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森の神による非人道的無制限緑化計画  作者: 赤森蛍石
2-6 →過去→現在→
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竜2

「入れていいよね?」


 エルは子猫のような人懐っこい目で、かすかな戦意も感じさせない。

 彼女は、惑星最高レベルの戦力。しかし、森の力を受けたルキウスの前で余裕でいられるほど強くはない。


 エルとアルエン、過去と現在のふるまい。ルキウスは直感的に察した。


 名を変える行為は、意識的に人格を切り替える意味がある。必要に応じてか、気まぐれに始めたかには無関係に、演技を続けるうちに自然と気が乗り、新たな人格がより厚く構築される。この生活をずっと続けると、さらに複数の人格を確立し状況に適したものを使える。

 

 それで本性が消えはしないが、演技中は一貫性のある行動をする。演技歴が長ければなおさらだ。


 今の人格は表向きのもので善良、これは信用できるが危惧は残る。


 ディープダークはヒーローだった。そうではない人格の反動で生じた顔の可能性がある。

 ルキウスは考えずに新たな客について判断した。


「いいぞ、敵なら始末するだけだ」

「そう簡単ではないと思うけど」

「できるさ、確実にな」


 これにエルは不服の笑顔を返した直後、「そのようで」声はエルの後ろからした。これには彼女も鋭敏に反応し警戒した。


 エルに近い場所にいたのはレイアだった。


「以前、少し削ってあげた方ですね」

「……そうか、君のところの兵だったのかい?」


(なんのことだ?)


「友好的な存在だ。よろしくやることをお勧めするが」


 ルキウスは言った。


「いいさ。戦力が必要な状況らしいから。君がわかってきた」


 迎え入れたのは、結界ぎりぎりで待機していた二人。

 片方はわかる。コフテームの臓物の豆包の【歩く胃袋】の親父だ。数日前にも会っている。


「ええとな。実は俺はな……」


 かわいげのない職人気質な親父はイジイジと気まずそうにしている。


「知ってた。次」


 ルキウスはまったくどうでもいいと言い出さんばかりだ。


「え!? それだけ」

「うはは」エルが馬鹿笑いしている。


 一度認識した偽装手法を見逃すルキウスではない。彼の針は特別製のようだったが、いる前提で警戒していたので判別できる。


 古い吸血鬼ヴァンパイアの親玉が健在と認識し、まっさきに思い浮かべた人物だ。

 彼は効率的な監視点だった。吸血鬼ヴァンパイア関係の何事かが起これば、それは彼の生活に波及し、行動を起こす。


 そのはずだったが、戦争で隠密型のペットが死亡して、監視できなくなった。それでも、定期的にルキウス本人が様子を観察している。


 彼は武骨で演技派の顔ではない。何かあれば顔に出る。そして、彼は料理だけに集中していた。きっと料理人でいたかったのだ。だから放置していた。


 次に控えているのが、エプロンをした女中だった。ルキウスはこの女を絶対に知らない。こんな女は、生活圏に存在しない。


(こいつもだな)


 彼女はエルが紹介した。


「メアリー・ゼンテリ。見てのとおり彼女は専門職の使用人だよ」

「お見知りおきください」


 メアリーがおじぎした。


「今は流浪の身ですので、職場を紹介していただければ、完璧な家事仕事を提供いたします」


「それはあまり期待しないほうがいいかも。ゴミ掃除は得意だけど」エルは何かをのみこみ「このふたりは旧知だ。別口は遠くに待機してるよ」


「まだいるのか?」


 次はとんがり帽子の魔女がふたり。これは完全にやられている。


 魔女の小さな片割れ、深くかぶった帽子のつばを上げて上目遣いにのぞいたのがペーネー。今はもうない【骨船谷の弓】のペーネー・デゥーネ。


「運命というやつは、どこまでもやってくれるな」

「ええとフォレストさん? フォレストさんですよね? 私はちょっと状況が」


 ペーネーがおずおずと言った。


「おたおたするんじゃないよ」隣のミュシアが気だるげに言った。


「そちらは?」ルキウスがペーネーに聞いた。


「師匠です」

「なるほど。すごくわかった」


 ペーネーは東世界で最初に会った魔法使いで当時は違和感がなかったが、若いわりに博学で優秀だった。しかも高度な教育機関のない世界の無派閥の人間だ。気にするべきだった。すべてに意味がある。


