ヴァーラの耳はルキウスよりもよい。


 そして〔聖騎士/パラディン〕――厳密には特定の神格を明確に信仰する〔神聖騎士/ディバインナイト〕――たる者の一人として討つべき悪を見逃すことはない。騒乱から悪を感じ取ると何も考えず駆けていた。


 いつものように悪を討てば主も喜ぶに違いない、主の行く道の安全も確保できる。そんな思いで、心を一杯にしながら凡人には認識できぬ速度で駆けた。


 自らの護るべき信条、信仰を掲げそれを順守する。

 それこそが〔聖騎士/パラディン〕であるということ。


 その生き方ゆえに躊躇なく己の正義と神の法を体現し、そのために必要な力を信仰により得る。


 その正義は信仰対象によって大きく異なる。邪神悪神の類を信仰する者であれば、おおよその場所では反社会的とみなされるだろう。


 そして緑神――この世界においてはルキウスの教義とは、あるべき自然の調和を乱す不埒な略奪者を殲滅することだ。端的には対人向き防衛型の教義である。なおルキウス本人は自身の教義を正確に理解していない。


「な、なんだお前……」


 突然腕を掴まれた男は、強気に出たが声は上擦る。

 それも当然、瞬時にして音も無く至近距離に現れた全身鎧。

 金属のガントレットによって掴まれた腕は、どれだけ力を入れても微動だにせず、逃れようと踏ん張った足に履いた皮のサンダルは、でこぼこの石畳の上を滑るばかりだ。


 ヴァーラは男の腕を掴んだまま、周囲を確認する。場所は少し開けた三叉路。ちょっとした広場になった所にガラの悪い男が四人。若い男、少年と呼んでも支障ない年齢の男性が血を流して仰向けに倒れている、さらに何かの小物が壊れて飛び散っている。

 それを十数名ほどの野次馬が遠巻きにしている


「それでこれはなんの騒ぎです?」

「騎士様に関係ないぜ。さっさと失せな」


 別の男がヴァーラの横に回る。他の男達もヴァーラを囲んだ。


「関係なくはありませんよ。あなた方が悪であるなら滅ぼすまでです」

「悪だとう? ふざけてやがるのか」

「関係ないって言ってるだろうががぁぁあああいい」


 ヴァーラを握る手に力を込めた。

 金属が骨を圧迫し、掴まれた男が身をよじる。


「もう一度だけ聞きますよ、これはなんですか?」


 どこまでも丁寧で、感情が抑えられた声だ。


「お、俺らの縄張りで勝手に商売してやがるからしめてやっただけだ。あんたには関係ない話だ」

「なんの権利があってそうするのですか?」


 淡々と尋ねるヴァーラは、並々ならぬ圧力を放っていた。


「俺らの縄張りで何をしようが俺たちの自由だろうが、何言ってるんだ」

「もういいです。聞くまでもなく官憲の類には見えません」

「うるせえよ、この路地は俺達【黒獅子将軍】が仕切ってるんだぜ。ここじゃあ俺たちが法だ。なめてると殺すぞこらー!」


 男が緊張に耐えかねたのか怒鳴った。


 汚い罵声がヴァーラの正義心を刺激する。

 ここにはここの法があるのかも知れない。しかしそんなものは神の法の前には無意味だ。略奪者に死を、それが神の望みである。


「十分です。不当な行いと判断します、邪悪は滅するべし」


 ヴァーラが機械のように静かで落ち着いた声で言った。そして手を握って放した。異様な音がした。


「ぐぎゃああ」


 腕を潰された男が絶叫しながら倒れ、転げまわる。


「てめえー!!」


 ヴァーラの横の男がナイフで鎧の隙間を刺そうと突きかかる。ナイフが刺さるような隙間は存在しないが、ヴァーラは軽く身を引き、突きを回避、近くなった腹部を軽く殴打した。その男はわずかにうめき、泡を吹きながら倒れた。


