道案内3
「宇宙人ってのは、どういう宇宙人だ? 家が宇宙にあればいいのか?」
ミドリノは平静に応じた。疑念に備えていたのに加え、宇宙人という表現が身近でなく頭に響かなかったおかげで、内心の乱れはない。
「宇宙に住んでる知的生命体さ、空の上に住めるからにはいろいろとすごい」
ルキウスが声に力を込める。
「実例がないとわからないな」
「想像しがたいほど豪華かもしれず、不細工な機械生命かもしれないし、ひどく大きかったり小さかったり、ブクブクかもしれないし、カッチカチかもしれないし、ネバネバかもしれない。圧倒的な何かだ。そういう特別を連れてくる人たちだ」
「よいイメージのようだ」
「君は違うのか?」
仮面の方向は動かないが、興味はミドリノに移った気配。
「空の上で生きてるような奴は化け物さ。知っているか。空気がないから話すこともできまい。なら口は無く、耳も無い。代わりにどんなものがついていることか」
「身振り手振りでどうとでもなる。宇宙で生活してたら、大量の腕が高速で動くようになる」
「そんな体力に満ちあふれた奴なら会ってみたい気もするが」
文明を築く生物はすべて人間に近い。高度な社会性だけでいいなら、球形や不定形、多様な変態などがいたが、文明には大きな脳と腕が必要らしい。そこから外れた生物なら争いにはならないだろうか。
彼にはイジャの印象があまりにも強い。銀河国家同士の争いだ。
「とにかく科学でも魔術でも我々にないものを持っている。おならで飛行していてもかまわないが、そいつだって高度な技術に違いないのさ。そんな存在が現れたときにどうする? いったい何が起こるんだ?」
彼にとって宇宙人は未知の象徴だ。あらゆる未知で構成され、既存のルートから外れた未来を発生させる。
「日々の生活に苦心する我々からすれば神のような存在がやってくると」
「神なんてのはどこにでもいるが何もしない。おもしろくはない」
「そうだ」ミドリノは静かに同意した。「宇宙をうろうろしていられるような奴は、格別に退屈な連中と決まっている」
「何を言ってる? どう転んだってどこまでも特徴的な奴しか来ない」
ルキウスはまったく同意しない。
「夜空を見てみろ。輝く星で満ちているようで、大半は空白。すっかすかの中で生活するんだ。愉快な奴は退屈ですりつぶされて消えてしまう」
どこまでも退屈な所だ。長距離ワープが可能になってもあまりにも密度が低い空間。星系へは目指したとおりに行けるが、会敵はまれだ。
都市艦の中では、資源も流行も一定の周期でずっと回っている。人の生活そのものが、ずっと同じコースを回っている。あれが崩れるなら多少の敗北も歓迎できる。
「空に恨みでもあるようだな」
「楽しい想像ができない。年をくったな」
「圧倒的で話が成り立つ来訪者なら、なんだっていいのに」
「そもそもなんの例えだ? 祝福者、試験官、観察者、侵略者、終末、遭難者、救助者、回答者」
ミドリノはまた動揺なしで言った。
「例えと捉えてもかまわない。自由に選択してくれ。自然の中では自由になれる」
「やはり未知を楽しいものだと思っているな」
「君だってそうだろ?」
「未知の生物に限定するとどうだかな。恐るべきものかも」
「恐怖を含まない娯楽があるか?」
「それはなさそうだ」
ミドリノが心から同意した。
「しかし、それは森で遭遇する恐怖の仮面男とどれほど違うものだ?」
「予想できるかどうか」
「俺は予想してない」
「森ではよくあることなんだが。さあ想像しよう。宇宙人に会ったら。あるだろ? 財宝を強奪したいとか、干物にしたいとか、リビングに飾りたいとか」