「そ、そうなんですか」


 とまどうペーネーの視線がふたりの間をさまよう。


「ミュシア・エリクデゥーネ、プレイヤーじゃないのよ」


 ルキウスが意味を理解してうなずく。


「ところで、エル……は何歳かな?」

「ええ、レディに聞くの?」


 エルがすっとぼけた。


「それが知れると、いろいろと理解が早い」

「組織を作る百年以上前に生まれた。正確にはもう覚えてもいない。過去なんてどうでもいいからね。ちなみにそっちは?」


「二歳だよ」

「ん、んん? なるほど! 若いね、ピッチピチだね!」

「人生はこれからだ」

「まったくだね」エルが明るく言った。そして「ミュシアは神代から生きてる」


「無理だろ?」ルキウスは断定していた。

「え、ええ?」とペーネーの視線は師匠に向かう。


「呪いを利用して永らえた。おすすめはしないよ」


 ミュシアは眠そうに見える。


「それが可能だと……いろいろと認識が変わるな」

「ほかにはいないだろうね。会ったことがない」


「ところで、何か争っていたけど」


 エルが言った。緑竜王は木陰でこちらを警戒していた。


「あれはただの緑竜王だ。どうでもいい」

「お前の竜の扱いは本当にひどいな!」


 緑竜王が飛び出してきた。


「竜王は初めて見るな」


 とエルはすぐに写真を撮った。


「まあまあ」ミュシアは緑竜王を一瞥してから、ルキウスに一歩二歩近づいた。


「あんたはかなりの怪物だね」ミュシアがルキウスをのぞいた。「だけど、思考方式を変えないとイジャとはやり合えない」


「すでに対応はしている」

「へえ、ならあれをやるのに必要なものがわかるのかい?」

「数、速度、威力だ」


 答えを聞いたミュシアが鋭い目つきになる。

 ルキウスはすでに基本を理解していた。


「攻撃であれば迎撃を抜ける速度がいる。威力は装甲を抜ければ十分。なによりも数だ。あれの攻撃は防御できない以上、数でかく乱して攻撃に外れてもらうしかない」


「工夫者なのね。力や技で戦う者はすぐに死ぬ」


 ミュシアが言った。


「少し観察すれば誰でもそうする」

「私の時代には、スキルを捨てるのは受け入れがたいことだったようだけど」

「最善は一つしかない」

「ふーん、でも覚えておきなさい。サポートの血肉となった戦闘技術は拭い去れるものではないの」

「考慮している」


 この答えは、まだミュシアは認めていないようだ。

 ふたりのあいだにペーネーが割って入った。


「とりあえず、仲良くしましょう」


 ペーネーは強者のまき散らす力におびえていてた。

 エルもミュシアも、頭上の気配は認識している。帰還したサポートたちが生命の木の枝に展開している。


「それで……この素晴らしオールスターで危機の話をするわけだ」


 ルキウスがまだ現れる者がいやしないかと警戒した。


「なんの話ですか!?」ペーネーは周囲の景色に驚き続けている。


(師匠は壁に使うつもりで連れてきたな)