「出入りだ! 全員呼んでこい」


 一人の男が路地の奥へ走った。これで残っているのは一人だけだ。

 ヴァーラはナイフを抜いて構える男を無視して膝をつき、倒れている少年に触れる。


「〔中傷治療/キュアミドルウーンズ〕、大した怪我ではなさそうですね」


 治療である。その間も男は動かない、増援が来るのを待っているのだろう。ヴァーラは立ち上がったが、彼女もただ直立しているだけだ。


「な、何やってんだお前、なめやがって!」


 ヴァーラと一人で向き合うことになった男が凄む。


「まとめてやったほうが効率的かと思いまして。さっさとお願いしますね。時間を奪うも大いなる悪行、罪が増えてしまいます」


 そんなことを言っている間に路地から大勢の走る音が聞こえ、ガラの悪い男達が五、六十人現れた。粗末な剣、槍、斧、棒などを持っている。


「お前かあ、なめたまねをしやがって、俺たちにたてついて生きて帰れると思うなよ。御大層な鎧があってもどうにもならねえぜ」


 集団先頭のまとめ役らしき顔に傷のある男が偉そうに宣言する。


「自分の命の心配をなさい。悔い改める最後の機会ですよ。腕の一本でももいで森に捧げれば許されるかもしれません」


 ヴァーラがゆっくりと剣の柄に手をかけた。


『ヴァーラよ、しばし待て』

『はっ』


 ルキウスからの念話にヴァーラが背筋を正した。




「ちょっと失礼」


 ルキウスが気配を絶って、先頭の男に横から話しかけた。


「なんだ……おまえ、わーーー!!」


 先頭の男が横を見ると異様な仮面の男が上から覗きこんでいた。そして男の頭上には大きな何かが浮かび影を作っている。周囲の男たちもビクッとしてとっさに一歩下がった。


「へー。その【黒獅子将軍】ってのはどれほどのものなんだい?」

「なんなんだお前は……」


 話しかけた男が引きつった顔をしている。


「野次馬のなかの野次馬だよ。それであんたら偉いのかい?」

「俺たちこそ、この街の支配者【黒獅子将軍】だぜ。偉いに決まってるだろうが、知らねえのか?」

「ほー。なら、ここの伯爵よりも偉いのか?」

「と、当然だぜ。お貴族様になんぞに、キンキラにびびって筋者が務まるかよ」

「そいつはすごい! ご立派な組織ともなれば、さぞ大勢がいるんだろうね。いったいどれほどのものなんだい?」

「子分どもを入れれば、三百人ほどだ。俺たちに敵はねえ」

「なるほど、十分だ」


 ルキウスは無造作になんの技術も感じられない蹴りを放った。話していた男が押されるように五、六メートル飛んで転がる。


「なっ、おめえもか! こいつもだぞ、やっちまえ」


 隣の男が汚らしい形相で叫んだ。ルキウスは木を下ろした。


「縄張りとか、ルールとか、法律とか、大嫌いなんだよ。そういうのをぶっ壊すのが最高だ。君らもそうだろ? だから楽しくやろうじゃないか」


 ルキウスが弾んだ声で言った。

 領主と敵対的な組織なら、どれだけ大規模でも敵に回して問題ない。

 想定内のもめ事、起きたなら最初から派手にやるつもりだった。


『ヴァーラ、手加減せよ。殺したり手足をちぎったりしてはならない。簡単に治療できる程度までだ』

『わかりました』


 ルキウスに襲いかかろうとした五、六人の男を、瞬時に割り込んだヴァーラが弾き飛ばした。

 きらめく全身鎧に男たちが硬直する。


「ひとり置いていってくれ」

「はい」


 ヴァーラは広場で旋風となる。ある者は派手に飛ばされ、ある者は転げまわり、ある者は既に気絶している。

 男たちはやみくもに武器を振り回すが、ヴァーラにかすりもせず、大きく振り回した武器が味方に当たる始末である。


