竜4
クロトア半島の帝国軍は、前線の要塞と塹壕群を放棄した。
このあわただしさの後に来た異様な静けさに惹かれたのが、彼らと距離をおいて対峙していた半島国家の連合からなる守備隊で、彼らは数度の遠距離攻撃を試行し、長大な距離を慎重に前進、無人の防衛線に直面した。
倉庫には大量の物資が残され、急な撤退をうかがわせた。
彼らは物資を回収しつつ増援を待った。戦場の残骸を拾い歩くのは彼らの日常で、実入りの良さは、不気味な状況で待つ緊張をおおいに緩和した。
たまに頭の上を飛ぶ小皿――遠目にはまことに小さな皿に見える――はここではたまに高空を通るだけで意識しなくなっていた。
この状況でどこからともなく現れたのが、イジャの自律兵器だ。最初は四機だった。ふわふわ静かに接近するそれは、いかなる銃声も生まなかったが、近くに接近してから鋭い赤いレーザーを発射した。
敵と知れるや守備兵は果敢に斬りかかったが、鋭い赤のレーザーによって幾筋もの焦げ目を体に残して次々にやられた。
それでも敵の少なさからか、彼らもひるまず斬りかかり、複数人の対金属戦技によってなんとか破壊した。
すぐに追加が来た。少しずつ少しずつだが、減らすたびにむしろ増える。塹壕などの遮蔽物を利用して戦うが終わりが見えない。大軍で一気に潰しにこないのが不気味だ。
守備隊が、守る筋合いのない敵陣から退却を考慮し始めた頃、増援が到着した。敵の追加も尽きないが、周辺の守備隊が次々に駆けつけ、戦闘規模は拡大しつつあった。
もし半島国家が帝国陣地の確保を目標にすれば、戦争規模の戦闘になる。
これに関するヴァルファーの意見は
「半島方面に侵攻されるのは望ましくない。帝国軍が戦闘に参加できず、彼らの対空迎撃魔法は遅く、簡単に破壊される」
「地上戦はそこそこやれてるようだが」ルキウスが言った。
「イジャは戦力を逐次投入している。これは索敵がいなくなったら、索敵を補充して警戒網を繕っているだけです。小皿の大部隊が来れば終わる」
「小皿に直接作用する魔法は効いているか?」
「人数と儀式場で強化すれば届くようですが、長射程攻撃を試みれば潰しにくる。こちらからイジャに干渉しますか? 放置した場合の展開が読めない。一部だけでも制御しておきたい」
「南に行けば、帝国はなにがなんでも迎撃する。工業地帯がやられるから」
「ええ、しかし半島上空には例の衛星が多い。そちらにぶつける案もありましたが、ミュシアさんは無意味だと。監視の目が残るほうが良策のようで。それに残存する帝国軍に壊滅されても困る」
「北へも行かないなー」
「帝国からの連絡はありませんが、あちらの通信網が破壊されているのでなんとも。急速に支配領域を広げていないのは確認できています。母艦が移動しないのは当然ですが、自律兵器も追加量が減った。派遣地点を選定している」
「拠点を狙っているが……収容所には行ってないな」
拠点というより、資源が多い場所だ。要地を押さえる用兵ではない。
「距離があります。収容所のWOを使うことを考えておられるので?」
「どうするか」
ルキウスが腕を組んで黙る。
「ひとりで行かないでくださいよ!」ヴァルファーが語気を強める。「空から奇襲されれば死にます」
「うーん」
「まずはウリコのほうを。帝国が利用可能な機装兵向け装備の選別は終わっています」
「後で見る」
「予定はないのでは?」
ルキウスは腕を組んだままだ。
帝国で実際にイジャの戦闘を見れば、何かが思い浮かぶような気もする。そういう閃きがありそうな場所に自然と足が向く。
それが危険な場所ばかりで、ヴァルファーは警戒している。だからか、一応の計画を出した。
「やはり汚染土です。あれが彼らのレーダーに認識されるのは確認済み。大量に用意でき、風で巻き上げれば長く浮遊する。彼らが移動しない理由もそこにある」