「お前が危険人物だと確信した」
「別にお手紙の交換から始めたっていいってのに。ほら、ある日、宇宙人がやってきて……」ここでルキウスは沈黙した。「いや……宇宙人が来るなんてのはつまらないか、道端で会った、のほうがいいな。来るなんてのはな」
ルキウスが火が消えたように沈んだのは、仮面があってもわかる。
「古い考えだった、来るなどと。いつから……」
仮面は火を見つめている。
「なら、自分から会いに行くのか?」
「嫌だな。待ってるなんて尊大」
「面倒な男だ」
「よかった。頭がかくはんされたぞ。最近は友達と実験台不足で学びがない」
ルキウスがうれしそうに言った。
「二度と友達と実験台を並列するな」ここでミドリノが少し考える。「まとまった、答えてやろう。俺にとって宇宙人はな、きっと困惑をくれる。どう対処していいのかわからない、良いのか悪いのか判断できず、望むべきものもわからない存在だ。だから会ってもどうするなんて考えられない。要求されるのは対応になるだろうよ」
「そいつは最高にいい」
「そっちは宇宙人にあったら何を望む?」
「宇宙人と話せば、何かわかる気がする」
「あいまいな期待だ」
「なんとなくだが、わかっている。絶対に自分がわかる気がする」
「君たちは我々が作った。しかし失敗だった。残念です。さようなら」
「断る」
「断れるのか、すげえな」
「そういう意味じゃない。違う相手が必要だ。違っていれば何か……会話が成り立つという前提は重要だが、自分に関わる要素が、自分では至らないレベルでわかるはず」
「まったく異なる相手でこそ、鏡になると言いたいのか」
「おーう、それそれ」
ルキウスが同意した。
イジャはれっきとした文明人だが、一部が虫に近い。深遠な感覚よりくる鋭い感受性があるが、個体差が極度に小さく民族性が収束している。誰もが同じことに同じだけ怒り、同じだけ悲しむ。
あれで、遺伝子調整、記憶の複製、人工子宮での製造はしていないと考えられている。奴らは自然にああなった。
あまり会話をせず、卓越した勘で意思疎通し、連携する。
あれと比較すれば、個人選択型生物連合の中では比較的規律的な地球人が混沌を進化の道筋とした生物なのだとわかる。
行動観察などするまでもなく、人類が宇宙を放浪するにいたった経緯を知るだけで十分かもしれないが。きっとこれ以上に制御されない生物は宇宙にいたる前に死滅するのだろう。
「そろそろ火は通った」
ルキウスが鍋のふたを開けると、より強い香りが広がった。
「そいつは毒きのこじゃない。決して笑い死にしたり、全身から出血したりすることはない。安心して食べたまえ」
「きのこなんて入って――」
鍋の中に立派な傘が浮かんでいる。けっこうな数がある。
「魔法……いや、土の時か」
「君がきのこ恐怖症で、鍋に入れた瞬間に鍋を叩き斬る可能性があったので」
「ねえよ。本当に毒じゃないんだろうな?」
「言っておくがまったく毒じゃない。むしろどこに毒の要素がある? 色も形も毒などないと訴えかけてくるじゃないか。聞こえるか、この叫びが。立派な食用きのこだよ。いくらでも自己責任で食べてくれ」
「……食ってやるよ」
覚悟が決まっていよいよ食事というところだが、さらにおかしなことになった。
そこらの木の中から出てきそうな虫がぼちゃぼちゃ入るのではないかと心配したが、それはなかった。問題は食器だ。
箸だ。箸は……この惑星で見ていない。救命艇にも積んでいない。
ポフレッタは三又コンセントにさせそうなフォークで食事をする。サイズや不均等な刃の長さを利用して彼らは器用になんでもつかむ。ミドリノも扱える。