 それでも男たちは、唯一の取柄である野蛮さで、次々に彼女を襲った。しかし、鈍重な男達は武器を振り下ろす前に、次々に殴り飛ばされる羽目になった。


 そんななか、ルキウスの近くに残された男は、ルキウスに武器を持つ腕をつかまれ、へし折られた。槍が落ちて転がる。


「ぎゃああああー」

「うるさい奴だ。情けない」


 ルキウスはつかんだ男を引き倒して、仰向けに寝かせた。


「ふむ、これぐらいの力だな」


 ルキウスは屈み、強引に押さえた男の下顎をつかんで力を入れる。ガギッと骨が音を立て男の顎が変な形に折れ曲がった。


「がああああああああ」


 そこからさらに足を踏んで潰し、ひねったりねじったり色々としてみる。


「ふむ、なるほどなるほど。〔致命傷治療/キュアクリティカルウーンズ〕」


 男の傷は一瞬で治る。自身の体から傷みが消失したことを認識すると立ち上がって逃げようとする。しかし、足をねじり折られた。


「助けてくれええええええええええええええぇぇぇ」


 男が泣きながら絶叫する。そしてうるさいな、とまた下顎を折りたたまれた。そんなやりとりを何度か繰り返した。


(情けない。鉄の掟とかがある組織じゃない。この手の組織で弱みを見せるのは終わりに等しい。それともこいつが新入りなだけか?)


 ルキウスはいたって真面目だ、ふざけてなどいない。練習しているのだ。

 彼にとって力加減は深刻な問題。森の外でも、普通の人間を本気で殴れば血肉が爆散してしまう。力加減の訓練はしたが、本当に弱い奴では試していない。

 そこから真面目に練習を繰り返した。


「ふむ、こいつはもういい。次だ」


 ルキウスが腰を上げた。次に起こるであろう事を察した男たちと、野次馬に恐怖が伝播する。

 被験者は、白目をむいて反応がない。個人差があるだろう、標本は多いほうがいい。


「こいついかれてやがる!」


 男たちが怯えて、仮面の向いた方向から波が引く。


「失礼な。これは医療行為で立派な医療研究だ。人類の発展に寄与できて感謝せよ。これだから学のない奴は駄目なんだ。ああ、逃がすんじゃあないぞ」

「元よりそのつもりです」


 ルキウスは手加減しない。徹底的に精神をすりつぶし、二度と逆らう気が起きなくなるまで追いこむ。中途半端にやって官憲に出られては不都合。力勝負なら負けはない、その土俵で決着をつける。


 しばらく経ったルキウスの実験広場には、うめく男たちが転がっていた。


「くそが、親分と護衛が留守じゃなければお前らなんぞに」


 集団の中では高齢の男が、かすれる声で悔し気に言った。心は折れていないらしい。


「ほう、その親分とやらは強いのか」

「親分の護衛は元五つ星ハンターだぜ。今は留守にしてるがいずれ帰ってくる。そうなればお前ら終わりだぜ。けっ」


 男が苦し気な顔で笑う。


「負け犬の見本のような台詞だな」

「う、うるせー、親分さえいればお前らなんぞ……必ず殺してやるぞ」


 男が血走った目で必死の声を出す。


(どうも五つ星で、完全に超人ぐらいの感覚だな。そいつを見ておきたいが留守ね)


「その親分とやらが留守の家に、この丸太を放りこんでやればさぞ面白いだろうな。そう思わないか、セイント?」

「はっ、実に面白そうです」


 ルキウスはその絵面を想像して、さぞ面白くなるに違いないと思う。


 人の驚きようには色々ある。瞬間的に驚く絶叫系はこの前に村で見た。今回のは状況をじっくり認識してから驚くことになる。たいていは呆然とした表情を張り付けた顔でふらふらと歩き回るか、しばらくしてから派手に喚く、の二通りだ。