「せっかくだから、ドニとレニと遊んでいればいい。なんなら住んでもいいぞ。楽しくやってくれ」


「え? どういうことですか?」


 そこにタドバンに咥えられたレニが到着した。こちらも混乱している。ふたりは混乱したまま庭に置き去りにされ、残りは生命の木の中に入った。


「これ立派な自宅ですねえ」エルが感心した。


「暇なら歓迎ぐらいはしたが。まあ、果物と酒ぐらい出る」


「こっちだって贈り物はあるのさ」


 そう言ったエルの影の中からズブズブと押し出されてきたのは、パイロットスーツを着ている小柄な異星人だった。意識はない。


「どうぞどうぞ、新鮮な捕虜です」


 ルキウスの予定が吹っ飛んだ。


「最高に準備がいいな! こいつがイジャ星人か」


 ルキウスが興奮して、イジャ星人の手を引っぱって立たせて眺めた。


「こっちにはこいつを効果的に尋問できる者がいない」ミュシアが言った。「こいつは人間ではない知的生物だから。そっちにはいる?」


「こいつは、異星生物エイリアン属性があるのか?」

「そうだよ」


 システムはイジャにも適応されている。明るいニュースだ。


「問題ないはずだ。お前は土産もないな」


 とルキウスに悪態をつかれたのは緑竜王。


「竜族の協力はそうはないぞ」

「自己評価が無駄に高い爺さんにはなりたくないな」


 捕虜はソワラが連れて行った。異星生物エイリアンに対する支配力があるのは彼女だけだ。


 客は会議室に案内され着席した。ソワラ以外で二度目の会議だ。


 ここでようやくルキウスが自己紹介した。


「ルキウス・アーケインだ。森の神で、最近の趣味は穴を掘ること」

「神、神。穴掘りは楽しそうだね」


 エルが目を輝かせて写真を撮る。


「まったく楽しくはない」

「楽しくない趣味とは変わってる」


 エルはルキウスにとどまらず、会議部屋全体を撮りまくっている。


「そもそも君は何者だ? 自然湧きした魔物か?」

「そんな! 心外だね」


 エルは撮影をやめてバンバン机を叩いた。


「では何者だ」


 ルキウスが警戒するのは、なんらかの神の意向、つまり異次元の干渉者の手先であること。


「タラッタのせいだよ。プレイヤーのね。彼が出た直後に僕は目の前で死んだのさ。彼は動転してそれをなんとかしようとして、持っていたイベントアイテムを使ったんだよね」


 エルは思い出して噴き出しそうだった。


「イベントトリガーになるボス召喚アイテムか」

「ご明察、おかげで烙印カインとして復活した。超パワーアップしたよ。でも夜でも見えちゃうのは撮影の弊害さ」


「そのプレイヤーは?」

「寿命で逝った。中身は子供だったから、地球に帰りたがっていた。彼は死霊術士ネクロマンサーで、僕は新人ボス。そのまま裏道を歩くことになった。言っておくけど、今は純然たるヒーローだからね」


 ここでルキウスは緑竜王に話を振った。


「そっちの要求は?」

「おぬしらと竜族の非戦協定。それと、この森に戻って生活したい」

「了承する」

「早いな」


「年寄りの長話には意味がない」ルキウスの視線が最後のミュシアへ移る。「となるとあなたの役目は……」


「イジャが再び来ることは予想された。そのために私が残っていた」


「まず情報だな」

「どれからにする?」

「各地で小皿との戦闘が起きている。あれを帝国軍が相手にできるかどうかで話が変わる」


「あれは……昔と同一なら外部装甲は主に完全純鉄で、デフレクターシールドの発動媒体。内装は鉄系金属でシーボーギウムが含まれるのが特徴、古典的な配線はまったく無い。流体経路と粉末状繊維の合成回路が使用されている。と聞いたのが二千年前だけど、よくわからないわ」


 細かい事はたずねてくれるな、という態度だ。


「今の文明でまともにやれるか?」

「今の兵器では、あれを突破するのは難しい。爆発は散ってしまうから、徹甲弾のほうがまだいい。スキルをのせれば通るかも。それに、デフレクターシールドは弱い魔法を弾く。地上の兵器はシールドが無し、装甲はグラファイトの一種。あんたが困るほど硬くはない」


「わかった。過去にかなり分析されたようだな。イジャをなんとかする手段を持ってきてくれたと考えていいのか?」

「それはそっちで考えて」


 ミュシアはそっけない。


「神代から準備された超迎撃兵器や大魔法は?」

「そんなもんがありゃ、こんなに文明が衰退するものかい。あんたが期待しているような時代じゃないのよ」


 ミュシアは少し機嫌を損ねた。


「基本的なことを聞く。大皿は戦闘艦か? 中身の情報がない」

「いや、莫大なエネルギーを利用してあらゆる役割をやっているはず。庭のような空間もあるとか」


「中にはあらゆる生産施設がある?」

「そうだよー。聞いた話だけど」


 彼女は気だるそうにしている。


「大皿の弱点は?」

「動力炉の位置はわかっている。でも数は千以上に分散してる」


 ありがたくないが、予想どおりだ。


「切り札はあるよ」


 エルが楽しげに意識を向けるのは、彼女の後ろに控える使用人のメアリー。


「出し惜しみをする状況ではない」


 ルキウスが発言を促す。


「彼女は頻繁に皿を割るのさ」

「だめじゃん」


 当のメアリーは表情を変えずにたたずんでいる。


「とてつもなく完璧なまでに皿を粉砕するんだよ」


 エルはどうでもいいことを言っているが、真剣な顔だった。


「…………〔破壊使用人/デストロイメイド〕か!?」


 ルキウスの目が燃えた。


「そう! 皿専門だ。皿を割らせたら、叶うものなし」


「神代では、彼女らが大皿を二枚粉々にした。今の時代に存在するとは思っていなかったけれど、数百年も使用人をやるもの好きがいるなんてね」


 ミュシアが言った。


「彼女は望んで吸血鬼ヴァンパイアになってはいない。だから保護した。それからずっと、皿を割り続けている。昔は普通だったらしいけど」

「メイドをやめろよ」


「集中していれば皿も扱えますのでご心配にはおよびません」


 メアリーが言った。


「皿に神経を使って、ほかの仕事を普通に忘れるけどね」


「協力には条件があってね。彼女はずっとまともな使用人になりたがっている。それをやるには死んで復活してスキルを外すしかない。吸血鬼ヴァンパイアを復活させられる術者をずっと探していたけど、僕らと神官は相性が悪いしさあ……」