「それも選択肢だが」
「アルトゥーロと同じお考えで?」
「あると知っていれば、対処する情報処理システムを作る。イジャの科学水準は高い。丸見えの目隠しではな」
地下移動時の目隠しにはなる。先日の救出作戦のトンネルは、途中までは汚染されていた。それが介入を遅めた可能性がある。
とはいえ、地中から接近し大魔法を使っても、百発は当てないと大皿は沈まない。そもそも、帝国中央部はあらかた浄化されている。
ルキウスは席を立ち、庭に向かった。
「一度でも、長時間大地に下ろせればな」
考えているようで思考が進んでいないのがわかる。
ルキウスはそれ相応に論理的ではあるが、物事を順番に組み上げることはまれだ。
おもちゃ箱をひっくり返したように、多くの思考の元になる部品が目の前に散らばり、それをなんとなく組み合わせ、面白いものを探す。
コモンテレイ防衛線の時は、最初にあの大軍をまとめてやりたいというのがあり、次には落とそうになっていた。
それを彼が自覚した時、大皿は落ちないと確信しているのだと思った。これは論理の感性が働いているのだ。できない事は思考から排除され、案として浮かばない。
おもちゃ箱を揺すっても、なんの音もしない。
ルキウスはマウタリのアリール神国に来た。ここには論理的なタイプがいる。
多くの足と一本角を持つ者が、いつものうつろな目をしてイスの上にいた。
宰相となったコロだ。部屋には彼とルキウスだけだ。
ルキウスは底抜けに明るい声を出した。
「ギャッピー様! 人類の全問題を解決してくれ。とりあえずイジャから」
「コロです。無理です」
コロは、気の抜けた声で応答した。やはり目に感情がない。
「いやいやギャッピー様、あらゆるギャッピーの能力を十倍に引き上げ、万を率いる軍師ギャッピーじゃないですか! 大群で最高レベルのプレイヤーを殺しまくったそうですね。先に言ってほしかった」
ルキウスが陽気にまくしたてた。
「そうなのですか?」
「そうらしいですよ。なんとかしてくださいギャッピー様」
「そう言われましても」
「そこをなんとか! 同じ混沌勢じゃないですかー」
ルキウスがコロの甲羅をなでる。発火しそうなほど激しくなでる。
「いかに考えても叶わぬのです」
「そこをなんとかー」
ルキウスが音速の土下座で床にへばりついた。
「おやめくだされルキウス様」
コロがカサカサカサと動き、いすから飛び降りた。
ルキウスがすくと立ち上がった。
「冗談はさておき」
「あ、冗談ですか」
「なんとかしてくれ」
「敵は目的に前進しており、こちらは無駄な時間をすごしているのが現状」
「辛辣ですね!」
ルキウスがはきはき言った。
「敵の目的は物資収集であり、妨害するには、非効率な戦闘で回収部隊を削っていかねばならないが、敵の作り出した状況を受けているだけで、戦争になっておりません」
(それを考えると、敵地上部隊の全滅も一応の勝利ではあるがな。こっちは地上戦だ。だからこそか。敵はつねに大皿に余力を残し少しずつ地上を探索している)
「我々は、戦車に挑むアリです。存在は認識されているが、無視されている」
「ならば最善手は何か?」
「敵より戦力を早く増強する手段が必要かと。敵の攻撃を受けなければ、魔法的手法は有効、それは彼らにない強み」
敵の弱点より、自軍の優位性を軸に考えるようだ。
「長期戦覚悟だな」
「この策は、敵の増援の規模と到達時間にかかっていますが、次まで時間はかかると愚考いたします。ルキウス様の魔法や機械で帝国軍の科学力を強化すれば、数を用意できるかと」
「ギャッピー様」
「……冗談ですか? 冗談でしょうな?」
「私はいつも確実に勝ちにいっている! 危うい戦いは避ける!」
ルキウスがキリッとした顔で言い切った。
「おそれながら……投機的な作戦が多い気が」
ギャッピーが伏し目がちになった。感情のない目が全力で逃げている。ルキウスは話を変える。