 見たい、ただ見たい。


 親分とやらは帰ってきた時に、家が潰れて丸太が転がっていたらどんな顔をするか。きっと最高に面白い顔だ。それが見たくてどうしようもない衝動に駆られる。


 仮面の下の顔がニヤついてきている。


 しかし我慢だ。隣には部下がいる。気が重い。自分の自由がなくなる。


「どうにも面倒だな」


 今は依頼達成が優先、示威行為はここらで足りている。


「ふう、まあいい。適当に何回か潰してさっさとお仕事だ。セイント」

「すぐに片付けます」


 意識を残していた男たちも、ヴァーラに潰され意識を失い道に転がった。

 二人はそれを治療してその場を去った。善意ではない、事件の痕跡を残さないためだ。

 そして丸太を浮かせて歩く二人。


「セイント、勝手に私を放り出して動くな」

「申し訳ありませんでした、重大な護衛の任を勝手に離れてしまい……」


 ヴァーラが歩きながら深く頭を下げる。


「頭を下げるな、普通にしていろ」

「はっ」

「護衛はまだいい。私より強い者などそうはいないだろうし、いても偶然出会っていきなり斬りかかってはこないだろう。それより争いに首を突っこんだことだ」

「しかし、悪を放置するわけにはまいりません。ここは神の暮らす聖地ですから」


 ヴァーラがガチャリと拳を握った。


「物事には手順がある。小悪党に固執していると巨悪を逃がすぞ。お前の鼻が悪を嗅ぎとっても、その根は見えない。我々はここを知らなすぎる。正義のために今は情報が必要だ、わかるな?」

「次から気を付けます」

「それでいい」


 ほかならぬルキウス自身が設定した性質。ヴァーラの人格を否定することなどできない。


 彼女の行動規範は自然神全般に関わる原初の誓い。理想は多くの生命が活発に生きる世界。悪を討つのはその手段。そして誓いの放棄は信仰の放棄。


 だから性質によった言いようを考えた。〔聖騎士/パラディン〕にも優先度はある。


「さっきの連中、〔ろくでなし/ネアドウェル〕レベル七十から百三十ってところか」

「そうですね。鍛えていません」


「平和だ。あれが幅を利かせていられるなら、本当に怖い連中はいないかな」

「それはそうかもしれません。しかしその……フォレストの過ごす街にいっさい悪しき者が存在するべきではないと考えたのです」


「掃除は名を上げてからやれ。今はランク上げが優先だ。そうすれば情報も入り、色々とやれるようになるはずだ。よいな?」

「はっ」


 ヴァーラはゴンザエモンと似ている。行動傾向が違うだけで複雑な事は思慮の彼方に飛んでしまって、行動は極めて直情的になる。

 手頃な餌を用意してやったほうが制御しやすい、どうしたものか。

 ルキウスはそんなことを考えつつ、丸太を浮かせて道を進んだ。




 翌朝、ルキウスはギルドのカウンターで依頼の代金と二つ星のタグを受け取る。

 鑑定・相談窓口のおっさん、バオカイ・タックは、ほれ言ったとおりじゃねえか、と上機嫌で顔がほころんでいる。


 丸太をニレ商会の材木置き場へ運び、当然に驚愕され、ルキウスは満足した。報酬も高額になった。

 その時に【黒獅子将軍】を潰したことを、あそこらの職人連中に称賛された。あのごろつきは職人連中ともよく揉めていた。


 彼はその後、職人馴染みの店で酒盛りに長時間付き合い、街の情報を得た。彼は職人内で勝手に仮面将軍の名前を与えられ、耐性のおかげで素面のまま、先にヴァーラを帰した宿屋に帰った。


