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ジェンタス上陸2

 ぶちまけられた砂が彼らに覆いかぶさり、その中を大きな影が横切る。ミドリノは、あれのどこかに足がぶつかりよろけたが、どうにかふんばった。


「各自で距離をとれ! 足を止めるな。そののち退却」


 彼は号令すると、反転して駆けだした。クルーも方々に散った。相手が化け物では、横隊も方陣もあったものではない。


 砂がヘルメットを打つ音だけがしていたが、その音もすぐに消え、足元の砂の音が聞こえた。ここでさっと後方確認。


 砂のカーテンの奥で大きな影があらぶっている。追ってきてはいない。

 彼は姿勢を低くしてプラズマガンを構えた。怖いのは味方の発砲。


 その味方は六人確認できる。一人いない。隊はおおむね南北に分断された。三人が救命艇のある北へ走り、おそらく二人はミドリノの横を抜け南へ走っている。


 ここで宙を舞った砂が砂漠へとかえり、白く長い体が横に伸びているのをとらえる。高さはさほどないが巨体。なにより至近距離。通常条件下で、プラズマの超高熱に耐える物質などない。


 プラズマガンの引き金が引かれ銃口が発光、砂ミミズが腹が一瞬燃え、体液が散った。砂ミミズは全身をくねらせてのたうち、もつれるように固まった。しかしすぐに体を伸ばし、わずかに首をもたげて、機敏に周囲を探った。


「軍用車を貫通する威力のはずだ」


 砂ミミズの横っ腹は焼けこげているが、動作に支障はないようだ。臓器に偏りがあるのか、深手ですらない。

 ミドリノはゆっくり後ずさる。砂ミミズはそれに着目した。


 ミドリノが停止していて近かったからか、標的は彼に定められた。巨体があの独特のくねりで砂上を泳いでくる。しかし顔が正面。その位置は安定していた。狙える。


 しかし彼は銃口を下ろした。

 照準した恐ろしげに開いた口のある顔の背後にヘルメット見えたのだ。クルンパだ。彼女がそっと這い出て、北へ走るのが見えた。これで全員無事だ。彼はそれを確かめるや逃走に移行した。


 向かう先でプラズマガンを構えたテロテロが一発撃ったが、当たったのかどうかはわからない。逃走にうつったテロテロの表情から、あれが追ってきているのを察せる。


 ややたどたどしい走りでその前に走るのはマインボンだ。彼は首にかけていたプラズマガンを投げ捨てた。


「バカ者、武器を捨てるな!」


 どなったが聞こえたかどうか。なんせヘルメット越しで、活動ユニットに付随する通信機能は死んでる。活動ユニットと一体化しており気密を失うおそれがあり、改造はためらわれた。


 原始的な無線機は持っているが、この状況では取り出せず命令が出せない。救命艇にもどりたいが、すでにかなりの距離を来ている。


「なぜもっと撃たないんです!?」


 テロテロが少し前で伴走する。彼はミドリノに速度を合わせている。合わされたほうは必死の走りだ。


「どれぐらいで死ぬかわからん。君も命中させたか?」


 先手を取っての一斉射撃であればやれた。しかしこの部隊の陸戦に統制は期待できない。いったん状況を安定させたい。


「首辺りです。撃ちまくればいけます」彼が振り返る。「距離がつまってる」


「背中で感じてる! 撃たないのは暴発したら死ぬからだ。そもそも最大出力でなぜ死なん。高レベルのプラズマに耐える物体なんて宇宙に無い。物質の構造によっては、惑星を二つに割る衝撃にも耐えるがな」


 砂に深い痕跡を刻む砂ミミズの音は大きいが、ヘルメットのおかげで聞こえない。それでも肩甲骨の先端に、奇妙なにじむ感覚が左右交互にあった。これまでない感覚だ。


「収束が鈍っているのでは?」

「かもしれん。プラズマは無敵だ。一億℃だっていける。とにかく連射は避けたい」


 ミドリノは敵より大きな虫より暴発が怖かった。電池バッテリーが爆発するぐらいならいいが、発射失敗で腕が炭化してもおかしくない。


 いっそう必死に走る。足が空回りしそうになるが、体重を傾け前へ前へ。呼吸は完全に乱れている。追ってくる砂ミミズも同じぐらいの速度で来ている。訓練なら絶妙の速度だ。そう思うと体が楽になる。