「シュケリーは帝国の方角以外には反応していないのか?」
「ええ、イジャはほかには存在していないと思われます」
「マウタリもいつもどおりか?」
「なんの介入も起こっていません。良き若者です」
どこかで何か起きてほしいというのは、ルキウスが子供の頃からなんとなく思っている事だが、今ははっきり思う。
「ならいい。この国を頼むぞ」
「承知つかまつりましてございます」
ルキウスは生命の木に帰還した。今度こそ、ウリコが選定した道具の売却を決定する必要がある。金はないのだ。しかし、金があっても、あれに通用する大魔法はない。
そんな事を考えつつ、螺旋階段を上がる。
「アリなら、数で喰らいつくこともできるがな……」
アトラスなら、一レベルでレイドボスを倒すことは可能。大勢死ぬ前提だが、許容できる時間で倒せる。これは毒や呪い、地形のギミックでダメージを与えられる場合。
ルキウスなんかは、火炎瓶を投げ続けるだけで殺せる。燃焼ダメージが入り続けるからだ。無論、彼が回避しなければだが。
自律兵器の展開からして、敵の指揮は確実に自動化されている。空軍になる小皿の派遣先を決定するルーチンも同じかもしれない。
地上の自律兵器の損害は気にしていないこともわかる。
これがコロの言うとおりで、害虫駆除機械のような動きだ。
一定量の力には集中的に攻撃が来るが、標的に固執せず離脱する。
大軍で攻撃すれば別の反応はあるだろうが、複雑な戦略はない。
イジャのAIは、人類のように、人の代わりをさせる方向で進化していない。
平坦であるがゆえの戦いにくさはあるが、このような中途半端な指揮であれば、敵の一割の戦力があれば勝てる。その一割がない。
「常識的に考えれば、長期戦のほうがマシか……確かに侵攻が遅い敵に対してはそうだが」
ギュリ、という小さな音が耳に入った。擦れた感じの聞きなれない音だ。
彼は螺旋階段から出て、一室のドアを開けた。
使用人のメアリーが背を向けている。彼女はここの仕事を手伝っている。
そして飾っていた皿を割っていた。落としたりはしていない。複数のひびがある皿を左右から圧迫して持ち、散らないように留めている。皿の状態からして、持っただけで無数の破断が生じている。
皿割り作戦が成功すれば、大皿はああなる。
その皿のひびが消えた。修復の魔法だ。きわめて精密で、皿から壊れた痕跡はまったくない。
そおっと振り向くメアリーと目があったが、そっとドアを閉めた。普通の人間だったら、記憶を消されていそうだ。
「おとなしく皿を割りに行けって? それはな――」
それ以上は口に出さない。
けっきょくは数だ。大統領になった緑野茂もそうだった。爆発を連鎖させたのは、敵を倒すためではない。あの戦局は、負けてもよかったのだ。
彼が敵も味方もまとめてぶっとばした映像が出れば、『祭り』になる。
祭りにして、未参戦のプレイヤーを大量に呼び込むのが目的。
より広く、より特殊で、より強く、より即時に人の心に作用する広告だった。
瞬間的に戦力が増大すれば、戦局は極端に動く。
しかしここに隠れた大戦力は無い。航空戦力となれば絶対にない。隠れられる性質のものではないのだ。
悪い状況は変わらないが、彼の中でやっと確定した事もある。戦地は帝都だ。帝都には意味があると直感的に信じる。
大皿は、周囲の探索が終わって探し物がなかった場合しか動かない。
そしてそれを待てない。探索範囲にアンテナがなかったからよかったとはならない。
おそらく、帝都には数百万の死体がある。
ルキウスがエルに言った一か月、これは死体が死体である限界。今頃、帝都の死体は、胃酸が体内を溶かし、腐敗ガスで膨らみ始めている。やがて乾燥しながら溶解し、最後に骨が残る。
これらの変化は外傷があればより早い。