「やってみないとわからんな」


「どっちにしろ、突貫すれば確実に死ぬよ。神代ではかなり数のメイドがあれに向かって撃ち出されたり、輸送されたけど、全員死んだわ」


 ミュシアが言った。


 ここから情報を出しつつ一時間ほど会議が続いた。


 そして、ヴァルファーがまとめる。


「追加された情報と戦力から、ほぼ勝ち目はないという状況が確定いたしました」


「何を言ってるんだヴァルファー、運がよければ勝てる」


 ルキウスはどこまでも明るく、同様のエルが続く。


「そうだ。僕はかなり運がいいぞ。何度も死にかけてるけどずっと生きてるんだからな」


「わかっていますよね? 迎撃を確実にかいくぐって接近する手段がない。神代ですらなかった。できるだけ囮を用意して、気配をひそめて彼女が接近しなければ大皿に接触できない。状況によっては、大皿のシールドも抜く必要がある。これには攻撃回数を増やすしかないが、彼女が落ちれば次の手はない」


「世の中に確実はないから面白いんだろ」

「まったく、まったくだよ」


 ふたりがなおも騒ぎながら強弁した。ヴァルファーも言い返す。


「皿割りを成功させても、ピザこと巡洋艦クルーザーが二隻残る。あっちだけでも数百以上の小皿を搭載し、さらに高機動で主砲の射程も長い」


「普通に戦うなら小回りの利くピザのほうが厄介だからね」


 ミュシアが言った。


「こちらの残弾は彼女一発です」ヴァルファーが強弁した。「再装填はできない。その護衛に必要な航空戦力ほぼ無し。それを地上から支援する長射程の対空兵器ほぼ無し。絶対に無理だ」


「接近が困難なのは、最初からわかってたから問題ない」


 ルキウスが言った。


「聞いてません」

「言ってない。最初は何かをどうにかして大皿に突入して、中で、二、三年ぐらい暴れようと思っていた。そこからはよくなった」


 ヴァルファーは何も言わなかったが、あきらかにそれも無理だと思っていた。


「昔のように大地の怒りを誘発させても難しいな」緑竜王が言った。


「あれは破壊砲が地殻を刺激したエネルギーで発生したとされている。後世で狙って起こせたことはないし、神代規模のあれが起きれば今度こそ文明は終わる。ボスクラスが万単位で放たれてもおかしくないんだよ」


 ミュシアは、想定という想定は頭の中で出し尽くしているのだろう。つまり、ルキウスが彼女の想定の上をいく必要がある。


 イジャ星人を尋問していたソワラが戻ってきた。


「ルキウス様、イジャの目的がわかりました」

「報告を」


「彼らは二千年ほど月面から動けなかったと推測されます。星間通信能力を失い、ほかの集団から断絶しています。重次元通信アンテナの修復には特別な金属が必要で、それの入手が目的です。なお原材料の作成には恒星重力炉が必要で、惑星規模の装置で制作困難だと」


「それであそこか」ミュシアが納得した。


「覚えが?」ルキウスがたずねた。


「あそこは最も多くの大皿が撃墜された場所だよ」

「月にいたというのに覚えは?」


「月の裏に大皿が二枚逃げたけど、のちに大量のミサイルで破壊している」

「確実に?」

「やったのは私じゃないから、知りはしないわ」


「地下に避難したか。それから材料を回収、再加工した。あれ自体が国だ。無理はあっても存続はできる。かつて大量に出た残骸はどうなった?」


「再利用され、二百年ぐらいで消費された。大統領派の連中が世界中に作ったダンジョンとかは、あれの通路をそのまま使ってたりするし」


「奴らがすぐにアンテナを再建するのは困難か?」

「ギルイネズ内海に沈んだ三隻はどうなったか……。二隻は浅い海域でほぼ再利用されたはずだけど、一隻は深みでそのままかもね」


 アンテナが何になったか不明だ。丸ごと埋まっていれば、掘り出された時点で終わる。

 ソワラが情報を追加する。


「敵兵器は昔のように万全ではないと認識されていますが、地上侵略に最適化され、母艦マザーシップに迎撃砲が大幅に追加されたとのこと。なお、彼らの主な任務の進捗度合いは不明。現在の行動は威力偵察」