 おかげで砂漠走に慣れてきた。足の裏に神経を集中して、なんとか砂を感じる。これまでにないほど軽快に足が動く。


「少し……」またテロテロが後方を確認した。「距離が開いてきた」

「いいぞ、わかってた。あいつは持久力がない」

「初対面ですよ」

「このまま振りきる」

「こっちも排熱できないんですよ」

「冷却剤は積んだ。ところで、あれは誰だ?」

 

 先頭を走る小さな活動ユニットがとてつもなく速い。独走状態だ。信じがたいほど離れている。

 ポフレッタは軽量で、小さなストライドで走る。砂漠では足をとられにくく地球人より有利だ。それでも圧倒的とはいかない。


 マインボンはプラズマガンを捨ててていなければミドリノより遅い。今だって追いつきそうだ。彼はもう疲労状態かもしれない。


「わかりません」

「番号でも書いておくべきだった」


 その先頭の誰かがふりむいて何か言った。

 何も聞こえない。しかしこの距離でも顔がわかった。七人の中では特徴がある。


「じじいじゃねえか!」


 私的な言葉が思わずミドリノの口を突いて出た。先頭はボグンズだった。年齢と体格からすれば異様な速さだ。ティックあたりだと推定してた。


「そういば、学生時代は超重力走選手だったとか」

「初耳だ。でも大昔だろ」

「たしかに健康的なイメージはないですが」


 ボグンズはどんどん小さくなっている。呼びかけるがやはり聞こえていない。


「速すぎないか」


 この砂漠で、短距離走のトップクラスの速度だ。

 後方の砂ミミズはあきらかに減速した。そろそろ走るのをやめていい。というか、ここで休むべきだ。


 その時、ボグンズが登ろうとしていた砂丘が派手に飛び散った。


 誰もがそれに注目し、散る砂の奥から白い筒状の物が突き出したのを見た。

 車を飲めるサイズの砂ミミズが、砂の中からロケットみたく飛び上がったのだ。


 それが体をねじって下を向きながら口を開き、ボグンズの頭上に迫った。すると彼が無重力状態みたいに浮き上がり、シュンと頭から吸われた。キュポッと音が聞こえた気がした。