箸を使えていいのか判別できないが、ミドリノは無言で使うことにした。
「さて食べよう」
ルキウスが仮面をとって地面に置いた。さらっとした動きでいくもので、ミドリノはまともな食事になりそうな期待をたたえた鍋を気にしたままで、それに強く反応できなかった。
端正な顔立ちの若い妖精人、恐怖の仮面からは信用性が反転した。すくなくとも一般的な人間にとっては。
彼は何事もないように配膳した。
「そいつは戒律やらで身に着けているんじゃないのか?」
「これで飯が食えるか? ふだん使いに向いてない。儀式ならクイッチャも体の半分ぐらいある帽子をかぶるが、あの格好だ」
「なぜ被っていた?」
「自然崇拝系だとわかりやすい。信仰で、自己紹介に気合を入れるのは一年に一回までと制限されている、たまに邪教扱いで追い回されるが、そんなときはほどよく逃げる」
「お前をどうこうできる存在がいるのか?」
「逃げる逃げる、まずは逃げの一択だ」ルキウスが逃げを強調する。「追ってこられる程度に」
「なぜ? 逃げきれよ。まさか足だけ遅い呪いでも?」
「バカな、逃げきってどうする?」
「いやいや、逃げずにどうすると?」
「逃げるとは言っている」
「追いつかれるんじゃないのか?」
「追いつかれることはない。追いつかれるのは信仰に反する」
「追うより逃げるほうがいい。いつでも攻撃できる」
「追われておいて主導権はあると? それはそうかもしれん」
意味は理解できる。意図的なら後退するほうが有利だ。いくらでも攻撃機会を作れる。しかし、刀より切れる手がある人間には必要ない小細工。
「いかに追わせるかが問題で、極めて実効的な復讐をほのめかせたり、すでに悪行を働いたと主張すると追ってきてもらえる。無論、文化的タブーは有効」
「根本的に追わせる意味は?」
「地道に何度も落とし穴に落とすとか、見知った森で迷わせて観察するとか、気づかれないように刺激的な髪型にしてあげるとか、服になぞの生物の手形をつけまくるとか、やるべきことは無限にある」
「お前、悪魔っていわれたことない?」
「悪いのはあっちだから、それぐらいやって正しい。これが自然の調和だ。ヘビは気にいったか」
ミドリノは話している間にそこそこ食べている。
きのこを食べるたびに、ルキウスの顔が仮面とはうってかわっての千変万化となり、世界の終わりを目撃した表情に始まり、人生に絶望し、財布を落としたことに気づき、宝くじ一等を当てた瞬間などを過剰に表現しているらしいが、思うところがあるので無視している。
「うまいよ。たまたま手に入った食材とは思えない」
香辛料の効いた刺激的な味で、ヘビ肉はやや固いが食うには支障がなく、いささか民族的すぎる料理を昨日の宴会で食べたミドリノにはありがたかった。
「普通にうまいか?」
「全体的にうまい」
「少しは刺激があってよかったな。ちなみに私に毒は効かない」
「おれもあまり毒は効かない」
これにルキウスがお前は正気か? という顔で言った。
「定期的に毒でも食べているのか?」
「いいや」否定は端的。「妖精人なのは隠さなくていいのか?」
「隠すべき場合もあるが、君は隠さないな」
「耳は目立つほどではない。どれほどか知らないが、代が離れている。ところでやはり寿命は長いのか?」
「ああ」
「なら、先祖と知り合いでもおかしくないわけだ」
「言っておくが私は非常に若い。間違っても君の先祖ではない」
「そうだろうな。この先のことを説明するべきでは?」
ルキウスがカクンとうつむいた。
「……そこは流れで」
何かから気をそらそうとしている。ここまで強引に連れてきておいて。それとも、ここではこれが自然な流れなのか?