「条件が悪化しました」とヴァルファー。


「元と大して変わらん」ルキウスが言った。「マリナリは何かあるか?」


 ここまでマリナリはずっと黙っていた。


「おお、主がわたくしに意見をお求めになるとは、なんたる光栄……」


 マリナリがトリップしかけてどうにか耐えた。


「すべてはしゅの御心のままに」

「そうか」


(戦力は増え、それでも駒は全然足りてない。これは詰みの宣告に近い。角度を変えないと勝てないが。イジャとは駆け引きが成立しない)


「まだ帝国の動きがある。その前に、吸血鬼ヴァンパイアが復活可能か確認しないといけない。準備はできてる」


 ルキウスが席を立つ。


「やっぱり不死者アンデッドだと難しい?」エルも続く。


「ああ」

「無理かな?」

「やろうとしたことがない。基本的に無理だし」

「死んだ生物の魂は、死後の世界に送られ、時間が経つと次の生命に転生するといわれるけど、吸血鬼ヴァンパイアは体質が転化しただけだ。肉体が死んでるだけで、幽体も魂もある。自然発生のポルートは知らないけどね」


「親父さんは純粋な魔物なの?」

「ああ、いかにも禍々しい戦地の近くでポップしたぞ」


 親父が言った。


「最初から料理人?」

「いや、なりゆきで盟主ボコられて、配下になってからやってる」


(生まれた時と違うものになれている。どこかの誰かの人格データを基にしたか。つまり俺と同じ)


「復活の経費を捻出しないと」


 ルキウスが財政を気にしているとエルが言った。


「あ、僕がそれなりにアトラス金貨持ってるから使ってよ」

「ならテストする。手ごろで確認しやすい吸血鬼ヴァンパイアでな。報酬の不渡りは出せない」

「律儀だね」


 と、まずは吸血鬼ヴァンパイアの復活を試すことになった。そしてヴァーラはすみやかに魔法を発動、インベントリに表示された所持金の数値を確認した。


「このコストは、あの元帥殿より重いですね」


 何もなかった空間に復元された人体は、血色のいい壮年男性だった。


 そのドルケル・シュットーゼは頭髪をセットしておらず、ぼさぼさの髪だった。そこにほっそりとした肉体で、かなり印象が違う。


 パッと開いた目の色は、暴れだしそうな黄色だった。

 彼はバネが戻るような反動で跳び起きた。


「ハッハー! 吾輩復活せり!」

「すげえ寝起きだな」


 ルキウスすら呆れるなかで、シュットーゼは馬鹿みたいに走り回った。全裸で。


「この宇宙には、貧相なおっさんが全裸で走り回っていい場所は存在しない」


 ルキウスが彼の顔面をがっしり捕まえると、シュットーゼが仰天した。


「のおお! 教授ではないか!」


 シュットーゼがルキウスに仰天する。


「誰が教授だ。とりあえず寝ろ」


 ルキウスが眠り粉を彼の口に放りこむと、すぐにぐったりとした。やはり吸血鬼ヴァンパイアの耐性はない。


「こいつは責任をもって引き取れ。これで吸血鬼ヴァンパイアも人間として復活できるとわかったが、ときにエル」

「なんだいルキウス君」


「君は何か……役割とか仕事とかがあるのかね?」

「正義のヒーローだけど」


 エルは何をいまさらと言わんばかりだ。


「職無し、家無しだよ」


 ミュシアがすぐさま言った。


「ヒーローはすべてでありどこにでも存在する。もちろん仕事でもある」

「ヒーロー自体には稼ぎがないでしょう?」

「ヒーローは皆様の善意でなりたっております」

「絶対に違うだろうね」


「どっちでもいいが」ルキウスが言った。「これが終わったら、コモンテレイだとかで働かないか。あそこは人手不足で、戦力不足だ。犯罪も増える。きっとヒーローを待っている人々が大勢いると思う」

「いいよ。中央部は組織が活動してた思い出の地でもあるから」


 状況が変わり、ルキウスはすぐに動いた。やってきたのは、帝国中央部と南部との境にある小さな補給基地。そこに何かの都合か、大量の物資が貯まっていた。


 帝国軍のダメージと混乱により、もはや帝国軍そのものとなった参謀総長は、病的多忙だが元気だった。あきらかに魔法の支援を受けている。


「状況はよくなったか?」


 ルキウスにしては嫌なあいさつだ。そうさせる圧力が、ポウル・ホルストにある。


「国家中枢が一日で壊滅して、すぐに指揮系統の再建ができると思うかね?」

「それから敵は侵攻していない。立て直してきてはいるだろ」


「君は……これは全人類の危機だったと言ったと聞いた」

「ああ」

「人類のために小さな作戦への参加を求める」

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