 コフテームでは【黒獅子将軍】のようなやくざ者に、血気盛んな若者の愚連隊が、その縄張りで街の区画を細かく区切って争っているとの事だ。そんな集団は百を超えるという。


 【鷲鼻皇帝】、【鎖髪怒竜】、【連火の槍】、【十腕騎士】、【鉄巨人の心臓】、【影斬】、【致命歌】幼さが残る連中が大層な名前を並べている。


 ちなみにあの辺りの木工職人も【不滅の鉄木】という集団に属している。

 腕っぷしがもの言う世界で生きる男達は、皆その手の団体に所属して、酒を飲みながら無謀で愚かな野蛮自慢をして日々を送っている。それがこの街の日常的風景ときている。


 ルキウスはこれを治安が悪いより、街に活力があると見る。

 コフテームに限らず、国全体が開拓の成功で活況らしい。

 国体は西洋的な封建制のようだが、国の上から下までが近く、シュラフタの連帯的な気風がある。


 自分には合っている。きっと再構築時代までの混乱期に似ている。

 窮屈な社会なら、ぶち壊したくなったかもしれない。


「二つ星になったところで木こりより儲かる依頼はあるのか?」


 放っておけばいつまでも機嫌の良さそうなおっさんに尋ねる。


「あるわけねえよ。依頼達成の前にここまででかい木が空を飛んでるって話が来てたぞ」

「赤星より木こりが儲かるんじゃないか。ランクを上げる必要性が感じられなくなるな」

「王家や大貴族の依頼となれば次元の違う金額が動くぜ。そうそうはないがランクが高くないと依頼は来ねえ。赤一つ星以上が一流の基準になる」

「そのランクを手早く上げるには?」

「あの成果がまた出せるんなら、木を切るのが一番だろうな」

「……やろうと思えば可能だが、それじゃあ木こりだな」


 ひたすら木こりでランクを上げるのは抵抗がある。

 自然祭司ドルイドの行動としても違和感が強い。印象も悪そうだ。ほかの自然祭司ドルイドが文句を言われると面倒。見るからに狂暴で巨大な魔物を倒したほうが高評価に違いない。


「どの道、五つ星までは単純に稼いでいればいけるが、赤星はハンターらしい貢献がなければとれねえ」

「つまり遺跡を掘ってこいと?」

「遺跡の発見、未踏破地域の探索、魔物や古代魔道具の研究成果、都市単位を脅かす魔物の討伐。つまり世の中の役に立つ必要があるってのよ」


 ルキウスは、森から強力な魔物を追いたて、それを討伐するのが楽そうだと思った。


「五つ星以前と赤星以降で特に変わるのは? 強さは五つ星でも十分ではないのか?」

「そりゃあ信用だぜ。フォレストさんよう」

「だけか?」

「一般人なら印象だけだが、わかってる奴なら赤星と五つ星との間には、広くて底も見えない谷があると知ってらあ。なぜかわかるか?」

「さあ?」


 気の入らない平坦な声でルキウスが言う。


「おめえさんは考えてるのか考えてねえのかよくわからねえなあ。その仮面のせいでな」


 心の底から何も考えていないだけだが、顔が見えないと人の印象は違うらしい。やはり持つべきは友、もっと友人を増やさなくてはとルキウスは思いながら話を聞く。


「遺跡をものにするには、気長に調査して、そんじょそこらじゃ鉢合わせない魔物と長期間戦いながら発掘だ。研究なら頭、街のために危険な魔物と戦う者は人望がある。特別性を持ってるのが赤星だ。だからハンターは赤星を目指す、わかるな?」


 タックが腕を組んで、少しは真面目な顔で言った。


「そりゃそうだろう。当然だ」


 ルキウスは、さもわかっていますという口ぶりだ。

 理屈はわかるが、本人が名誉の類に価値を見ておらずやる気はいまいち。


 おっさんとの話を終えて張り出された依頼書を見る。一般的な依頼ばかりだ、赤星に繋がりそうはない。


「もう遺跡とか言われてもな。金の目処はついたが」


 ルキウスは仮面の下の顎をいじりながら考える。妖精人エルフの体質か、髭は生えない顎を指の腹で撫でながらに。


 庇護下においたハイペリオン村のラリー・ハイペリオンにもらった地図を使えば、遺跡を発見できるだろう。


 しかしできるだけ遺跡はギルドに渡したくない。お宝探しは面白そうだ。


 魔物を準備するなら、ヴァルファーやソワラに相談する必要があるがそれもやりたくない。地道に赤星を目指すと何年かかる? 二年ぐらいで飽きる自信がある。


「もし、仮面の方」


 後ろから声が掛かった。見慣れぬ者は驚く動きで、仮面がすばやくクルッと後ろへ回転する。


 乱れた黒髪が垂れ、その下から覗く黒い瞳、日焼けして荒れた肌にぽつぽつと無精髭が伸びている。それでもどこか爽やか印象のある三十ぐらいの男。


 服装は、皮の内側に金属を張り付けた内金属鎧ブリガンダインに、多少色あせた黒のマント、腰には長剣ロングソード、背中側から弓が頭を出している。皮のブーツの泥はまだ湿っていた。


「何か?」


 男を見て、ルキウスは言った。

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