それでも彼はソワラのことを聞かなかった。超人大戦にまきこまれたくない。間柄はなんとなく想像できる。
そのまま食事が進む。
「ところでタケザサ君、君の要望だが」
「なんの話だ?」
「君の友達の条件の話だ。精神に介入し、永久の錯覚という世界を形成する形で達成可能で――」
「絶対にやめろ」
「でも区別はつかないから。幸運なことに私の得意分野」
「俺の周囲の人間は知覚するだろうが! なぜ得意かは聞かん」
思いのほか食が進み、鍋は空になった。
「ほれ」
ルキウスが亜空間袋から出した木の身を割って、その半分渡してきた。
「最後は果物?」
「クプアス」
ルキウスはさっさとクアプスを食べる。ミドリノもクプアスにかぶりついた。
「酸味が強い」
悪くはないが食べやすくはない。
「食わないと栄養失調になって死ぬから食っとけ」
「……さっきの肉にやばい呪いでもかかっているのか?」
「栄養バランスの問題だ」
飽食の感性だな。
ミドリノは確信した。
糖質、脂質、タンパク質、基本要素のバランスはとれている。さらにビタミン。危険な森の中とは思えない。たしかにここでは配慮が必要。
もっとも艦では、遺伝子まで考慮した完全な食事だった。健康面からすると、働き過ぎに訓練のための運動過剰ではあったが、この二日でやつれたのか。鏡がない。
しかし基準よりひどくはないはずだ。
多くの部族が集まるテケテコパンは栄えていたが、あそこには痩せた人間が多く奥地のカポ族のほうが体は頑丈そうだった。
帝国は荒廃しているという。あっちのほうが標準。心配されるほどではない。
そんなことを考えつつ、食べ終わったクプアスの皮を捨てようとして、ズリッと足が滑り、後ろに倒れる。飯で安心しすぎたか。そんな呑気さがったが、反射的にもう片方の足をつこうとして空ぶる。
「うお!」
声が漏れる。なぜか地面がなく広い空間がある。体が落ちている! その事実を認識するや体をひねった反転、下を確認する。
穴がある。大地がごっそりえぐられてかなりの深さ、家ぐらいは入りそうだ。その穴の断崖が自分が座っていた背後に出現している。こんなものはなかった。
彼は状況に混乱せず断崖を強引に手でつかんで落下中の身をわずかに上に押し上げ、大きく伸ばした腕でどうにかヘリをつかんでぶら下がった。
ミドリノはうなるようなため息を吐いた。
「これも魔法、静かに掘ったものだな。たいしたものだ」
「シーリアス! シーリアス!」
穴をのぞくルキウスが不満を表現する。不満があるのはそっちではないが、ミドリノは何も述べずに片腕の腕力だけで簡単に地面にもどった。手の土を払う。
「ちょっとまじめすぎるなあ」ルキウスが不敵に笑う。
「あいにく、そいつは言われない」
「まあいい、次に期待だ。君は鍛えているな」
「ああ、鍛えてはいるよ」
鍛えてこうなるものでもないと思いつつ答える。ただ軍人としての経験から、ヘビからがテストである可能性がよぎった。
「軽業の動きができるのはいい、意外とそっち系か。とりあえず、これ」
ルキウスが袋から出したローブを渡してきた。それを受け取り「これは?」
「全身を不可視化し、少し気配を薄める。集落への潜入で使え」
「お前は?」
「彼女を引っぱり出さないといけない。確認するが、本当に小人に興味があるんだな? カポの誰かが目標だった場合、どうにもできないが」
「どうであれ挑戦する。それでいいだろ」
光学迷彩装備の扱いには熟練している。歩兵用であれ、車両であれ、艦船であれ。
「こいつの機能を破壊する手段は?」
ミドリノはローブを着こんで身のこなしを確認した。感覚鋭敏な彼がざらつきを感じないよい生地だ。
「特殊な泥や痕跡をつける道具を浴びる。解呪でしばらく魔法は無効化されるが、機能は破壊はされない。装備に固定されている」
「普通の泥は効かない?」
「普通の汚れは服の一部に含まれる。一緒に消える」
「高性能だな」
「普通の人間が扱える物としてはそうだ。次はこいつもだ」
ルキウスがベルトに下げていた口の閉じた布袋をミドリノに渡した。
「軽いな。なんだ?」
「アリが大量に入っている」
これにミドリノが嫌そうな顔をする。アリで感じられる程度に重量があるとなると、かなりの密度で入っている。
「といっても機械の虫だ」