 巨体がずどんと砂漠に落ちた。


「ギャー!」


 全員が異口同音になった。

 巨大砂ミミズはまだ体の後半が砂中で、もぞもぞと体を動かしている。潜るつもりかもしれない。こっちに突撃してくる動きには見えない。

 狩りに満足したのか、落ち着いているようだ。貫禄がある巨大な筒がぐでんと砂漠の真ん中に出現して、とてつもない圧力がある。


「あいつぶっ殺してじじい回収する」ミドリノが即断した。

「生きてるんですか!?」テロテロも興奮している。

「掃除機だったー!」マインボンはいまだに冷静ではない。


「咀嚼されてない」

「後ろは?」

「無視する。いや、接近して来るなら撃ちまくれ。俺は麻酔を準備する。あのでかさはちょっと撃ったぐらいじゃ怪しい」

「それこそ効きますか?」

「口内は粘膜だろうよ」


 ミドリノは自分のプラズマガンをマインボンに渡すと、バックパックにぶら下げていたケースからシリンダー状の薬剤弾をすみやかに出した。


 そして巨大砂ミミズへ走る。敵はそれを認識したのか、くねる動きで彼へと動きだした。しかし遅い。あまりに緩慢な動きだ。彼は巨体を眺めつつ足を止めた。


「そこまで育つと鈍くなるのか」


 ミドリノはガスライフルのボルトハンドルを操作して薬室を開き、弾薬を装填して閉じた。


「敵一号、再び砂に潜ります」


 テロテロの警告が聞こえた。

 獲物が足を止めれば、砂の中から接近して襲う。そういうことかもしれない。彼はそこにかまっている場合ではない。口そのものが左右に動きながら彼につっこんでくる。


「でかい口開けやがって」


 シュッと音がして、ガスライフルから放たれた大きな弾が口に吸いこまれた。

 間違いなく弾が刺さったが、口が追ってくる。彼はこれが後方のクルーに向かわないよう側面へ走って逃げた。砂丘を下る分には速い。


「二発目が必要か?」


 彼は巨大砂ミミズを確認し、動きが鈍っていくのを感じた。それでも全力で走った。やがて巨大砂ミミズが止まり、砂丘の傾斜で横転すると、息をなんとか整えつつ接近した。


 そこに二人が走ってきた。まずテロテロの報告。


「一号の位置が不明です」

「わかってる。ロープを使う。口を開けさせろ」


 巨大砂ミミズは触手をだらしなく垂らしており、腹を横に向けていた。マインボンが口に接近しようとしてその触手に触れると、反射的な動きで彼の腕をつかんだ。


「うわ!」マインボンが腕を引っぱるとどうにか抜けた。「死んでないじゃないですか」


「麻酔だって。正しい用法だ。テロテロは警戒を続行」


 ミドリノは追加でもう一発撃っておいた。そして洞窟のような口内へ叫んだ。


「応答しろボグンズ!」

「動けんです」


 かなり小さな声が聞こえた。体のサイズからするとかなり奥に送られたようだ。


「マインボン、ロープ持って突入しろ」

「ええ!?」彼はすごく嫌そうに逡巡したのち入った。


 ミドリノは中からマインボンの合図確認するとロープを引いた。

 やがてマインボンが外に出てきて、ロープをつかんだボグンズが出てきた。


「ぎゅうぎゅうで潰されるかと思った」


 出てきた彼は全身が緑の液体まみれで、それが足元から垂れた。マインボンがおびえて逃げた。


「砂で洗浄する」


 ミドリノたちは彼に砂をかけたが、面倒になったので砂にゴロゴロ転がして砂でこすった。それで液体はおおむねとれた。


「追ってきたのは来ないな」テロテロが言った。

「あきらめてくれればいいが、視認できんからな」


 彼らは巨大砂ミミズの上で休憩することにした。巨体の上でゆっくりしながら、望遠鏡をのぞく。周囲には何も見えない。


「そうか。そっちはそのままでいろ。監視の人員を常時配置するように」


 救命艇へ向かった四人は無事に帰還していた。これが彼らへの命令。


「ここは恐ろしい。下に何がいるかわかったものじゃないぞ」とボグンズ。

「ちょっと想定外だ。そこまで大きな砂漠じゃなかった」とミドリノ。

「広さ関係ありますか?」とテロテロ。

「巨大生物がいるにしては狭い」

「燃費がいいんだ」とマインボン。


 本当に何もない。表面には。そう思いかけたところでミドリノは遠くに何かを見つけた。


「あ、はやっ」


 望遠鏡の中心に収めたと思ったら、対象はすぐに逃れた。それを何度も追ってようやくじっくり見た。


「なんですか?」テロテロが自分の仕事を続けたままでたずねた。

「小さな鳥がいる。走るタイプだ。保護色で砂地に適応している」

「へえ、いわゆる鳥ですか?」

「ああ、くちばし、翼、あしゆびだ。砂をついばんでいる。虫でも食べているのか」


 全員が目を皿にして探すと、高速で動く鳥と、小さな虫が砂から出たり砂に隠れたりしているのを発見した。気がつくと足元に小さな甲虫がいて、あの緑の液を食べていた。


「鳥は小さく虫がでかい。虫系惑星ですかね」

「だが軍事衛星があった。外部から設置された可能性があるが」

「初の虫型文明との遭遇かもしれない」

「勘弁してくれ。あんなグネグネした連中とは話が通じん」

「全然安全じゃなかったな」とボグンズ。

「だから中にいろと言ったんだ」

「監視人員をさくべきでした」とテロテロ。

「ひたすら砂漠を見ていられる人間がいなかった。そもそも出ないなら必要なかった」


「機械の仕事に慣れた人間なんていやしない。こいつは生きてるんですか? とどめは?」テロテロが足元を気にした。

「小さいのが無数いるより、こいつだけのほうが安全な気がする。縄張りとかがあるといいが」

「動きは遅かった」と一丁前にマインボン。

「食われたのに」とボグンズ。

「こいつが出る前に砂が動いていた。注意をはらいゆっくり歩けば帰れる」

「今は動きたくない」とマインボン。

「下のはいずれ動く」


 実際はわからない。通常なら二本は無事ではすまない量だ。


「あそこを見てください」


「拠点から見えませんでしたが岩地です。あそこなら化け物が潜めない」


 砂をかぶっていてわかりにくいが、砂の下に赤い岩が露出している。かなりの範囲で頑丈な岩盤の存在が期待できる。森の手前に着目すると、そこにも赤い岩が多い。あそこには砂ミミズがいないだろう。あの岩地は意外と広いかもしれない。その場合、あの上を通ってできるだけ救命艇に近づくのがいい。


「ちょっと考える」


 砂ミミズの生態的地位ニッチは、ここで最大の肉食生物なのか?