ルキウス的には、肉の多くが溶け臓器が完全に欠落したなら、構造的に生きていない人体とはいえない。腐肉だ。
この感覚がどこまで正しいかわからないが、皮膚が溶け、骨が露出する段階では、人とは思わない。
帝都の天候はずっと影。そして、比較的高緯度の十一月。確実に常時十度以下。
狙える環境だ。死体を触媒にして超大魔法で森を造れる。
その森を丸ごとルキウスが取りこめば、大変な巨体になる。これで大皿に突入すれば勝機はある。ルキウスならイジャ光線をぼかすか撃たれても死なない。
ただし、実行には大皿が極めて低空にあり、魔法の発動から森が完成するまで、光線を撃たせてはならない。
その状況にできる手段があれば、普通に破壊できるというものだ。
「皿割りのほうがマシなのか? ここまで条件が揃っているってのに」
独り言が増えたなどと思う間に、二十七階の未分類の鹵獲品倉庫だ。ウリコは真面目に作業をしているようで、機械類が分けられていた。
現在は、長距離射撃武器が特に入用だ。
「ウリコ、選別は終わったか?」
「ここのはまだまだ大量にあるのです。社長も手伝うのです」
ウリコは猫耳を立ててらんらんとした目をしていた。
「いつになく働いているな」
「もうすぐお金に変わるのです。お金♪ お金♪」
ウリコが機械類をせっせと運んでいる。火炎放射器、レーダー、自動索敵装置などの特殊装備が多い。これらは比較的高価で売却ようだ。
「お前の金じゃないからな」
ルキウスが広い部屋を移動して、棚を確認していく。
「全部ウリコの金なのです!」ウリコは自信満々だ。
「違うだろ」
二人はしばらく売却作業を続けた。火器類だけで一日仕事になりそうだ。
「フー。よく働いたのです。ウリコの取り分は十倍にするのです」
ルキウスはウリコの頭をひっつかんでシェイクしてやろうと思ったが、直前で急に手を引いた。赤だ。ウリコの表面に、微弱な赤い粒子が漂っている。
――脅威。予想された最大の脅威。
ルキウスはゴウと後ろへ跳ぶ。同時に背中の剣を荒々しく抜き放ち、背中を壁に付けて着地、二本の剣を構えた。木である壁と床に魔力を通し、部屋全体を自らの操る領域とする。
同時に自己強化の魔法を開始する。
ウリコから明確に赤のオーラが立ち上った。それはかつてマウタリがまとったのと同じ赤の気配。
ウリコの周囲が魔法で捉えられない。空間がえぐれたような感触がある。イジャとはまた別のルールの歪みだ。
ウリコは落ち着いており理知的にも見える。断じてウリコではない。彼女には、金を求める以外に利用されるいかなる知性もない。
「やっと潰しに来たのか。だとすれば、とりこぼした残骸をまとめてクリーンにするってところかな? ウリコは金儲けに関わる直感系のスキルがあった。それは自己感覚の強化じゃない。外から情報を受けている。それを利用しての介入だろう?」
ウリコはただたたずんでいて、赤の気配だけが揺らめいていた。考えている。
「それとも少しは状況ってものを説明する気があるのか?」
ウリコはやや困ったようにほほえみ、少しためてから言う。
「緑野君、悪いね。今後も頼むよ」
それだけで言葉は途切れた。
「……誰だ? ……誰だ?」
心当たりがない。彼の知らない緑野茂がいても、このような呼び方をする知り合いがいるだろうか。何かを頼まれたことなどない。
しかし間違いなく、緑野茂に関わる誰か。これは一方的に知られている人間ではない。距離が近い。どこか、上からの物言い。
フッと、ウリコから赤の気配が消えた。完全に消えた。
「……それだけ? それだけだと! 何がしたいんだ」
ルキウスは本当に呆然としてから、長髪が逆立つほどに憤慨した。そして剣を捨ててウリコの肩を揺すった。
「ふざけているのか! 目的を言え!」
「ニャー! ウリコのお金は渡さないのです!」
がくがく頭を揺らされたウリコが、仰天して暴れだした。