「機械だって? 自然の魔法使いだって今聞いたが?」
「世の中には、機械の植物が茂り、機械の虫が生息する森がある」
「ないだろ」
「あるんだよ」
「どこに?」
「夢見る者たちの世界にだ」
ミドリノが自身の科学技術をごまかそうとすれば、きっとこのようになる。彼はため息で受け流した。
「【道案内】を保管するためだな」
「そうだ。前回も持っていたが、奇跡的な確率で君に憑いた。接触時点で目標達成となると、そっちの中のどれかに行く予定だ」
「なら三人全員も確保したほうがいいな。万が一もある、【道案内】とやらが必要なんだろう?」
「それはそうだが、確保は難しいだろう」
「なんとかする」
「それよりもカポ族に移ることだけが心配だ。接触のタイミングはできるだけ考慮してくれ。それと村への侵入は道を通って門から行え」
「透明なら余裕だがなんの意味が?」
「警戒の魔法ぐらいはある。それに見えないからといって不要に人に接近するな 鋭い人間にはばれる」
「ああ」
「目標達成が困難な場合、すぐに森の中まで離脱しろ。間違っても村の中の建物に潜むとかはやるな。回収できない」
「目標に設定されているのはひとりだろう。ならばどうとでもなる」
「おそらくそうだが……確実とはいえない。君の目的がはっきりしないからな。生物目標の達成は、撃破、確保、会話など、人数も増えないとも」
「お前はほかに仲間がいるな。彼らをなぜ使わない」
「それはほら……ちょっと……」
ルキウスから察してくれ。それが当然の気配がむわむわ放たれる。
「お前の事情はまったく知らないが」
「またまたー」
「自分の説明量を思い出せ。普通ならつきあってない」
「【道案内】から君を解放してやろうとしているというのに」
これにミドリノはまたものため息で、ルキウスは少しだけ応対した。
「よそにも仕事はある。なにより、私が恥ずかしいし」
「なぜ?」
「なぜだって? 部下のあれこれあれこれだ」
「そうかい」
「いいか、いくらか森まで入ったらまとめて救助するから、とにかく村の外に離脱しろ」
ふたりはカポの村までかなり接近した。
「はー、帰りてえな」
ルキウスが陽気に呟く。彼は接近する前に仮面だけはなく装備一式を別のものにしていた。杖は手にあるが、同時に背中に二本の剣がある。
「おい」
「わかってる、ルートにしたがって行け」
二人が別れる最後にルキウスは「こんなときこそ宇宙人が来ればいいのに」と愚痴っていた。
ミドリノは自分の常識である索敵を控え、ルート通りに移動して村を確認。あっさり部下を目視できる位置まで侵入した。
人を避けつつ遠距離より観察しているわけだが……腹立たしいことに、三人はカポ族と愉快に遊んでいる。彼らが木を加工して作ったブーメランを使っていて、老若男女を問わずに人が集まっている。その意欲を救命艇の生活の改善に使ってほしかった。
ボグンズの足はよくなっている。ここにも魔法使いがいる。内向きなマインボンはこの環境では疲れているかと思っていたが、子供たちと虫を探している。いつものマイペースだ。
ミドリノはここで【道案内】の示す方角と距離から目標を確認した。やはりテロテロ。自分の志向からして、彼をこの集落より救助すれば目標は達成されるはず。
しかしすぐに問題に直面する。
ばかどもが無敵の集客効果を発揮しているおかげで、透明でも彼らに接近できない。
ここで考える。
ブーメランを投げそこなって拾いにくる際に声をかければいい。
と考えたところで、ゴーンと破裂音と爆発音が入り混じった音が響く。さらに近い音が連続する。集落の外からだ。そう離れてはいない森で土煙があがった。
ルキウスが戦闘を開始したのだ。何かが空を高速で飛び、大量の青い光弾が森に降り注いでいる。
カポ族の多くが興奮あるいは恐慌し、集落の中の森寄りや自分の家に散っていく。三人はそれを追う動きが遅れた
「テロテロ大佐」
ミドリノがそこへすばやく接近してささやく。
「……艦長?」
テロテロが不安な表情で辺りを何度も見渡した。
ここで大量の白煙が森で発生、高くへ上がりつつ広がっていく。あれは風の流れで自然に集落を包む。そのタイミングで三人を外に出せばいい。
「ここにいる」
ミドリノがテロテロに触れた。
その一瞬で、すべての景色がどろりと溶けた。