 そうであるほうが望ましい。


 ここの餌の種類は乏しい。肉食生物はあまり棲みわけしない。


 そして砂に潜む狩り。日陰など一切ない砂漠での、日光への対処であるのはあきらか。そしてあの巨体だ。陸上を動けば獲物に逃げられる。


 しかし常時隠れているとすれば、より強い生物が存在しえる。単純にあれの年齢の高い個体が若い個体の天敵である可能性もある。


 振動への感度はどれほどか。音が枯れた砂漠なら、おおまか位置がわかるだけでいい。地下を移動するのは体力を消費する。だとすれば、ずっと同じような位置にいるのか?


 それとも、昼にも地表を移動していただろうか? あまり監視していなかったので自信がない。口を閉じていれば、この巨体でも意外と保護色で見えない。

 砂ミミズ以外の生物を知らないために推察には限度がある。


 現在確実なのは、積極的に人を襲うことだけだ。そして最初は、この砂漠をほかの惑星でもよく見る部類の砂漠と同じだと思った。


「こいつが昼行性だから、昼は活動している生物が少ないということもあるな」

「だとすれば、目はあるんでしょうね」とマインボン。

「おおまかな、距離と方向がわかれば十分だからな。救命艇の周りはあれだらけかもしれん」

「夜まで待つと?」

「酸素ボンベで済ませたい。酸素循環器は補充できまい。まずこいつの体を調べる」


 ミドリノが巨大砂ミミズから滑っておりる。


「危険ですよ」言いつつもテロテロが続く。

「乗っていても同じだ。全員、周囲警戒だ」


 彼は砂ミミズの体に触れて調べはじめた。


 顔は情報が多いが、生物の特性をつぶさに判断するのは難しい。口が開閉できることと、飲みこむ能力に優れ、口内に並ぶ歯が返しの役割をしているのはわかる。喉の奥にも歯列あり。鋭利ではない。触手の先端は細長く、獲物をつかむより砂中を認識するためにあると判断した。