通常版ウリコだ。金のことしか考えていない。
ルキウスがたまらず「ああ」と息を漏らし適当にウリコを投げた。
「くそ見物人め、意味がわからない。嫌がらせか」
違和感、視界にドアがある。部屋のドアがいつのまにか開いている。
入り口では、ビラルウが赤い大きな銃を構えていた。ウリコを照準している。
「ああ、だめだよ」
ルキウスがウリコの前を横切ってドアに向かう。
「お金! 死守! 絶対!」
ウリコは爪を出して戦闘態勢になっている。
「あれなに?」ビラルウが言った。
「子供には関係ないものだよ」ルキウスはビラルウを後ろから抱え上げた。そして部屋を出て「ウリコは仕事を続けとけよ。お金を隠すなよ」
「世界のお金はウリコのお金! 銀河のお金もウリコのお金!」
ルキウスがドアをがっちり閉めるとビラルウが「あれなに?」
「悪い大人の見本だよ」
(介入は最小限か? いや状況を確認するべきだ)
「あれなに!」
ビラルウが怒った。見られていたか。あれというのは、あの赤い状態だ。
「こんな銃あったか?」
ルキウスがバレルをつかんだ。ほのかに白を含んだ赤一色で太く重い。こんな目立つ銃をビラルウに使わせた覚えがない。
「あれなに!」ビラルウが繰り返す。
ルキウスは銃を気にしていた。「これなんだっけ? 魔力があるが」
「プロセッション・デ・カーディナルベースのカスタムよ」
急に冷めた声がきた。
ルキウスがビラルウを抱えなおし、高く上げて向き合った。幼女は見下すような目つきで彼を見ている。
「ねえ、あれなんなの?」
ビラルウが聞くが、ルキウスは動きが固くなっていた。目線は銃だ。
「気になる? これだけで全距離に対応できるの、接続弾倉切り替えで十種の弾倉を装備可能。照準修正はないし、実際の運用じゃ口径は揃えるけど」
「……ああ」ルキウスの声は小さい。「マニュアルを徹底的に読み込み、様々な状況を想定するとは偉いぞ。成長したな」
「一般環境は全部これ。対人なら中距離〈決弾〉ラッシュから〈致命断契〉で押し切るのが基本。メンテ費用は高いけど勝ってればいいと思うでしょ」
「よーし、軍事教則をことごとく読破し、実践できるなんてすごいなあ」
ビラルウがどんどん不服の顔になっていく。
「あれなに?」
「言っただろ。ルッキーはちょっと忙しい。また今度遊んでやるからな」
ルキウスはビラルウを床に下ろした。
「ずっとこれ着てるのにわからないの?」
ビラルウは赤いドレスの裾をつまんで軽やかに回転した。
「よーし、かわいいぞ」とルキウスは幼女の頭をなでた。
ビラルウは無言でインベントリを開くと、赤紫の霊薬を出してグビグビ飲んだ。子供には多い量だ。
変化はすぐにくる。彼女はどんどん大きくなる。拡大の効果ではない。それでは大きな子供になる。これは成長だ。
彼女はすらっとした若々しい女性になった。やや圧縮された感のあったドレスは、細い腰を際立たせている。そして銃を片手で操って回した。
「ああ、やっと頭が働くわ」
「アーハー……」ルキウスは肺を限界までしぼませた。「子供が育つのは早いものだ。ルッキー嬉しいぞ」
「ちょっと、脳天にぶち込まれたいの?」
ビラルウが引き金の感触を何度か確認した。さらに銃が変形して太くなり、銃のバレルが三つになった。威力重視の仕様。
「ダレデスカ?」
本日二回目。知った顔が誰かわからないことがこうもあるだろうか。
「わかっているでしょ」
「そうじゃない。誰ですか?」彼は真剣だった。
「何を言ってるの?」ビラルウはちょっと引いている。
「ええと、ルッキー本当に忙しいから仕事をしないと」
ルキウスが部屋に入ろうとすると、後ろから言われた。
「あなたの妻です。宇宙で唯一よ」
ビラルウは何かをあきらめており、ルキウスもあきらめた。
「スカーレット」
彼はどこまでも観念するしかなかった。