 体は上部分が分厚いようだった。上から攻撃されることがあるらしい。まさか巨大な鳥でもいるのか、その疑念が彼に空を確認させたが何もいなかった。

 側面にはひだがついていて、どことなく魚鱗のようだ。

 そして腹になる下部は、厚い皮膚が数か所えぐられていた。深いところで五センチほどあるが、ほとんどが肉まで達していない。数か所に治った痕跡もある。


「こいつをかじる生物がいるようだ。ポフレッタより小さい」

「鱗食魚みたいなのですかね」

「こいつが地中で遅いか、じっと待機してる。いちおうかじる生物が速い可能性もある。そいつも砂中にいる」

「豊かな砂漠ときたな。釣りならやれそうだ」とボグンズ。

「……傷は下部に集中してる。砂ミミズは砂上の獲物を襲うために浅い所にいる。その下に潜んでいるらしい」ミドリノは砂漠を見た。「すみやかに帰還するべきだが」


「森に行ったら面白そうだと思っていたが」とボグンズ。

「森のでかい虫に襲われたくない。だが、あの岩盤の範囲を調べておきたい。役に立つかもしれん」


 望ましくない行為が、救助が遅ければ森林に火をつける必要がでてくるかもしれない。

 彼らは警戒しながら森方面へ移動した。砂を被っている所も少し足で掘ると岩盤が露出する領域がけっこうあった。


 この岩盤の上を通れば、砂ミミズを避けられ、ついでに森を近くから観察可能だ。遠目ではあったが、ミドリノには亜熱帯の植生に思えた。


 帰りの砂地を歩く距離は少ないに越したことがない、この間にも救命艇では索敵をやっているから、砂漠で動く砂ミミズがいれば位置を捕捉できる。


 ある程度まで森に接近し、今度は砂漠と岩盤の淵を移動し、より砂漠へくいこめる地形を探している。


 不意に、どこからともなく大きな虫が出現した。進行方向で複数歩きまわっている。ここまで歩いてきてわけではない。急に出てきた。


「伏せろ」ミドリノが静かに号令。


 人間に近いサイズで、アリカマキリを全体的に丸くした印象である。ただし、動きはアリに近くちょろちょと動き、様々な方向へ走っている。かなりの速度だ。


「なるほどー、岩があるので穴が掘れるわけだ」


 ミドリノがプラズマガンを照準し、テロテロもそれにならう。


「感心している場合ですかね」


 穴の位置は見えないが、きっと進行方向の岩場にある。奥からどんどん来ている。彼は頑丈そうな顎に着目した。


「起立、ゆっくり後退。顔が肉食だな。かじるやつとは違う。こいつらは岩場が巣か。砂漠と森の境だが、絶対に森のほうが豊かだから」


「どんどんこっちに来てる」


 全員が武器を構え、マインボンがだけがさらにどんどん後退する。


 最初に接近してきた大アリカマキリは七メートルほどの距離で停止してこちらを見ている。その横にどんどん並ぶ個体が増え、横が埋まると後ろに数匹が溜まった。全員が同じ顔をして、触角をピコピコ動かしている。


 ミドリノがクルーを確認した。


「さて君たち、逃げる準備はいいかな?」

「どこへ?」

「何も考えず森へつっこめ。退却だ!」


 ミドリノが猛烈に腕を振る俊敏な走りで森へ向かった。即座に奴らが追ってくる。虫は絶対に彼らより速い。ちょこまかした動きでわかっていたことだ。


 だが、火事場のバカ力とはこのことか。彼はこれまでになく好調だ。追いこまれているので気分が上がる。


 もっとも、今回は対処手段がある。

 彼は催涙弾をさっと後ろに投げた。爆発音がして、ピンクの色がついた催涙ガスと重そうな煙が広がった。


 気密が確保された彼らには有用な武器だ。

 虫の集団は、かなりが煙に苦しみ前進をやめた。ただし煙の発生したルートを避けた集団が追ってくる。


「彼らと行先が同じだけだと思うか?」


 ミドリノが言った。


「森が狩場なのでは?」

「そうか、仲良く狩りがやれそうだな」

「我々が獲物でしょうね」


 同じようにテロテロも催涙弾を投げ、遅れて残る二人も同じようにした。これでほとんどの大アリカマキリが混乱に陥り脱落した。

 

 しかし三体が執拗に追ってきていた。

 ここでミドリノがプラズマガンの射撃に入り、ひきつけた三体を連続して撃破した。すべての着弾は胴体だ。一発で体が分解され、手足が地面に転がる。もう土は森のものになっている。


「やはりプラズマは無敵だ」


 ただし、かなり後方からは増援が来ている。あの様子では森の奥まで来かねない。


 彼らはひたすら走り、森へ入った。入っても停止せずに全速で木と木の間を駆ける。生身なら枝葉で派手に肌を切っているだろうが気にしない。

 ずっと走り続ける。大柄なミドリノが先頭だ。ポフレッタに合わせると彼が枝で頭を打つ。


 ミドリノはクルーが分かれないように気にしつつ十分は駆けるつもりだったが、見えないほど先の位置に何か……重力のようなものを感じて急停止した。この感覚は脳を接続していない時はないはずだが、どうにも微妙に接続しているような感じあった。


 遅れてきたテロテロがミドリノに触れて止まった。


「化け物で――」


 ミドリノが彼の口を塞ぐようにヘルメットに触れた。その原因が、ミドリノが凝視する森の奥にあるのはすぐに全員に知れた。しかし、対象を見ることはできなかった。当の本人もよくわかっていない。彼はとにかく草の中に隠れ、クルーもそうした。


 見るべきものがわからずとも、最初に目視したのは彼だった。


木人ぼくじんとでもいうのか」


 ミドリノが呟き、彼は見ているものをずっと指差し続けた。三人も注目したが、長く何も発見できず鳥の声を聞くだけだった。対象がある程度開けた所まで動き、やっと全員が対象を捕捉する。

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